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2020年12月30日 / 投稿者:Iwasaki 今年のこんな感じ。

 

 

少し前ですけど、今年の漢字が決まりましたね。
今年は「密」でした。うそでしょ、芸がない。
そもそも「密」はみんなで避けてきたものなんだから、今年の象徴になったらおかしいでしょうに。だったらせめて「染」でしょうが、と。

 

実は毎年今年の漢字の記事書いています。どこにも届かないですけどね。
私の今年はなにかなぁ、そうだなぁ。

 

・・・。

 

私は毎朝最寄り駅の当駅始発の電車で、確実に座って40分程度の時間をかけて出勤している。通勤の満員電車に押しつぶされるストレスを伴わないのは精神衛生的に考えてとてもいい。この40分程度の時間は、一日の中でも有意義な時間である、と思える。

 

同じ時間の電車を使っていると、同じ人と乗り合わせる機会も増える。
かくいう私も同じ時間の同じ車両でいつも一緒に乗る背格好40代くらいの男性のことを覚えてしまっている。彼のことを認識したのは今年の春ごろだったが、実際にはきっともっと前から彼とは乗り合わせていたのだと思う。
どうして春ごろから彼のことを急に認識したのか。それは彼がマスクをしていないからだ。

 

春先の緊急事態宣言で盛り上がらなかったあのころから、彼は一度としてマスクをしていない。
ほぼ毎朝乗り合わせているのだから、カバンに忍ばせたマスクを取り出す機会くらいあってもよさそうなのものだが、それも一度も見かけたことはない。在宅要請による自粛期間もなんやかんやで出勤していた私は、そのころにも彼と電車に乗り合わせていたが、あの特殊な状況下においても彼は一度もマスクをしていなかった。
うまく表現できないけれど、彼は強い。特殊な状況とはいえ、日々彼に向けられる奇異の視線は強くて冷たい。痛ましいと言ってもいい。多くの人が渋々受け入れているマスクをつけるという行いについて、なんのポリシーかマスクをしない確たる自分というものをもっている。私はというと、しっかりマスクをしている。だからといってマスクをしていない彼を糾弾するようなつもりはない。おそらく大多数の人が面倒ごとには巻き込まれたくないし、当事者にはなりたくない。だから乗り合わせる多くの乗客は彼を一度見て、それで終わり。
もちろん、静かに席を離れる人もいたかもしれないが、そういう人の反応もけして特別なことではないので、あまり記憶には残っていない。

 

緊急事態宣言も解除された夏のはじめ、彼の座る席の前に立った女性が彼に向って、”どうしてマスクをしていないのか”と金切り声を上げたことがある。その時も彼は”自分は座っていて貴女はわざわざ自分の前に立っただけなのだから嫌ならほかの場所に行けばどうですか”と、全く取り合おうともしなかった。女性はそういう問題じゃないと騒ぎ立てたが、私をはじめ周囲の人間が追随することもなかったため、黙ってその場をあとにした。場合によっては大きなもめごとになってもおかしくないシーンだった。
私は内心ドキドキしながらその様子を眺めていたが、加勢する気にも擁護する気にもならなかったので黙っていた。

 

残暑が厳しかった秋のはじめ、深く寝入っていた彼がいつも降りる駅で降りようとしないので起こしてあげたことがある。それからは、毎朝軽く会釈をする程度には互いを認識するようになった。
このころから、少なくとも彼がいる間は大丈夫だと私は思い始めていた。彼がマスクをすることなく生活を続けている間は、私も大丈夫なのだという無理筋な理論。
私の彼に対する興味はもはや狂気じみていて、彼の心を支えているなにかが折られる瞬間を私は見たくない。絶対にマスクをつけないでいてほしいとさえ思っている。

 

寒さが厳しくなってきた最近も彼は相変わらずマスクをしていない。
マスクをしていない彼を見て、今日も私は胸をなでおろす。まだ大丈夫。
その反面、彼に何が起きた場合に彼の心を支える何かが折れるのか、ということも私は気になり始めている。
もし、彼がある朝マスクをして駅のホームに立っている姿を見かけたとき、私はきっと彼に話しかけるのだろうと思う。

 

 

”どうしてあなたはマスクをしているんですか”

 

 

と。

 

・・・。

 

 


 

 

 

 

 

 

 

そうですね、私の今年の漢字は「虚」ですかね、むなしい感じです。
新年は4日からですかね。

 

 

ではまた、よいお年を。

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