「確定申告しないとどうなるのだろう」と不安を抱える個人事業主は多いです。確定申告を怠ると本来の税金に加えて、重いペナルティを課される可能性があります。本記事では、個人事業主が確定申告しなかった場合のペナルティやリスクなどを解説します。無申告が発覚する理由や今からできる対処法も分かるため、記事の内容を参考にしてみましょう。
目次
個人事業主が確定申告しなかった時のペナルティ

確定申告の義務があるにもかかわらず申告しなかった場合、本来納めるべき税金とは別に、附帯税が課される可能性があります。附帯税は複数の種類があり、状況によっては高額な負担になる場合もあります。
無申告加算税
無申告加算税は、申告期限内に確定申告しなかった場合に課されるペナルティです。意図的であるかどうかにかかわらず、申告が遅れれば加算税の対象です。自主申告した場合は税率が5%に軽減されますが、税務署からの指摘で発覚した場合は、以下の税率が適用されます。
基本的な税率 | 重加算税率(悪質なケース) |
15% ※50〜300万円の部分は20% 300万円を超える部分は25% | 40% |
税務調査のあとに加算された場合の税率は、15%以上です。申告漏れに気づいた際は、1日でも早く納付しましょう。
延滞税
延滞税は、法定納期限までに税金を納めなかった場合に、遅延した日数に応じて課される利息に似たペナルティです。税率は納付が遅れた期間によって異なり、2ヵ月を超えると大幅に上昇します。
期間 | 税率 | 令和7年中の税率(特例) |
納期限の翌日から2ヵ月以内 | 原則年7.3% | 年2.4% |
納期限の翌日から2ヵ月を超えた期間 | 原則年14.6% | 年8.7% |
延滞税は、完納する日まで日割りで計算されます。納税が遅れるほど負担は増え続けるため、速やかな申告と納税が大切です。
重加算税
重加算税は、意図的な所得隠しや帳簿の改ざんなど、悪質な不正行為に対して課されるペナルティです。事業の信用を大きく損ない、金融機関との取引に影響が出る可能性もあります。重加算税の税率は、以下の通りです。
加算されるケース | 基本的な税率 | 同じ税目で5年以内に前科がある場合の税率 |
過少申告加算税に代えて課されるケース | 35% | 45% |
無申告加算税に代えて課されるケース | 40% | 50% |
重加算税が課されると、今後の税務調査で厳しく見られる傾向もあり、長期にわたって監視の対象となります。過少申告、もしくは無申告の自覚がある方は、早急に対処しましょう。
刑事責任
悪質性の高い脱税行為は「ほ脱」と見なされ、追徴課税だけではなく刑事罰の対象になる可能性があります。具体的には、二重帳簿の作成や、架空経費の計上といった行為が該当します。
刑事罰の判断は脱税額の大きさによって左右されるため、過度な虚偽申告は危険です。事業継続に影響を及ぼすため、自覚のある方は速やかな対応が必要です。
個人事業主が確定申告しないリスク

確定申告しない場合、ペナルティは追徴課税以外にもあります。税金面以外のデメリットも正しく把握し、健全な事業運営を心がけましょう。
青色申告特別控除の対象外になる
青色申告は一定の要件を満たせば、税制上の優遇を受けられる制度ですが、青色申告を取り消されると、以下のメリットを受けられません。
- 最大65万円の青色申告特別控除
- 赤字の3年間繰越控除
- 家族への給与を経費に計上
最大65万円の色申告特別控除は、節税効果が大きい制度です。無申告の場合、本来得られるはずの利益を失う可能性があるため、確定申告は必ず行いましょう。
各種控除の適用外になる
確定申告を行うと、払い過ぎた税金の還付を受けたり、個々の事情に合わせて所得控除を適用し、税負担を軽減できたりします。しかし、未申告の場合は以下の控除を受けられません。
- 医療費控除
- 生命保険料控除
- 扶養控除
申告しないと、上記の各種所得控除は適用対象外となります。課税対象の所得額が大きくなり、本来よりも多くの所得税や住民税を納める可能性があります。
給付金の対象外になる
国や地方自治体が実施する給付金や補助金の多くは、申請要件に確定申告書の控えの提出を求めるケースがあります。例えば、コロナ禍の持続化給付金も、申請には前年分の確定申告書が必要でした。
自身が給付金を受ける可能性もあるため、事業を守る支援策を受けられるよう、日頃から適正な申告を心がけるのが大切です。
所得証明書を取得できない
確定申告しないと、自身の所得を証明する「課税証明書」や「納税証明書」は発行対象外です。所得証明ができないと、以下のような場面で支障が出ます。
- 住宅や自動車のローン契約
- 賃貸物件の入居審査
- クレジットカードの作成
上記の手続きでは、支払い能力や返済能力の証明として、所得証明書の提出が求められます。無申告は、事業だけではなく個人の生活にも影響を及ぼすでしょう。
国民健康保険の軽減措置の対象外になる
国民健康保険料は、所得が一定基準以下の世帯に対して、保険料の負担を軽減する制度が設けられています。しかし、確定申告しないと所得を十分に証明できないため、軽減措置の対象外です。
本来であれば減額されるはずの保険料を、満額請求される可能性もある点に注意しましょう。適正な保険料を算定してもらうためには、確定申告は必要です。
銀行融資を受けにくくなる
銀行融資の審査では、事業の収益性や将来性を示す客観的な資料として、過去数年分の所得証明が求められます。無申告の状態では、事業の実態を証明できないため、金融機関から返済能力を信頼してもらうことが難しくなります。
融資を受けやすいのは、毎年適正な申告を行い、安定した所得を証明できる事業者です。事業成長の機会を得るためにも、確定申告は確実に行いましょう。
賃貸契約や住宅ローンの審査に影響する
事業用の融資と同様に、個人の信用が問われる賃貸契約や住宅ローンの審査でも、所得証明は必要です。個人事業主は、会社員と比べて収入が不安定と見なされやすい傾向にあり、客観的な収入証明が求められます。
金融機関や不動産会社から見れば、確定申告していない相手にローンを組ませたり、物件を貸したりするのはリスクが高いです。個人事業主が社会的な信用を得るうえで、確定申告は必要な手続きです。
住民税の申告が別途必要になる
所得税の確定申告しない場合でも、住民税の申告義務は別途発生します。住民税は前年の所得を基に計算されるため、市区町村への申告が必要です。
確定申告を行えば住民税の申告も同時に完了しますが、無申告の場合は別途手続きが必要です。住民税の申告を怠ると、国民健康保険料の軽減措置は対象外のため、結果的に税金、保険の両面で不利益を被る可能性があります。
確定申告していないのがバレる理由は?

税務署はさまざまな情報網を活用して、無申告者を効率的に把握しています。ここでは、無申告が発覚する主な理由を解説します。
税務調査で発見される
税務署は、あらゆる業種の事業者を対象に調査を行っています。近年はAIを活用して申告データを分析し、不正が疑われる事業者を効率的に抽出する能力が向上しています。
令和5年度の調査では、個人事業主1件あたりの平均追徴税額は約359万円でした。特にインターネット関連の取引や、海外資産、暗号資産(仮想通貨)取引などは重点的に調査されます。「バレないだろう」といった安易な考えは改め、確定申告を行いましょう。
取引先からの支払調書で発覚する
支払調書と個人事業主の確定申告内容を照合することで、申告漏れが発覚するケースが増えています。支払調書とは、企業が個人などへ報酬を支払った際に、詳細を記録して税務署へ提出する書類です。
税務署は支払調書のデータを管理しており、個人の収入状況を把握できる体制を構築しています。支払側の企業が適切に支払調書を提出している場合、申告漏れが発覚する可能性は上がるでしょう。
第三者からの通報で明らかになる
第三者からの税務署への通報により、申告漏れが発覚するケースがあります。元従業員や取引先、あるいは個人的な関係者からの通報が、税務調査のきっかけになるケースもあります。
通報の動機は、解雇された腹いせや取引上のトラブル、個人的な嫉妬などさまざまです。情報提供は匿名でも可能なため、誰が通報したかを特定するのは困難です。
誰かが税務署に情報を伝えている可能性があるため、適切に申告を行うことが求められます。
確定申告していない場合の対処法
確定申告を怠っているのに気づいた場合、適切な対処によりペナルティを抑えられます。ここでは、具体的な対処法を3つ紹介します。
税務署に相談する
初めに検討したいのは、管轄税務署への相談です。税務調査の通知が届く前に自主的に申告を行えば、無申告加算税が軽減される措置があります。
税務署には相談窓口が設けられており、申告書の作成方法についても指導を受けられます。申告をしていない方は、早急に税務署への相談を検討しましょう。
税理士に相談して適切な対応を検討する
複数年分の申告が必要な場合や、帳簿の整理が困難な場合は、税理士に相談するのがおすすめです。税理士に依頼すれば、過去の取引を整理し、正確な申告書を作成してもらえます。
税務署とのやり取りを代行してもらえる点で、精神的な負担も軽減されるでしょう。ペナルティの計算や納税資金の相談にも対応可能です。費用は発生しますが、適切な対応によりペナルティ軽減効果が期待できるため、総合的には有益なケースが多いです。
未申告だった分を申告する
最終的な解決策は、申告義務のある年度分の期限後申告を行うことです。領収書や請求書、通帳などの資料を集め、年度ごとの所得と税額を正確に計算し、申告書を作成して提出します。
ただし、手続きは煩雑なため、1人で作業を行うのは大変です。申告手続きで迷っている方は、適正な処理をするためにも、税理士への相談を検討しましょう。
よくある質問
ここでは、個人事業主の確定申告に関する質問に回答します。
年収103万円以下なら確定申告はしなくても良い?
個人事業主の場合、年収ではなく所得で判断し、原則として58万円を超えれば確定申告が必要です。所得が58万円を超える個人事業主の方は、必ず確定申告を行いましょう。
赤字や売上がゼロの場合に確定申告はしなくても良い?
所得が58万円以下、あるいは赤字や売上ゼロの場合、所得税の確定申告は不要です。ただし、青色申告の承認を受けている場合は、申告をすることで赤字を翌年以降3年間繰り越せます。
将来黒字になった際に節税できるため、赤字でも申告するメリットは大きいです。
個人事業主の確定申告に時効はある?
税金の時効は、原則として法定申告期限から5年です。悪質なケースと判断された場合は7年に延長されます。時効を待つより、自主的な申告により解決する方が現実的でしょう。
確定申告していない人は多い?
国税庁の令和4年の調査では、所得税関係の申告漏れや無申告は約33万件でした。追徴課税の平均額は数百万円に及ぶため「多くの人が申告していないから大丈夫」といった考えは危険です。
確定申告しないと住民税は高くなる?
確定申告しない場合、住民税の申告が別途必要です。申告しないと各種控除が適用されず、結果的に税負担が増えます。確定申告により所得税と住民税の申告が同時に完了し、適切な控除も受けられます。
確定申告していない個人事業主は税理士への相談がおすすめ
個人事業主が確定申告しない場合、追徴課税といった金銭的なペナルティに加え、さまざまなリスクを負います。融資やローンが組めなくなり、事業の成長に支障をきたす可能性があります。
無申告の状態に気づき、対応方法に悩んでいる方は、税理士への相談がおすすめです。専門家として、状況に応じた最適な解決策を提案し、煩雑な手続きを代行してもらえます。小谷野税理士法人では無料相談を行っているため、まずはお気軽にご相談ください。






