中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)は、独立行政法人中小企業基盤整備機構によって運営されている制度であり、中小企業等を連鎖倒産などの危機から保護することを目的としています。万が一の備えとして加入を検討したい制度ですが、中小企業倒産防止共済の利用は節税にはならないのでしょうか。今回は、中小企業倒産防止共済に関する基礎知識や、節税につながるのかといった論点について詳しく解説していきます。
目次
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)とは
加入資格はどのようなものか
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)とは、中小企業倒産防止共済法にもとづいて制定された国の救済制度です。取引先などが倒産したことによって、中小企業等の経営難や連鎖倒産を防止することが目的であり、有事の際には共済金の借り入れが可能となります。
中小企業倒産防止共済への加入資格は1年以上の事業実績があれば個人・法人を問われませんが、以下の表のうち「常勤の従業員数」か「資本金または出資の総額」のいずれかを満たしている必要があります。
業種 | 資本金または出資の総額 | 常勤の従業員数 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
旅館業 | 5,000万円以下 | 200人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
ゴム製品製造業(自動車または航空機用タイヤおよびチューブ製造業ならびに工業用ベルト製造業を除く) | 3億円以下 | 900人以下 |
ソフトウェア業・情報処理サービス業 | 3億円以下 | 300人以下 |
製造業・建設業・運輸業・その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
ただし、医療法人・農事組合法人・NPO法人・森林組合・農業協同組合・外国法人などは、中小企業倒産防止共済の加入対象外となっています。また、所得税や住民税などを滞納している方や、事業の経理内容が不透明な事業者は加入することができません。
掛金の上限はあるか
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)への掛金は、月額5,000円~20万円までの範囲内で、加入者が自由に設定することが可能です(5,000円単位で設定可能)。また、拠出した掛金の総額として、最大800万円まで積み立てることができます。
なお、掛金は申込時に指定した銀行口座から自動で引き落とされ、上限の800万円に達した時点で口座引き落としが自動で停止されます。その際には、満額・満期であることを通知する「掛金積み立て限度のお知らせ」が送付されるという仕組みです。
掛金の変更は可能か
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)は「掛金月額変更申込書」を毎月5日までに提出することによって、当月内であったとしても掛金の増額・減額変更手続きをすることが可能です。例えば毎月10万円の掛金を支払っていた場合に、資金繰りが厳しくなったとします。そこで、資金繰りを改善するために掛金を1万円に減額する書類を4月2日に提出したとしましょう。口座引き落とし日は毎月27日となっているため、毎月の支払金額は以下のとおり変更されます。
- 3月27日引き落とし分:10万円
- 4月27日引き落とし分:1万円
- 5月27日引き落とし分:1万円
このように毎月5日までに変更申込書を提出することで、その月の引き落とし分から掛金を変更することが可能です。中小企業倒産防止共済は柔軟な対応をしているため、掛金が資金繰りを圧迫する可能性は低いといえるでしょう。
なお、掛金を減額するには「急な出費が必要になった場合」や「業績が悪化した場合」など一定の条件が設定されていますが、特に審査があるというわけではありません。
掛金の払い止めはあるか
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)の掛金は月額5,000円まで減額することが可能ですが、それでも資金繰りが厳しいという場合には掛金の払い止めをすることが可能です。ただし、掛金の払い止めをするには「掛金の総額が月額掛金の40倍に達していること」という要件を満たさなければなりません。毎月の掛金が5,000円であれば、掛金の総額が20万に達している必要があります。
つまり、中小企業倒産防止共済に加入した場合は、最低でも40か月間は掛金を支払う必要があるということです。
借入条件はどのようなものか
- 自社都合で資金を早急に用意する必要が出た場合
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)では、自社都合によって資金を早急に用意する必要が出た場合に「一時貸付金」の借り入れが可能です。この借入金は「無担保・無保証人」で利用することができ、借入限度額は掛金を支払った月数によって変動します。
掛金納付月数 | 借入限度額 |
1か月~11か月 | 0円 |
12か月~23か月 | 掛金総額×75%×95% |
24か月~29か月 | 掛金総額×80%×95% |
30か月~35か月 | 掛金総額×85%×95% |
36か月~39か月 | 掛金総額×90%×95% |
40か月以上 | 掛金総額×95%×95% |
掛金総額が800万円の場合 | 800万円×100%×95%(760万円) |
例えば、掛金総額が200万円で掛金納付月数が20か月の場合、借入限度額は「200万円×75%×95%=142万5,000円」ということになります。取引先が倒産した場合でなくとも、解約手当金の最大95%までを借り入れられるため、中小企業のリスクヘッジとして有効といえるでしょう。
- 取引先が倒産してしまった場合
取引先が倒産してしまったことで売掛金が回収不可能となり、経営が困難になったり連鎖倒産の危機に陥ったりした場合には「共済金」の借り入れが可能です。共済金は、倒産した取引先との取引内容が確認でき次第、「無担保・無保証人」ですぐに借り入れができます。なお、借入限度額は以下のいずれか少ない額となっています。
- 掛金総額の10倍(最大8,000万円)
- 取引先の倒産による被害額
例えば、掛金総額が500万円だった場合には最大5,000万円までの借り入れが可能です。また、中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)における「倒産」の定義は、取引先が以下いずれかの状況に陥った場合のことを指します。
- 法的整理
- 私的整理
- 取引停止処分
- でんさいネットの取引停止処分
- 災害による不渡り
- 災害によるでんさいの支払い不能
- 特定非常災害による支払い不能
そのため「夜逃げ」などによる被害は共済金の貸付を行うための「倒産」に該当しません。
貸付利率はどうなっているか
- 自社都合で資金を早急に用意する必要が出た場合
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)の貸付利率は、貸付を行う状況によって異なります。まず、自社都合で資金を早急に用意する必要が出たことで一時貸付金を借り入れた場合、現時点での貸付利率は「年0.9%」です。ただし、一時貸付金の貸付利率は金融情勢によって変動します。
また、返済方法は借入期間の最終支払い期日に一括で返済する「期限一括償還」となっています。この返済期日を過ぎてしまうと「年14.6%」の違約金が発生してしまうため注意しましょう。
- 取引先が倒産してしまった場合
取引先が倒産してしまったことで共済金を借り入れる場合は「無利子」での借り入れが可能です。ただし、借り入れ後は「共済金の借入額の1/10に相当する額」が、払い込んだ掛金から控除されるため、実質的には利息負担があるともいえます。
また、返済期間は6か月間の据置期間終了後、返済期間に応じて均等分割で返済していきます。返済期日を過ぎてしまうと「年14.6%」の違約金が発生するため注意しましょう。なお、以下のとおり借入金額によって返済期間が異なります。
借入金額 | 返済期間 |
5,000万円未満 | 5年(54か月均等分割) |
5,000万円~6,500万円未満 | 6年(66か月均等分割) |
6,500万円~8,000万円 | 7年(78か月均等分割) |
解約手当金はあるか
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)を解約した場合、自社都合の理由での解約だったとしても、掛金を「40か月以上」支払っている場合には掛金の全額が返還されます。ただし、解約理由は3種類あり、どの理由で解約するかによって解約手当金の内容に若干の違いがあることを覚えておきましょう。
- 任意解約
契約者の自己都合によって解約すること。
- 機構解約
貸付の不正行為または12か月以上の掛金滞納があった場合に、機構側によって実行される解約。
- みなし解約
個人事業主の死亡や法人の分割・解散などがあった場合は解約とみなされる。
中小企業倒産防止共済の節税方法とは
個人の場合
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)を個人が利用する場合、掛金の全額を必要経費として計上することが可能です。個人の所得税率は5~45%の7段階となっていますが、所得税額が高い場合に掛金を多めに支払うことで、所得控除を受けられます。その結果、課税所得が減少し、所得税の節税につながるという仕組みです。
また、親族の医療費控除が多い年などに解約することで、掛金の返還を受けながら解約手当金に課せられる税金が節税できるというメリットもあります。
法人の場合
業績が黒字の場合には掛金全額を損金算入することで、法人税を節税することが可能です。一方、赤字の場合には解約手当金を受け取ることによって、負担する税額を抑えることもできます。また、多額の損失が発生した場合や退職者が出た場合など、急に大きな支出が必要になった際には解約手当金を受け取ることで資金繰りを改善することもできるでしょう。
中小企業倒産防止共済で節税する際に気をつけるべきポイント
積立を開始するタイミングを見誤らないことが大事
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)は、解約のタイミングだけではなく、掛金の積立を開始するタイミングを見誤らないことが重要です。例えば、現在取り組んでいる事業に大きな成長が見込まれ、利益が上昇すると予想される会計期間がある場合、その期間の最初から積立を開始することをおすすめします。また、掛金を前納しておくことで損金算入できるため、節税効果も期待できるでしょう。
40か月未満で解約すると掛金100%は戻らない
上述のとおり、中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)の掛金が全額返還されるには、40か月以上掛金を支払っている必要があります。つまり、契約から40か月未満で解約してしまうと、支払った掛金の全額は返還されないということです。さらに、契約から12か月以内に解約すると、全額返還されないどころか解約手当金を受け取ることすらできません。契約を検討している方は、早期解約にならないようキャッシュフローを確認しておきましょう。
貸付制度の対象にならない場合がある
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)は、取引先が倒産して売掛金の回収が困難となった場合など、経営難の状態にある事業者にとって心強い味方となる制度です。しかし、業種や事業内容の性質上、貸付の対象外となってしまうケースがあります。例えば、不動産業や金融業、BtoCのビジネスを行う事業者などが考えられるでしょう。契約しても、いざという時に貸付を受けられない場合があるため、貸付の要件をしっかり確認しておきましょう。
解約手当金は益金になる
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)の掛金は、その全額を損金算入することが可能です。しかし、解約した際に受け取る解約手当金は収益としてみなされるため、所得税や法人税の課税対象となってしまいます。つまり、掛金を支払うほど後から受け取る解約手当金も増加し、益金が大きくなることで税金の負担が増えてしまうのです。
中小企業倒産防止共済を利用して上手に節税するためには、業績が好調な年に掛金を多く支払って損金算入し、逆に赤字の年に解約するようタイミングを調整する必要があります。黒字の年に解約手当金が上乗せされ、税金の負担が大きくならないよう注意しましょう。
中小企業倒産防止共済と小規模企業共済の違いとは
中小企業倒産防止共済は、基本的に「法人」が契約者となります(個人事業主の場合は個人が契約者)。一方、小規模企業共済の契約者は「個人」です。両者とも掛金の全額が控除対象となりますが、中小企業倒産防止共済は「法人税」で、小規模企業共済は「所得税」の節税につながるという違いがあります。
また、解約の際に受け取る解約手当金は、中小企業倒産防止共済の場合は「法人の収益」となり、小規模企業共済の場合は「個人の所得」になるという点も異なります。それぞれの制度で活用方法に違いがあるため、特性を理解して上手く活用していきましょう。
中小企業倒産防止共済を効果的に利用したい場合は専門家に相談も検討
今回は、中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)に関する基礎知識や、利用することによって得られる節税効果などについてご紹介してきました。中小企業倒産防止共済は、連鎖倒産のリスクヘッジを行いつつ、節税も可能という契約者にとって心強い制度です。しかし、節税を意識するのであれば、掛金を支払う時期や解約のタイミングをしっかりと見極める必要があります。中小企業倒産防止共済を効果的に利用したいという方は、専門家への相談も検討してみてください。