後継者を必要とする中小企業経営者にとって、事業承継とM&A、どちらを選択するかは避けて通れません。どちらを選ぶかは、企業の将来に大きく影響します。本記事では事業承継とM&Aの違いを解説し、それぞれのアプローチが中小企業にどう最適化されるかをご紹介します。経営している方は、自社の状況に合った選択に、ぜひお役立てください。
目次
事業継承とM&Aの違い
事業継承とM&A(Mergers & Acquisitions)についての主な違いは、以下の表でご確認ください。
項目 | 事業継承 | M&A |
定義 | 現経営者が後継者に事業を引き継ぐこと | 企業同士の合併や買収のこと |
プロセス | 現経営者が引退し、後継者が新たに経営を担う | ・買収企業が被買収企業の経営権を取得 ・被買収企業の経営陣が留まる場合もある |
対象 | 主に中小企業のオーナー経営者の交代時 | 大企業と中小企業の両方で行われるが、大企業による中小企業買収が多い |
主な目的 | ・円滑な経営移譲 ・事業の存続や発展を図る | 規模拡大や新規事業参入、シナジー効果の発揮など |
選択肢 | 親族内承継、従業員への承継、事業譲渡、M&A | 事業継承の選択肢としてM&Aがある (中小企業オーナーが後継者不在の際の手段として活用される場合がある) |
経営者は自社の状況に合わせて、最良の選択をする必要があります。違いについては以下の章にて具体的に記載していますので、ご覧ください。
関連記事:事業承継とは?中小企業の経営者が知っておくべき基礎知識と成功のポイントを解説!
定義の違い
事業継承とは、現経営者が後継者に自社の事業や経営権、資産、知的財産権などを引き継ぐことを指します。事業継承の目的は、円滑に経営を次世代に移譲することです。
一方のM&Aとは、企業同士の合併や買収のことを指します。M&Aの目的は通常、事業規模の拡大や新規事業の獲得などです。
プロセスの違い
事業継承では現経営者が引退し、後継者が新たに経営を担います。一方、M&Aでは買収企業が被買収企業の経営権を取得しますが、被買収企業の経営陣が留まる場合もあります。
対象の違い
事業継承は主に中小企業において、オーナー経営者の交代時に行うのが一般的です。一方、M&Aは大企業と中小企業の両方で行われますが、大企業による中小企業買収が多くを占めています。
目的の違い
事業継承の主な目的は円滑な経営移譲ですが、M&Aの目的は規模拡大や新規事業参入、シナジー効果の発揮などさまざまです。
ただし中小企業オーナーが後継者不在の際に、M&Aを事業継承の手段として活用することもあります。
自社の状況によっては、M&Aが事業継承の選択肢となり得ます。事業の存続や発展を図る観点からも、中小企業の経営者は自社の状況に合わせて事業継承かM&Aか、あるいはその他の方策かを検討し、最適な手段を選択することがポイントです。
経営者は長期的な視点から事業の永続性を念頭に置き、慎重に判断する必要があります。
関連記事:中小企業の事業継承|種類や活用できる支援施策まとめ
事業継承について
事業継承とは経営者の交代を円滑に行い、会社の継続的な発展を実現するプロセスです。適切な事業継承を行うことで経営資源を次世代に引き継ぎ、企業価値を維持・向上できます。
主なメリット
事業承継について、以下3つが主なメリットです。
- 会社の存続
- 売却・譲渡益の獲得
- 従業員の雇用確保
事業承継により経営者は会社の存続と売却益を両立でき、従業員の雇用も守れることが最大のメリットです。
主なデメリット
事業承継には次の3つの課題があります。
- 後継者の発掘と育成
- 資金面での負担
- 長期化のリスク
事業承継は、一般に廃業より長期間を要し、M&Aの場合も株式譲渡より事業譲渡の方が期間が長くなる傾向があります。承継方法により期間は変わるため、早期の準備が重要です。
以上のように、後継者の確保や資金調達、長期化によるリスクといった課題があります。これらの課題に対処するため、承継方法に応じた期間を見込み、早期からの綿密な準備が不可欠です。
M&Aと事業継承型M&Aについて
事業承継には大きく分けて2つのパターンがあります。従来は経営者が子どもなどの親族に事業を引き継ぐケースが一般的でした。
しかし近年では、経営者に子供がいない、または親族に事業を承継したくない場合に、第三者(親族外の組織や個人)に事業を売却または引き継ぐ第三者承継が増えています。第三者への承継の一形態が、事業承継型M&Aです。
M&Aによる事業継承の主なメリット
事業を円滑に継承するために、M&Aは有力な選択肢です。主なメリットは、以下をご覧ください。
- 幅広い後継者候補の中から選べる
- 創業者が利益を得られる
- 事業の買い手側としては事業の拡大が期待できる
- 事業承継の選択肢が広がる
- 売却時に収入を得られる可能性がある
- 税金負担が株式譲渡の場合は低くなる
- 企業の価値を維持できる
以上のように、M&Aによる事業承継には様々な利点があります。
M&Aによる事業継承の主なデメリット
一方で、M&Aによる事業承継にはデメリットも存在します。主な内容は以下の通りです。
- 後継者が現在の経営理念を引き継ぐとは限らない
- 役員・従業員が戸惑う可能性がある
- 時間とコストがかかる
- 経費で購入した備品の取り扱いが問題になる可能性
- 既存社員が離職してしまうリスクがある
- 完全に理想的な買い手が見つかるとは限らない
- これまでの経営ビジョンから逸脱する恐れがある
上記で挙げたデメリットも無視できません。デメリットを無視すると、経営理念の変質、従業員の不安、コストの増大など、様々な問題が生じかねないためです。
一方でメリットを過小評価すれば、事業承継のチャンスを逃し、事業の存続自体が危ぶまれるケースも考えられます。よって、メリット・デメリットを十分に検討することが必要です。
M&Aが増えている背景
M&Aが増加している主な要因は、以下の5点です。
- 少子高齢化による事業の継続や承継の困難
- オーナー企業経営者の高齢化に伴う事業承継の課題
- 政府によるM&A促進策によるM&A市場が活性化
- グローバル化に対応するため海外展開や新規事業への進出を目的としたM&Aの増加
- 経営資源の選択と集中が求められ非中核事業の売却や中核事業強化のため
上記のように、M&Aは事業存続や経営権移転、グローバル対応、事業再編など、企業経営上のさまざまな課題解決に有効な手段です。
関連記事:事業承継補助金・引き継ぎ補助金とは?対象経費や対象者について解説
事業継承型M&Aの流れ
事業承継型M&Aは、後継者不在などの理由で事業の存続が難しくなった企業の事業や経営資源を、別の企業に引き継ぐ手段として活用されています。
適切な準備と両社の利益が最大化される条件設定が、成功のカギといえるでしょう。事業継承型M&Aは以下の流れで進むことが一般的ですが、複雑なプロセスを経るため、専門家のサポートを受けながら進めると安心です。
1. 準備段階
事業承継やM&Aには、入念な準備が欠かせません。事業承継なのか企業価値向上なのか、新規事業参入なのかなど、M&Aの目的を明確にしましょう。
準備段階では、専門家と相談しながら現実的なM&A戦略を立案し、適切なアドバイザーを選定することが重要です。
2. 売却プロセス
準備が整えば、本格的な売却プロセスに入ります。
まずは売却企業の詳細な事業内容や財務状況を調査し、匿名の企業概要書(ノンネームシート)を作成しましょう。
続いてノンネームシートを基に、買収候補企業のリストアップ(ロングリスト)を行い、その後ショートリストに絞り込んでいきます。
ショートリスト入りした買収候補企業のトップと面談を重ね、最終的に合意が得られれば、基本合意書の締結に至ります。
3. デューデリジェンス
基本合意が交わされると、次は買収側によるデューデリジェンス(実態調査)を入念に行います。
財務や法務、営業、人事など、あらゆる側面から売却企業の実態が、買収側の専門家チームによって徹底的に調査されます。
4. 契約と統合
デューデリジェンスの結果を踏まえ、買収側と売却企業が最終契約に向けた作業を行います。デューデリジェンスで判明した事項を基に、買収側と売却企業の双方が最終合意契約書を締結。その後は契約内容の履行が求められ、対価の授受や経営権の移転などが実施されます。
さらに買収後は、両社の経営統合作業が待っています。従業員の配置転換や制度の統一化など多岐にわたる作業が控えており、中長期的な事業計画の策定(100日プランなど)も欠かせません。
事業継承型M&Aで成功するためのポイント
事業承継は企業にとって重要な局面です。以下を参考に適切に準備を行い、関係者の理解と同意を得ながら進めることが肝心です。
ポイント | 内容 |
株主へ理解を得ておく | 株主総会で承認を得るため、事前にM&Aの目的や必要性、効果などを丁寧に説明し、株主の疑問に答える。 |
事業承継のタイミングを慎重に検討する | 経営者の引退時期、後継者の準備状況、企業の業績や市場環境など、様々な要因を総合的に勘案し、最適なタイミングを見極める。 |
適切なタイミングを定める | 早すぎても遅すぎても、円滑な承継が困難になる可能性がある。 |
企業価値を上げる | 承継前に経営改善や事業再編など、企業価値向上に向けた取り組みを行う。これにより、承継時の企業評価額が上がり、より有利な条件での事業譲渡が期待できる。 |
政府や自治体の支援を検討する | 中小企業者の事業承継を支援する補助金、税制優遇措置、金融支援などを積極的に活用する。 |
事業承継ガイドラインによると、事業継承は5年から10年程度の長い準備期間を要しますが、上記のポイントを押さえることで、円滑な承継と企業の持続的発展につながります。
参考:第3節 事業承継を契機とした労働生産性の向上|中小企業庁
事業継承やM&Aに詳しい専門家へ相談する
事業継承やM&Aは複雑な手続きが多いため、専門的な知識が必要です。公認会計士や税理士など分野に精通した専門家に相談することで、スムーズな手続きと適切なアドバイスが得られます。
専門家のきめ細やかな対応と適切な助言を得ることで、円滑な事業承継の実現が期待できます。
小谷野税理士法人は事業承継やM&A業務に豊富な実績があり、高い専門性を有しています。事業継承を検討する際は、ぜひ「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。
関連記事:M&A・組織再編|小谷野会計グループ
関連記事:事業承継|小谷野会計グループ
事業継承型M&Aで良くある質問
事業の永続性を維持するための有力な選択肢の1つが、事業継承型M&Aです。ここでは、事業継承型M&Aに関する良くある質問をご紹介します。
個人事業をしていても事業承継型M&Aは可能か?
個人事業主でも事業継承型M&Aは可能です。事業継承型M&Aの対象となるのは、法人だけではなく、個人事業主の事業も含まれます。
重要なのは、事業が持続可能な構造になっているかどうか、または事業を引き継いだ後に発展させて大きく伸ばす余地があるかどうかです。
個人事業の場合、事業の特性や市場での位置づけや財務状況などを詳細に分析し、適切な継承戦略の計画をおすすめします。
事業継承を通じて、新しい経営者による革新や拡張が期待されることも多いため、慎重に準備しましょう。
自社が事業継承型M&Aできるかどうかの判断基準は?
自社が事業継承型M&Aできるかどうかを判断するには、主に以下の要素を多角的に評価・精査することが必要です。
- 事業の財務状況(損益や資金繰り)
- 市場競争力(市場シェア、競合比較)
- 経営陣と従業員の質(人材定着率)
- 事業の独自性と将来性(技術力)
- 直面する問題やリスク(コンプライアンスリスクなど)
また適切な継承者がいるかどうかも、欠かせないポイントです。廃業も選択肢ですが、事業継承M&Aで事業を存続させる方が、より価値を生み出せると期待できます。
事前の入念な評価と準備を行い、事業の将来ビジョンを共有できる継承者を見つけることが成功のカギとなるでしょう。
事業承継かM&Aか?中小企業経営者に最適な選択を
事業承継は、後継者への円滑な引き継ぎを目指すものですが、M&Aは新たな事業拡大や新市場開拓の起爆剤となり得ます。いずれの道を選んでも、企業の将来に大きな影響を及ぼすことは間違いありません。
事業継承かM&Aかといった経営者が直面する難しい決断においては、専門家のアドバイスを仰ぐことも検討しましょう。専門家の関与により、事業承継の過程を円滑化に役立ちます。
小谷野税理士法人では、長年の経験と確かな見識から、貴社にぴったりの解決策を提案できます。