特別な資格や経験がなくとも、明確な意思さえあれば誰でも起業できます。しかし、これから起業したいと考えている方の中には「起業するまでの具体的な手続きがわからない」という方も多いのではないでしょうか。そこで、今回は起業するまでの流れや必要書類、起業にかかる費用などについて詳しく解説していきます。起業を成功させるポイントなどもご紹介していますので、起業を検討している方は是非ともお役立てください。
目次
起業の流れ
会社の印鑑購入
会社を設立して起業する場合、会社の実印を購入する必要があります。会社の設立登記とともに印鑑登録を行うため、先に準備しておきましょう。印鑑の購入費用は大きさや材質によってさまざまですが、実印・銀行印・認印の3本セットになったものが1万円程度でも販売されています。会社設立後は銀行印や認印を使用するシーンも多いため、実印とともに購入するのがおすすめです。
会社の基本情報の決定
会社を設立するにあたり、根幹となる基本情報を決定していきます。検討すべき項目は以下のとおりです。
- 商号(会社名)
- 本店所在地
- 事業の目的
- 発起人
- 資本金
- 事業年度
少なくとも、これらの基本情報は決定しておきましょう。
資本金準備
資本金とは、会社に出資された資産のことであり、会社の体力や信用度を表す重要な指標です。株式会社であれば、発起人や投資家からの出資金が資本金となります。かつての会社法では、株式会社の場合は1,000万円以上、有限会社の場合は300万円以上の資本金がなければ会社を設立できないという「最低資本金制度」が制定されていました。しかし、2006年の会社法改正によって最低資本金制度は撤廃され、法律上は資本金が1円以上あれば会社を設立することが可能です。
資本金は、会社の経営基盤を表す指標であり、高額であるほど金融機関や取引先からの信用度は高くなります。また、事業内容によっては所轄官庁からの許認可を取得する必要がありますが、許認可の要件に最低資本金の項目が設けられているケースもあるため注意が必要です。
なお、資本金は高額であるほど信用度は増しますが、税金面でのデメリットがあることも把握しておく必要があります。消費税を例に挙げると、資本金の額が1,000万円以下であれば設立後2期目まで免税事業者となりますが、1,000万円以上の場合は初年度から課税事業者となってしまいます。
では、資本金は一体いくら準備すればいいのでしょうか。一般的には、3か月~半年間の運転資金にあたる額を資本金として計上するケースが多いとされています。業種などによって基準は異なるため、不安な方は税理士などの専門家に相談することも検討しましょう。
定款作成
定款とは、会社の根本規則となる項目を記載した書類のことを指します。「会社の憲法」とも呼ばれる重要なものであり、会社を設立する際には必ず作成する書類です。定款に記載する項目は、必ず記載しなければならない「絶対的記載事項」、記載しなければ効力を有しない「相対的記載事項」、記載は任意である「任意的記載事項」の3種類に分類されます。
この中で、絶対的記載事項に該当する項目は以下のとおりです。
- 商号
- 本店所在地
- 目的
- 資本金の額
- 発起人の氏名・住所
この絶対的記載事項が記載されていない場合、定款自体が無効となってしまうため注意が必要です。なお、定款は書面で作成すると4万円の収入印紙代が必要となりますが、電子定款であれば収入印紙は不要となっています。その代わり、電子定款を作成するための環境が必要となるため、司法書士などの専門家に作成を依頼するケースが多くなっています。どちらのほうがコストを抑えられるのか、事前に確認しておきましょう。
株式会社の場合は公証役場で定款認証を受領
株式会社を設立する場合、作成した定款を公証役場へ持参し、公証人からの認証を受けなければなりません。書面で定款を作成した場合、公証役場で認証を受けるために必要なものは以下のとおりです。
- 定款:3部
- 発起人全員の実印
- 発起人全員の印鑑証明書
- 認証手数料
資本金の額100万円以下:3万円
資本金の額100万円以上300万円未満:4万円
資本金の額300万円以上:5万円
- 定款の謄本発行手数料:250円×定款のページ数
- 収入印紙:4万円分
- 委任状(代理人が手続きを行う場合)
定款認証は、本店所在地のある地域に所属している公証役場で行います。なお、定款を公証役場へメールやFAXで送信し、事前に内容を確認してもらうことで当日の手続きをスムーズに進めることが可能です。
資本金の払込
定款認証が完了したら、資本金の払い込みを行います。資本金の払い込みは、定款認証の完了日以降に行うよう注意しましょう。また、設立登記前の状態では法人の銀行口座を開設することができないため、振込先は発起人の個人口座となります。
発起人全員が資本金の払い込みを終えたら、以下のページをコピーしておきましょう。
- 預金通帳の表紙と1ページ目
- 資本金の払い込み内容が記載されているページ
法務局で登記申請
資本金の払い込みが完了したら、いよいよ会社の設立登記を申請していきます。設立登記で必要となる添付書類は以下のとおりです。
- 登記申請書
- 定款
- 登録免許税納付用台紙
- 印鑑届出書
- 印鑑カード交付申請書
- 設立時取締役の就任承諾書
- 設立時取締役の印鑑証明書
- 設立時代表取締役の就任承諾書
設立時取締役が複数人であり、設立時代表取締役を定めた場合のみ必要。
- 資本金の払い込み証明書
預金通帳の該当ページをコピーしたもの。 - 発起人の決定書
定款に記載されている本店所在地が、最小行政区画まで記載されていない場合のみ必要。
また、会社の設立登記には登録免許税の納付が必要です。この登録免許税の計算方法は会社形態によって異なり、株式会社と合同会社の場合は以下の計算式となっています。
| 株式会社 | 合同会社 |
登録免許税 | 資本金の額×0.7%または 15万円のどちらか高い金額 | 資本金の額×0.7%または 6万円のどちらか高い金額 |
登記申請後に法務局で確認及び手続き
上述した書類を揃えて設立登記の申請を終えると、遅くとも10日程度で登記が完了します。設立登記が無事完了したら、法務局で履歴事項全部証明書を取得して内容を確認しましょう。履歴事項全部証明書は会社設立後の手続きで必要になるケースが多いため、余分に取得しておくことをおすすめします。
また、設立登記と同時に実印登録も行っているため、印鑑カードの受け取りと印鑑証明書も取得しておきましょう。なお、履歴事項全部証明書や印鑑カードの受け取りは、郵送でも行うことが可能です。
国税については税務署に届け出
設立登記が完了して無事に会社を設立できた後も、さまざまな手続きを行う必要があります。まずは、以下の書類を管轄の税務署へ提出しましょう。書類によって提出期限が異なるため、期限を過ぎないよう注意が必要です。
書類 | 期限 |
法人設立届出書(必須) | 会社設立後2か月以内 |
給与支払事務所等の開設届出書(必須) | 会社設立後1か月以内 |
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書(任意) | 適用を希望する月の前月末日まで |
青色申告の承認申請書(任意) | 会社設立後3か月以内 |
提出は任意となっている書類もありますが、節税を考えているのであれば提出しておきましょう。
地方税については地方自治体に届け出
法人事業税や法人県民税などの地方税は、都道府県税事務所の管轄となっています。定款や履歴事項全部証明書の写しとともに、法人設立届出書を提出しましょう。なお、提出期限は地方自治体によって異なるため、事前に確認しておく必要があります。
社会保険については年金事務所に届け出
社会保険関係の書類については、年金事務所への届け出を行う必要があります。提出する書類は以下のとおりです。
書類 | 期限 |
健康保険・厚生年金保険新規適用届 | 会社設立後5日以内 |
健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届 |
どちらの書類も提出期限が短いため、設立前から準備しておく必要があります。ただし、履歴事項全部証明書の写しなども必要であるため、届け出は設立登記の完了後に行いましょう。
労働法関連については労働基準監督署に届け出
従業員を雇用している場合、労働法関連の書類を労働基準監督署へ届け出る必要があります。具体的な書類の内容は以下のとおりです。
書類 | 期限 |
適用事業報告 | 従業員を雇用後、遅滞なく報告 |
保険関係成立届 | 従業員を雇用した翌日から10日以内 |
概算保険料申告書 | 従業員を雇用した翌日から50日以内 |
就業規則届 | 常勤の従業員を10人以上雇用後、遅滞なく提出 |
時間外労働・休日労働に関する協定届 | 協定の起算日までに提出 |
雇用保険についてはハローワークに届け出
雇用保険関係の書類については、ハローワークへ届け出を行います。こちらも労働保険関係の書類と同様、従業員を雇用した場合のみ届け出が必要な書類です。具体的な書類は以下のとおりとなっています。
書類 | 期限 |
雇用保険適用事業所設置届 | 従業員を雇用した翌日から10日以内 |
雇用保険被保険者資格取得届 |
なお、ハローワークに書類を持参する時間がないという方は、「ハローワークインターネットサービス」を利用した電子申請も可能です。
法人口座を開設
会社設立後は、金融機関にて法人口座の開設を行いましょう。法人口座を開設することで、代表者個人の財産と区別して管理ができるようになったり、社会的信用を得られやすくなったりするというメリットがあります。また、金融機関からの融資を受ける際にも、法人口座の開設を求められる場合がほとんどです。法人口座の開設は任意ですが、さまざまなメリットがあるため開設しておくことをおすすめします。
起業にはいくらかかる?
起業前にかかる費用
会社を設立して起業する場合は、設立までの一連の流れの中でどれだけの費用がかかるかを把握する必要があります。また、設立する会社形態によっても費用が異なるため注意しましょう。
例えば、株式会社か合同会社を設立する場合、最低でも以下の費用を準備しておかなければなりません。
株式会社 | 合同会社 |
定款認証手数料:3~5万円 収入印紙代:4万円 定款謄本発行手数料:2,000円 登録免許税:最低15万円 | 収入印紙代:4万円 登録免許税:最低6万円 |
合計:22~25万円程度 | 合計:10万円程度 |
これらの法定費用に加えて、印鑑の作成費用や、司法書士などの専門家に依頼する場合は別途報酬の支払いが発生します。ただし、電子定款を作成することで収入印紙代を削減することもできるため、できる限りコストを抑えられる方法を検討しましょう。
起業後にかかる費用
無事に起業できた後も、事業内容によってさまざまな費用が発生します。例えば、以下の費用などが想定できるでしょう。
- 事務所賃料
- 在庫の仕入れ費用
- 複合機や固定電話などのオフィス機器導入費用
- 人件費
- 広告宣伝費
- ホームページ制作費用
これらの費用は事業内容などによって規模が異なりますが、正確に把握しておく必要があります。事業計画を策定する際には、起業前・起業後に費用がいくらかかるのか、個別具体的に試算しておきましょう。
起業について個人事業主と法人設立の違い
起業したいと考えている方の中には、個人事業主として起業するのか、法人設立を行うか迷われている方も多いのではないでしょうか。それぞれにメリット・デメリットがありますが、代表的なものは以下のとおりです。
| メリット | デメリット |
法人設立 | 社会的信用度が高い さまざまな節税対策が可能 法人形態のバリエーションが豊富 | 設立手続きが複雑 経理や税務に関しては専門知識が必要 数十万円の設立コストが必要 |
個人事業主 | 手続きが比較的簡単 税金の計算がしやすい 設立コストを抑えられる | 社会的信用度は法人に劣る 法人と比べて税金対策の幅が狭い 法人と比べて人材採用で不利 |
個人事業主と法人にはこのような違いがありますが、事業内容や将来の展望などによって選択すべき形態は異なります。どちらで起業するか迷っているという方は、専門家への相談も検討しましょう。
起業を成功させるためのポイント
「なぜ起業したいのか」「なぜ起業するのか」などの理由や動機を明確にする
起業するにあたり、まず重要なのが「起業する目的を明確にすること」です。根幹となる目的が定まっていなければ、事業を成功させることは困難といえるでしょう。起業はあくまでも目的を達成するための手段に過ぎず、起業した先にあるビジョンを明確に思い描くことが重要です。
起業にいくらかかるのかを把握して資金調達を行う
上述のとおり、起業前・起業後にはさまざまな費用が必要になります。起業に必要な費用を自己資金で賄うことが難しい場合は、外部からの資金調達方法も検討しなければなりません。まずは起業にいくらかかるのかを正確に把握し、金融機関からの融資や補助金・助成金などを活用して、資金調達を行っていきましょう。
起業するビジネスモデルをしっかりと考える
起業を成功させるためには、頭の中にあるアイデアを現実的なビジネスモデルにしっかり落とし込んでいかなければなりません。例えば、「誰に販売するのか」「自社のサービスがどのような価値をもたらすのか」「ビジネスを実現するためにはどのような工程が必要なのか」といった点を、具体的に検討する必要があります。
起業前にしっかりとしたビジネスモデルを構築できていれば、事業に失敗するリスクを抑えることが可能です。さまざまな角度から事業内容を見つめ直し、実現可能性の高いビジネスモデルを構築していきましょう。
起業する際に法人を設立するのか、個人事業主で始めるのかを決定しておく
起業する際には、個人事業主として開業するのか、法人を設立して起業するのかを決めなくてはなりません。どちらを選択するのかによって必要な手続きや費用が変わってくるため、先に決定する必要があります。上述した個人事業主と法人設立のメリット・デメリットなども参考にしながら、適切な事業形態を選択するようにしましょう。
失敗しない起業の流れを知りたい場合には専門家に相談を検討
今回は、法人を設立して起業した場合の流れなどを中心に、起業に関する論点を詳しく解説してきました。個人事業主と法人のどちらを選択するにせよ、起業には検討しなければならない事柄が数多くあります。すべての情報を収集するには時間と労力がかかるため、忙しい方にはあまりおすすめできません。失敗しない起業の流れを詳しく知りたいという方は、専門家への相談も検討してみてください。