経費の処理では、どの期間の支出が対象になるか、いつの時点で計上すべきかといった判断に悩むことがあるでしょう。特に期末や年末に発生する取引では、処理のタイミングを間違えると思わぬリスクに繋がる可能性もあるでしょう。本記事では、経費の対象期間の考え方や計上時期の基本ルール、実務でよくある場面への対応方法について解説します。経費の処理に不安を感じている方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
経費計上の基本ルール
経費の計上時期は、会計処理の基本ルールに基づいて判断されます。特に大きく影響するのが、「発生主義」と「現金主義」という2つの会計基準です。
どちらの方式を採用しているかによって、いつのタイミングで経費として処理するかが異なるため、自社の会計方針や申告方法に応じて適切に判断しましょう。
発生主義と現金主義の違い
「発生主義」の場合、サービスの提供や商品の納品といった「取引が発生した時点」で経費を計上します。たとえ支払いが翌月や翌期になっても、実際に経済的価値を受け取った時点が基準となります。
一方の「現金主義」では、「支払日」を基準に経費処理を行います。実際に現金の出入りがあったタイミングでのみ計上されるため、比較的シンプルですが、実態とのずれが生じる場合もあるので注意してください。
なお、法人や個人事業主は原則として発生主義での処理が求められます。
関連記事:発生主義とは?現金主義・実現主義との違いやメリット・デメリットについて解説
法人と個人事業主で異なる会計処理
法人は、会社法や税法により発生主義が原則とされており、サービス提供日や納品日など、実際に経済的な取引が行われた時点で経費を計上する必要があります。
一方で個人事業主は、申告方法により異なります。青色申告者は原則として発生主義に基づいた帳簿処理が必要ですが、特定の条件下であれば現金主義の採用が可能です。
自身の事業形態や申告方法に応じた適切な処理方法を選びましょう。
経費として認められる「対象期間」はいつからいつまで?
経費として認められるためには、会計期間内に発生した業務上の支出であることが原則です。この「対象期間」は、法人・個人事業主それぞれの会計期間に基づいて決まります。
適切に経費計上を行うために、自社の会計年度や申告対象期間を正確に把握しておきましょう。
会計年度の考え方
法人の場合、会計年度(事業年度)は任意に設定できますが、4月1日から翌年3月31日までの1年間とするケースが多く見られます。
一方、個人事業主は原則として暦年ベースで処理を行い、1月1日から12月31日までの1年間が経費の対象期間となります。
経費として認められるのは、これらの期間内に発生した業務に関連する支出です。
経費の対象となるタイミングの判断基準
経費の対象時期は、支払日ではなく実際にサービスや商品の提供を受けたタイミングが基準となります。例えば、サービス提供日、納品日、業務の完了日、契約の履行日などが判断の根拠となります。
請求書の到着日や実際の支払日だけで判断してしまうと、誤った時期に経費を計上してしまう恐れがあるので注意しましょう。発生主義に基づく処理を行う際は、実態に即した取引時点での計上が求められます。
経費の計上時期を誤った場合の3つのリスク
経費の計上時期を間違えると、税務上のトラブルや思わぬ損失に繋がる可能性があります。実務で注意すべき以下3つのリスクについて解説します。
- 税務調査で経費を否認される
- 節税効果が得られなくなる
- 意図的とみなされ脱税と判断される
税務調査で経費を否認される
計上時期が不適切だと、税務署に経費として認められず、修正申告や追徴課税が発生する可能性があるでしょう。
発生主義に基づく会計処理では、取引の実態に応じた正しいタイミングで経費を計上する必要があります。
特に会計期間をまたぐ支出や、前払・未払の処理を誤ると、帳簿と実態に齟齬が生じ、税務調査で否認される原因となります。
関連記事:税務調査とは?どこまで・何を調べる?流れや個人・法人の対応方法などについて詳しく解説
節税効果が得られなくなる
経費の計上時期を誤ると、期待していた節税効果が得られなくなることがあるでしょう。例えば、決算期にあわせて必要経費を計上して利益を圧縮する予定が、翌期にずれてしまえば、当期の節税効果は失われます。
帳簿上は費用として記録されていても、計上タイミングが適切でなければ、税務上の利益調整に反映されない可能性があるため注意が必要です。
意図的とみなされ脱税と判断される
経費の計上時期を意図的に操作していると判断されれば、脱税とみなされる可能性があります。
たとえ小さなミスでも、継続的または明確な意図があると見なされれば、重加算税などの罰則対象となることがあるでしょう。
悪質なケースと認定されれば刑事罰に発展する場合もあるため、計上時期の判断には慎重を期し、曖昧な場合は税理士に相談することが重要です。
関連記事:追徴課税とは?加算税の種類や計算方法、対象期間について解説
経費計上タイミングの具体例
経費の計上時期を判断するための具体例を紹介していきます。
以下は、法人および青色申告の個人事業主に適用される「発生主義」の会計処理を前提としています。現金主義を採用している場合は処理方法が異なりますので注意しましょう。
月末に納品された商品の請求書が翌月に届いた場合
取引の実態である「納品日」が経費計上の基準です。請求書の到着日や支払日ではなく、実際に商品を受け取った日が属する会計期間で計上します。
例)3月31日に納品された商品(10万円)の請求書が4月2日に届いた場合
借方 | 貸方 | ||
仕入 | 10万円 | 買掛金 | 10万円 |
年払いサブスクリプション費用を一括支払いした場合
支払日ではなく、サービス提供期間に応じて費用を分割して計上します。支払時点では「前払費用」として資産計上し、各月に対応する費用科目に振り替えます。
例)1月1日に年額12万円のサブスクリプションを支払った場合
【支払時の仕訳】
借方 | 貸方 | ||
前払費用 | 12万円 | 普通預金 | 12万円 |
【毎月の振替仕訳】
借方 | 貸方 | ||
通信費 | 10,000円 | 前払費用 | 10,000円 |
上記のように、毎月10,000円ずつ振り替えていく必要があります。
工事費用が複数月に分かれて発生した場合
工事が完了したタイミングで経費として計上します。途中で支払いが発生しても、成果を受け取った「完成日」が会計処理の基準になります。
例)4月〜6月にかけて行われた修繕工事(30万円)が6月30日に完了した場合
借方 | 貸方 | ||
修繕費 | 30万円 | 未払金 | 30万円 |
社員研修費用を前払いした場合
研修実施日がサービスの提供日とみなされ、その日を基準に経費を計上します。支払時は「前払費用」として処理し、実施日に「研修費」へ振り替えます。
例)4月10日に支払った研修費用(50,000円)で、研修は5月15日に実施された場合
【支払時の仕訳】
借方 | 貸方 | ||
前払費用 | 50,000円 | 現金 | 50,000円 |
【研修実施日の振替仕訳(5月15日)】
借方 | 貸方 | ||
研修費 | 50,000円 | 前払費用 | 50,000円 |
年末に受けたサービスの請求書が年明けに届いた場合
サービス提供日が基準となるため、たとえ請求書が翌年に届いても、提供が年末であれば当年度の経費として処理します。
例)12月28日に完了した業務(報酬30,000円)の請求書が1月5日に届いた場合
借方 | 貸方 | ||
支払手数料 | 30,000円 | 未払金 | 30,000円 |
経費の計上タイミングで迷ったときの5つの対処方法
経費の計上時期は判断に迷いやすく、処理のタイミングを誤ると税務上のリスクに繋がるおそれがあります。迷ったときに実践できる具体的な下記5つの対処法をご紹介します。
- サービス提供日を明記した書類を保管する
- 経費に関する備考欄を活用して記録する
- 毎月の締め処理を習慣化する
- 計上基準を社内で統一しておく
- 判断に迷う場合は税理士に相談する
サービス提供日を明記した書類を保管する
計上時期を正確に判断するためには、サービス提供日が明記された書類を保存しておくことが重要です。
領収書・契約書・納品書などに記載された日付は、経費計上の根拠となる大切な証拠です。特に請求書の到着や支払日と提供日が異なるケースでは、後から記録を確認できるよう、日付入りの書類をしっかり保管しておきましょう。
経費に関する備考欄を活用して記録する
後から内容や時期を見直しやすくするために、帳簿や会計ソフトの備考欄を積極的に活用しましょう。
例えば、「3月分のクラウド利用料」など、サービス期間や内容を簡単にメモしておくことで、計上時期に迷ったときの確認材料になります。備考の記載は社内共有にも有効で、情報の行き違いも防止できるでしょう。
毎月の締め処理を習慣化する
経費のズレや記録漏れを防ぐには、月ごとの帳簿締めを継続的に行うことが効果的です。
日常的に記帳・確認・締めのサイクルを回すことで、計上タイミングの誤りに早く気づけます。決算直前になって慌てて確認作業をするよりも、毎月の処理を習慣化しておくほうが負担軽減にも繋がるでしょう。
計上基準を社内で統一しておく
社内で経費処理の基準を明文化・共有しておくことで、判断のバラつきを防ぐことができます。
担当者によって「支払日基準」や「納品日基準」などの判断が分かれてしまうと、帳簿全体の整合性に影響します。経費計上に関するルールをあらかじめマニュアル化し、社内で共通認識を持てるようにしましょう。
判断に迷う場合は税理士に相談する
自社で判断が難しい場合は、専門家である税理士に相談するのが確実な方法です。
税務のプロである税理士は、実務経験に基づき適切な処理方法をアドバイスしてくれます。判断を誤って後から修正するよりも、早い段階で専門家の意見を取り入れることで、ミスやリスクを未然に防ぐことができるでしょう。
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経費の計上時期でお悩みの方は専門家に相談
経費の計上時期を誤ると、税務調査で否認されたり、思わぬ追徴課税を受けるリスクがあります。特に期末や年末の取引は判断が難しく、自己判断だけでは対応が不安なケースもあるでしょう。
こうしたリスクを避けるには、税務の専門家に相談するのが安心です。
小谷野税理士法人は、法人・個人事業主を問わず幅広い経理・税務の実務に精通しており、的確なアドバイスが可能です。経費の計上時期にお悩みの方は、まずはお気軽に小谷野税理士法人へご相談ください。