決算賞与とは、会社の業績に応じて支給される賞与のことで、節税対策や社員のモチベーションアップが期待できます。しかし、決算賞与を支給するには「いつ・誰に・どのくらい支給するか」など、さまざまな条件やルールがあります。また、税務上、決算賞与を経費計上するための要件なども把握しておくことも重要です。この記事では、決算賞与の支給時期や事業者のメリット、決算賞与を経費計上するための要件を解説します。
目次
決算賞与とは?
そもそも「賞与」とは、企業が従業員の業績などに応じて自由に支払うことができる臨時の賃金のことです。賞与は正社員に限らず、非正規社員にも支給できます。賞与には、年2回の夏・冬に支給されることが一般的な「通常賞与(ボーナス)」と、決算後に支給されることが多い「決算賞与」の2種類があります。厚生労働省の「都道府県労働基準局長あて労働次官通達」では、賞与について以下のように定義されています。
法第二四条関係 従つて、かゝるもので施行規則第八条に該当しないものは、法第二四条第二項の規定により毎月支払われなければならないこと。 |
引用:厚生労働省|労働基準法の施行に関する件(昭和22年9月13日発基第17号)
「決算賞与」は、企業がその年の業績に応じて従業員に支給する臨時の賞与のことです。業績が好調な年に、利益を社員に還元するという形で支払われます。決算賞与は毎年支給されるとは限らず、金額も一定ではありません。決算賞与を支給するかどうか、いくら支給するか、誰に支給するかはすべて企業の裁量によって決まります。
労働基準法の定める「賞与の支給に関する規定」には、以下のような条件があります。
- 労働契約や就業規則などで明示的に定められた場合にのみ支給できる
- 支給の基準や方法を事前に社員に通知する必要がある
決算賞与は、会社の業績に応じて支給額を変動させることができるため、経営者にとっては、節税対策や社員のモチベーションアップに効果的な手段です。しかし、必ずしも支給しなければならないものではありません。決算賞与は出さず、設備や制度投資に使う企業も多いです。決算賞与の支給は、会社の経営方針や財務状況に応じて、慎重に判断する必要があります。
参考:e-Gov法令検索|昭和二十二年法律第四十九号 労働基準法 第八十九条
決算賞与とボーナスはどう違う?
決算賞与と通常のボーナスは、どちらも社員に支給される賞与ですが、その性質や目的には違いがあります。
まず「支給時期」が異なります。決算賞与は、会社の業績に応じて支給される賞与であり、決算後1ヶ月以内に支給されるのが原則で、決算期によって変わります。一方、ボーナスは、実質定期的に支給される賞与であり、夏・冬の年2回支給されるのが一般的です。
ボーナスの支給時期は事前に決められた基準に従います。また、決算賞与は業績によって支給されない年もあるのに対し、ボーナスはよほど業績が悪化しない限り多くの企業が毎年支給しています。
次に「金額の決まり方」が異なります。決算賞与は、社員の業績や貢献度に応じて支給されることが多く、社員のやりがいや成果を評価する役割があります。ボーナスは個人の基本給や業務成績などに応じて決定され、社員の生活費や貯蓄に使われるなど、社員の安定した生活を支える役割があります。
以上をまとめると、決算賞与は企業業績に応じた臨時報酬としての性格が強いのに対し、通常のボーナスは個人成績に応じて定期的に支給されることが多いのが相違点です。
また、決算賞与とボーナスの違いは、経費計上の方法にも影響します。決算賞与は、支給された決算期の経費として計上できますが、ボーナスは、支給される予定の期間の経費として計上しなければなりません。
たとえば、2023年3月決算の会社が、2023年4月に決算賞与を支給した場合、その決算賞与は、2023年3月期の経費として計上できます。しかし、同じ会社が、2023年6月にボーナスを支給した場合、そのボーナスは、2023年6月の経費として計上しなければなりません。
賞与の種類 | 決算期 | 支給時期 | 経費計上期間 | 前年期への計上 |
決算賞与 | 2023年3月 | 2023年4月 | 2023年3月期 | 可 |
ボーナス | 2023年3月 | 2023年6月 | 2023年6月 | 不可 |
このように、決算賞与は、決算期に応じて経費計上することができるため、節税対策に有効な手段となります。決算賞与を経費計上するための要件については、後述します。
支給される時期はいつ?
決算賞与は、会社の決算期に、その期間の業績に応じて支給される賞与です。通常は決算期の直後で、年に1回の支給が原則です。
決算賞与の支給時期についての決まりはないものの、決算賞与を経費計上することができる時期が法律で定められています。つまり「この期間までに支給しないと、決算賞与を経費計上することができませんよ」という期間が設けられているのです。法人税法施行令によると、決算賞与は「その年度の決算日の翌日から1カ月以内」に支給しなければなりません。決算日が3月31日の場合、4月30日までに支給することで、決算賞与を経費として計上できます。
決算賞与の支給時期は、事前に社員に通知する必要があります。通知の方法は、口頭でも書面でも構いませんが、書面であれば証拠として残ります。通知の内容は、支給の有無、支給額、支給日などを明確にする必要があります。通知がない場合、社員は決算賞与を受け取る権利を主張できません。
決算賞与の支給時期は、会社の業績や財務状況に応じて、柔軟に変更できますが、変更する場合は、再度社員に通知する必要があります。また、変更する理由や根拠も説明する必要があります。
決算賞与の平均支給額は?
決算賞与は、その企業の業績に応じて支給されるため、平均や相場は存在しません。決算賞与の支給額の目安も、企業の方針や業績によって大きく異なります。一概にはいえませんが、決算賞与の支給額は、数万円〜数十万円と考えておきましょう。
決算賞与の支給額は、企業が独自の裁量で決定できますが、一般的には以下のような方法があります。
- 営業利益の目標値を超えた金額の一定割合を決算賞与とする
- 営業利益の水準に応じた支給率(基本給の何か月分など)を決めておく
決算賞与の支給額は、過剰な利益分の額に応じて決定することが一般的です。過剰な利益分のうち、設備投資や事業資金などに充てる分を考慮し、決算賞与の支給額を決定します。
大幅な利益が見込まれる際、決算前に急いで節税対策のために決算賞与を決定するといったケースも多いです。あらかじめ、決算賞与支給額の決め方を検討しておくことで、多少の余裕を持って決算を迎えられるでしょう。
決算賞与がもらえる人・もらえない人はいるの?
決算賞与は、ボーナスとは異なり、会社の裁量で支給できます。そのため、会社が決めた基準によって、もらえる人・もらえない人が異なります。たとえば、以下のような基準で決められることもあります。
- 決算期間中に在籍していた人
- 決算期間中に一定の勤務日数を満たした人
- 決算期間中に一定の業績を達成した人
- 決算期間中に一定の評価を受けた人
これらの基準は、会社の規則や就業規則に明記する必要があります。
また、決算賞与は、ボーナスとは別に支給されるものなので、すでにボーナスをもらっている人でも、決算賞与をもらえる可能性があります。しかし、会社の業績が悪い場合、決算賞与の支給はないと考えたほうがよいでしょう。
決算賞与は一定の条件を満たせば、その事業年度の経費として認められますが、次の場合は、その事業年度の経費とはならないため、注意が必要です。
- 通知を受けたが支払いを受けられなかった従業員がいる場合
- 決算賞与は在籍している従業員のみに支給すると定めている場合
- 通知した金額と異なる金額を支払った場合
今期に未払い計上ができない場合には、決算賞与を支払う翌期に損金として計上できますが、上記の注意点を念頭に置いて、決算賞与の対象者を決めることが望ましいです。
決算賞与を支給する事業者のメリット
決算賞与を支給された従業員が喜ぶのはもちろん、決算賞与を支給することは、事業者にとってもメリットとなります。ここでは、決算賞与を支給する事業者の3つのメリットについて、ご紹介します。
要件を満たせば経費計上できる
決算賞与の支給は、要件を満たせば経費計上ができ、節税対策になります。決算賞与の支給は、所得税や法人税の控除対象になるため、全額を損金として計上できます。過剰な利益を減らすことで法人税の節約につながります。
決算賞与の支給は、大幅な利益が見込まれる際、決算前に急いで節税対策をするといった場合に適しています。「利益が出た分を税金で支払うより、従業員に還元した方が良い」と考える経営者の方も少なくありません。
賞与の支給が決算に間に合わない場合、以下の条件を満たせば、その事業年度の費用として認められます。
- 事業年度内に、同時期に支給される全ての従業員に個別に支給額を通知すること
- 通知した金額を、通知した全ての従業員に対して、事業年度終了の翌日から1ヶ月以内に支払うこと
- 通知した金額に関して、事業年度中に損金の処理をすること
決算賞与の支給は、節税対策だけでなく、従業員や役員の業績評価にも活用できます。決算賞与の支給について、詳しくは国税庁のホームページをご確認ください。
法人で利益が出過ぎた場合に有効な節税対策については、以下の関連記事を参考にしてください。
法人で利益が出過ぎた場合はどうする?知っておきたい節税対策を一挙にご紹介!
従業員のモチベーションが上がる
決算賞与は、会社の業績に連動して支給されるため、従業員は自分の仕事が会社の利益に貢献していると感じられるでしょう。同時に、従業員は自分の努力が評価されていると前向きにとらえるようになるなど。決算賞与を支給することで、従業員のモチベーションや自信を高める効果が期待できます。さらに、決算賞与は、会社の業績に応じて支給額が変動するため、従業員は次の期に向けて「さらに頑張ろう」と、目標意識や成長意欲も高められそうです。
従業員のモチベーションが上がれば、会社の生産性や競争力の向上が期待できます。経営者の方は、決算賞与の支給により、節税対策をしながら、従業員のモチベーションを高められるのです。
社会的に良い企業だとアピールできる
決算賞与を支給することは、社員に対する感謝の気持ちや業績への評価を示すだけでなく、社会的に「良い企業だ」とアピールできます。
決算賞与の支給の有無は、会社の利益に応じて変動するため、決算賞与の支給により、さまざまなステークホルダーに向け「業績が良く、社員への還元も行う良い企業」というイメージを与えられます。社会に対しても会社の信頼性や競争力を高めることになるでしょう。
決算賞与の支給がある企業は、人材の確保や育成にも有利になる可能性が高いです。社会に対しても会社の責任や貢献を示すことで、企業イメージやブランド力を高めることにつながります。決算賞与は、節税対策としてだけでなく、社会的に良い企業として認められるための戦略としても有効な手段といえるでしょう。
決算賞与を経費計上するための要件
決算賞与は、従業員のモチベーションを高めるとともに、節税対策としても有効な手段となります。しかし、決算賞与を経費計上するためには、一定の要件を満たす必要があります。これまでの内容と重複する部分もありますが、決算賞与を経費計上するための要件の詳細について、解説しますので、情報の整理をしましょう。
従業員に支給
決算賞与を経費計上するためには、従業員に支給しなければなりません。役員に決算賞与を支給する場合、その支給は「役員賞与」とみなされ、経費として認められないためです。
役員賞与はその性質上、法人税法では「損金不算入」と扱われ、経費としてみなされません。そのため、役員だけに決算賞与を支給した場合は、経費としては認められないため、会社の税負担を減らすことにはなりません。
一方、従業員に決算賞与を支給する場合は、その支給は賃金とみなされ、経費として認められます。ただし、従業員に支給する場合でも、支給の対象者や金額について、会社の業績や従業員の業績に応じた合理的な基準である必要があります。
参考:国税庁|No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
支給の有無を書面であらかじめ通達
決算賞与を経費計上するための2つ目の要件は、「支給の有無を書面であらかじめ通知すること」です。決算賞与は、通常の賞与とは異なり、支給時期や金額が一定ではないため、従業員に対して支給の有無や条件を明確に伝える必要があります。
書面で通知することで、決算賞与の支給が事後的な恩恵ではなく、事前に約束された報酬であることを証明できます。書面で通知しない場合は、決算賞与の支給が決算日前に確定していなかったとして、経費として認められない可能性があります。
決算月の終了日までに、支給対象となるすべての従業員に、通知をしなければなりません。通知する方法としては、書面やメールなどがあります。
雇用契約書や就業規則、給与明細などに決算賞与の支給に関する条項を記載しておくことも一般的です。たとえば、雇用契約書には「事業年度の業績に応じて、会社は従業員に決算賞与を支給することができる」「決算賞与の支給の有無や金額は、会社の裁量によって決められる」「決算賞与の支給に関する詳細は、別途書面で通知する」というような文言を入れるとよいでしょう。
事業年度の終了日から1カ月以内に支給
「事業年度の終了日から1カ月以内に支給すること」も、決算賞与を経費計上する要件の一つです。
事業年度の終了日から1カ月を超えて支給する場合は、その支給は次の事業年度の賃金とみなされ、経費として認められません。経費として認められるためには、決算賞与の支給が事業年度終了前に決定し、決算時点で未払賞与が確定した債務であるうえで、決算後1ヶ月以内に支給する必要があります。
たとえば、3月31日が事業年度の終了日である場合、4月30日までに決算賞与を支給しなければなりません。5月1日以降に決算賞与を支給する場合、経費として認められませんので、注意しましょう。
決算期終了日までに損金算入すること
決算賞与を経費計上するための4つ目の要件は「決算期終了日までに損金算入すること」です。決算期終了日までに損金算入しない場合、その支給は次の事業年度の経費とみなされ、その年度の経費としては認められません。
決算賞与の支給は、通常、その事業年度に大幅な利益が見込まれる際の節税対策として実施されるケースが多く、事業年度内で未払い計上することで、節税効果が見込まれます。支給対象となるすべての従業員に通知を行い、かつ事業年度の終了日から1カ月以内に支給していれば、税務上も損金算入することができます。
決算賞与に関するお困り事なら、ぜひ私たち「小谷野税理士法人」にお気軽にお問い合わせください。
決算賞与にも税金や社会保険料はかかる?
決算賞与にも税金や社会保険料はかかります。決算賞与を支給する際には、以下の点に注意しましょう。決算賞与を支給する際は、支給に関する税金や社会保険料の負担を正しく理解しておくことが重要です。決算賞与にかかる税金や社会保険料について、詳しく解説します。
決算賞与にかかる所得税
決算賞与にかかる税金は、「所得税」です。所得税は、個人の収入に対して課される税金で、賃金や賞与などの給与所得にもかかります。決算賞与は、賃金と同様に給与所得とみなされるため、所得税の対象となります。
決算賞与にかかる所得税は、源泉徴収で会社が従業員から徴収して国に納付します。源泉徴収とは、給与や賞与などの支払い時に、支払いを受ける者の所得税をあらかじめ差し引いておくことです。源泉徴収された所得税は、確定申告の際に納税額として控除できます。
決算賞与に対する源泉徴収税額の算出率は、賞与の金額や従業員の扶養人数によって異なります。賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表は、国税庁のホームページに掲載されています。
社会保険料は「健康保険料」「厚生年金保険料」「雇用保険料」の3種類
決算賞与にかかる社会保険料は、「健康保険料」「厚生年金保険料」「雇用保険料」の3種類です。社会保険料は、従業員と会社がそれぞれ半分ずつ負担します。社会保険料は、従業員の給与や賞与に応じて計算され、決算賞与は給与や賞与と同様に、社会保険料の対象となります。
社会保険料も含めて損金算入にしたい場合は、決算期末までに支給しなければなりません。社会保険料は、支払った時点で損金として認められ、所得税や法人税の負担を軽減することができます。社会保険料のそれぞれの計算方法は、以下の通りです。
健康保険料
従業員の給与や賞与に対する健康保険料率を掛けて計算します。健康保険料率は、健康保険組合や市町村によって異なります。
たとえば、健康保険組合の健康保険料率が10%で、決算賞与が100万円の場合、健康保険料は、100万円×10%=100,000円となります。この金額の半分は、従業員が負担し、半分は会社が負担します。つまり、従業員は、決算賞与から50,000円を差し引かれ、会社は、50,000円を健康保険組合や日本年金機構に納付します。
賞与から控除される健康保険料 = 賞与支給額 × 健康保険料率
参考:全国健康保険協会|令和5年度保険料額表(令和5年3月分から)
厚生年金保険料
従業員の給与や賞与に対する厚生年金保険料率を掛けて計算します。厚生年金保険料率は、段階的に引き上げられてきましたが、2023年12月末現在18.3%で固定されています。
たとえば、令和5年度の厚生年金保険料率が18.3%で、決算賞与が100万円の場合、厚生年金保険料は、100万円×18.3%=18万3,000円となります。この金額の半分は、従業員が負担し、半分は会社が負担します。つまり、従業員は、決算賞与から9万1,500円を差し引かれ、会社は、9万1,500円を日本年金機構に納付します。
賞与から控除される厚生年金保険料 = 賞与支給額 × 厚生年金保険料率
雇用保険料
従業員の給与や賞与に対する雇用保険料率を掛けて計算します。雇用保険料率は、従業員の年齢や雇用形態によって異なります。
たとえば、雇用保険料率が1.5%で、決算賞与が100万円の場合、雇用保険料は、100万円×1.5%=1万5,000円となります。この金額の4分の1は、従業員が負担し、4分の3は会社が負担します。つまり、従業員は、決算賞与から3,750円を差し引かれ、会社は、1万1,250円を国に納付します。
賞与から控除される厚生年金保険料 = 賞与支給額 × 厚生年金保険料率
決算賞与を支給して節税対策をしよう
この記事では、決算賞与の支給時期や事業者のメリット、決算賞与を経費計上するための要件を解説しました。決算賞与を適切に支給することで、節税対策になります。また、決算賞与を支給することは、従業員のモチベーションを高め、会社にとってもメリットが大きいといえます。
決算賞与は会社の過剰な利益分の額に応じて決定することができますが、経費計上するには要件を満たす必要があります。経費計上するための条件や、決算賞与にかかる所得税や社会保険料の計算は複雑です。分からないことや困った時は、税理士に相談してみるのがよいでしょう。