元請け業者に「税務調査が入った」という話を聞くと、下請けとして取引がある自社にも「調査が来るのではないか」と不安になる方も多いでしょう。税務署による税務調査は、元請け業者の申告内容を検証することが主な目的です。しかし取引先の情報によっては、情報の正確性を判断するべく、取引先である下請け業者にも調査が及ぶ可能性があります。この記事では、元請け業者が税務調査を受けた際に、下請け業者にまで調査が及ぶ可能性と仕組みについて解説します。事前対策についても解説しているので、下請け業者として活動する事業者の方は今後の参考にしましょう。
目次
元請け業者の税務調査は下請けまで及ぶ可能性がある

結論からお話しすると、元請け業者への税務調査後、下請け業者にまで調査が及ぶ可能性は十分にあります。そもそも税務調査の主な目的は、元請け業者の申告内容が正しいかどうかを確認することです。
しかし、取引実態や申告内容に関する信憑性が確認できないときは、より深く調べるべく、下請け業者も調査対象とすることがあります。
一例としては、元請け業者が計上する外注費において、取引先である下請け業者と結託し架空請求をしている可能性があるといったケースです。元請け業者の申告内容等にもよりますが、さまざまな事情によって、下請け業者に調査が及ぶ可能性があることを押さえておきましょう。
税務署が下請け業者まで調査範囲を広げる3つの理由
元請け業者に対して税務調査が行われるなか、場合によっては必要に応じて調査範囲を取引先まで広げることがあります。主な理由は、下記の3つです。
元請けの外注費が適正に計上されているか確認するため
元請け業者が下請け業者に支払った外注費は、元請けの経費として計上することが一般的です。この外注費が架空の取引や金額の過大計上ではないかを確認すべく、実際に取引が行われた下請け業者に調査が入ることがあります。
1か月に複数回、同じ下請け業者から請求書が届いている、特定の月だけ請求金額が高いといったときは調査範囲を広げる可能性が高いです。
下請けへの支払いが外注費か給与かを判断するため
形式上は外注費と処理されていても、実態では給与とみなされるケースが少なくありません。 例えば、元請け業者から指揮命令を受け、業務を遂行している場合です。こうしたケースは給与と判断できる可能性があるため、下請け業者にまで調査を広げ、業務内容を確認することがあります。
仮に給与とみなされる取引であれば、源泉徴収義務や消費税の取り扱いが異なるため、細部まで調べられる可能性があるでしょう。
取引の裏付けを取る「反面調査」が行われるため
反面調査とは、元請け業者の帳簿だけでは把握が難しい取引の実態を、取引先である下請け業者の帳簿・資料と照合して確認するための調査のことです。元請け業者の取引に透明性がみられない場合は、反面調査として下請け業者に調査が及ぶ可能性もあります。
元請け業者への税務調査から下請け業者が特定されるまでの流れ

元請け業者への調査から、どのような流れで下請け業者が特定されるのでしょうか。具体的には下記3つの流れを経ることが多いです。
元請けの帳簿や請求書から取引先(下請け)をリストアップ
元請け業者への税務調査では、対象税目に応じて確認書類が異なります。しかし、調査官が外注費に違和感を抱く場合であれば、元請け業者の帳簿や下請け業者から届く請求書に目を通し、下請け先を把握されることが多いです。
取引内容や外注費の金額を確認しつつも、元請け業者の過大請求に関与していないかを調べるべく、リストアップされることがあります。
特定した下請け業者の確定申告状況をシステムで照会
上項でリストアップされた取引先の情報から、税務署は国税庁が管理するデータベースを使い、下請け業者の納税者番号を照会します。
仮に社名・所在地を変更していたとしても、正確な事業者情報を特定し調査へ踏み切ることができます。
申告内容に不審な点があれば調査対象として選定される
KSKシステム等を用いて特定された下請け業者の過去の確定申告状況を、国税総合管理システム(KSKシステム)等で確認します。
システム利用を通じて、元請け業者の帳簿に記載された取引額と下請けが申告した売上額に乖離がないかをチェックするのです。
納税者番号と法人番号による紐付け
KSKシステム等での照会の結果、売上申告が極端に少ない、あるいは無申告だった場合、税務調査対象とみなされます。
単に元請け業者との調査やヒアリングで把握するのではなく、システムを使うことも念頭に置くことが大切です。
参考:番号制度及び国民 ID 制度の税務行政への適用について|国税庁
参考:税務調査において、個人番号を指定した調査要求があった場合、その個人番号に基づいて資料の検索を行うことはできますか。
税務調査で下請けの無申告が発覚した場合のペナルティ
税務調査によって、下請け業者の無申告が発覚した場合、国税庁よりいくつかのペナルティが課されます。具体的には、過少申告等による納税で、下記のような税金が発生します。
本来の税額に加えて「無申告加算税」が課される
法定申告期限までに正確な所得について申告しなかった場合は、状況に応じて無申告加算税が課されます。具体的な状況は下表の通りです。
税務署からの調査の事前通知の前に自主的に期限後申告を済ませた場合 | 納付すべき税金に対して5% |
税務署からの調査の事前通知の後に期限後申告を済ませた場合 | 納付すべき税金に対して10~25% |
税務署の調査を受けた後に期限後申告を済ませた場合 | 納付すべき税金に対して15~30% |
なお、令和5年分以降の期限後申告は、その金額に応じて加算税が異なります。
納税すべき税金が50万円までの部分 | 10% |
50万円~300万円までの部分 | 15% |
300万円を超える部分 | 25% |
期限後申告であっても納税額が多いほど加算税も増える仕組みのため、日常的に正確な金額を申告することが大切と言えるでしょう。
納付が遅れた日数分だけ「延滞税」も発生する
納付が遅れた場合は、法定納期期限の翌日から完納する日までの延滞税を併せて納付しなければなりません。
本税の納税が遅れたことに対する利息のような意味合いを持ち、年率で計算され、日ごとに加算されます。
参考:延滞税の計算方法|国税庁
悪質な所得隠しには重い「重加算税」が課されるケースも
売上を除外する、あるいは元請け業者と結託して請求書等の仮装・隠ぺい行為を行っていたと判断された場合は重加算税が課されます。無申告加算税ではなくなり、さらに重い納税に位置しており、税率は35~40%と高いことが特徴です。
なお、重加算税は、過少申告、無申告、または不納付のいずれかにおいて、事実の仮装・隠ぺいがあった場合に課されます。
追徴課税の一括納付が難しい場合
経営状況によっては、追徴課税の一括納付が困難な場合もあるでしょう。所得税や消費税は国税であるため、原則、一括納付が義務付けられています。
ただし、状況によっては納税の猶予制度を利用できる場合もあります。猶予制度の利用にあたっては、所轄の税務署に申請書、必要書類の提出が必要ですが、相談すること自体は可能です。
自分だけではどうにもできないときは、できるだけ早いうちに税理士に相談し、状況に適したサポートを受けましょう。
税務調査の通知が来る前に下請け業者がすべきこと

税務調査の通知が届くと、どうしても慌ててしまうものです。たとえ正確な数字で申告しても、税務調査と聞けば誰しも不安になることはやむを得ません。ここからは、税務調査前に下請け業者がすべきことについて解説します。
取引の証拠となる契約書や請求書を適切に保管する
まずは取引の証拠となる契約書や請求書の存在を確認しましょう。1人親方や普段から領収書や請求書等を大切に保管する習慣がない方は、すでに破棄している可能性があります。
事業所が発行した請求書については、現状、保管の義務はありません。しかし、インボイス制度に伴い、適格請求書を交付した場合は、その控えの作成のほか7年間の保管が義務化されています。請求書等の保管期間について熟知していない方は、この機会に長期間保管できる環境に整えておくこともおすすめです。
無申告状態であれば自主的に「期限後申告」を行う
もし、下請け業者である事業の申告状況が無申告であれば、税務調査の連絡が入る前に自主申告を行いましょう。確定申告期日を過ぎた後の申告を「期限後申告」と呼びますが、期限後申告によって無申告加算税が軽減される場合があります。
申告内容に不安があれば税理士へ相談する
これまでの申告内容に不安があるときや、税務調査の対応に自信が持てないときは、税理士に相談することをおすすめします。税理士は税務のプロとして税務調査の対応にも精通しています。
そのため、相談者の意向や悩み、不安に沿ったアドバイスや代理対応も可能です。税務調査の不安を解消へとつなげ、適切な対応で乗り切りたいときは、最寄りの税理士に相談することからはじめてみましょう。
まとめ
元請け業者への税務調査は、主に取引の透明性と適正性を判断するために行われます。帳簿内容や状況によっては下請け業者にまで調査対象が広がる可能性も高いことから、常に透明度の高い取引を心がけなければなりません。
たとえ正確な数字を使い確定申告を済ませたとしても、税務調査が入るかもしれないと見聞きすると、不安を抱くこともあるでしょう。
そのようなときは、「小谷野税理士法人」までお気軽にご相談ください。










