個人事業主と法人の経費の違いについて知ることは、今後の事業や節税対策を考えるうえで重要なポイントの一つです。同じ内容の支出でも、個人事業主と法人とでは経費として認められる範囲が異なるため、節税効果にも差が出ることがあります。節税効果を高めるために、事業の現状と将来性に応じて法人化することも選択肢の一つです。この記事では、個人事業主と法人の経費の違いについて詳しく説明します。
目次
個人事業主と法人の経費の範囲が異なる理由

個人事業主と法人との経費の範囲に違いが出るのは、税金の種類が異なるからです。対象となる税金に関する法令も異なるため、経費の扱いや範囲に違いが生じます。
個人事業主も法人同様に、事業で利益を得るためにかかった費用を経費として計上可能です。しかし、納める税金の種類に違いがあるため、経費として計上できる出費に限りがあります。
例えば、法人は自身への給与(役員賞与)は条件次第で経費にできますが、個人事業主はできません。
また、個人事業主は、事業と私生活の区分が難しく、経費と私的支出の線引きが曖昧になりやすいです。ビジネスで使用した分を家事按分で経費扱いにできますが、事業用の割合に応じた計算が求められます。
個人事業主が計上できる経費
個人事業主は、事業活動に必要な出費について経費計上が可能です。ここでは、個人事業主が経費にできる出費の一部を紹介します。
税金の一部
個人事業主が支払う税金のうち、次のような事業に関連する一部の税金は経費にできます。
- 自動車税
- 個人事業税
- 固定資産税
- 登録免許税
一方で、所得税や住民税、相続税など個人の所得にかかる税金は、経費にはなりません。
水道光熱費(家事按分)
事業で使用した割合に応じて経費にできます。自宅と事務所を兼ねている場合、業務時間などの割合から、事業用として使用した分を経費にします。
家賃(家事按分)
事業に使用している部分に限って、経費計上が可能です。自宅と事務所を兼用している場合は、事業用が占める割合などから経費を計算します。
通信費(家事按分)
事業で使用する電話、インターネット、切手代などの通信費を経費にできます。特に、事業と私用の携帯やインターネット回線を併用している場合は、業務での使用時間に応じて按分するのが一般的です。
事業用と私用の携帯電話を分けて契約している場合は、事業用の基本料金や通話料を全額経費にできます。
旅費交通費
事業のためにかかった下記費用などが、経費になります。
- 電車代
- 飛行機代
- バス代
- タクシー代
- 高速道路の料金
- 宿泊費
業務に必要な費用であることを証明できるように、交通費や宿泊費の領収書やレシートを保管しておきましょう。電車やバスの利用料金を証明する手段として、ICカードなどの履歴を活用できます。
接待交際費
取引先との関係を円滑にするための飲食代や贈答品の購入費用は経費扱いです。法人は、接待交際費の計上額に上限が設けられていますが、個人事業主にはありません。
しかし、プライベートの飲食代を意図的もしくは誤って計上するケースもあるため、事業との関連性を明確にすることが大切です。
法人が計上できる経費

個人事業主からの法人成りにより、経費にできる範囲が広がります。ここでは、法人化で経費計上可能となる主な出費について詳しく説明します。
社宅費
役員や従業員が居住する住居費を、社宅費として計上できます。法人が購入した物件、法人名義で借り上げた物件が、社宅費の対象です。
例えば、従業員が居住する住居を法人が契約し、かかった家賃や管理費などを経費にできます。
従業員からは相当の家賃を給与から天引きしますが、所得税や社会保険料の負担軽減に効果的です。法人は社会保険料の一部を負担しなくてはいけません。しかし、役員や従業員の所得が減れば、法人負担分も軽減されるからです。
車両関連費
業務で使用する車両に関連する以下の費用などを経費にできます。
- 車両本体価格
- ガソリン代
- 保険料
- 駐車料金
- 車検費用
また、購入ではなくリースで車両を使用する場合も、リース料の経費計上が可能です。個人事業主が業務用と私用を兼ねる場合、事業での利用分のみを按分し経費にするため、節税効果が限られることが多いです。
そのため、業務用の車両を複数台保有しているケースや、車両の使用頻度が高い場合は、法人成りによる節税効果が期待できます。
出張手当(日当)
法人化により、出張の際にかかった交通費や宿泊費だけでなく、日当を支給できるようになります。日当とは、交通費や宿泊費とは別に、出張時にかかる食事や通信費、雑費などの支払に充てるものです。
日当は給与とは異なり非課税扱いとなるため、法人と出張をする従業員の双方にメリットをもたらします。
まず、法人の経費精算業務と税金の負担軽減に結び付きます。出張でかかった経費を細かく確認したり、承認したりする手間が省けるからです。また、出張費を経費にすることで、課税所得が減り、法人税などの節税効果が期待できます。
出張をする役員や従業員は、非課税対象となる収入が増えます。ただし、節税効果を得るには、妥当な額を日当として定額支給することを、出張旅費規程で定めなくてはいけません。
生命保険料
受取人や契約者を法人名義にすることで、役員の生命保険料を全額経費扱いにできる場合があります。
個人事業主が生命保険に加入した場合、所得控除を適用できますが、控除額が限定的であることから、高い節税効果は見込めません。一方で、法人の場合は、経費にできる金額が増えるため節税に効果的です。
福利厚生費
法人は、従業員の福利厚生に関わる次のような費用を経費にできます。
- 社員旅行
- 健康診断
- 慶弔見舞金
- 従業員用の飲み物
個人事業主は、自身や家族の福利厚生に関する費用を経費として認めてもらえません。法人化によって福利厚生費を経費扱いできるようになると、節税だけでなく従業員の定着率向上や雇用にも有利に働きます。
福利厚生の充実が従業員のモチベーションアップにつながること、就職や転職先を探すときに福利厚生の内容をチェックする求職者が多いからです。
退職金
役員や従業員に対して支給する退職金を経費にできます。個人事業主の場合、本人だけでなく家族従業員に対する退職金も経費として認められていません。
勤続年数や役職に応じて妥当な金額を支給する退職金規定に従えば、法人は退職金を損金として扱えます。
また、退職金を支払う法人は経費が増えることによる節税効果を得られ、受け取る役員や従業員は退職所得控除適用による所得税の負担軽減が期待できます。
退職金はある程度まとまった金額を支払うため、資金の確保目的で保険に加入する場合、保険料も経費として計上可能です。保険料で退職金の資金を準備することで、さらなる節税効果が期待できる場合があります。
費目別|個人事業主が経費を計上する際に注意が必要なポイント

個人事業主が事業で必要な出費を経費にする際には、適切な計上が求められます。ここでは、個人事業主が経費を計上する際の注意点を、費目別に紹介します。
水道光熱費・家賃・通信費
事業用と私用を兼用している場合、適切な家事按分による経費計上が可能です。家事按分をする際のルールが決まっているわけではありませんが、使用時間や使用面積に応じて費用を計算するのが一般的です。
例えば、家賃については家全体の面積のうち事業用スペースが占める割合、通信費については事業で使用している時間で按分します。妥当な按分率に基づく経費計上であることを、証明できるようにしておきましょう。
接待交際費
事業に関連する飲食代や贈答品の購入費用のみ、経費として計上可能です。業務とは関係ないプライベートの飲食や贈答は、経費にできません。
例えば、取引先の担当者と食事をしたときの飲食代は経費扱いですが、取引先との会議後に一人で立ち寄ったカフェでの飲食代は経費にはなりません。
個人事業主の場合、プライベートの支出を経費として計上するケースが多いことから、特に注意が必要です。
また、取引先などの関係者に対する慶事費用は接待交際費に該当します。慶事費用は領収書やレシートが出ないため、出金伝票を作成するか、招待状などを証明として残しておくことです。
旅費交通費
旅費交通費も、事業に必要な出費のみ経費にできます。経費として証明するためには領収書などが必要ですが、公共交通機関を使用した場合には領収書が発行されません。
そこで、出金伝票や交通系ICカードの履歴などで支払った事実を証明します。また、新幹線や飛行機のチケットをクレジットカードで購入した場合は、クレジットカード明細が領収書の代わりとなる場合があります。
経費であることを証明するためには、原則領収書やレシートが必要です。他の書類で代用して証明できますが、事業に必要な経費であること、使途を明確にしておくことが大切です。
費目別|法人が経費を計上する際に注意が必要なポイント
法人は個人事業主よりも経費にできる範囲が広がる一方で、税務のルールも厳しくなるため、誤った処理をすると経費として認められないことがあります。経費の計上において、特に注意が必要な支出について説明します。
福利厚生費
妥当な支出であれば経費にできますが、内容や金額によっては経費として認められないことがあります。福利厚生費は従業員のモチベーション向上や健康維持のための支出だからです。
例えば、全従業員を対象とするのではなく、一部の従業員や役員だけが参加する社員旅行は福利厚生費に該当しません。また、取引先との旅行でかかった費用は、福利厚生費ではなく接待交際費として処理するのが妥当です。
車両関連費
事業に使用するための車両の購入費やリース代、維持費(ガソリン代や車検費用など)は経費の対象ですが、私的利用の割合が高いと経費として認められないことがあります。
法人が所有する車両は、業務用であるため原則私的利用は認められていません。役員や従業員が社用車を個人的に利用する場合は、私的利用分を適切に按分します。
使用比率に基づいて按分をせずに全額経費にしてしまうと、税務調査で損金算入を否認される可能性が高いです。
また、私的利用の目的で法人が車両を購入した場合は、悪質性が高いとみなされてペナルティが重くなることがあります。
出張旅費
出張の際に支給する日当を経費として認めてもらうためには、出張旅費規程の策定と妥当な額の設定が求められます。
出張の際に発生する交通費、宿泊費、日当などの取り扱いを定めたのが出張旅費規程です。規定に従って支給された日当は、経費として認められるでしょう。
しかし、日当が高額すぎると経費計上を否認されるだけでなく、受け取った日当が従業員の給与としてみなされます。
日当は非課税扱いとなるため、高額を設定しようと考えがちです。しかし、金額が妥当でなければ経費にはならず、従業員の給与も増えるため、増税につながる危険性が高いです。
社宅費
法人が購入、賃貸契約をした物件を社宅として従業員や役員に提供する場合、妥当な額を家賃として設定しなくてはいけません。
居住費を全額法人が負担すると、役員や従業員への給与とみなされる可能性が高いからです。従業員や役員の給与が増えてしまうと、個人の税金だけでなく、社会保険料の負担が増す恐れがあります。そこで、社宅の家賃は適切な額にするのが望ましいです。
社宅の家賃を設定する際には、社宅とする住居のタイプ、地域、周辺の家賃相場などを考慮します。
役員報酬
役員報酬は原則として損金に算入できませんが、条件を満たすことで経費にできます。経費として認められるためには、下記のいずれかの条件を満たさなくてはいけません。
- 定期同額給与
- 事前確定届出給与
- 業績連動給与
毎月定められた額を支給することで経費にできますが、途中で報酬額を変更すると損金にできなくなるため注意が必要です。
また、役員報酬の額が業績や同業他社と比較して著しく高い場合なども、損金として認められないことがあります。適切な額を役員報酬として設定することが大切です。
役員報酬の支給額によって、節税効果が高まることがあります。妥当な金額設定が難しいときは、専門家に相談してみましょう。
接待交際費
取引先と良好な関係を維持するために必要な支出が接待交際費ですが、金額の上限や範囲が法律で定められています。中小企業の場合、年間で接待交際費の50%もしくは800万円以下までが、交際費として損金に算入可能です。
超過した支出については、損金の対象外です。また、私的利用での飲食代や旅行費は接待交際費に該当しません。接待のための支出であることを証明するためにも、領収書はもちろん、参加者の名前や人数、目的などを記録しておくことが大切です。
中小企業の場合、損金に算入できる接待交際費に上限があります。ただし、一人当たり10,000円以下の飲食代については、会議費として経費計上が可能です。
飲食費を会議費として計上するためには、以下の内容を記載した書類の保管が求められます。
- 飲食をした年月日
- 参加者の氏名、名称、関係性
- 参加人数
- 支出金額(飲食代であることを明記)
- 飲食をした店舗の名称と連絡先
上記の項目が記載された領収書を保管しておくことで、税務調査が入った際に、会議費であることを証明できるでしょう。
参考:国税庁 No.5265 交際費等の範囲と損金不算入額の計算
個人事業主から法人化するのに適したタイミング

経費計上の範囲が広がることから、法人になると節税などのメリットを受けられる可能性が高まります。しかし、事業の内容や状況、今後の計画などによっては、法人化が適さないことがあります。そこで、法人化に適したタイミングについて理解しましょう。
課税所得が900万円を超えたとき
課税所得が900万円を超えると所得税率よりも法人税率の方が低くなるため、納税額を抑えられる可能性が高いです。
課税所得900万円に対する所得税率は33%であるのに対し、法人税率は中小企業の場合、課税所得800万円以下の所得には15%、800万円を超える部分は23.2%です。
所得税率は所得が増えるにつれて税率も上がりますが、法人税率は最大で23.2%のため、課税所得が増えるほど税金面で有利になります。
取引の際に法人であることを求められるとき
大手企業や上場企業などは、信頼性の高さを重視するために法人を取引相手に選ぶことが多いです。
法人であることは、取引先に対して経営基盤が安定している、信頼性が高いといった印象を与えます。特に、下記の業種は法人化によって、信頼性が高まり取引の増加につながる可能性が高いです。
- IT関連
- コンサルティング業
- 士業(弁護士、税理士、社労士など)
- デザイン関連
- 動画配信
多くの初期費用を必要とせず、高い利益が見込める業種については、法人化による節税や事業拡大のメリットが得やすいでしょう。
新規の取引先開拓や大手企業との取引が見込めそうなとき、信用力を高めるために法人化することも選択肢の一つです。
資金調達や事業を拡大するとき
事業の拡大や資金調達の計画があるときも、法人化に適したタイミングの一つです。事業拡大の際には、資金を必要とすることがあります。融資で資金調達をする場合、金融機関は決算書や事業計画、社会的な信用度の高さなどから返済能力をはかります。
個人事業主よりも法人の方が社会的に信頼できることから、希望額を融資で調達できる可能性が高いです。
また、株式会社の場合、融資だけでなく株式発行による資金調達も選択できます。選択肢が増えることにより、事業計画や経営の状況に合わせた資金調達を実現できるでしょう。
従業員を雇用したいとき
事業拡大に伴って従業員を雇用する必要が出てきたら、法人化を検討しましょう。個人事業主でも従業員を雇えますが、常時使用する従業員が5人未満の場合は社会保険の加入義務がないため、安心して働ける環境を整えることが難しいからです。
法人になると従業員分の社会保険料の一部を負担しなくてはならないことから、経費の増加に結び付きます。しかし、安定した職場環境を求める求職者が多いため、社会保険への加入は魅力的な福利厚生の一つとなるからです。
今後、少子高齢化によって人手不足がますます加速すると言われています。法人化による社会保険への加入は、従業員の定着率向上や優秀な人材確保にも有利に働きます。
個人事業主と法人の経費の違いを理解し法人化を検討しよう
個人事業主と法人では経費処理の考え方が異なります。個人事業主よりも、法人の方が経費の範囲が広がるため、納税額を減らす効果が期待できます。しかし、法人化の時期を誤ると、納税額や社会保険料、事務的手続きが増えることがあるため、慎重な判断が求められるのです。事業の状況、事業計画などを総合的に考慮し、適したタイミングで法人化することが大切です。経費の範囲拡大による節税効果など、法人化によるさまざまなメリットを得るためにも、適切な時期の法人化を目指しましょう。







