支払調書と源泉徴収票にはどのような違いがあるのでしょうか?今回は、支払調書と源泉徴収票の違い、必要な場面など、法定調書の正しい理解と使い方について解説します。
法人、個人事業主共に事業を行ううえで関わりがある支払調書や源泉徴収票について、正確な知識や使い分けを求められる場面が出てきます。それぞれの調書の基本的な理解、発行が必要となるケース、記載項目、提出方法に至るまで、丁寧に解説します。
目次
支払調書と源泉徴収票の基礎知識
支払調書、源泉徴収票、共に所得税法により、税務署への提出が義務付けられている法定調書の一種です。まずは、支払調書と源泉徴収票について、正しく理解しましょう。
支払調書とは?
代表的な支払調書として、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」があります。報酬や賃金、料金などの支払いをした際に、その支払いの詳細を記録した書類です。
法定調書の提出義務がある場合は、1月1日から12月31日までの1年間で支払った報酬や料金について、翌年の1月31日までに税務署に提出しなくてはいけません。支払調書の提出が求められるのは、報酬や料金を受け取った人が正確な申告をしているかを確認するためです。
支払調書の作成が必要となるのは、特定の役職および同一人物に対して一定額以上の金銭の移動が生じた場合です。そのため、芸術や文化賞など受賞賞金、懸賞やコンクールの選考料や賞金は対象ではありません。
- 弁護士や税理士、社会保険労務士といった士業への報酬や契約金
- 個人事業主やフリーランスに対する業務委託費
- テレビや演劇への出演料
上記のような支払いが、支払調書の作成対象の一例です。
源泉徴収票とは?
源泉徴収票とは、1月1日から12月31日の1年間で、企業が従業員に対して支払った給与や賞与、退職金などの所得、源泉徴収した税額などを記載した書類のことです。
そもそも、源泉徴収とは、従業員に支払っている給与や賞与から税金と保険料を徴収して、従業員に代わって会社が納税する仕組みのことです。会社員は、毎月の給与から保険料と税金を源泉徴収されますが、住宅ローン控除など、各種控除が適用されていません。
そのため、実際に支払うべき税額と源泉徴収した税額に違いが生じるため、その差分を調整するために年末調整を行います。そして、支払調書と同様に支払いが確定した翌年の1月31日までに税務署に源泉徴収票を提出しなくてはいけません。
また、源泉徴収票には給与所得と退職所得に対するものがあります。
給与所得
1年間に得た収入と納付した税額を記載した書類です。年末調整で所得控除が適用された場合は、控除額も記載されます。年末調整後の12月末から1月上旬を目途に、会社が発行して従業員一人ひとりに配布します。
退職所得
最後の給与と退職金の税額が確定した後で発行されます。発行のタイミングとしては、退職後1カ月程度してからのケースが多いです。
参考【国税庁 「給与所得の源泉徴収票」の提出範囲と提出枚数等】
法定調書の種類と役割
法定調書とは、税法に基づいて作成・提出が義務付けられている文書の総称です。これには、支払調書や源泉徴収票の他に、生命保険契約等の一時金の支払調書、不動産使用料の支払調書などが含まれます。
これらの文書は、税務署が正確な課税を行うための重要な資料です。法定調書の提出を怠っても追徴課税の対象とはなりませんが、提出期限を守らなければ、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されることがあります。
参考【国税庁 法定調書の種類】
支払調書の詳細を徹底解説
支払調書は、主に士業や個人事業主に対する報酬を支払った際の詳細を明記した法定調書です。ここでは、支払調書の発行が必要なケース、記載項目や作成方法など、より詳しく解説します。
支払調書の 発行が必要なケース
支払調書は、法人や個人事業主が特定の取引に対して支払いを行ったことを証明する文書です。具体的には、以下のようなケースで発行が義務付けられています。
- 原稿料や講演料などの報酬または料金
- 弁護士や税理士などへの報酬または料金
- 外交員、集金人、電力量計の検針人の業務に関する報酬や料金
- 野球選手、騎手などの報酬または料金
- ホステスなどの報酬または料金
- 不動産の使用料や譲渡に関連する支払いを行った場合
- 著作権使用料や特許権使用料などの支払いを行った場合
事業を運営する際には多くの支払いが発生します。支払調書の発行対象は、さまざまなケースが該当するため、どの取引に対して支払調書が必要かを正確に理解し、適切に発行・管理することが求められます。
支払調書の作成に不安があるなら、ぜひ「小谷野税理士法人」にお気軽にお問い合わせください
記載項目と作成方法
正しく支払調書を作成するためにも、記載するべき項目や作成方法を理解しておくことが大切です。支払調書には、以下の項目を記載します。
- 支払いを受ける者の氏名または名称、住所、及び所得税法に基づく分類
- 支払いの内容、金額、及びその他法定の事項
- 支払者の情報(氏名または名称、住所)
支払調書は、会計ソフトを使用する、または国税庁のサイトから支払調書のフォーマットをダウンロードして作成できます。支払調書に記載するべき源泉徴収額などを自動で入力してくれる機能などを利用できるため、会計ソフトを使うと利便性と作業効率が向上します。
支払調書の注意点
正確な支払調書を作成するために注意するべきポイントは、日々の発注や記帳を正確に行うことです。会計ソフトなどに入力した金額に誤りがあると、支払調書にミスが生じる可能性が高まるからです。
支払調書の誤りが見つかると、修正や確認作業に手間と時間がかかり、通常業務に多大な支障が生じることもあります。日頃から、ミスが起こらないように気をつけるのはもちろん、ミスが発生したときに迅速に記録を確認できるようにしておくことで、適切に対処できるでしょう。
支払調書を毎年発行している企業や個人事業主は、正確性や作業効率に配慮した仕組みを整備することで、円滑な支払調書の作成と提出につながります。支払調書の作成担当者だけでなく、受発注業務の担当者も交えて、業務の見直しを検討してみましょう。
提出義務者と提出期限
支払調書の提出義務者とは、外交員報酬、税理士報酬など所得税法第204条第1項各号、および所得税法第174条第10号および租税特別措置法第41条の20に規定されている報酬、料金、契約金および賞金の支払いをする人や企業です。
また、支払調書の提出期限は、支払いが確定した年の翌年の1月31日です。
参考【国税庁 「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の提出範囲と提出枚数等】
支払調書の提出方法
支払調書を税務署に提出する手段として、以下の方法から選べます。
- e-Tax
- 光ディスク(CD,DVD)
- 書面
- クラウド等
また、前々年度において支払調書を含めた法定調書の提出枚数が100枚以上あった場合、その年は書面で法定調書を提出できません。該当する場合は、e-Taxもしくは光ディスクで提出します。なお、2027年1月以降に提出すべき支払調書等については30枚以上に引き下げられます。
書面や光ディスクは郵送もしくは税務署への持ち込みが必要です。e-Taxで提出すると、データの作成から提出まで電子化できるため、事務作業の効率化とペーパーレス化を実現できます。
参考【国税庁 法定調書を光ディスク等により提出する場合の手続】
支払先への発行義務
支払調書は税務署への提出義務がありますが、報酬を支払った人に対する交付義務はありません。自身で確定申告をしているフリーランスや個人事業主は、取引のある企業や個人事業主から支払調書の写しを受け取れると、確定申告の計算が楽になるでしょう。
支払先に対する発行義務がないことから、支払調書の写しをそれぞれの支払先に送付する企業や個人事業主もあれば、個別での発行は一切しないなど、その対応はさまざまです。
源泉徴収票の徹底ガイド
企業は、国に支払う税金を従業員の給与から源泉徴収し、従業員個人に代わって納税しています。1年間の収入と納付した税金を記載したのが源泉徴収票です。ここでは、源泉徴収票について、詳しく紹介します。
源泉徴収票の提出が必要なケース
源泉徴収票は、事業主が従業員個人の税金を源泉徴収して国に納める際に、その証明として従業員に交付する重要な文書です。この源泉徴収票は、以下のようなケースで提出が必要です。
従業員への給与、賞与、退職金などの支払いがあった場合
自社の従業員、一年間の給与などの支払い総額が150万円を超える役員が、源泉徴収票の対象です。
一定額以上の給与の支払いがある場合
弁護士や司法書士、税理士といった専門家に支払う給与が一年間で250万円以上だった場合は源泉徴収票を、給与ではなく報酬として支払った場合は支払調書の対象です。
源泉徴収票は、従業員が年末調整や確定申告を行う際に必要となるため、正確な記録保持が求められます。事業主は従業員一人ひとりの所得と徴収税額を明記した源泉徴収票を作成し、年度終了後、速やかに交付しなくてはいけません。
源泉徴収票を使う場面
源泉徴収票は税務署や従業員に交付する書類です。交付された源泉徴収票は、さまざまなタイミングで提出が求められます。ここでは、源泉徴収票を必要とする主なケースについて紹介します。
転職時
従業員が転職したときは、新たな勤務先に源泉徴収票を提出しなくてはいけません。1月1日から転職時までの収入と納税額を正確に把握することで、新しい勤務先において正しく年末調整を行うためです。転職をする従業員は、退職予定の勤務先から源泉徴収票が交付されるため、新しい勤務先に忘れずに提出しましょう。
確定申告時
一般的に会社員は確定申告の必要はありませんが、年収が2,000万円を超える場合、給与所得以外の副収入がある場合などは、個人での確定申告が必要です。他にも、医療費控除や住宅ローン控除(初年度のみ)を受けるときも確定申告をします。
収入の証明
住宅ローンを組むとき、クレジットカードを作成するときなど、自分の収入を証明する書類として使用します。所得証明書や課税証明書でも自分の収入を証明できますが、市町村を通じて発行申請をするため、手間と費用が発生します。
年度末に交付される源泉徴収票は、従業員がさまざまな場面で必要となるため、正しい額を記載し交付することが大切です。また、源泉徴収票を受け取った従業員も、必要なときに速やかに提出できるように、忘れずに保管しておくようにしましょう。
源泉徴収票の作成方法
源泉徴収票を作成するには、国税庁が発行しているフォーマットに沿って作成するのがおすすめです。他にも、給与計算や年末調整ソフトを活用することで、入力の手間を省けます。源泉徴収票には以下の項目を記載します。
- 支払金額
- 給与所得控除後の金額
- 所得控除の額の合計額
- 源泉徴収税額
- 控除対象配偶者の有無等 / 配偶者(特別)控除の額
- 控除対象扶養親族の数
- 社会保険料等の金額
- 生命保険料の控除額 / 地震保険料の控除額 / 住宅借入金等特別控除の額
住宅ローンや生命保険料など、従業員から控除に使用する証明書を期限までに提出してもらい、正確な内容を記載しましょう。
参考【国税庁 所得控除のあらまし】
税務署への提出方法と注意点
源泉徴収票は、税務署への提出が必要です。また、年末調整では、年末調整で確定した1年間の支払額や税額を全体としてまとめて報告する「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計票」も併せて提出します。
源泉徴収票の税務署への提出方法には、書面や光ディスク(CD,DVD)を郵送や持ち込みで提出する、e-TAXを利用する、クラウド等を利用する方法から選択します。
郵送や持ち込みでの提出
源泉徴収票の様式に従って作成し、郵送または最寄りの税務署に直接提出します。もしくは、光ディスクにデータを入れたものを、郵送もしくは持ち込みで提出できます。
郵送での送付も可能ですが、信書にあたることから適切な手段で送付してください。レターパックやレターライトなど、追跡システムを利用できる特定記録郵便、簡易書留を使います。
電子申告(e-TAX)
インターネットを通じて、源泉徴収票を含む各種税務関連の申告・提出が可能です。事業主は、事前に電子証明書の取得とID登録を行い、セキュリティを確保したうえで電子申告をしましょう。
クラウドサービス等
2022年1月からクラウドサービス等を利用して法定調書を提出できるようになりました。
源泉徴収票を税務署に提出する期限
源泉徴収票も他の法定調書の合計表と併せて、支払が確定した年の翌年、1月31日までに税務署に提出します。
また、市町村に提出する給与支払報告書は、年度中に給与の支払いを受けている全ての従業員分を、翌年度の1月1日現在に従業員が居住している各市町村に対して、1月31日を期限に提出します。
税務手続きに関連する各種書類は、基本的に到達日を優先します。郵送で書類を送付した場合は、通信日付けが提出日とみなされるため、当日消印も有効です。しかし、期限ギリギリの提出は、書類のミスや期限遅れの原因になり得るため、時間に余裕を持って提出することを心がけましょう。
源泉徴収票と支払調書の注意点|提出しない場合のリスクと対処法
源泉徴収票と支払調書といった法定調書を期限内に提出しなかった場合、どのようなリスクがあるのか、提出時の注意点と適切な対処表も併せて紹介します。
支払調書を提出しないとどうなる?
源泉徴収票や支払調書は提出義務がある書類ですが、所得税や法人税と異なり提出遅れによるペナルティはありません。ただし、提出忘れや虚偽の記載に対しては、1年以下の懲役または50万円以下の罰金を徴収対象となることが、所得税法で規定されています。
マイナンバーの必要性
税金の回収漏れを予防する策として、支払調書や源泉徴収票にマイナンバーの記載が義務付けられました。とはいえ、マイナンバーの記載がない、誤りがあった場合の税法上の罰則はありません。
支払者となる企業や個人事業主は、支払先の個人に対してマイナンバーの共有が求められます。マイナンバーが空欄の状態でも法定調書を提出できますが、共有を求めた経過の記録など、マイナンバーを記載していない理由が必要です。
法定監査とは
法定調書は、重要な税務資料であることから法定監査が実施されます。法定監査とは、法定調書を提出する企業や個人に対して、法定調書に記載された提出範囲や金額の妥当性を確認することを目的とした監査です。適切な法定調書の提出を求められたり、税務署職員による質問が行われたりします。
法定監査は税務調査のように厳しい追及や追徴される可能性は低く、誤りが見つかったとしてもペナルティを課されたり、税務調査に移行したりすることもありません。近年は、マイナンバーの記載漏れが多い会社を中心に、法定監査が実施されやすい傾向があるようです。
よくあるトラブルと解決策
支払調書や源泉徴収票といった法定調書に起こりやすいトラブルは、提出遅れや記載ミスです。これらのミスが重なることで、税務調査の対象となり得ることもあるため、適切な対策が求められます。ミスを起こさないようにする主な対策を以下に紹介します。
- 提出書類の作成には専門のソフトウェアを使用し、自動計算機能を活用する
- 提出前には専門家によるレビューを受ける
- 期限前に内部でチェックリストに基づいた確認作業を行う
- 常に最新の税法に基づく知識を更新し適切な申告を心がける
税務申告と同様に、法定調書の作成にも正確性が求められます。日頃から税理士のサポートやアドバイスを受けることで、正確な記帳と納税を心がけましょう。
法定調書の正確性に不安があるなら、ぜひ「小谷野税理士法人」にお気軽にお問い合わせください
支払調書と源泉徴収票の違いを理解し正しい作成と使い分けを!
支払調書は業務委託費などの詳細を税務署へ報告するためのものであり、源泉徴収票は従業員への所得と税金の証明です。これらの文書は、法定調書の一種で、正しく税務申告がされているかを確認するために欠かせない書類です。
従業員または専門家などへ給与や報酬の支払いを行っている企業や個人事業主は、支払調書と源泉徴収票の作成手続きが必須です。どちらも期限内に正確に提出することで、円滑な事業運営を支える書類となるため、日頃から正しい記帳や納税を心がけ、期限内に正しく提出することを心がけましょう。