従業員が有給休暇を消化せず退職した場合、企業は有給休暇の買い取りが可能です。企業は有給休暇の買い取りについて事前に知識を得ておけば、従業員から希望があった際に手続きを円滑に進められるのではないでしょうか。この記事では、退職時の有給休暇の概要や買い取り方法と計算手順、有給休暇の買い取りがもたらす税金の影響などについて、詳しく解説します。
目次
退職時の有給休暇とは何か?

従業員が有給休暇を未消化のまま退職した場合、企業はどのような対応を取れば良いのでしょうか?企業は、従業員から有給休暇の買い取りを求められる可能性があるため、あらかじめ適切な処理について知っておくと良いでしょう。
有給休暇の基本的な仕組み
有給休暇は、労働基準法で定められた労働者の権利で、企業が管理しています。一部の企業では、従業員が有給休暇を未消化のまま退職した場合、それを買い取る制度を設けています。企業が有給休暇の買い取り制度を導入する際には、法に基づいた適切な対応を取る必要があるでしょう。
有給休暇の買い取りは、企業にとってメリットがあります。例えば、業務上の都合で有給休暇を取得しにくい従業員に対して、退職時に有給休暇の買い取りを提案できることです。
上記の対応は、在籍中の従業員の満足度が向上し、離職率の低下につながるのではないでしょうか。
とはいえ、企業が有給休暇の買い取り制度を導入しても、まずは従業員が有給休暇を取得できる環境を作るのが大切です。企業が労働環境を見直せば、業務の改善や生産性の向上が期待できるでしょう。
退職時に未消化の有給休暇はどうなる?
労働基準法では、有給休暇の買い取りは原則として禁止されています。しかし、従業員の退職時に未消化の有給休暇は買い取りが可能です。企業が有給休暇の買い取りを行う際は、適正な計算のもと、従業員へ買い取り金額を支払ってください。
万が一、企業が未消化の有給休暇を放置した場合、労働基準監督署からの指摘や訴訟などのリスクが生じる可能性があります。これらのリスクを防ぐため、企業は従業員一人ひとりの有給休暇の残数を正確に把握するのが重要です。
退職時の有給休暇の買い取りは可能なのか?
有給休暇の買い取りは、例外的なケースのみ認められています。この章では、有給休暇の買い取りにおける法律上のルールと例外ケース、買い取りが発生する具体的なシーンなどについて、詳しく解説します。
法律上のルールと例外ケース
退職者の未消化の有給休暇は、労働基準法に基づき、金銭的補償を行う「買い取り」で対応可能です。
また、使用期限が過ぎた有給休暇も、企業による買い取りが認められています。有給休暇は、付与されてから2年です。さらに繰り越された有給は、期間が1年を過ぎると消失する仕組みです。従業員から有給休暇の買い取りを求められた際は、適切な対応を取ってください。
参考:年次有給休暇
企業側が有給休暇の買い取りに応じる場合
企業が有給休暇の買い取り制度を導入する場合、従業員にその旨が伝わるよう、自社の就業規則に明記しておきましょう。有給休暇の買い取りは、従業員の満足度向上や労働環境の改善につながります。
特に、少人数の企業では、従業員一人ひとりの有給休暇の取得の調整が難しい場合もあるはずです。有給休暇の買い取り制度を導入すれば、柔軟な対応ができるのではないでしょうか。
有給休暇の買い取りが発生する具体的なシーン
企業による有給休暇の買い取りが発生する具体的なシーンとして、従業員が有給休暇を未消化のまま退職する時が挙げられます。
退職した従業員の有給休暇を放置すると、労働基準法の違反につながる恐れがあるため注意してください。従業員の退職後、有給休暇の買い取りをきちんと行えば、企業としての信頼性を維持できるでしょう。
退職時の有給休暇の買い取り方法と計算手順
従業員が退職時する際の有給休暇の買い取りは、具体的な手順に沿って行う必要があります。この章では、退職時の有給休暇の買い取り方法と計算手順について、詳しく解説します。
買い取り金額の算出の流れ
有給休暇の買い取り金額を算出する際、まずは退職する従業員の有給休暇の残日数を確認してください。未消化の有給休暇の日数に、従業員の平均賃金を掛け合わせることで金額を計算できます。
従業員の平均賃金の算出には、企業が過去に支払った給与データを活用しましょう。平均賃金の算定は、基本給だけでなく残業手当や各種手当も含めて計算してください。
平均賃金を用いた計算例
例えば、退職した従業員の平均賃金が月給30万円で、月の労働日数が20日であると、1日の平均賃金は15,000円です。そして、退職時に未消化の有給休暇が10日残っている場合、1日の平均賃金を掛けると買い取り金額は15万円です。
有給休暇の買い取り制度を導入する際は、従業員が納得して退職できるよう、就労規則に明記すると良いでしょう。
有給休暇の買い取りがもたらす税金の影響

企業が有給休暇の買い取りを行った場合、従業員に支払う買い取り金額も給与として扱われます。そのため、買い取り金額も源泉徴収や社会保険料の計算が必要なことがある点に注意してください。この章では、有給休暇の買い取りがもたらす税金の影響について、詳しく解説します。
税金の計算ルールと賞与扱いの概要
退職の有給休暇の買い取り金額は退職所得として扱われるため、企業は源泉徴収を行う必要があります。企業が有給休暇の買い取りを行った際、従業員へ発行する給与明細に、有給休暇の買い取りに関する項目を明記することがおすすめです。
有給休暇の買い取りに関する項目に、源泉徴収額や課税対象額を明記すれば、従業員の誤解やトラブルを避けられるでしょう。
企業による有給休暇の買い取りは、税理士をはじめとした専門家に相談することで、最新の税法や関連ルールを把握しながら処理を行えます。有給休暇の買い取りについて不安を感じている方は、税理士へ相談してはいかがでしょうか。
実際の課税金額のシミュレーション
企業が従業員の有給休暇の買い取りを行う際は、従業員に実際に支払う金額を事前に把握しておきましょう。買い取り金額には所得税と住民税が課されるため、課税分を差し引いた金額を従業員へ支給してください。
例えば、従業員の所得税率が10%、住民税率が10%である場合、買い取り金額への課税率は20%です。
買い取り金額から20%の課税と源泉徴収を差し引いた金額が、従業員に実際に支給する金額です。また、所得税率や住民税率は、従業員一人ひとりの収入や居住地により異なるため注意してください。
所得税や住民税の具体的な処理方法
企業が有給休暇の買い取りを行う場合、正確な経理処理を行う必要があります。従業員へ買い取り金額を支払う際は、適切な税額を控除し、給与明細にきちんと反映させましょう。
また、経理に給与計算システムを使用している企業は、有給休暇の買い取り金額が正しく処理されているかを必ず確認してください。
なお、有給休暇の買い取りを行う際は、従業員ごとに課税対象額や税率が異なる点に気をつけましょう。複雑な経理に煩わしさを感じている企業は、税務の専門家である税理士へ相談するのをおすすめします。
退職時の有給休暇の買い取りにおける注意点
従業員の退職時に有給休暇を買い取る場合、企業として適切な対応を行う必要があります。具体的には、労働基準法や自社の就業規則に基づいた手続きを進めることで、後々のトラブルを回避できるでしょう。この章では、退職時の有給休暇の買い取りにおける注意点について、詳しく解説します。
税務処理のよくあるトラブルを事前に把握しておく
企業が有給休暇の買い取りを行う際、税務処理に注意してください。特に、従業員へ支払う買い取り金額も、所得税や住民税の課税対象のため気をつけましょう。
買い取り金額や課税の計算が適切に行われていない場合、後日税務署から指摘を受けたり、追徴課税が発生したりする可能性があります。有給休暇の買い取りを行う際は、社内で税金に関するルールや必要な手順について、事前に確認するのをおすすめします。
有給休暇の買い取りについて従業員へ周知する
企業が有給休暇の買い取り制度を導入する場合、従業員へ事前に周知することがおすすめです。具体的には、自社の就業規則に明記したり、退職する従業員へ口頭で伝えたり、従業員に適切な案内を行う責任があります。
有給休暇の買い取りにまつわる具体的な手続きや条件については、従業員にわかりやすい形で周知しましょう。有給休暇の買い取りに関する疑問点や誤解を事前に解消しておけば、退職後のトラブルを防げるでしょう。
有給休暇を買い取るメリットとデメリット

有給休暇の買い取りは、企業にとって従業員の満足度向上につながります。一方、業務の都合上有給休暇を消化しにくい従業員にとっても、退職時の懸念点がなくなるのではないでしょうか。この章では、有給休暇を買い取るメリットとデメリットについて、詳しく解説します。
有給休暇を買い取るメリット
有給休暇の買い取りには、企業にとっていくつかのメリットがあります。まず、有給休暇を未消化のまま退職する従業員とのトラブルを未然に防げる点です。退職する従業員が業務上の都合で有給休暇を取得できなくても、買い取り制度を設ければ柔軟に対応できるでしょう。
また、有給休暇を買い取ることで、退職する従業員にまつわる事務作業や手続きの削減にもつながります。企業が従業員へ支払う有給休暇の買い取り金額をスムーズに算出すれば、後々の業務負担を軽減できるのではないでしょうか。
有給休暇を買い取るデメリット
有給休暇の買い取りには、デメリットも存在します。まず、有給休暇の買い取り金額を従業員へ支払う必要があるため、企業の金銭的負担が増す可能性があるでしょう。そして、有給休暇の買い取り制度が浸透すると、従業員が有給を取得せず働き続け、結果として従業員の健康悪化や満足度の低下につながる恐れがあります。
有給休暇の買い取りによって、業務の生産性が低下したり、職場の雰囲気が悪化したりする可能性は、企業にとってデメリットといえるでしょう。
有給休暇の買い取りのまとめ
企業にとって、従業員の有給休暇の買い取りは、業務効率化や従業員満足度の向上につながる可能性があります。しかし、企業の金銭的負担が増す点や業務の生産性が低下する点など、デメリットもあるため注意してください。
有給休暇の買い取りを適切に行うためには、税務の専門家である税理士への相談がおすすめです。会社の経理や手続きについてお困りの方は、小谷野税理士法人までお気軽にお問い合わせください。









