会社設立の際には、商号や所在地、事業の目的を記載する定款の作成が必須です。紙で作成する方法が主流でしたが、近年では電子定款の利用が増えています。収入印紙代が不要で費用を抑えられる利点がありますが、専用機材やソフトが必要です。この記事では、電子定款のメリット・デメリットや紙で作成する場合との違い、そして専用機材やソフトを準備せずに電子定款を作成する方法を解説します。
目次
電子定款のメリット
電子定款のメリットは、主に費用が節約できる点と手続きが簡単である点です。
以下にて、詳しく解説します。
紙の定款作成時に必要な印紙税4万円が不要
紙の定款を作成する際には、印紙税として4万円が必要です。紙の契約には、4万円の収入印紙を貼付しなければなりません。
しかし、電子定款を利用すれば印紙税は不要です。つまり、会社設立の初期費用のうち、4万円を節約できます。
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オンライン申請が可能
電子定款のもう一つのメリットは、オンラインでの申請が可能であることです。物理的な移動や時間的な制約を気にすることなく、自宅やオフィスからでも手続きを進められます。
具体的には、作成した電子定款をPDF形式に変換した後、電子署名をして、直接法務局に提出します。また、法務省・法務局所管にて認証もオンラインで行うことが可能です。
電子定款のデメリット
電子定款は、その便利さから多くの企業に利用されていますが、一方でデメリットも存在します。以下では、作成する際に注意すべき2つの点について解説します。
ソフトや機械の準備が必要(自分で作成する場合のみ)
電子定款を自分で作成する場合、必要なソフトウェアや機材の準備が必要です。具体的には、ワープロソフト、PDF変換ソフト、電子署名を行うためのマイナンバーカード、それを読み取るICカードリーダライタなどを用意しなければなりません。
手元にない場合は、必要なものの準備にコストと時間がかかりますが、会社設立代行サービスなどを利用する際には不要な場合があります。
申請後にデータの訂正や変更ができない
紙の定款であれば、窓口での指摘を受けて、その場で手書きにて訂正を加えることが可能です。しかし、電子定款では、申請後にデータを訂正・変更することはできません。
提出してから不備が見つかるケースもよく見られますが、修正したい場合は定款を再度作成し、電子署名を付与し直してから、オンライン申請を再度行う必要があります。そのため、申請前には情報の確認を徹底しなければなりません。
申請システムの利用時間に制限がある
電子定款の認証申請は、法務省の「登記・供託オンライン申請システム」を通じて行います。このシステムは、24時間365日利用可能なイメージがありますが、実際には利用時間が限定されており、平日の午前8時30分から午後9時までしか利用できません。
申請システムの時間制限は、自分で電子定款を作成する際には大きな制約です。また、窓口のようにすぐに質問できるわけではないため、操作に時間がかかる可能性も考えられるでしょう。また、会社設立の準備中に、平日の昼間という貴重な時間を使うことも考慮しなければなりません。
認証までオンラインで完結するわけではない
電子定款の認証は、インターネットを通じて行われますが、すべての手続きがオンラインで完結するわけではありません。認証後の電子定款は、公証役場に直接足を運んで受け取る必要があります。
また、公証役場に出向く際には、発起人全員の印鑑証明書や、電子署名をした発起人以外の委任状などが必要です。予約制のため、事前に電話やHPの予約フォームなどから予約を取りましょう。
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電子定款と紙の定款の違い
電子定款と紙の定款は、形式と手続きにおいてそれぞれ違いがあります。以下の表に、それぞれの特徴についてまとめます。
電子定款 | 紙の定款 | |
形式 | 電子データ(PDF) | 紙の文書 |
印紙税 | 不要 | 4万円の収入印紙を貼付 |
作成方法 | ワープロソフトで作成し、PDF変換 | 手書きまたはワープロソフトで作成し印刷 |
認証方法 | インターネットを通じて公証人に送信 | 公証役場で直接公証人に提出 |
認証後の受け取り | 公証役場に出向き、CD等で受け取る | 公証役場で直接受け取る |
必要な機材 | ICカードリーダー、PDF変換ソフト | なし |
電子定款はインターネットを通じて認証を行えるため、紙の定款に比べて手続きのスピードが速いというメリットがあります。ただし、機材を準備する必要がある上に、認証後のデータ受け取りのために公証役場に出向かなければなりません。
一方、紙の定款は手続きがシンプルで、特別な機材は不要です。しかし、公証人に直接提出し、認証を待たなければならないため、手続きに時間がかかるデメリットがあります。
電子契約書に印紙税が課税されない理由は?
電子契約書に印紙税が課税されない理由は、印紙税法の解釈によるものです。印紙税は「課税文書」に対して課税されます。課税文書とは、印紙税法により「紙」を示すため、紙で契約書を作成していない電子契約は不課税です。
また、印紙税法第2条の「別表第1の課税物件の欄に掲げる文書には、この法律により、印紙税を課する。」という記載を見ると、別表1には書面の文書のみが記載されており、電子文書である電子契約は印紙税が課されません。
さらに、印紙税法第44条によれば、「課税文書の「作成」とは、単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう。」とあります。つまり、電子契約は「紙」に何かを記載する行為ではないため、課税文書の「作成」に該当しないと解釈できます。
以上の理由から、電子契約書には印紙税が課税されないとされています。ただし、電子契約のデータを送信・交付した後、印刷したものを契約書の本書として契約した場合には印紙税が必要となるため注意が必要です。
ソフトや機械の準備をせずに電子定款を作成する方法
電子定款の作成は専門的な知識や機材が必要と思われがちですが、専門家に依頼したり、クラウドサービスを利用することで、手軽に作成することが可能です。ここでは、ソフトや機械を用意する必要なく、電子定款を作成する方法を紹介します。
司法書士に依頼する
司法書士は、電子定款の作成から認証までの手続きをサポートしてくれます。司法書士は法律の専門家であり、書類の準備に必要な法律知識を持っているため、適切に作成してくれるでしょう。
クラウドサービスを利用する
クラウドサービスを利用することで、ネット環境があれば自宅やオフィスからでも簡単に電子定款の作成から認証までの手続きを行うことが可能です。多くのクラウドサービスでは、案内に従って項目を入力するだけで作成できるシステムを採用していることが多い傾向にあります。また、ユーザーは別途でソフトや機材を準備する必要がありません。
ただし、クラウドサービスは一般的な手続きをサポートしますが、特殊なケースや複雑な事情に対する専門的なアドバイスは提供できない場合があります。不安な場合は専門家への依頼を検討しましょう。
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電子定款を自分で作成・認証する流れ
電子定款を自分で作成する場合には、一連の流れについて把握しておく必要があります。以下では、作成から認証後の手続きまで、具体的に解説します。
STEP1:定款を作成する
まずは定款の作成が必要です。記載する内容には、絶対的記載事項・相対的記載事項・任意的記載事項の3つがあります。
- 絶対的記載事項:会社の名称、目的、本店の所在地、資本金の額など
- 相対的記載事項:特定の状況や条件下で定款に記載する必要が出てくる事項
- 任意的記載事項:法律で特に記載が必須とされていないが、会社が自由に定められる事項
なお、日本公証人連合会では、小規模でシンプルな形態の会社をスピーディーに設立したいという起業者のニーズに応えるため、法務省の協力の下、2023年12月26日に「定款作成支援ツール」を公開しています。発起人が3名以下のみの場合に限られますが、必要事項を入力するだけで簡単に定款を作成できます。
STEP2:定款をPDFファイルに変換する
作成した定款は、法務省の「登記・供託オンライン申請システム」で送信するため、PDFファイルに変換する必要があります。WordやGoogleドキュメントなどの一般的な文書作成ツールでもPDFへの出力は可能ですが、電子定款ではPDF形式に変換するだけではなく、ファイルに電子署名を付与しなければならない点に注意が必要です。
電子署名をするには、電子署名機能を持つPDF変換ソフトの使用が必要です。例えば法務省のシステムとも互換性のあるAdobe Acrobatがおすすめです。
STEP3:電子署名を付与する
PDFに変換した定款に電子署名するには、マイナンバーカードへの電子証明書の記録が必要です。住民票のある市区町村役場にマイナンバーカードを持参し、窓口で申請することも可能ですが、マイナポータルアプリからスマホ用電子証明書の利用申請を開始すると便利でしょう。
電子証明書がマイナンバーカードに記録されたら、スマホから申請する場合はマイナンバーカード読み取り対応のスマートフォン、パソコンからの場合はICカードリーダライタを使ってマイナンバーカードを読み込みます。
そして、「登記・供託オンライン申請システム」の「PDF署名プラグイン」と公的個人認証サービスポータルサイトの「利用者クライアントソフト」をダウンロードし、PDF形式の定款に電子署名します。
ただし、電子定款の作成を専門家に依頼したり、クラウドサービスを利用する場合には、この手続きは不要です。
STEP4:オンラインで提出する
電子定款の提出は、「登記・供託オンライン申請システム」または、デジタル庁のマイナポータル「法人設立ワンストップサービス」から行います。自宅やオフィスからでも簡単に提出が可能です。
ただし、電子定款は一度申請すると、内容の不備があっても修正や変更ができません。そのため、申請前に役場へ作成した内容をメールやFAXなどで送付し、記載事項に問題がないかを確認してもらうことをおすすめします。
STEP5:公証役場に行くための予約をする
提出した電子定款は法務局に送信され、認証が行われます。認証が完了すると、本店所在地とする場所を管轄する公証役場に認証済みの定款を受け取りに行かなればなりません。そのうえ、予約制のため事前に電話で予約を取りましょう。
なお、認証時にテレビ電話を行う場合は「登記・供託オンライン申請システム」でデータが送信されるため、公証役場に出向く手間を省けます。
STEP6:必要なものを揃えて役場に行く
公証役場に出向いて定款を受け取る場合に必要となる持ち物は、定款の原本・発起人全員の印鑑登録証明書・実質的支配者となるべき者の申告書・発起人の実印・身分証明書・認証手数料(約3~5万円)などです。
電子定款の作成は専門家に代行依頼するのがおすすめ
電子定款の作成と認証は、一見すると紙の文書で行う場合より手軽に感じますが、初めての方にとっては複雑で時間がかかる作業となるかもしれません。そのため、手続きをスムーズに進めるためには、司法書士などの専門家に依頼することが有効です。
専門家に依頼することの主な利点は、電子定款の作成から申請までの手間を省ける点です。特に、事業の準備が忙しく、会社設立の手続きに時間を節約したい場合などは、専門家に依頼することで時間を有効に活用できるでしょう。
また、多くの専門家は数千円から1万円程度で依頼を受け付けています。自分で手続きを行う際の手間や時間、そして何よりも専門的な知識と経験を考慮すると、リーズナブルな金額と言えるでしょう。
さらに、自分で行う場合は、PDF変換ソフトやICカードリーダライタなどの準備や技術的な面倒を考える必要がありません。また、専門家は法律的な最新の要件を把握しているため、法的なトラブルが起こりにくい正確な定款を作成してくれます。
なお、定款作成・認証後に必要となる登記申請は司法書士の独占業務であり、会社設立後の税務相談や確定申告などの代行は、税理士の独占業務です。これらの専門家とのつながりを早い段階で持つことは、将来的に必要となる局面に備える上で有益です。
以上のように、電子定款の作成は専門家に依頼することで、時間と労力を節約しながら、スムーズに会社設立の手続きを進められます。自分で行うことに不安がある場合は、私たち「小谷野税理士法人」が全力でサポートしますので、ぜひお気軽にご相談ください。
電子定款についてよくある質問
ここからは、電子定款の作成時によくある質問とその答えについて解説します。
Q:電子定款に実印は必要ですか?
電子定款には実印の押印は必要ありません。電子定款作成時には、デジタル署名を用いて認証を行います。つまり、登記時に必要とされる代表者や設立者の署名をデジタル形式で行い、それによって文書の真正性を保証します。
実印を使う代わりに、電子証明書を使用して電子署名を行うことで、書類が改ざんされることなく安全に送信・保存が可能です。
Q:電子定款の認証はどの公証役場でもできる?
電子定款の認証は、どの公証役場でも行えるわけではありません。会社の本店の所在地を管轄する法務局(地方法務局)所属の公証人に依頼する必要があります。さらに、電子定款の認証は法務大臣から指定された指定公証人でなければなりません。
Q:電子定款で認証を受けた場合、登記に使用するにはどうする?
会社設立の際には、まず定款を作成し認証を受けた後、それをもとに法務局で会社登記を行います。紙の文書で作成した場合と同様、電子定款で認証を受けた場合でも、その定款を会社登記に使用することが可能です。
電子定款を印刷したものに公証人の認証文(謄本)を添付する方法と、認証を受けた電子定款が記録されたディスクをコピーして提出する方法のどちらかを選びます。
また、電子定款を作成した会社は、オンライン申請での設立登記が簡単にできます。電子データをアップロードするだけで申請ができ、紙の定款や印鑑証明書などの書類が不要となるためです。
以下の記事では、会社設立をオンライン申請で行う流れについて詳しく解説していますので、合わせて参考にしてください。
関連記事:【税理士監修】会社設立をオンライン申請するには?合同会社設立の方法やメリットについて
会社設立の際は電子定款を利用して手続きをスムーズに進めよう
会社設立の際、電子定款を利用することで手続きをスムーズに進められます。印紙代の4万円が節約できる点は、特に比較的規模の小さい会社においてメリットが大きいと言えるでしょう。
一方で、電子定款にはファイル変換ソフトやマイナンバーカードを読み取る機材の準備が必要であるといったデメリットも存在します。しかし、これらは司法書士などの専門家へ依頼する際やクラウドサービスを利用する場合には不要です。
また、電子定款の作成や管理には専門的な知識が必要であり、手続きは一見複雑に見えるかもしれません。そのため、不安がある場合は専門家に依頼することをおすすめします。初めて会社を設立する方や、電子定款以外にも不安なことがある方などは、私たち「小谷野税理士法人」が全力でサポートしますので、ぜひお気軽にご相談ください。