契約書を交わさずに共同経営を始めることは、極めてリスクが高い行為です。共同経営は友人や知人、家族など信頼できるパートナーと始めることが多いため、契約書なしでも大丈夫だと考える方も多いでしょう。しかし、信頼があるからこそルールや責任、権利について文書で明らかにすることが推奨されます。ここでは、契約書がないことによるリスクや、契約書へ盛り込むべき記載事項を解説します。
目次
契約書なしで始める共同経営に潜むリスク

信頼できるパートナーとの共同経営という理由で契約書を交わさずに会社を設立しているケースも多いですが、契約書なしで始めることは極めて危険な判断と言えます。
ビジネスでは金銭や責任が絡む局面も多く、ルールが不明確だとトラブルに発展する恐れがあります。
起業前に、契約書なしで共同経営を始めることの危険性について知っておくことが大切です。
パートナー間での「言った・言わない」問題が生じやすい
会社の経営では、経営判断や資金の使い道、利益の分配など、さまざまな場面で意思決定が求められます。
こうした意思決定を口頭の合意だけで進めれば、後から「そんなこと言っていない」「勝手に決めないで欲しい」「聞いていない」などのトラブルがパートナー間で発生しやすくなります。
重要なことは、お互いが共同経営においてどのような役割を担い、どの程度の経済的責任を負っているかを明確にしておくことです。
問題が起きた際の決定権や責任の所在が曖昧なままでは、複雑な事態になりかねません。
トラブルが訴訟に発展するケースもある
共同経営でもっとも多いトラブルが、お金に関するものです。
とくに出資割合や利益配分について明確な取り決めがなければ、あとから「出資額と利益の分配が釣り合っていない」などの不満が生じる可能性があります。
問題が解決しなければ、訴訟や裁判に発展することも考えられるでしょう。
こうしたトラブルを未然に防ぐためにも、契約書による明文化が推奨されます。
事業継続・終了に関する合意がないと混乱を招く
共同経営が順調に続くとは限りません。
ビジネス上の考え方の違いや、ライフスタイルの変化、健康問題、家庭の事情など、パートナーもしくは自分自身が事業から離れなければならないような事態は起こり得ます。
こうした場合、「どのような手続きで事業から抜けられるのか」「残る側と離れる側と資産や負債をどのように分けるのか」といった点が決まっていなければ、パートナーとトラブルに発展する恐れがあります。
また、複数人で共同経営している中で一人が抜けた際には、残されたメンバーでの事業継続の可否や、法人の解散の必要性などの判断が求められることもあるでしょう。
こうした事業継続や終了に関する重要な場面でスムーズな対応を行うためには、あらかじめ契約書に脱退や解散に関する条項を盛り込んでおくべきです。
脱退や解散について明らかになっていれば、関係を円満に保ったまま、それぞれの新たな道へ進むことができます。
会社の解散に関することは、下記の記事を参考にしてください。
契約書が果たす3つの重要な役割

契約書は単なる形式的な書類ではありません。
共同経営を円滑に進める上で、互いの信頼関係を保ちながらビジネスを継続するために必要なルールや証拠などの役割を果たします。
ここでは、共同経営契約書が持つ3つの本質的な役割について解説します。
将来的なトラブルの防止
共同経営における契約書は、事業運営のルールブックとも言えます。
出資割合や業務分担、意思決定の方法など事業運営において重要なことを明文化することで、将来的なトラブルや認識のズレを防ぐことができます。
とくにビジネスが軌道に乗れば、「功績の取り合い」や「経営方針の食い違い」などのトラブルは起こりやすいものです。
こうしたトラブルも、事前に契約書によってルールを決めておけば冷静に対処できます。
法的効力と客観性を持った判断基準になる
契約書は単なる確認書ではなく、法的拘束力のある文書です。
例えば、共同経営者間でのトラブルが発生して協議で解決できずに裁判や調停に発展した場合、契約書に記載されている合意内容が裁判所などの判断を左右する重要な資料になります。
契約内容が文書化されていなければ、「口頭で合意していた」と主張しても、それを証明することは難しく、自分の不利な結果になることも考えられるでしょう。
一方で、契約書があれば、客観的な事実として合意内容を証拠として示すことが可能です。
金銭・権利・義務を証明する根拠資料になる
共同経営においては、「誰がどれだけ出資したのか」「どんな役割を担い、どのような権利を有しているのか」といったことが、後から問題になるケースがあります。
こうした問題が起こった際に、契約書があることは大きな意味を持ちます。
契約書に取り決めを残しておけば、出資比率や業務分担、報酬の取り決めなどが明瞭になり、曖昧な主張や記憶違いによる争いの予防が可能です。
万が一トラブルが起こっても、契約書が根拠資料になります。
また、取引先や金融機関などの第三者に対しても客観的な説明資料として提示できるため、外部との関係構築の場面でも安心材料になるでしょう。
共同経営の契約書に盛り込むべき記載事項

共同経営における契約書は、事業の運営を円滑に進めるために欠かせません。
その内容が曖昧なものであったり、重要な点が抜け落ちていたりすると、後からトラブルを招く可能性があります。
そこで、ここからは契約書に記載すべき主要な項目について解説します。
事業の目的と内容
事業の目的と内容を契約書に記載することは、経営の土台となる基本方針が明確になり、どの方向に向かって事業を進めていくべきかという点を関係者全員で共有できます。
市場やターゲット層、将来的な展望など、事業の具体的なイメージまで記載することが望ましいです。
この記載は、経営方針をめぐって対立が生じた際の基準になります。
曖昧な目的や抽象的な表現にすると解釈の違いが生じやすくなるため、初期段階でしっかり言語化しておくことが大切です。
出資金と持分比率
出資金と持分比率は、共同経営の契約書において最も重要な項目のひとつです。
「誰が」「いくら」「どのような形で出資したのか」という点を具体的に記録しておくことは、経営上の責任と権限のバランスを支える基準や、利益分配の根拠になります。
現金による出資だけではなく、設備や知識、人的ネットワークなどを現物出資として扱う場合は、その評価額や内容について具体的に記載しましょう。
また、出資比率によって経営判断への発言権やリスクの負担割合も変わるため、契約書に記載された出資情報は経営の公正性や透明性を保つために欠かせない項目です。
出資を後から追加する場合や、出資を引き揚げる際のルールなども定めておくと、より安全です。
業務分担と役割
共同経営では、業務分担と役割を明確に決めておかなければ、後になって不公平やトラブルが生じやすくなります。
契約書には、各メンバーの日常業務・責任範囲・意思決定の関与レベルなどを具体的に記載しましょう。
例えば、A氏は経理・会計・資金管理を担当し、B氏は営業・顧客対応・販促企画を主軸とするなど、実務上の役割を分担します。
責任範囲については、「各自が担当する分野において最終的な判断と報告義務を負う」と明記することや、損失が出た場合の責任の分担(過失の有無や金額に応じた比率)を定めると良いでしょう。
意思決定の関与レベルについては、「〇万円以上の契約は2名以上の合意を要する」「新規事業の立ち上げは全員の合意を条件とする」などのルールを設けると、意思決定の透明性が高まります。
このように、業務分担と役割を明文化することで責任の所在が明確になれば、トラブル防止につながります。
ただし、業務内容や役割は、事業の成長や人員の増減により変化することが予想されます。
そのため、定期的に業務分担や役割を見直すルールも併せて契約書へ盛り込んでおけば、会社の柔軟な運用が可能です。
会社における役員の種類や役割に関しては、以下の記事を参考にしてください。
意思決定のルール
共同経営では、日々の業務から将来の事業展開まで、多くの意思決定が求められます。
そこで重要になるのが、意思決定のルールです。
意思決定のルールが曖昧なままだと、「誰の意見を優先すべきか」「全員の賛成が必要か」といった点で衝突が生まれやすくなります。
契約書には、「重要事項は出資比率に応じた多数決」や「日常業務は担当者の一存で判断可能」など、意思決定の基準や方法を記載しましょう。
意思決定のルールを契約書に記載することは、経営判断の公平性と効率を高めることにつながります。
利益・損失の配分
出資比率や貢献度に応じ、どのように利益を分配するのかは、あらかじめ明確にしておく必要があります。
契約書でこの取り決めがなければ、事業が成功して利益が出たタイミングでトラブルが起こり得ます。
出資割合に応じた分配が一般的ですが、柔軟に決定することが可能です。
例えば、業務負担や成果に応じたインセンティブを報酬に追加する方法もあります。
また、利益だけではなく、赤字が出た場合の損失の分担割合も明記が必要です。
損失の分担割合も明らかになっていれば、想定外の出費や経済的ダメージが発生した際の責任の所在や対応方針が決まっているので、感情的な対立や責任の押し付け合いを避けられます。
損益分岐点を改善しておけば損失が出ることを避けられる可能性があるため、下記の記事を参考にしてください。
脱退・解散の条件と手続き
共同経営では、事業継続や発展のためのルールだけではなく、脱退や解散のルールを決めておくことも重要です。
事業を何らかの理由で途中で抜けることや、パートナーの誰かが離脱を希望するようなことは将来的に起こる可能性があります。
脱退や解散の手続きについて決められていなければ、トラブルになるかもしれません。
「脱退する際の持分の買取価格」や「引継ぎメンバーについて」「営業は継続するのか清算するのか」など、重要な点は事前に契約書にルールとして決めておきましょう。
手続きの例としては、「脱退希望者は〇日前までに書面で通知を行い、他のパートナーと協議のうえで退任日・引継ぎ・買取条件を決定する」など、明確なフローを設けておくと安心です。
また、法人が解散する場合の資産や負債の分配方法もトラブルになりやすいため、明確にしておくことを推奨します。
会計・税務処理の分担や方針
共同経営では、日々の会計処理や税務申告なども重要な業務のひとつです。
こうした実務的な処理の担当や方針を決めておかなければ、誤った記帳や納税の遅延など、罰則のリスクや会社の信頼性の低下などの問題を引き起こす可能性があります。
例えば、帳簿作成や支払管理、給与計算、納税スケジュールの管理などについて担当者を決めておけば、責任の所在が明確になり、トラブルの予防になります。
また、会計ソフトの選定や外部の税理士事務所との連携方法なども契約書に記載しておくと安心です。
財務面の透明性は、外部からの信用にもつながるため、適正な処理と分担をルール化しましょう。
その他の項目
契約書の基本項目以外にも、事業の内容や経営体制に応じて、以下のような条項を追加することがあります。
| 項目名 | 内容・目的 |
|---|---|
| 競合避止義務 | 脱退後に同業で開業することを防ぐ |
| 情報漏えい防止条項 | 顧客情報やノウハウの保護 |
| 紛争解決条項 | 仲裁条項や準拠法などを明記 |
| 給与・報酬体系 | 業務報酬や賞与の仕組みを明記して金銭トラブルを防ぐ |
経営スタイルやリスクの性質に応じ、柔軟に契約内容を設計することが重要です。
とくに複数のパートナーがいる場合は、より詳細な取り決めをすることでトラブルを防ぎます。
税務処理は税理士に相談しましょう
共同経営におけるさまざまなリスクを回避するためには、正しい税務処理が重要な鍵になります。
税務処理が適切であることでパートナーとの信頼関係を維持することができ、トラブルを未然に防げるでしょう。
契約書作成と税務・会計処理は会社にとって重要なものになるため、各領域に精通する専門家と連携することも推奨します。
小谷野税理士法人では、各種サポートに対応していて、会社設立からワンストップでの依頼が可能です。
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