サラリーマンの給与からは、所得税や住民税などの税金が毎月差し引かれています。また、この税金の仕組みや節税・税金対策について理解しておけば、節税によってサラリーマンも手取りを増やせる可能性が生じるのです。そこで、今回はサラリーマンの節税・税金対策に関する基礎知識や、実際に知っておきたい節税方法などについて、詳しく解説していきます。
目次
サラリーマンが支払う税金の種類とは
所得税
サラリーマンの給与からは、毎月2種類の税金が差し引かれています。そのひとつが所得税であり、所得に対して課せられる税金です。所得税には「累進課税制度」が採用されているため、所得が多い人ほど高い税率が適用される仕組みとなっています。
なお、所得に対する所得税の税率は以下のとおりです。
課税所得金額 | 税率 |
1,000円〜194万9,000円 | 5% |
195万円〜329万9,000円 | 10% |
330万円〜694万9,000円 | 20% |
695万円〜899万9,000円 | 23% |
900万円〜1,799万9,000円 | 33% |
1,800万円〜3,999万9,000円 | 40% |
4,000万円以上 | 45% |
このように、課税所得が増加するにつれて5~45%の範囲で税率が変動します。サラリーマンの節税対策の多くが「課税所得を減少させることで税金の負担を抑える」という方法であるため、所得税の仕組みはしっかり理解しておきましょう。
住民税
サラリーマンの給与から差し引かれる税金には、住民税もあります。住民税は地方税の一種であり、都道府県や市町村に納める税金です。税率は都道府県が4%、市町村が6%の合計10%となっています。
また、住民税は前年の所得に対して課せられる税金であり、社会人1年目の方の給与からは天引きされない仕組みです。社会人2年目の6月に給与から差し引かれることになるため、タイムラグがあることを覚えておきましょう。
なお、住民税は1月1日時点で住民票上の住所を置いていた自治体によって課税されるため、1月2日以降に引っ越しをしたとしても以前の住所地に納付する必要があります。
サラリーマンが支払う社会保険料の種類とは
健康保険料
健康保険料は、病気や怪我などで医療機関を利用した際にかかる費用を、一部負担してもらうために支払う料金です。都道府県によって異なる保険料が設定されていますが、概ね10%前後となっています。そして、この保険料率にサラリーマンの4月・5月・6月の平均給与である「標準報酬月額」をかけることで、健康保険料の額が決まるという仕組みです。また、サラリーマンの場合は会社が健康保険料の半額を負担するという特徴があります。
厚生年金保険料
厚生年金は、老後の生活費として支給される年金制度であり、民間企業が加入する制度です。厚生年金の保険料は、給与に保険料率をかけることで決定します。この保険料率は一律18.3%となっていますが、健康保険料と同様に半分の9.15%は会社負担です。
また、年金制度には個人事業主などが加入する国民年金もありますが、こちらは誰でも一律の保険料という違いがあります。厚生年金保険料は所得に応じて等級が上がる仕組みとなっているため、わずかな給与の差でも保険料が大幅に上がるケースがあることを覚えておきましょう。
雇用保険料
雇用保険は、病気や怪我による休業や育児休業時の手当のほか、失業保障などによって労働者の生活を守るための制度です。これらの保障は雇用保険料によってまかなわれており、業種によって保険料率は異なります。例えば、一般事業は1.35%、農林水産業は1.55%、建設業であれば1.65%といった具合です。雇用保険料についても、会社が半分以上の額を負担することになっています。
なお、給与が増加すれば雇用保険料も高くなりますが、保険料率が小さいため急激に負担が増加する心配は少ないといえるでしょう。
介護保険料
介護保険は、介護を必要とする人が介護サービスを少ない負担で受けられるよう、介護が必要な方やその家族を支えるための制度です。この介護保険は40歳以上の国民が支払う介護保険料と国や市町村の負担によって成り立っています。そのため、40歳以上の方は介護保険への加入義務が定められており、40~64歳のサラリーマンは健康保険料の一部として給与から天引きされる仕組みです。
サラリーマンの節税・税金対策とは
配偶者控除・扶養控除
配偶者控除
配偶者控除とは、生計をともにする配偶者がいる場合において、一定の所得控除を受けられることで節税につながる制度です。配偶者控除の対象である「配偶者」と認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 内縁関係ではなく、民法の規定によって認められる配偶者であること
- 年間の合計所得金額が48万円以下であること
- 納税者と生計をともにしていること
- 青色申告者の事業専従者として年間で一度も給与を受け取っていない、または白色申告者の事業専従者ではないこと
また、配偶者控除の控除額は以下のとおりです。
納税者の所得金額 | 控除額 | |
一般控除対象配偶者 | 老人控除対象配偶者 | |
900万円以下 | 38万円 | 48万円 |
900万円~950万円 | 26万円 | 32万円 |
950万円~1,000万円 | 13万円 | 16万円 |
1,000万円以上 | 控除なし |
なお、配偶者控除は配偶者の所得金額が48万円以下である必要がありますが、所得金額が48万円~133万円以下であれば、一定の所得控除を受けられる可能性があります。
扶養控除
扶養控除とは、所得税法で定められている控除対象扶養親族となる方がいる場合に、一定の所得控除を受けられる制度です。扶養対象親族と認められるためには、年齢が16歳以上であることに加えて、以下の要件を満たす必要があります。
- 配偶者以外の親族、都道府県知事から養育を委託された児童(里子)、市町村長から養護を委託された老人のいずれかであること
- 納税者と生計をともにしていること
- 年間の合計所得金額が48万円以下であること
- 青色申告者の事業専従者として年間で一度も給与を受け取っていない、または白色申告者の事業専従者ではないこと
また、扶養者控除の控除額は以下のとおりです。
対象区分 | 控除額 | |
控除対象扶養親族 | 38万円 | |
特定扶養親族 ※1 | 63万円 | |
老人扶養親族 ※2 | 同居老親等 | 48万円 |
同居老親等以外 | 58万円 |
※1 19歳以上23歳未満の方
※2 70歳以上の方
家庭を持っているサラリーマンは、この扶養控除や配偶者控除を活用することで節税につながります。
医療費控除・セルフメディケーション税制
医療費控除
医療費控除は、年間で支払った医療費が10万円を超える場合に、一定の所得控除を受けられる制度です。病気や怪我による通院費や歯医者の治療費、人間ドックや介護老人施設の費用などが対象に含まれています。ただし、美容整形や健康増進を目的とした費用などは、医療費控除の対象に含まれません。
また、医療費控除は年末調整の対象外となっているため、節税したいのであればサラリーマンでも確定申告をする必要があります。なお、病院などに支払ったすべての費用が医療費控除の対象となるわけではなく、以下の計算式によって控除額が決まる仕組みです。
年間の医療費-各種補填金-10万円=控除額(最大200万円) |
ただし、年間の所得が200万円以下の場合、10万円ではなく「総所得金額の5%」を引いた額が医療費控除を受けられる額になります。
セルフメディケーション税制
2018年の法改正によって、病気の予防や健康維持増進を図るために自主的な服薬を推進する「セルフメディケーション税制」が医療費控除の特例として加わりました。セルフメディケーション税制の対象となるためには、以下の要件をクリアする必要があります。
- 予防接種や定期健康診断など、病気の予防や健康維持のために一定の取り組みをしていること
- スイッチOTC医薬品の購入金額が、年間で1万2,000円以上であること
このスイッチOTC医薬品とは、病院で処方されている医薬品のうち、一般の薬局でも購入可能となった医薬品のことを指します。セルフメディケーション税制の控除額は以下のとおりです。
スイッチOTC医薬品の購入金額-1万2,000円=控除額(最大8万8,000万円) |
なお、セルフメディケーション税制は医療費控除との併用ができない点に注意しましょう。
住宅ローン控除
住宅ローン控除は、住宅ローンを利用して住宅の建築・購入をした方を対象に、10年間の減税措置を受けられる制度です。サラリーマンが住宅ローン控除を利用するためには、不動産を購入した年のみ確定申告が必要ですが、2年目以降は勤務先の年末調整で手続きを行うことができます。また、住宅ローン控除によって受けられる控除額は、以下の3つのうち最も少ない額となっています。
- 減税限度額
- 12月末時点での住宅ローン残高の1%
- 年間の所得税額
住宅ローンを利用して不動産を購入した場合は、住宅ローン控除を活用して節税していきましょう。
生命保険料控除・地震保険料控除
生命保険料や地震保険料を支払っているサラリーマンの方は、生命保険料控除・地震保険料控除によって節税することが可能です。支払った保険料の全額が所得控除の対象となるわけではありませんが、保険会社から送られてくる控除証明書を勤務先に提出することで、所得控除を受けることができます。
特定支出控除
特定支出控除は、サラリーマンが特定の支出を行った場合に、一定額を給与所得から控除できる制度です。特定支出控除の対象となる支出は以下のとおりとなっています。
- 研修費
- 資格取得費
- 通勤費
- 帰宅旅費
- 転居費
- 勤務必要経費(衣服費や交際費など)
ただし、特定支出控除を利用するためには勤務先から「特定支出に関する証明書」を発行してもらう必要があります。
ふるさと納税
ふるさと納税とは、全国から選んだ自治体に寄付をすることによって、寄付金控除を受けられる制度のことを指します。寄附をした自治体からは、お礼として食品などの返礼品を受け取ることができるため、近年注目を集めている税金対策の一種です。
ふるさと納税では、2,000円の自己負担額を除いた全額について控除を受けることができ、所得税・住民税の節税につながります。また、寄付先の自治体が年間で5つ以下のサラリーマンであれば「ワンストップ特例制度」を利用することができるため、確定申告は不要です。
iDeco
iDeCo(個人型確定拠出年金)とは、自分自身で年金の積み立てを行う私的年金制度のことを指します。また、iDeCoは生命保険などと違い、支払った全額が所得控除の対象になることが特徴です。iDeCoを利用することによって掛け金が所得控除の対象となるため、所得税・住民税の節税につながります。
さらに、iDeCoを運用することによって増えた金額に対しては税金がかかりません。また、iDeCoには公的年金や退職金の税制が適用されるため、税金の負担が軽減される場合もあります。
新NISA
NISA(少額投資非課税制度)とは、一定の買付可能額の範囲内で得た株式や投資信託の利益が、非課税となる制度です。本来、株式や投資信託によって得た利益や配当に対しては、約20%の税金が課せられます。しかし、NISAであれば一定範囲内において非課税とされるため、節税につながるという仕組みです。
なお、2024年からは新NISAとして制度が改正され、年間投資枠の拡大や非課税期間も無期限になるなど、さらに節税効果が高くなりました。
| つみたて投資枠 | 成長投資枠 |
最大利用可能額 | 1,800万円 | 1,800万円 (内数:1,200万円) |
年間投資可能額 | 年間120万円以内 | 年間240万円以内 |
保有期間 | 無期限 | 無期限 |
制度選択 | 併用可 | 併用可 |
入方法購 | 積立 | スポット・積立 |
対象商品 | 金融庁が認めた一部の投資信託等 | 上場株式・投資信託等 |
クレジットカードでの税金支払い
サラリーマンで節税したい方には、税金をクレジットカードで支払うことをおすすめします。所得控除が受けられるわけではありませんが、固定資産税や自動車税などをクレジットカードで支払うことによってポイントの還元を受けることが可能です。実質的に税額を抑えることができるため、税金対策のひとつとして覚えておきましょう。
サラリーマンが税金対策できる特定の事例とは
副業をしている場合の事例
近年は、サラリーマンであっても副業を行っている方が増加しています。本業以外の事業にも取り組んでいる場合には、以下の方法によって節税することが可能です。
- 青色申告特別控除
副業を行っている場合には確定申告が必要となりますが、一定の要件を満たしたうえで青色申告を選択することによって、最大65万円の「青色申告特別控除」を受けることができます。
- 家事按分
家賃や光熱費などを事業に用いた割合で按分し、事業の必要経費として計上することを「家事按分」といいます。生活をするうえで必ずかかる費用を経費として計上できる場合があるため、節税につながる可能性があります。
株取引で売買損失が発生した場合の事例
株式などの売買によって損失が発生した場合、その損失と配当所得を相殺することが可能です。これを「損益通算」といいますが、損失もきちんと計算しなければ配当所得にのみ税金が課せられてしまうため注意しましょう。
配偶者と離婚・死別した場合の事例
配偶者と離婚または死別した場合には「寡婦控除」や「ひとり親控除」受けることができます。これは、ひとり親となった方に対して税金の負担を安くするという制度です。ただし、利用するためには一定の要件を満たす必要があるため、控除の対象に該当するか事前に確認しておきましょう。
災害や盗難に遭った場合の事例
災害や盗難に遭った場合、以下の2種類の控除を受けることで節税することが可能です。
- 雑損控除
住宅や家財、衣服などの生活に必要な財産に対して雑損控除を受けられます。雑損控除を受けるためには、「火災や震災、盗難などによって損害が発生したこと」と「日常生活に必要な財産の損害であること」という要件を満たさなければなりません。
- 災害減免法による税金の軽減・免除
災害によって住宅や家財に対して1/2以上の損害が発生した場合、税金の軽減または控除を受けられます。なお、住宅や家財は時価で評価され、損害を受けた年の所得が1,000万円以下であることが必要です。
サラリーマンの節税・税金対策での注意点
必ず期限内に確定申告を済ませる
サラリーマンであったとしても、利用する税金対策によっては確定申告をする必要があります。例えば、住宅ローン控除を初めて利用した年や、株式の譲渡によって生じた損失の繰り越し控除をする場合などです。確定申告を行わなければこれらの制度を活用することができないため、必ず期限内に行うようにしましょう。
過剰な節税対策で浪費にならないように注意する
サラリーマンが節税を意識することは重要ですが、過剰な節税対策によって不要な支出が発生しないよう注意しなければなりません。あくまで支出を減らすための節税対策であることを念頭に置いて、慎重に検討するようにしましょう。
副業を行う場合は就業規則の内容を確認する
サラリーマンの税金対策として、副業で生じた赤字を利用するという方法があります。しかし、勤務先の就業規則の内容によっては副業を認めない場合や、副業を始めたことを届出なければならない場合もあるため注意が必要です。後々トラブルに発展しないよう、就業規則の内容をしっかり把握しておきましょう。
サラリーマンの節税・税金対策を効率的に行いたい場合は専門家に相談を検討
今回は、サラリーマンができる節税や税金対策について、基礎知識や具体例を交えてご紹介してきました。サラリーマンが節税を意識しなかった場合、毎年多くの税金を支払わなければなりません。手取りを少しでも増やしたいという方は、本稿でご紹介した税金対策も検討してみてはいかがでしょうか。また、サラリーマンが利用できる節税・税金対策について詳しく知りたいという方は、専門家への相談も検討してみてください。