資金の調達を急ぐときに手形割引をする際には、メリットだけでなくデメリットにも目を向けて検討することが大切です。約束手形は、手形の振出人が受取人に対してあらかじめ決められた日に代金の支払を約束するものです。しかし、手形の受取から実際の支払日まで数カ月待たなければならないことが多く、即現金化を求めて手形割引をするケースが見られます。この記事では、手形割引の際に気を付けたいデメリット、資金繰りへの影響、実務上の注意点まで説明します。
目次
支払日よりも前に資金化できる手形割引

手形割引とは、受け取った約束手形に指定された期日より前に現金を必要としているとき、銀行もしくは専門の業者に手形を売却して資金を得ることです。手形割引をする際には、以下のような流れで手続きを進めます。
- 振出人が約束手形を発行する
- 受取人が銀行もしくは専門業者に手形割引を申し込む
- 割引依頼先が手形内容を審査
- 割引料を差し引いた額が受取人に支払われる
- 支払期日になったら振出人が割引先に額面金額を支払う
手形は受け取り後にすぐに売上として計上できますが、実際には手元に使える現金がない状態です。そのため、手数料を支払ってでもすぐに現金を必要としているときは、銀行や業者に手形を売却する手形割引が有効な選択肢だと言えるでしょう。
参考:国税庁 金融業者が受け取った手形の譲渡と課税売上割合の計算
手形割引のデメリット
できるだけ早く現金が必要なときの資金調達手段として役立つ手形割引ですが、デメリットも理解したうえで手続きを進めるのが望ましいです。ここでは、手形割引のデメリットについて紹介します。
割引時に手数料が発生する
手形の支払期日の到来まで待てば、払う必要のなかった割引手数料を払わなくてはいけません。手形割引料(手数料)は、どこに依頼するかによって相場が異なりますが、以下の手数料率が一般的な目安です。
- 銀行(主に都市銀行) 2~3.5%
- 信用金庫 2.5~4.5%
- 専門業者 2.5~15%
手数料は、手形割引の依頼先だけでなく、手形を発行した企業の信用状況、手形の割引を依頼した日から支払期日までの期間など、複数の要素を総合的に判断して決まります。
銀行に割引を依頼した場合は依頼から現金化まで数日かかる一方、専門業者なら即日対応可能なケースもあります。
手数料は手形割引の審査結果や依頼先によって異なるため、手数料を差し引いた後の受取額に大きな違いが生じる可能性があります。手形割引にかかる手数料がそれほど高額ではなかったとしても、利用頻度が高くなると費用が増えて、資金繰りの悪化を招くおそれがあります。
不渡りが起きた場合の負担が大きい
手形の振出人が支払期日までに現金を用意できない不渡りが発生した場合、割引を依頼した手形の受取人の負担が大きくなる可能性があります。
割引手形を買い取った銀行や専門業者が手形の振出人から代金を回収できなかったとき、手形の受取人に対して手形の返還を求める権利(償還請求権)があるからです。
そのため、振出人の資金不足による不渡りが発生したときに、手形割引の依頼先から手形の買い戻しを求められ、想定外の出費が生じるかもしれません。
資金をできるだけ早く得るために手形を割引しても、不渡り発生時には手形を買い戻す資金が必要となり、資金繰りをさらに厳しくするリスクがあります。
手形の額面を分割して割引できない
手形に書かれてある金額について、原則として全額を対象に割引をしなくてはならず、必要な額だけを現金化できません。例えば、額面が200万円の手形を受け取った場合、額面の半額の100万円の現金が必要だったとしても、分割して割引できないのです。
手形の割引では額面に応じた手数料が発生するため、額面が高額だった場合は高い手数料を支払わなければならない可能性もあります。原則、手形に記載された金額の一部だけを割引できませんが、振出人の承諾を得られれば例外として分割できるかもしれません。分割による手形割引を希望している場合は、まずは振出人に相談してみましょう。
手形割引のメリット

手形割引にはデメリットだけでなく、利用によるメリットも期待できます。ここでは、手形割引による主なメリットについて紹介します。
短期間で現金化ができる
約束手形の期日まで支払を待つよりも、早い現金化が可能です。約束手形の受取から支払までの期日は、3~4カ月と長めに設定されることが多いです。
手形を受け取ってすぐに売上として計上できるため、帳簿上は資金があるように見えるでしょう。しかし、実際に使える現金が手元にないため、経費支払などで資金不足に陥るリスクが高い状態です。
資金の不足が懸念されたとき、手形割引により早期現金化を実現できれば、滞りなく必要経費を支払えるでしょう。
その他の融資と比べ審査に通りやすい
資金が足りないときに検討する金融機関などの融資よりも、手形割引の審査は通りやすいと言われています。
手形割引を依頼した際には依頼先が審査を行い、特に振出人に問題がなければ審査が通るケースがほとんどです。
金融機関から融資を希望する場合、融資の申し込み者である企業や個人を厳格に審査するため、たとえ大企業でも融資を断られる可能性もあり得ます。
一方、手形割引では実際に期日に支払をする振出人の信頼性に重点を置くため、振出人に問題がなければ審査が通る可能性が高いです。
手形割引では約束手形を発行する企業の信用度が重視されます。受取人である個人事業主や中小企業の信用状況や取引条件による影響は少ないため、スムーズに現金化できることが多いです。
融資と比較して手数料が低い
手形割引の際に支払う手数料の方が、融資の利子よりも安く済む可能性が高いでしょう。金融機関から融資を受けた際には、契約時に定めた期間内で借入金と利息を合わせた額を分割して返済します。
手形割引の際に支払う手数料は比較的低めに設定されているため、金融機関からの借入金にかかる利子よりも負担が少ないからです。
買掛金など必要経費の支払に充てる資金が不足しているとき、借入金で不足分を補う必要性に迫られるかもしれません。
手形割引に伴うデメリットの一つとして、割引手数料の支払により支払期日まで待つよりも受け取れる金額が少なくなることがあげられます。
しかし、借入金を増やすよりも手形割引による現金化と手数料を支払った方が、資金繰りへのダメージが少なくなる事例があります。
安心・円滑な手形割引のための注意点
いくつかの点に注意して手続きを進めることで、不渡りのリスクをできるだけ減らし、安全な手形割引の実現が期待できます。ここでは、円滑な手形割引のための注意点について詳しく説明します。
手形割引可能か否かを調べる
手形のすべてが割引可能ではないため、まずは受け取った手形が割引可能か否かを調べましょう。一部の手形は条件次第で割引できないケースがあるためです。特に、次のような手形には注意が必要です。
手形の割引枠を超えて依頼した
銀行は取引先ごとに、手形割引根保証を含んだ割引限度を設けています。この上限を超えて手形割引の申請を行うと、追加の担保を求められたり、受付を拒否されたりする可能性があります。
個別銘柄の限度枠を上回っている
手形の種類ごとに個別の割引枠が設定されている場合、全体の枠には余裕があっても特定の銘柄の枠を超えていると割引が認められない事例があります。
振出人の信用状態に懸念がある
与信調査で振出人の信用力に問題があると判断された場合、不安定とされる業種に属していると見なされた際には、割引の申し出を断られるケースがあります。上場している企業であっても信用不安が噂されると取引を拒否される例も見られます。
融通手形と見なされた
通常の商取引と比べて金額が著しく高額な手形や、業種が異なり実際の取引が不自然と受け取られるような手形については融通手形と判断され、割引を受け付けてもらえないことがあります。
裏書が制限されている手形
手形の表面に「指図禁止」「裏書禁止」あるいは「○○殿(御中)限り」といった記載がある場合、その権利関係は振出人と最初の裏書人に限定されるため、第三者への譲渡を前提とする割引は利用できません。
上記の要件に該当する場合、手形割引できない可能性が高いです。割引可能か否かの判断が難しいときは、税理士や銀行などに相談してみましょう。
手形割引の条件を確認する
手形割引の依頼先である銀行や業者は複数あるため、それぞれの手形割引条件について調べましょう。手形割引の条件、必要な書類、手続きなどは依頼先によって異なるからです。
事前に条件や必要書類について調べ、できる限り準備しておくと滞りなく手続きを進行できるでしょう。
信用力の高い手形を割引する
不渡りのリスクを低減するためには、信用力が高い振出人の手形を割引することです。手形割引を依頼しても、不渡手形になれば手形を払い戻さなくてはならず、資金不足を招く危険性を高めます。
また、手形割引を依頼する際には依頼先の銀行もしくは業者が、振出人の支払能力を調査するため、調査の結果次第では手形を現金化できません。
できるだけ早い現金化を望むなら、振出人である企業を調査し資金繰りや経営に問題点がないかを調べましょう。また、振出人の企業と直接取引をしている担当者から、振出人についてヒアリングすることで有益な情報を得られる可能性があります。
急ぎで資金が必要なときの選択肢の一つファクタリングとは?

さまざまな事情で資金を必要としているとき、手形割引以外に現金を調達する手段としてファクタリングがあります。売掛金などの売掛債権をファクタリング会社に買い取ってもらい、現金化するのがファクタリングです。
売掛金を実際に回収できるまである程度の期間が空いてしまうと、他の支払などが重なり資金が不足するリスクがあります。ファクタリングなら、短期間で資金を準備できるため、資金不足を補う手段として活用できます。
ファクタリングのメリット・デメリット
資金を必要としているときに活用できるファクタリングですが、メリットとデメリットがあります。それぞれを理解したうえで利用を検討しましょう。
ファクタリングのメリット
ファクタリングの主なメリットは、スピーディーな現金化が期待できる、償還請求権がない、売掛先の信用力が重視されることです。
早期で現金化を希望する場合、金融機関の融資は申し込みから資金の受取まで数週間から数カ月かかり、必要なときまでに資金を調達できない事例があります。
また、ファクタリング利用の際には、担保や保証人も不要です。さらに、ファクタリングの利用が信用情報に影響を与える可能性はないため、今後融資を申し込む際に懸念材料となることもありません。
手形割引では、手形の発行企業が期日までに資金を支払えない場合、売却した手形を買い取られなければいけない償還請求権がありました。そのため、手形の不渡りが発生した際の負担が重いです。ファクタリングの場合、売掛金の回収が難しくなってもファクタリング会社から請求を受けることはありません。
ファクタリング会社に売掛債権を売却した時点で、返済不要な資金を調達できることは安心感につながります。
ファクタリング利用時に審査されるのは、売掛債権の信用力です。例えば、社会保険料や税金の滞納、赤字経営といった融資申し込み時に不利となるような状況でも、ファクタリングを申し込みできます。
ファクタリングのデメリット
早期現金化などさまざまなメリットが期待できるファクタリングですが、デメリットもあります。主なデメリットは、手数料がかかる、取引先に知られる可能性がある、取引先の信用度でファクタリング利用の可否が決まることです。
手形割引と同様に、ファクタリングも手数料がかかります。手数料の額は契約の種類や利用する会社によって異なるため、一概には言えません。また、ファクタリングの利用が得意先(売掛債権の発行元)に知られると、得意先から不信感を抱かれることもあります。
売掛債権の発行元の信用状況次第でファクタリングの可否が決まるため、ファクタリングを断られる場合があります。
約束手形と小切手廃止による影響
紙媒体の約束手形と小切手は2026年度末での廃止が決まっています。ここでは、紙媒体の約束手形や小切手廃止による影響について詳しく説明します。
約束手形の廃止で資金繰りが安定する
約束手形の廃止に不安を感じるかもしれませんが、廃止によりさまざまなメリットが期待できます。
まずは、資金繰りの不安要素が軽減されることです。手形のように発行日から資金の支払まで数カ月かかっていた決済手段がなくなるため、現金化までの期間が短縮されます。
適切に資金繰りを管理していれば、即現金化のために手形割引のような手続きをする機会も減るでしょう。
他にも、紙の手形の廃止により手形の管理や事務手続きの負担とコスト削減、紛失や盗難のリスクが少なくなるといったメリットが得られます。
約束手形の代替手段
今までは約束手形で売掛金を支払っていた企業も、他の手段で支払しなくてはいけません。個人事業主や企業は、下記の決済手段を利用する可能性が高いです。
- 銀行振込
- でんさい
- クレジットカード
- デビットカード
- QRコード決済
いずれの決済手段も、手形よりも短期間での現金化が期待できます。そのため、帳簿上は資金があるように見えても実際は資金が不足するリスクを減らせます。
手持ち資金が不足した際に利用する手形割引やファクタリングなどは、手数料がかかるため、日頃から資金不足が起きないような対策が重要です。専門家から資金繰りを定期的にチェックしてもらうなどして、資金繰りの安定に努めましょう。
手形割引のデメリットを理解し適切な資金調達を実現
手形割引は、手数料の発生や不渡りのリスクなどのデメリットがあるため、早期現金化のための手段としてよく検討する必要があります。ただし、紙の手形は2026年度末に廃止が決まっていることから、手形割引を利用する機会は今後少なくなるはずです。資金不足に陥るリスクを減らすためにも、専門家に定期的に資金繰りをチェックしてもらいましょう。








