不動産投資の規模が大きくなるにつれて、多くの投資家が「法人化」を検討し始めます。不動産投資の法人化には利点と注意点があるため、どの段階で法人化するかが重要です。この記事では、不動産投資を法人化すべき具体的なタイミングを解説します。法人化のメリット・デメリット、会社設立の流れについても分かる内容です。
目次
不動産投資で法人化を検討すべき3つのタイミング

不動産投資の法人化を検討するタイミングには、複数の目安があります。
課税所得が900万円を超えたとき
法人化を検討する最も分かりやすいタイミングは、不動産所得を含めた個人の課税所得が900万円を超えたときです。課税所得が900万円を超えると、超過する部分に対して33%の所得税率が適用されます。さらに10%の住民税が加わるため、実質的な税負担が4割前後に達します。
一方、中小法人に適用される法人税・法人住民税・事業税を合わせた実効税率は、標準税率で約34%台です。法人に比べて個人の税率が高くなる水準であり、法人化を検討する目安です。
相続税対策を考え始めたとき
将来の相続を視野に入れている場合も、法人化を検討する重要なタイミングです。個人所有の不動産は、そのまま相続財産として評価されます。
一方、法人を設立して不動産を法人に移すと、相続の対象は不動産そのものではなく、法人の株式です。株式の評価額は、不動産だけでなく、法人の負債や収益状況も反映されます。そのため、不動産単体で評価するより相続税評価額が下がる場合があります。
ただし、評価額は必ず下がるわけではありません。法人の財務状況によって変動するため、専門家に試算を依頼しましょう。
事業規模の拡大を目指すとき
今後、物件を買い増して不動産投資の規模を拡大していきたいと考えている場合も、法人化のタイミングです。健全な経営を続ければ、個人に比べて高額な融資や有利な金利での借り入れが可能です。資金調達の選択肢を増やし、事業拡大のスピードを上げるために法人化は有効な戦略と言えます。
不動産投資を法人化する5つのメリット
不動産投資を法人化することには、税金面を中心に多くのメリットが存在します。具体的には以下です。
- 所得税と法人税の税率差で節税できる
- 経費として認められる範囲が広がる
- 家族役員への給与支払いで所得を分散できる
- 損失(欠損金)の繰越控除期間が長くなる
- 相続や事業承継がスムーズに進む
ここでは、不動産投資を法人化するメリットについて詳しく解説します。
所得税と法人税の税率差で節税できる
法人化による最大のメリットは、所得税と法人税の税率差を利用した節税効果です。
個人の所得税は税率5%から最大45%までの超過累進課税であり、所得が増えるほど税率が上がります。一方、法人税は資本金1億円以下の中小法人の場合、所得800万円以下の部分が15%、800万円超の部分が23.2%と、一定の税率が適用されます。
このため、個人の課税所得が一定額(一般的に900万円)を超えると、所得税率が法人税率を上回るため、法人化して法人税を納める方が税負担を軽減できるのです。
経費として認められる範囲が広がる
法人化すると、個人事業主と比べて経費として認められる範囲が広がります。例えば、一定の要件を満たした役員報酬(定期同額給与など)を経費として計上できるほか、社宅制度を活用して自宅家賃の一部を経費化することも可能です。
また、生命保険料や退職金についても、契約内容や支給の理由が税務上の基準を満たす場合に限り、損金算入が認められます。
制度ごとに条件が異なるため、適用の可否は事前に確認が必要です。適切に活用できれば、課税所得を大幅に抑えることが可能です。
家族役員への給与支払いで所得を分散できる
家族を法人の役員とし、事業への貢献度に応じた役員報酬を支払うことで、一人に集中しがちな所得を家族に分散できます。個人事業主の青色事業専従者給与制度と比べて、給与額の設定や対象者の範囲に柔軟性があります。
所得を分散することにより、オーナー自身の所得税率を下げると同時に、家族それぞれが給与所得控除を受けられるため、世帯全体で見た場合の手取り額を増やす効果が期待できます。結果として、世帯全体の税負担を抑えやすくなります。
損失(欠損金)の繰越控除期間が長くなる
不動産経営で赤字(欠損金)が出た場合、その損失を翌年以降の黒字と相殺できる繰越控除という制度があります。個人事業主の青色申告では、この損失を繰り越せる期間は最長で3年です。
しかし、法人の欠損金は、原則として最長10年間繰り越して、将来の黒字と相殺できます。大規模修繕などで一時的に大きな赤字が発生しても、個人に比べて長期間にわたって将来の利益と相殺できるため、安定した経営を図ることが可能です。
参考:No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除
相続や事業承継がスムーズに進む
法人化は相続や事業承継の面でも大きなメリットがあります。個人所有の不動産は相続時に分割が難しく、所有権の移転登記も必要です。法人所有であれば相続財産は不動産そのものではなく、会社の株式となります。
株式は1株単位で分割できるため、相続時の分配が柔軟になる点は法人化の利点です。また、生前に株式を後継者へ計画的に移転することで、事業承継を進めやすくなる場合があります。ただし、株式の分散は、重要な会社の意思決定が難しくなるため注意しましょう。
不動産投資を法人化する4つのデメリット

法人化には明確なデメリットもあるため、事前に把握することが重要です。会社を設立し、維持していくためにはさまざまなコストや手間がかかります。
会社設立や運営にコストがかかる
個人事業主の開業は届出だけで済むため費用はほぼ0円ですが、法人を設立するにはコストがかかります。
株式会社の設立には、登録免許税15万円と定款認証費用約5万円の合計で20万円前後が目安です。電子定款を利用すれば、収入印紙税(4万円)が不要になります。合同会社の設立費用は6万円程度が目安です。
専門家へ依頼する場合は登録免許税などの費用とは別に追加費用がかかります。また、設立後も運営コストとして、税理士への顧問料や、赤字でも発生する法人住民税、社会保険料の会社負担分などが継続的にかかります。
法人化は運営コストを負担しても節税効果が得られるかを、事前にシミュレーションすることが重要です。
赤字経営でも法人住民税の支払い義務がある
法人を設立すると、赤字であっても法人住民税の「均等割」を毎年支払う必要があります。均等割の金額は自治体や資本金の規模などによって異なり、資本金1,000万円以下の場合で年間おおむね7万円程度が目安です。
事業の収益が安定する前から固定費として発生するため、法人化の前に均等割の納税額を確認しておきましょう。
会計処理や事務手続きが複雑になる
法人の会計処理や税務申告は、個人事業主の確定申告と比べて格段に複雑になります。複式簿記による正確な記帳が求められ、決算書の作成や法人税申告書の提出など、専門的な知識が必要です。
法人化後の会計処理や申告業務は、税理士に依頼するのが一般的です。専門家に依頼すれば、作業負担を減らし、申告ミスのリスクも抑えられます。
法人の資産を個人で自由に使えなくなる
法人と個人は別の主体であるため、法人の資金を私的に使用した場合には、税務上「役員貸付金」などとして処理され、利息が生じることがあります。
生活費などで会社の資金を自由に使うことはできず、役員報酬や配当など、正規の手続きを経て受け取る必要があります。
また、法人化すると、法人と個人は法律上別の納税主体となるため、法人の経営上の赤字を個人の給与所得と相殺(損益通算)できません。法人の欠損金は法人の中でのみ繰越控除として処理でき、個人の税金には影響しません。
法人化を急ぐ必要がない2つのケース
法人化はメリットが多いものの、すべての投資家に最適とは限りません。状況によっては、法人化することでかえって税制上のメリットを失ったり、コスト負担が重くなったりする場合があります。
不動産所得が赤字で給与所得が高い場合
不動産投資初期では、減価償却費などの経費が先行し、不動産所得が赤字になることがあります。給与所得などの他の所得がある場合、この不動産所得の赤字を給与所得と相殺(損益通算)することで、全体の課税所得を圧縮し、所得税の還付を受けることができます。
しかし、法人化するとこの損益通算は利用できなくなります。高額な給与所得があり、損益通算による節税メリットを大きく享受している場合は、不動産経営が黒字化するまで法人化を見送る方が有利な場合があります。
専業大家で不動産所得が330万円以下の場合
給与所得などがなく、不動産投資を専門で行っている専業大家で、課税所得が330万円以下の場合は、法人化を急ぐメリットは少ないでしょう。個人の所得税率は課税所得195万円超330万円以下の部分で10%であり、住民税と合わせても税負担は比較的低く抑えられます。
この所得水準では、法人税の実効税率を下回ることが多く、さらに法人化に伴う設立費用や運営コスト、赤字でも発生する法人住民税均等割の負担を考慮すると、かえって手残りが減少してしまう可能性が高いです。
まとめ
不動産投資において法人化を検討する主なタイミングは、課税所得が900万円を超えたとき、相続税対策を考え始めたとき、そして事業規模の拡大を目指すときの3つです。
法人化の主なメリットには、所得税と法人税の税率差を利用した節税や損失(欠損金)の繰越期間の長期化などです。一方で、会社設立や運営にかかるコストや赤字でも生じる法人住民税の支払い義務があります。
法人化を成功させるには、メリットとデメリットを自身の事業規模や将来計画と照らし合わせ、最適なタイミングを慎重に見極めることが大切です。自身の所得状況や今後の投資方針を十分に踏まえ、専門家と相談しながら最適な法人化のタイミングを見極めましょう。








