老後の生活を豊かにするためには、早めに資産形成に取り組む必要があります。そこで注目されているのが、老後に受け取る年金を自ら形成していく「確定拠出年金」です。確定拠出年金は老後の資金づくりとして有効ですが、節税にならないという話を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、確定拠出年金は本当に節税にならないのかについて、詳しく解説していきます。
目次
確定拠出年金とは
そもそも確定拠出年金とは何?
確定拠出年金とは、国民年金や厚生年金などの公的年金に加えて、自らが掛金を拠出することによって将来受け取れる年金を増やすための私的年金です。運用方法を自分で選択して一定額の掛金を毎月拠出し、その運用成果によって将来受け取る年金額が増減します。運用先は定期預金・投資信託・保険商品の3種類からひとつ、または2種類以上を組み合わせて選択することができますが、運用途中でも変更することが可能です。
企業型確定拠出年金(企業型DC)とは
企業型確定拠出年金(企業型DC)とは、企業側が毎月の掛金を拠出し、加入者である従業員が年金資産の運用を行う制度です。企業型確定拠出年金には、自動的に従業員が加入するタイプと、企業型確定拠出年金に加入するか選択できる「選択型企業DC」があります。
企業型確定拠出年金に加入している従業員は、掛金をもとに金融商品の運用を行います。拠出した年金資産は原則として60歳まで引き出すことができず、60歳以降に退職金や年金として受け取ることが可能です。ただし、掛金は企業側が拠出してくれますが、運用成果は従業員の自己責任であることに注意しましょう。
個人型確定拠出年金(iDeCo)とは
個人型確定拠出年金(iDeCo)とは、加入者が自ら掛金を拠出することで、公的年金に上乗せする老後資金づくりを目的とした私的年金制度です。金融商品の選択や運用を加入者が行い、積み立てた年金資産は60歳以降に一括または分割で受け取ることができます。また、企業型DCと同様、加入者の運用成果によって将来受け取る年金額が変動します。
ただし、65歳以上の方や国民年金保険料を納付していない方、農業者年金に加入している方などはiDeCoを利用することができません。また、企業型DCを導入している企業に勤めている方のうち、加入者も掛金を上乗せする「マッチング拠出」をしている場合などはiDeCoを利用することができなくなっています。
個人型確定拠出年金(iDeCo)の節税効果
掛金が全額所得控除となる
個人型確定拠出年金(iDeCo)の掛金は、その全額が所得控除の対象のため、確定申告や年末調整の際に掛金が課税所得から控除され、結果として所得税や住民税を節税することができます。私的年金には確定拠出年金のほかに個人年金保険もありますが、個人年金保険の控除額には上限が定められています。よって、掛金の全額が所得控除の対象となる個人型確定拠出年金のほうが、節税効果は高いといえるでしょう。
運用利益を非課税で再投資に回せる
個人型確定拠出年金(iDeCo)の運用によって得た利益は非課税となるため、その全額を再投資に回すことが可能です。預金や投資信託などによって得た利益には20.315%の税率が課せられてしまうため、非課税で運用できる点は大きなメリットといえるでしょう。個人型確定拠出年金は効率的に資産形成を行えるため、他の金融商品と比較して運用時の節税効果が高くなっています。
受け取りの際に一定額が非課税となる
個人型確定拠出年金(iDeCo)は、60歳を超えると積み立てた資産を老齢給付金として受け取ることが可能です。受け取り方法には一括で受け取る「一時金」と、分割で受け取る「年金」の2パターンがありますが、どちらも一定額までは非課税となっています。
「一時金」として受け取る場合、老齢給付金は退職所得に該当します。そのため、年間の退職所得の合計額から退職所得控除を受け取ることが可能です。なお、退職所得控除の控除額は、勤続年数と確定拠出年金の積立期間によって変動します。
一方で「年金」として受け取る場合には、老齢給付金は雑所得に該当します。そのため、公的年金などの他の所得と合算し、その合計額から公的年金等控除を受けることが可能です。控除額は受け取り時の年齢や、公的年金などの所得の合計額によって変動するため、老齢給付金を受け取る際にどれくらいの控除を受けられるのか確認しておきましょう。
企業型確定拠出年金(企業型DC)の節税効果
運用利益が非課税
企業型確定拠出年金(企業型DC)の運用によって得た利益も、個人型確定拠出年金(iDeCo)と同じく非課税です。そのため、企業型確定拠出年金で得た運用益は、その全額が利益となります。本来、運用中の年金資産には1.173%の特別法人税が課せられますが、企業型確定拠出年金においてはこれまで一度も課税対象となったことがありません。
所得税・住民税が非課税
企業型確定拠出年金(企業型DC)の掛金は、その全額が所得控除の対象となるため、所得税・住民税が課せられません。仮に掛金と同じ金額を給与所得として受け取った場合、所得税・住民税が課せられるうえに社会保険料もかかります。掛金を全額控除できるという点は、大きなメリットといえるでしょう。さらに、企業側にとっても掛金を全額損金算入することができるため、法人税の節税にもつながります。
各種税控除で優遇が期待できる
企業型確定拠出年金(企業型DC)は、60歳を超えることで老齢給付金として受け取ることがです。受け取り方法は3種類あり、それぞれに税制優遇措置があることで節税が期待できます。
- 「一時金」として受け取る
老齢給付金を一時金として一括で受け取る場合、退職所得に該当します。退職金と同様、退職所得控除の対象です。
- 「年金」として受け取る
老齢給付金は、5年以上20年以内の期間内で年金として受け取ることが可能です。雑所得に該当し、公的年金などの所得と合算することで公的年金等控除の対象になります。
- 「一時金と年金の併用」で受け取る
一時金と年金の併用で受け取る場合には、上記ふたつの所得控除が対象となります。ただし、十分な節税効果を得たいのであれば、受取額などを試算しながら効果を確認するようにしましょう。
マッチング拠出でさらなる節税も期待できる
企業型確定拠出年金(企業型DC)には、企業側が拠出する掛金に加えて、加入者である従業員自身が掛金を上乗せして拠出する「マッチング拠出」という制度があります。従業員が拠出する掛金には、企業側の掛金と同額までといった制限はありますが、この掛金も全額が所得控除の対象です。従業員の選択肢を広げるという魅力もあるため、福利厚生の面でも導入を検討する余地があるといえるでしょう。
個人型確定拠出年金(iDeCo)の節税シミュレーション
掛金の拠出に関する節税効果の事例
個人型確定拠出年金(iDeCo)を運用することで実際にどれくらい節税できるのか、具体的な数字を用いてシミュレーションしていきましょう。
【例】課税所得500万円の個人が、毎月2万円ずつ掛金を拠出した場合 ● 年間の掛金総額 2万円×12か月=24万円 ● 所得税 24万円×20%(所得税率)=4万8,000円 ● 住民税 24万円×10%(一律)=2万4,000円 ● 節税可能な額 4万8,000円+2万4,000円=7万2,000円 |
このように、年間で7万2,000円もの額を節税することが可能です。所得税率は年収が上がるほど高くなるので、収入の多い方ほど大きな節税効果が期待できます。
金融商品で生じる節税効果の事例
金融商品を運用することによって得られる節税効果についても、具体的にシミュレーションしてみましょう。
【例】投資信託を運用していたところ、5万円の運用益が発生した場合 ● 通常取引で得られる運用益 5万円×20.315%=3万9,843円 ● iDeCoで得られる運用益 5万円の運用益全額 |
このように、個人型確定拠出年金(iDeCo)と通常の金融商品との運用を比較すると、受け取れる金額に2割以上の差があります。運用する資産額が多くなるほど、節税効果もより大きくなるといえるでしょう。
個人型確定拠出年金(iDeCo)で気をつけたいポイント
手数料が自己負担になる
個人型確定拠出年金(iDeCo)を運用するうえで注意しなければならない点が、すべての手数料を加入者本人が負担しなければならないことです。個人型確定拠出年金にかかる手数料は、主に4つの種類あります。
- 掛金納付にかかる手数料(毎月/105円)
- 加入・移換時の手数料(初回のみ/2,829円)
- 手数料の還付手数料(利用ごと/1,048円)
- 投資信託の際にかかる給付手数料・運営管理手数料(毎月)
なお、給付手数料や運営管理手数料は、管理する金融機関によって料金が異なります。個人型確定拠出年金への加入を検討する際は、金融機関の手数料も確認するようにしましょう。
積立金を60歳になるまで引き出すことができない
個人型確定拠出年金(iDeCo)は、原則として60歳を超えるまでは積立金を引き出すことができません。つまり、急な出費が必要になった場合でも、すぐに引き出して使うことができないお金だということです。個人型確定拠出年金の掛金は、月々5,000円以上1,000円単位で設定することができ、年に1回金額を見直すことができます。将来的にどのくらいのお金が必要になるか計算し、余裕を持った額を設定しましょう。
節税効果が薄くなる受け取り方もある
勤務先から退職金を受け取る予定の方は、確定拠出年金を「一時金」として受け取る場合に注意すべき点があります。それは、退職金と一時金を同じ年に受け取ってしまうと、退職所得控除が「加入年数」か「勤続年数」のどちらかに対応した額でしか控除されないことです。
そのため、確定拠出年金を一時金として受け取る場合は、退職金とは別の年に受け取ることによって、それぞれで退職所得控除が適用されます。確定拠出年金を一時金として受け取る予定だった方は、受け取りのタイミングを考えておきましょう。
確定拠出年金(iDeCo)のメリットを受けにくい人の特徴
専業主婦や無職の人
個人型確定拠出年金(iDeCo)は運用益が非課税である点や、各種控除を受けられる点などのメリットがあります。これらは節税において大きな魅力といえますが、所得税を支払っていない専業主婦や無職の方にとっては、節税にならないといえるでしょう。
また、住宅ローンを組んでマイホームを購入した場合には「住宅ローン控除」を利用することができますが、これによって所得税が減税されている方も節税にならないといえます。
60歳未満のライフイベントに積立金を利用したい人
個人型確定拠出年金(iDeCo)によって積み立てた資産は、原則として60歳を超えるまでは引き出すことができません。老後の資産形成という目的には適していますが、マイホームの購入や子どもの養育費など、60歳未満のライフイベントに積立金を利用したい方には向いていないといえるでしょう。ある程度の貯金があり、60歳未満のライフイベントに対応できる資産形成が進んだ段階で、運用に取り組むことをおすすめします。
50代後半の人
50代後半から個人型確定拠出年金(iDeCo)への拠出を検討する場合も注意が必要です。個人型確定拠出年金への拠出は65歳までとなっており、拠出期間が短い場合は60歳から積立金を引き出すことができなくなってしまいます。また、個人型確定拠出年金は拠出終了後も口座管理手数料を支払う必要があるため、年間の収益が少ないと口座管理手数料で相殺となってしまうおそれがあります。
企業型確定拠出年金(企業型DC)の注意点
転職・離職の際は移管手続きが必要
企業型確定拠出年金(企業型DC)に加入している場合、転職・離職をした際には移管手続きが必要です。
- 転職先に企業型確定拠出年金がある場合
転職先の企業型確定拠出年金への加入手続きが必要になります。
- 転職先に企業型確定拠出年金がない、または会社員ではなくなる場合
個人型確定拠出年金(iDeCo)の口座を開設し、移管する必要があります。
なお、転職・離職後6か月以内に移管手続きを完了しなかった場合、運用中の資産が換金されて国民年金基金連合へと移管されてしまいます。転職・離職をした際は、速やかに移管手続きを行うようにしましょう。
自分で運用管理機関を選定できない
企業型確定拠出年金(企業型DC)では、運用管理機関を企業側が選定しているため、自分で運用管理機関を選定することはできません。また、運用する金融商品も企業が選定するため、自分の希望に合った商品が用意されていない可能性もあります。
公的年金額が減少してしまう可能性がある
企業型確定拠出年金(企業型DC)には、従業員が掛金の一部を拠出する「選択型DC」という制度があります。この制度を利用すると標準月額報酬が減少するため、厚生年金保険料も減少することになります。そして厚生年金保険料が減少するということは、公的年金の受給額も減少することになるため、減少する受給額以上の運用成果を得る必要があるでしょう。
個人型確定拠出年金(iDeCo)と企業型確定拠出年金(企業型DC)を併用する注意点
個人型確定拠出年金(iDeCo)と企業型確定拠出年金(企業型DC)を併用する場合、以下の要件を満たす必要があります。
- 事業主掛金の上限額が月額3万5,000円であること(確定給付型にも加入している場合は月額1万5,500円まで)
- 個人型確定拠出年金(iDeCo)との併用を認める規約が定められていること
しかし、2022年10月からこれらの要件を満たさなくとも、個人型確定拠出年金(iDeCo)と企業型確定拠出年金(企業型DC)の併用が可能となりました。ただし、ケースによっては併用できない場合もあるため、詳細は厚生労働省の公式サイトなどで確認しておきましょう。
確定拠出年金の節税効果をしっかりと理解したい場合は専門家に相談も検討
今回は、確定拠出年金を利用することで得られる節税効果や、iDeCoと企業型DCに加入するメリットなどについてご紹介してきました。確定拠出年金は老後の資産形成ができるだけなく、上手に運用することで節税メリットも享受することができる制度です。本稿でご紹介した注意点なども参考にしながら、効率よく資産形成を進めていきましょう。また、確定拠出年金による節税についてもっと詳しく知りたいという方は、専門家へ相談してみることをおすすめします。