税務調査は、売上規模の大きな会社に対し実施するイメージがあるかもしれませんが、個人も税務調査の対象になります。個人への税務調査に関して「売上がいくらから税務調査の対象なのか」「一体どこまで調べるのか」といった点について、ご存知ないという方も多いことでしょう。そこで、今回は個人に対する税務調査の基礎知識や、対象となる確率や基準などについて詳しく解説していきます。
目次
税務調査とは
任意調査
税務調査とは、適正に税務申告を行えているかどうかを税務署が納税者の自宅や勤務先を訪問して調査することです。税務調査は「任意調査」と「強制調査」があり、巨額の脱税などの疑いがない限り任意調査が行われます。
任意調査が実施される場合、原則として税務署から任意調査を行う旨の事前連絡が入ります。また、「任意」という文言が含まれてはいますが、税務署の職員には質問検査権が付与されているため、正当な理由なく調査に応じなかったり、虚偽の申告をしたりした場合には罰則の対象となってしまいます。
そのため、任意調査の対象となった場合には誠実な対応を心掛け、質問に対して的確に答えられるように準備しておきましょう。
強制調査
強制調査とは、国税局査察部(通称マルサ)によって強制的に行われる税務調査のことです。脱税額が1億円を超える案件や、悪質な隠ぺい工作が疑われる案件に対して実施され、裁判所の令状をもって行われます。当然、強制調査を拒否することはできず、調査の妨害をするといった行為は処罰の対象です。
裁判所の令状を取得することから、強制調査が行われるまでの過程でかなりの裏取りがされており、調査対象となった場合には観念するしかありません。
個人を対象とした税務調査の種類とは
所得税などの税務調査
個人事業主やフリーランスに対して税務調査が実施される場合、会社の場合と同様に売上や必要経費などが調査対象です。
また、個人事業主やフリーランスは自宅をオフィスとして使用しているケースも多いため、「計上されているものが事業上の経費か」といった点について細かく確認されます。個人事業主やフリーランスが確定申告をする際は、経費の内容についてしっかり説明できるよう準備しておきましょう。
富裕層への税務調査
富裕層に対する税務調査も実施されており、調査件数や追徴課税額は年々増加傾向にあります。富裕層が税務調査の対象となる要因として増えているのが、株式等の譲渡所得に関する調査です。株式等はインターネット取引が主流になりつつあるため、申告忘れや誤った申告をしてしまう方が増加しているともいわれています。なかでも、FX取引に関する1件当たりの申告漏れ額が高額となっているため注意しましょう。
相続税の税務調査
相続財産の額が一定額を超えた場合、相続税の申告を行わなければなりません。そして、相続税の申告内容に不備が見つかった場合も税務調査の対象となります。相続税の税務調査は申告後すぐに実施されるわけではなく、申告してから1~2年後に行われることが多くなっています。
また、タンス預金の有無や、過去に不動産を売却していた場合には売却代金がどこに残っているのかといった点について、細かく確認される可能性が高いです。また、被相続人の親族関係や交友関係、趣味などについても確認される場合があります。
個人を対象とした税務調査はいくらから来る?
税務調査は、申告内容に誤りがないか確認し、適正な額が納税できているか調査することが目的です。そのため、一般的には納税額が大きいほど税務調査の対象になりやすいといえます。具体的な基準として、課税対象額が「1,000万円」を超えると税務調査の対象になりやすいといわれていますが、税務調査の対象となる基準が明確に定められているわけではありません。確定申告の必要がある個人であれば誰もが税務調査の対象となり得ます。申告はきちんと行いましょう。
個人を対象とした税務調査はいつ来る?確率はどれくらい?
税務調査前には事前連絡がある
任意調査が実施される場合、基本的には税務署の担当職員から事前連絡が入ります。税務調査を実施する日程も調整することができるため、書類やデータの整理などを行いたい場合には数日から1週間程度の準備期間を設けることが可能です。悪質な隠ぺい工作などを疑われない限り、税務署の職員が自宅をいきなり訪問して、抜き打ちで調査を開始するということはありません。
100人に1人程度の割合で調査対象になる
国税庁が公表している2018年までのデータを参照すると、確定申告を行った人の合計は約640万人となっていました。そのうち、税務調査が実施された件数は約7万件となっているため、約100人に1人の割合で税務調査の対象になっていることがわかります。年度によって割合は異なるものの、税務調査の対象となる可能性は決して低くないといえるでしょう。
個人事業主が税務調査を受ける確率はおよそ1%
個人事業主やフリーランスが税務調査の対象となる確率は、およそ1%といわれています。さらに、コロナ禍の影響によって税務調査の実施件数は減少しています。実際に、令和1事務年度と令和2事務年度に国税庁が行った税務調査の件数は以下のとおりです。
| 令和1事務年度 | 令和2事務年度 |
簡易接触調査 | 37万2,000件 | 47万8,000件 |
着眼調査 | 1万7,000件 | 5,000件 |
特別調査・一般調査 | 4万3,000件 | 1万9,000件 |
書面や電話で連絡を行う簡易接触調査の件数は増加していますが、そのほかの税務調査は減少していることがわかります。ただし、高額かつ悪質なケースを優先して調査したことから、1件当たりの追徴課税額は増加していることが特徴です。
大きな売上を急に出した場合は来やすい
上述のとおり、納税額が大きいほど税務調査の対象になりやすくなります。なかでも、大きな売上が急に発生した場合には注意が必要です。計上している経費の内容は適切か、所得隠しが行われていないかといった調査を受けやすくなることが予想されます。また、売上が急増しているにも関わらず消費税の還付申告をしている方や、消費税の課税事業者となっている方も注意しましょう。
複数事業を行っている場合は来やすい
本業とは別に複数の事業を行っており、現金取引や免税取引が多く含まれている場合は税務調査の対象になりやすいといえるでしょう。収入を得るルートが複雑な場合、所得隠しを疑われる可能性が高くなってしまいます。また、免税取引が多く含まれる場合、二重計上や申告漏れなどがないか細かくチェックされる可能性が高いです。このような「所得隠しをしやすい」と税務署に判断されそうなケースは税務調査の対象となる確率が高いため、注意する必要があります。
個人を対象とした税務調査はどこまで・何を調べられる?
預金を調べられる
個人を対象とした税務調査において、最も問題が発生しやすいのが「名義預金」です。口座名義人と実際にお金を預けている人が異なる預金のことを指しますが、納税者本人の預金を親族の名義に変えていないかという点が調査されます。配偶者や子どもの名義であったとしても、きちんと贈与税を申告したうえで贈与していれば問題ありませんが、実際は納税者が使用・管理している場合に問題となります。
貸金庫などもチェックされる
金融機関などの貸金庫を利用している場合、貸金庫の中身も調査対象です。貸金庫に保管されている通帳や不動産の権利書などを取りに行く場合、税務調査官が同行する場合があります。
建物・敷地の実測面積なども調査される
相続財産に土地が含まれる場合、相続税の評価価額は実測面積で評価されます。そして、ごく稀に登記簿上の地積よりも実測面積のほうが大きい場合があるのです。このようなケースにおいて登記簿上の地積をもとに申告してしまうと、納付すべき税額に誤りが生じてしまいます。
また、建物を建築する際には「建築確認申請書」を市町村に提出する必要があるのですが、土地や建物の実測面積が記載されています。税務署は事前に建築確認申請書を確認しているため、実測面積を誤魔化すことはできません。
税務調査で目をつけられやすい個人の特徴とは
個人事業主を開業して3年以上経過している
明確な基準があるわけではありませんが、税務調査で目をつけられやすい個人にはいくつかの特徴があります。まず、開業して3年以上経過している個人事業主は、税務調査の対象となる可能性が高まるでしょう。開業して数年が経過したことで間違った会計処理が発生していないかといった理由や、最低でも3年前までは遡って税務調査が実施できるという点も理由として考えられます。
ただし、3年が経過する前に税務調査の対象となる場合もあれば、10年以上経過しているのに調査されない場合もあります。いずれにせよ、個人が開業してから3年が経過した時点で、あらためて過去の資料を確認することをおすすめします。
売上高が1,000万円を超えている
売上高が1,000万円を超えた場合、個人事業主やフリーランスも消費税の納税義務が発生します。所得税に加えて消費税についても調査対象となるため、税務調査が実施される可能性が高くなるといえるでしょう。また、1,000万円の売上まで僅かに足りない場合、本来は消費税の課税事業者なのではないかという観点から調査対象となる場合があります。
売上に不審な動きが見られる
売上を過少に申告しているなど、不審な動きが見られる場合には税務調査が実施される可能性があります。「売上を過少に申告してもバレない」と思う方がいるかもしれませんが、取引先が年間の取引内容をまとめた「支払調書」を税務署に提出しているため、自分の売上は税務署も把握しているのです。売上の過少申告は、すぐに税務署に見つかってしまう可能性が高いため、きちんと申告するようにしましょう。
経費に不審な点がある
計上している経費に不審な点があることも、税務調査で目をつけられやすい個人の特徴です。特に、個人事業主やフリーランスは仕事とプライベートの境界が曖昧になりがちなため、事業とは関係のない経費が計上されていないかチェックされます。必要経費なのかプライベートの出費なのか判断が難しく、高額な場合は特に注意しましょう。
そもそも税務申告を行っていない
確定申告が必要であるにも関わらず、申告を行っていない個人は税務調査の対象となる可能性が高いでしょう。「そもそも申告をしなければ、税務調査の対象にはならない」と考える方がいるかもしれませんが、これは大変危険な考え方です。上述のとおり、自分が確定申告をしていなくても取引先などの情報から売上高などは把握されています。これを「反面調査」といいますが、税務署は調査を実施するための資料をほとんど持っていると考えたほうがいいでしょう。
個人がやるべき税務調査対策とは
領収書などの書類・資料を整理しておく
確定申告を行った個人は、必要経費として計上した領収書などの書類を7年間保存しておく義務があります。個人の場合は、プライベートな支出に関連した「家事関連費」も、事業に関する領収書とともに保管しておきましょう。
税務調査が来た場合は誠実かつ毅然と対応する
税務調査の対象といわれると「脱税などの違法行為が疑われている」と思われる方も多いかもしれません。しかし、税務調査は必ずしも申告内容に不審な点がある方だけを対象としているわけではなく、毎回適正に申告を行っている方も対象になる場合があるのです。そのため、調査によって不備がないことを確認できれば、何事もなく税務調査は終了することになります。税務調査の対象となった場合は誠実な対応を心掛け、質問には毅然とした態度で対応するようにしましょう。
税理士に相談を検討する
税務調査の対象となった場合、税務の知識がない方が適切な対応をすることは、ハードルが高いといえます。そこで、税理士に相談することで税務調査当日の立会いを依頼することが可能です。また、税務調査のために準備すべき書類なども教えてもらうことができます。税務のプロである税理士に対応を依頼すれば、税務調査当日を安心して迎えることができるでしょう。
個人の税務調査について対策をしっかりとしたい場合は専門家に相談を検討
今回は、個人に対して税務調査が実施される売上はいくらからなのか、対象となるか確率や調査内容なども踏まえてご紹介してきました。税務調査の対象となる一般的な基準や特徴はありますが、明確な数字が定められているわけはありません。そのため、いつ税務調査の対象となっても問題ないように、日頃から適切な会計処理を行うことが重要です。個人への税務調査対策をしっかり行っていきたいと考えている方は、専門家への相談も検討してみましょう。