2024年6月より実施された定額減税は、同年分の所得税について、所得税額の特別控除が定額で受けられる制度です。近年の景気変動や消費者の購買力の低下に対応する目的で打ち出された、日本政府ならではの政策です。この記事では、定額減税の詳細や所得税の考え方、雇用形態別に必要な対応について詳しく解説します。住民税非課税世帯や低所得者向けの給付金についても触れているので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
定額減税はいつから?
定額減税は、日本に住む納税者に対して国・自治体が一律の金額を減税する制度です。2024年4月1日に施行された「令和6年度税制改正法」に盛り込まれた制度で、以下対象者に対して、所得税・住民税が控除されます。適用時期は同年6月1日以降に最初に支払われる給与・賞与が対象で、源泉徴収される所得額から控除額が差し引かれる仕組みです。
対象者 | 対象となる税目 | 条件 |
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参考:定額減税について|国税庁
また、子ども・特別障害者等を有する方などの所得金額調整控除の適用を受ける方は、2,015万円以下となっています。
定額減税の詳細については、こちらの記事でもまとめているので、併せてご覧ください。
関連記事:《会計・税務の知識》 (税制改正特集)所得税・個人住民税の定額減税
パターン別に見る定額減税の流れ
ここでは、以下5パターンの所得税の流れについて解説します。
- 給与所得者|6月1日以降の給与・賞与から控除仕切れない部分は給付措置
- 個人事業主・自営業|第1期予定納税額(7月分)から減税額が控除される
- 公的年金受給者|6月支給分から順次減税額が控除される
- アルバイト・パートの方|所得によって異なる
- 複数の所得がある方|主たる収入で異なる
定額減税はどのように行われるのかを見ていきましょう。
1. 給与所得者|6月1日以降の給与・賞与から控除仕切れない部分は給付措置
給与所得者の場合は、給与支払者が源泉徴収額から定額減税額を控除することで所得税の控除が受けられます。具体的な流れは以下の通りです。
- 6月1日以降の最初の給与・源泉徴収を所得税から順次控除
- 控除しきれない部分は給付措置が行われる
- 6月分の住民税は特別徴収の対象外となり、減税額を差し引いた額を11等分後、令和6年~令和7年5月分が毎月特別徴収される
対象となる期間は2024年6月1日以後、最初に支払う給与・賞与からです。このとき控除しきれない分については、その後に支払う給与・賞与から順次控除します。
最終的に年末調整時の定額減税額に基づいて精算し年税額が決まりますが、この時、住宅借入金等特別控除なども含めて計算しなければなりません。
なお、個人住民税の場合は2024年6月分を徴収せずに減税します。その後、定額減税後の税額が2024年7月〜2025年5月分の11ヵ月分で徴収される流れです。
関連記事:【2024年】定額減税とは?個人事業主が知っておくべき対応や申請について
2. 個人事業主・自営業|第1期予定納税額(7月分)から減税額が控除される
個人事業主や自営業の場合は、予定納税対象者か対象外かで異なります。予定納税対象者に該当する方の場合は、納税者自身の控除は2024年6月以降に通知のあった予定納税額から控除される流れです。しかし、対象外の方は確定申告から控除することになります。具体的な流れは以下の通りです。
- 第1期分予定納税額(7月)から本人分の定額減税額が控除される
- 控除しきれない部分は第2期予定納税額から控除される
- それでも控除しきれない場合は確定申告で精算する
同一生計配偶者・扶養親族の控除については、予定納税額の減額申請が必要になるため、申請のし忘れに注意しましょう。
個人住民税については、第1期分の納付額から控除となります。控除しきれない部分については第2期以降分の納付額から順次控除される流れです。住民税決定通知書で本人と扶養親族等分を減税した納付額が明記された支払い用紙が自宅に届きます。
3. 公的年金受給者|6月支給分から順次減税額が控除される
公的年金を受給する方については、2024年6月支給分から順次源泉徴収税が控除されます。
具体的な流れは以下の通りです。
- 2024年6月1日以降の源泉徴収税から控除開始
- 控除しきれない分は8月支給分、10月支給分と段階に分けて減税額が順次控除される
例えば、2ヵ月に1回支払われる年金から1万円の所得税を源泉徴収されている方で、本人が3万円分減税される場合です。この場合は、6月支払い分から8月分、10月分の3回に分けて源泉徴収税額が控除されます。
ただし、公的年金受給者の場合、事前に日本年金機構から送付された「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」への記入・返送が必要です。書類内容に沿って対象となる配偶者・扶養親族数が判定され、2024年6月1日以降の最初に受給する年金から所得税が減税されます。
源泉徴収を受ける所得税分を減税する形となり、この時、必要な額を全て控除できない場合は、その後の年金から控除される仕組みです。
住民税については、定額減税前の税額を基に算出し、同年10月分の特別徴収税額から控除されます。必要な額がこの時点で控除できないときは、個人事業主同様、同年12月分から順次控除される流れです。
4. アルバイト・パート等の方|所得によって異なる
アルバイトやパート等で働く方の場合も定額減税の対象です。具体的な流れは以下の通りです。
- 1年間の合計収入が103万円を超える場合は納税者となり、6月以降の給与から源泉徴収税が控除される
- 控除しきれない部分は翌月分以降の給与から順次控除される
例えば、年収103万円以下の収入で親族の扶養にある場合、定額減税の対象者は扶養している納税者です。年収103万円以下で扶養されている方は定額減税の対象外となります。
逆に、年収が103万円を超える場合であれば所得税法において扶養外となるので、アルバイト・パート等で働いた方が対象です。
なお、勤務先で源泉徴収される場合は、2024年6月1日までに扶養控除等申告書を勤務先に提出しているかを確認しましょう。すでに同書類を勤務先に提出されている方であれば、2024年6月以降の給与等に対する源泉徴収額から控除が受けられます。
5. 複数の所得がある方|主たる収入で異なる
複数の所得がある方であれば主たる給与等から控除される仕組みです。例えば、本業と副業がある方は、本業の所得の源泉徴収から控除されます。具体的な流れについては、本業所得が多ければ当記事の「給与所得者」を、副業の収入が多ければ「個人事業主・自営業」をご確認ください。
仮に、本業と副業を分けておらず扶養控除等申告書を提出した勤務先がない場合は、定額減税を受けるために確定申告が必要です。
確定申告によって最終的な控除額が算出され、不足分があれば納付を、多く支払っていた分は還付を受けて精算します。
関連記事:ダブルワークの年末調整や確定申告は必要?判断方法と手続きまとめ
住民税非課税世帯・低所得者に対する各種給付金について
定額減税では、所得税の控除に限らず、所得金額に応じて給付金を支給しているケースもあります。しかし自治体によっては要件を定めている場合もあるようです。ここでは、定額減税における給付金の内容について解説します。
住民税非課税世帯への給付金
定額減税では、住民税非課税世帯に対しての給付金を支給しています。住民税非課税世帯とは、文字通り住民税が非課税の世帯のことです。例えば東京都港区の場合、非課税制度に該当する人は以下が目安です。
東京都港区の場合 | |
世帯構成 | 年収 |
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参考:住民税(特別区民税・都民税)はどういう場合に非課税になりますか。|港区
住民税非課税世帯に該当する世帯には、1世帯あたり10万円の給付金が受けられます。また、2024年度分の個人住民税所得割が課されていない方だけとなった世帯も同様です。
さらに、18歳以下の児童がいる場合、児童一人あたり5万円が給付されます。ただし、世帯全員が親族等の扶養に入っている場合は対象外です。
低所得世帯
低所得世帯についても、住民税非課税世帯であれば給付対象です。給付額は原則1世帯あたり10万円で、18歳以下の児童がいる子育て世帯であれば児童一人あたりにつき5万円が支給されます。
ただし低所得世帯についても、世帯の全員が個人住民税が課税されている他の親族等の不要を受けている場合は対象外です。
子ども加算
2023年度分の個人住民税が非課税の世帯、あるいは均等割のみ課税対象の世帯は「子ども加算」の対象です。この場合も、低所得世帯同様に、18歳以下の児童一人あたりにつき5万円が給付されます。
(例) 2023年度住民税均等割のみ課税世帯で18歳以下の児童が2人いる場合の給付額は20万円 (内訳) ・2023年度住民税均等割のみ課税世帯への給付金:10万円 ・低所得の子育て世帯への「子ども加算」:5万円×2 |
定額減税におけるその他への影響と対策
定額減税を受けるにあたって、住宅ローン控除やふるさと納税への影響を懸念する方も多いでしょう。ここでは、それぞれの影響について解説します。
住宅ローン控除への影響
定額減税が実施された場合であっても、住宅ローン控除の控除額が減ることはありません。住宅ローン控除は、定額減税による控除を受ける前に行うことが理由です。
しかし、住宅ローン控除によって所得税が0円になった場合、定額減税で控除できる対象がなくなってしまうでしょう。この場合、定額減税では控除できないまたはしきれないと判断できる場合については、その見込額が給付されます。住宅ローン控除のない世帯と比べ、定額減税の恩恵が少なくなる心配は不要でしょう。
関連記事:住宅ローン減税及び住宅取得等資金に係る贈与税非課税措置の延長
ふるさと納税への影響
ふるさと納税についても控除限度額に変動はありません。つまり、所得税からの控除は、納税額から2,000円を差し引いた金額に所得税率を乗じた金額となり、上限は総所得金額等の40%です。
住民税の控除(基本分)も、納税額から2,000円を差し引いた金額に10%を乗じた金額で、上限は総所得金額等の30%となります。
関連記事:ふるさと納税は節税ではない?行うメリットや寄付の方法・返礼品の活用法を詳しく解説
定額減税を受けるためには手続きが必要になるケースもある
定額減税を受ける場合、必要に応じて手続きが必要になるケースもあります。例えば、個人事業主や自営業の方であれば、確定申告が必要です。
またアルバイト等の収入があり、親族の扶養に入っていない方も、勤務先で源泉徴収を引かれている場合には必要書類の提出が必要です。
自分がどれに該当しているか知りたい方、必要な手続き等について知りたい方は、この機会にぜひ小谷野税理士法人へご相談ください。