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簡易課税制度とは?消費税の計算方法やメリット・デメリットまとめ

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最終更新日:

所得税 確定申告 3月15日

簡易課税制度は原則的な方法よりも簡単に消費税の納付額を算出できる制度です。中小事業者の納税事務負担に配慮した制度であり、消費税の計算および事務負担を大幅に軽減できます。しかし簡易課税制度を選択できるのは一定の要件を満たした事業者のみである上、注意するべきデメリットも存在します。今回は簡易課税制度について詳しく解説します。

簡易課税制度とは

消費税及び地方消費税の申告書

簡易課税制度は売上げに係る消費税額に一定のみなし仕入率を乗じた額を、仕入れに係る消費税額とみなして納付税額を計算する制度です。中小事業者の納税事務負担に配慮する観点から設けられています。

原則課税(原則的な計算方法)の場合、消費税の納付額は以下の式で計算します。

納付税額=売上げに係る消費税額-仕入れに係る消費税額

原則課税で計算をするには、売上税額と仕入税額の両方について正しい処理が必要です。これらの処理を行うには、課税取引や免税取引の区別や適用されている消費税率の確認等の多くの作業が発生します。

簡易課税制度の場合、納付税額の計算時に用いるのは売上税額のみになります。売上税額にみなし仕入率を乗じた額を仕入税額とするため、仕入税額が実際いくらであったかは関係ありません。そのため、日々の記帳や納付税額の計算等、納税事務の手間を大幅に軽減できます。

なお、売上税額から差し引く額を仕入控除税額、売上税額から仕入税額を引いて納税額を計算する仕組みを仕入税額控除といいます。

消費税の仕組み全般については以下の記事をご覧ください。

関連記事:【税理士監修】個人事業主の消費税の扱いは?インボイス制度の免税業者や免除されているケースなど

簡易課税制度を選択できる事業者の要件

男女の個人事業主

簡易課税制度は一定の要件を満たす事業者のみが選択できる制度です。以下より簡易課税制度の要件について詳しく解説します。

基準期間の課税売上高が5,000万円以下である

簡易課税制度を利用できるのは、基準期間の課税売上高が5,000万円以下である事業者です。

法人の場合、その事業年度の前々事業年度が基準期間に該当します。

例えば、当該事業年度が2023年4月から2024年3月までの場合、基準期間となるのは2021年4月から2022年3月までの期間です。

簡易課税制度選択届出書を出している

基準期間の課税売上高が5,000万円以下という要件を満たしていても、自動で簡易課税制度が適用されるわけではありません。簡易課税制度を利用するためには、所轄の税務署に簡易課税制度選択届出書を提出する必要があります。

簡易課税制度選択届出書の提出期日は、簡易課税制度の適用を受けようとする課税期間の初日の前日です。

例えば2023年4月1日を初日とする事業年度から適用を開始する場合、2023年3月31日までに届出書を提出する必要があります。

ただし、年度の途中で免税事業者から適格請求書発行事業者となった場合は、適格請求書発行事業者となった課税期間から簡易課税制度が適用されます。

経過措置は令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間に手続きをした場合に適用されます。

参考:国税庁公式サイト「No.6505 簡易課税制度-手続き」

簡易課税制度の特徴

以下では、簡易課税制度にみられる特徴を3つ紹介します。

計算が簡単

簡易課税制度の最大のメリットは、納付税額の計算方法が簡単な点です。

通常の課税方式である原則課税では、売上に係る消費税額から仕入に係る消費税額を引いて納付すべき消費税を計算します。そのため、売上に係る消費税額から仕入に係る消費税額の両方について適切な処理が必要です。税率や税区分ごとに税額を集計して納付税額を算出するのは大きな手間となります。

簡易課税制度では、売上税額に業種ごとに定められたみなし仕入率を乗じた金額を仕入控除税額とみなします。そのため、仕入れに係った消費税について個々の処理や集計が必要ありません。シンプルな計算式で納付税額を簡単に計算できる制度です。

節税できるケースがある

消費税の簡易課税制度を選択することで、原則課税で計算する場合よりも消費税の納付額を抑えられるケースがあります

簡易課税制度では、売上税額にみなし仕入率を乗じた金額を仕入控除税額とみなし、実際の仕入等に係る消費税額は計算に使いません。そのため、実際の仕入れに係る消費税額よりもみなし仕入率を乗じた額の方が大きい場合、原則課税で計算する場合よりも納付税額が小さくなります。

仕入れコストが低く仕入れに係る消費税額が小さい場合、簡易課税制度を選択した方が税額を抑えられる可能性が高いです。

事務負担の軽減

簡易課税制度の適用により、仕入取引にかかる消費税の管理が不要になります。そのため事務負担の軽減も期待できます。

中小企業や個人事業主は、経理作業に割けるリソースは多くはありません。そんな中で原則課税の納税事務を行うと、他の作業をする余裕がなくなる・過度な負担がかかりミスや漏れのリスクが上がる等の恐れがあります。

簡易課税制度は消費税の計算作業や税額だけでなく、事務負担を減らす上でも効果的な制度です。

簡易課税制度のデメリット

簡易課税制度を検討する際にはデメリットも理解しておく必要があります。

以下より簡易課税制度のデメリットを2つ紹介します。

税負担が増える場合がある

前章で「仕入れコストが低く仕入税額が小さい場合、簡易課税制度の方が原則課税よりも節税できる可能性が高い」と紹介しました。しかし簡易課税制度によって必ずしも節税できるとは限らず、かえって税負担が増える場合があります。

簡易課税制度によって税負担が増えるケースとして2つの例が挙げられます。

1つ目は仕入の割合が高い場合です。仕入が多い場合は、みなし仕入率ではなく実際の仕入税額に基づいた計算の方が有利になります。例えば、みなし仕入率が50%の業種で実際の仕入等の割合が70%を占める場合、原則課税の方が納付税額を抑えられます。

2つ目は大規模な設備投資がある場合です。大規模な設備投資をした年は仕入れ等に係る消費税額が高額になり、還付が発生するケースも多くみられます。しかし、簡易課税制度を適用すると設備投資にかかる消費税が反映されず、還付も起こり得ません。

簡易課税制度と原則課税制度のどちらの方が税負担を抑えられるか、事前にシミュレーションをするのが良いでしょう。

複数事業を営んでいる場合の事務的負担が増える

簡易課税制度の選択によって納税事務負担を軽減できると紹介しました。しかし複数事業を営んでいる企業の場合、簡易課税制度の適用によってかえって事務的負担が増える恐れがあります。

簡易課税制度では事業区分ごとに定められたみなし仕入率を使います。事業区分は全部で6種類に分かれており、事業が1つであれば該当する事業区分のみなし仕入率をそのまま売上税額に乗じるだけです。

しかし第1種事業から第6種事業までのうち、2種類以上の事業を営んでいる場合、それぞれの事業区分に応じたみなし仕入率を乗じる必要があります。したがって、以下の事務作業が必要となります。

  • 課税売上高を事業区分ごとに詳細に管理する
  • 事業区分に応じた適切なみなし仕入率を乗じる
  • 事業区分ごとに計算した金額を合計し仕入控除税額を算出する

必要な計算が多くなるため、簡易課税制度の特徴である「事務負担の軽減」というメリットを得られない恐れが大きいです。

参考:国税庁公式サイト「No.6505 簡易課税制度」

簡易課税制度における消費税の計算方法

パソコンの前で電卓を見る男性

簡易課税制度は本則課税と異なる方法で消費税の納付額を計算します。納付税額を正しく算出するために、簡易課税制度ならではの計算方法をしっかり確認しましょう。

納税する消費税の計算方法

簡易課税制度における納付税額の計算式は以下の通りです。

納付税額=売上に係る消費税額-売上に係る消費税額 × みなし仕入率

簡易課税制度における納付税額の計算方法を、流れで紹介すると以下のようになります。

  1. 売上に係る消費税額を計算する
  2. 「売上に係る消費税額 × みなし仕入率」で仕入控除税額を計算する
  3. 1から2を差し引いて納付税額を求める

みなし仕入率の適用方法

簡易課税制度では、売上税額にみなし仕入率を乗じた額を仕入控除税額とします。計算に用いるみなし仕入率は以下の通りです。

事業区分

該当する事業

みなし仕入率

第1種事業

卸売業

90%

第2種事業

小売業、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業)

80%

第3種事業

農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業および水道業

70%

第4種事業

第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業および第6種事業以外の事業

60%

第5種事業

運輸通信業、金融・保険業 、サービス業(飲食店業に該当する事業を除く)

50%

第6種事業

不動産業

40%

出典:国税庁公式サイト「No.6509 簡易課税制度の事業区分」

例えば売上に係る消費税額が100万円の飲食業(第4種事業)の場合、仕入控除税額は100万円×60%=60万円になります。

今回ご紹介したのは、第1種事業から第6種事業までのうち、1種類の事業だけを営む場合の計算方法です。2種類以上の事業を営む事業者の計算方法は国税庁公式サイトにてご確認ください。

参考:国税庁公式サイト「No.6505 簡易課税制度」

簡易課税制度の申告方法

消費税課税事業者選択届出書

消費税の申告方法についても、簡易課税と原則課税で大きく異なる点があります。消費税申告を正しく行うため、申告方法の違いについても確認が必要です。

申告書の書き方

消費税申告書には全部で4種類あります。

  • 【個人事業者用】消費税及び地方消費税の申告書(一般用)
  • 【法人用】消費税及び地方消費税の申告書(一般用)
  • 【個人事業者用】消費税及び地方消費税の申告書(簡易課税用)
  • 【法人用】消費税及び地方消費税の申告書(簡易課税用)

簡易課税制度を選択した事業者が使うのは「消費税及び地方消費税の申告書(簡易課税用)」の方です。また、個人事業主と法人でフォーマットが異なる点にもご注意ください。

消費税申告書作成の大まかな流れは以下の通りです。

  1. 課税標準額および売上に係る消費税額を計算する
  2. 仕入控除税額を計算する
  3. 1から2を差し引いて納付税額を計算する
  4. 消費税申告書の項目を埋めていく

細かなルールは使用する確定申告書の種類によって異なるため、国税庁公式サイトの案内をご確認ください。

参考:国税庁公式サイト「消費税及び地方消費税の申告書・添付書類等」

申告書の提出期限と方法

消費税申告書の提出期限は個人事業主と法人で以下のように異なります。

  • 個人事業主:課税期間の翌年の3月31日
  • 法人:課税期間の終了日の翌日から2ヶ月以内

※土日祝に被る場合は翌平日が期限となります。

なお、納期限も原則として申告書の提出期限と同じです。ただし個人事業主が振替納税を選択する場合、引き落としは申告期限の約1ヵ月後に行われます。

申告書の提出方法として以下の4種類が挙げられます。

  • e-Taxで提出する
  • 税務署の窓口に持参する
  • 税務署の時間外収受箱に投函する
  • 税務署に郵送する

e-Taxによる申告

消費税申告は書面の提出だけでなくe-Taxによる申告も可能です。

e-Taxは国税電子申告・納税システムのことで、オンラインで確定申告や納税手続きができます。e-Taxで申告するメリットとしては以下の3つが挙げられます。

  • 書面を用意する必要がない
  • 時間を気にせず24時間いつでも申告書の提出ができる
  • 税務署へ行く必要がない

なお、e-Taxを利用するには事前に利用者登録が必要です。e-Tax利用者登録の方法は個人と法人で異なるため、詳しくはe-Tax公式サイトの案内をご確認ください。

参考:e-Tax公式サイト「ご利用の流れ」

簡易課税制度を取りやめる場合

一度簡易課税を選択すると、要件を満たさなくなるか所定の手続きをしない限りは簡易課税制度が適用されたままになります。原則課税に切り替えたい場合は、簡易課税制度の取りやめの手続きが必要です。

取りやめの要件と手続き

前提として、簡易課税制度の取りやめができるのは、簡易課税制度の適用を受けてから2年を経過した場合のみです。簡易課税制度の適用が開始された課税期間、およびその翌年度は事業者の希望による取りやめはできません。

※課税売上高が5,000万円を超えた場合は、適用開始から2年以内でも自動的に原則課税に切り替わります。

簡易課税制度の適用を受けてから2年が経過している場合は「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出することで取りやめが可能です。その場合、課税期間が開始される前日までに、納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。例えば適用をやめようとする課税期間が令和8年4月1日から始まる場合、令和8年3月31日が届出書の提出期日です。

原則課税への変更

簡易課税から原則課税へ変更すると納付税額の計算方法や申告書の様式等、様々な点に違いが生じます。税額が大きく変わる可能性も高いでしょう。

簡易課税と原則課税にはそれぞれ異なる特徴やメリットデメリットがあります。そのため、どちらが良いか一概にはいえません。

簡易課税から原則課税への変更は容易にできますが、切り替えによって生じる変化は大きいです。原則課税への変更手続きをする前に、本当に原則課税へ切り替えるべきか十分に検討しましょう。

簡易課税制度の適用期間

簡易課税制度は、簡易課税制度選択届出書の提出日が属する期間の翌事業年度から適用されます。簡易課税制度の適用を受けたい場合は、事業年度の前年度中に届出の提出が必要です。

※例外として、免税事業者から適格請求書発行事業者となった場合は、適格請求書発行事業者となった課税期間から簡易課税制度の適用を受けられます。

参考:国税庁公式サイト「No.6505 簡易課税制度-手続き」

なお、簡易課税制度を選択した後2年間は原則課税への切り替えができません。

簡易課税制度と原則課税、どちらを選ぶか

どっちを選ぶか迷う女性のイメージ

簡易課税制度にはメリットとデメリットの両方があり、どちらが有利かはケースによって異なります。以下では簡易課税制度と原則課税のそれぞれが得になるケースの例を紹介します。どちらを選ぶかの判断基準として参考にしてください。

簡易課税が得になるケース

簡易課税が得になる可能性が高いケースとして2つの例が挙げられます。

1つ目は仕入れや経費が少ないケースです。仕入や経費が売上高に占める割合よりもみなし仕入率の方が大きい場合、簡易課税の方が納付税額を抑えられます。例えば小売業の場合、実際の仕入率がみなし仕入率の80%を下回る場合、簡易課税の方が有利になるでしょう。

2つ目は納税事務の軽減を優先させたいケースです。営む事業が1種類の場合、原則課税よりも簡易課税の方が納税事務の負担を圧倒的に抑えられます。

税金的な面では原則課税の方が有利でも、原則課税によって節税できる金額よりも納税事務負担の方が大きいケースもあるでしょう。税額の違いだけでなく、軽減できる負担の大きさで考えるのも選択肢の1つです。

原則課税が得になるケース

原則課税が得になる可能性が高いケースとして、3つの例が挙げられます。

1つ目は仕入れや経費が多いケースです。「簡易課税が得になるケース」で挙げた例とは反対に、実際の仕入率がみなし仕入率よりも大きい場合は、原則課税の方が税額を抑えられます。ただし原則課税の方が納税事務負担が重くなりやすいため、節税できる額と納税事務負担のバランスを考える必要があるでしょう。

2つ目は大規模な設備投資を行うケースです。大規模な設備投資を行う事業年度は支払う消費税額が大きくなり、原則課税であれば還付が発生する可能性が高くなります。

通常時の仕入率が低い場合、通常時は簡易課税を選択し、設備投資を行う課税期間は原則課税に切り替えるのも良いでしょう。ただし、簡易課税を選択してから2年間は原則課税への変更ができない点にご注意ください。

3つ目は2つ以上の事業を営むケースです。第1種事業から第6種事業までのうち2種類以上の事業を営む場合は、各事業区分に応じたみなし仕入率を乗じる必要があります。そのため、原則課税よりも簡易課税の方が納税事務負担が重くなる恐れがあるのです。

簡易課税と原則課税で迷ったら専門家に相談

消費税の簡易課税制度は、売上税額に一定のみなし仕入率を乗じた額を仕入控除税額とする制度です。納税額の計算に実際の仕入税額を使う必要がないため、納税事務負担を軽減できます。また、みなし仕入率を使うことで税額を抑えられるケースもあります。

ただし、すべての事業者にとって簡易課税制度が有利とは限りません。簡易課税によって税額が増えるケースや、納税事務負担が重くなる恐れもあります。

簡易課税と原則課税の違いを押さえ、それぞれを適用した場合のシミュレーションをした上で、自社に適した方法を選ぶことが大切です。

また、簡易課税について疑問や不安がある場合は専門家である税理士への相談も検討しましょう。

簡易課税や消費税についてのお困りごとは、ぜひ小谷野税理士法人へご相談ください。

この記事の監修者
池田 大吾小谷野税理士法人
カルフォルニア大学アーバイン校卒業、大手生命保険会社勤務を経て2007年小谷野税理士法人に入社。
会計、税務、経理実務の支援業務から各種補助金の相談・申請業務、企業及び個人のリスクマネジメントのコンサルタント業務を行う。
銀行はじめ多くの金融機関、会計・税務・財務業界に多くの人脈を持ち、企業財務のマルチアドバイザーとして活躍。

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