資本金は単に設立手続きのための資金ではなく、事業を始めるための運転資金であり、会社の信用度を示す指標にもなります。しかし資本金額に迷う経営者は多いでしょう。この記事では、資本金の基本的な役割から最適な金額を決めるための考え方まで、わかりやすく解説します。記事を読めば会社設立を検討している方が、迷わず適切な資本金額を設定できるでしょう。ぜひ最後までお読みください。
目次
そもそも資本金とは?会社設立における基本的な役割

資本金とは、会社設立にあたり、事業主や出資者から事業を運営するために払い込まれた資金のことです。会社の事業活動の元手となるお金であり、金融機関からの借入金とは異なり、返済義務のない自己資本に分類されます。
資本金は会社の財務的な体力や安定性を示す指標となりますので、まずは役割を理解しましょう。
会社の事業運営の元手となるお金
資本金は、会社設立直後の事業を支える重要な運転資金です。設立当初は売上が安定しないことが多いため、資本金を用いて事務所の家賃や備品購入費、従業員の給与、商品の仕入れ代金などを支払います。
資本金が潤沢にあれば、売上が立っていない時期でも当面の事業活動を維持しやすくなり、資金繰りの安定につながります。事業が軌道に乗るまでの期間を支える、文字通り「事業の元手」となる資金です。
会社の社会的信用度を示す指標
資本金の額は、会社の財務的な体力や事業規模を示す客観的な指標です。取引先や金融機関は、会社の登記事項証明書で資本金額を確認し、会社との取引や融資実行の可否を判断します。
一般的に、資本金の額が大きいほど経営基盤が安定していると見なされ、支払い能力や事業の継続に対する信頼が高まります。
会社設立時の資本金を決めるための5つのポイント

会社設立時の資本金額には法律上の明確な規定はありません。しかし事業計画や税金面の影響を踏まえ、慎重に設定する必要があります。
考慮すべき項目はさまざまですが、ここでは特に意識したい5つのポイントを説明します。
3ヵ月〜半年分の運転資金を目安に算出する
会社を設立しても、すぐに売上が入金されるとは限りません。そのため、資本金として設立から売上が安定するまでの期間を乗り切る運転資金を準備しておきましょう。少なくても3ヵ月分、可能であれば半年分を確保しておくと安心です。
運転資金には、オフィスの家賃や人件費といった固定費用のほか、仕入れ費用や広告宣伝費など変動する費用も含まれます。必要な支出を事前に見積もり、事業がストップしないだけの資金を確保しておきましょう。
金融機関からの融資額を考慮して決める
会社設立と同時に金融機関から創業融資を受けることを検討している場合、資本金の額は融資審査の重要な判断材料となります。例えば日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金を利用する際なども自己資金の状況を見られるかもしれません。
多くの場合、希望する融資額に対して一定の自己資金が必要なため、用意できる資本金によって借り入れ可能額が左右されます。そのため、希望する融資額から逆算して、それに見合う資本金を設定するのも有効です。
取引先からの信頼を得られる金額を設定する
資本金の額は、会社のホームページや登記事項証明書などから誰でも確認できる公開情報であり、取引先が信用度を判断する際の資料となります。新規の取引を開始する際、相手企業が資本金額を確認し、支払い能力や経営の安定性を評価することは珍しくありません。
資本金が極端に少ない場合、体力の乏しい会社と見なされて取引を敬遠されたり、不利な条件を提示されたりする可能性があります。
資本金を設定するときは、外部からどのように見られるかも意識しましょう。
事業に必要な許認可の取得要件を確認する
事業内容によっては、行政から許認可を受けなければ営業を開始できません。また、取得の条件として最低資本金額が法律で定められているものも存在します。
例えば、一般建設業では自己資本が500万円以上、人材派遣業では2,000万円以上の純資産額(資本金を含む)が必要とされるなど、業種ごとに基準が異なります。
自社が行う事業に許認可が必要かどうか、その要件に最低金額の規定が設けられているかどうかを必ず確認しましょう。
参考:許可の要件|国土交通省
設立後の税負担を予測して金額を決める
資本金の額は法人税や消費税などの税金に影響します。例えば資本金を1,000万円未満に設定すると、原則として設立から最大2年間は消費税の納税義務が免除されることがメリットです。
なお、2期目に関しては特定期間の課税売上高が1,000万円以下もしくは特定期間の給与等支払額の合計額が1,000万円以下という条件があります。
また、法人住民税の均等割も資本金額に応じて変動します。
このように必要以上に高い金額を設定すると、本来であれば発生しなかった税負担が生じるかもしれません。節税の観点からも、資本金の設定は慎重に行いましょう。
参考:納税義務の免除|国税庁
資本金の額によって変わる税金の種類と内容

資本金の額は会社の税負担を左右します。例えば消費税の納税義務の免除、法人税の軽減税率の適用、法人住民税の均等割といった税目などが変わります。
ここでは資本金の額によってどのように税金が変わるか理解しましょう。
資本金1,000万円未満なら消費税が最大2年間免除される
新設法人は、資本金が1,000万円未満であれば、条件によって設立1期目と2期目の消費税の納税義務が免除される可能性があります。このため、資本金を999万円や800万円、700万円といった金額に設定する企業も少なくありません。
ただし、この免除には「特定期間の判定」と呼ばれている規定があります。
設立1期目の上半期における課税売上高と給与等支払額が1,000万円を超えた場合、2期目は課税事業者となります。
意図せず課税事業者にならないためにも、売上や人件費の見通しを踏まえた資本金設定を行いましょう。
参考:特定期間の判定|国税庁
資本金1億円以下なら法人税の軽減税率が適用される
法人税は会社の所得に対して課されますが、資本金が1億円以下の法人は「中小法人」とされ、税制上の優遇措置を受けられます。
中小法人は、年間所得800万円以下の部分には本則より低い軽減税率が適用され、税負担の軽減が可能です。また、中小法人向けの優遇措置には、交際費の損金算入枠や少額減価償却資産の特例など複数の制度があります。
なお、資本金が1億円を超えると中小法人向けの優遇措置が適用されなくなり、資本金が5億円以上の法人の100%子会社は、たとえ資本金が1億円以下でも中小企業優遇を受けられません。
法人住民税の均等割は資本金の額に応じて変動する
法人住民税は、法人税額に応じて計算される「法人税割」と、会社の規模に応じて一定額を課す「均等割」から構成されています。均等割は資本金の額と従業員数によって段階的に定められており、会社が赤字であっても納税義務が生じます。
例えば東京都23区では、資本金が1,000万円以下で従業員数が50人以下の場合、均等割は7万円(都民税2万円・区民税5万円)です。資本金が1,000万円を超えると、この均等割は18万円に引き上げられ、資本金額が税負担に直結することがわかります。
資本金の平均額はどれくらい?他社の設定金額を参考にする
自社の資本金額を決める際には、他の企業を参考にすることも有効です。総務省と経済産業省の調査によると、中小企業の資本金額でもっとも多い価格帯は300万円から500万円未満です。
誰もが知る有名企業や大手企業の設立当初の資本金を見ても、必ずしも高額とは限りません。
ここでは他社の資本金額を参考にするメリットと注意点を説明します。
資本金1円で会社を設立する場合の利点と注意点
2006年の会社法改正により最低資本金制度が撤廃され、現在では資本金1円で株式会社を設立できるようになりました。これにより起業のハードルは大きく下がりましたが、メリットだけでなく注意すべき点も存在します。
なお、0円での設立はできません。極めて少額の資本金で会社を始められることにはメリットがある一方で、信用面でのリスクを伴います。
ここでは少額で会社を設立するメリットと注意点を見ていきましょう。
会社設立の初期費用を最小限に抑えられるという利点
資本金1円で会社を設立できる最大の利点は、自己資金が少ない場合でも法人格を取得できる点です。資本金の負担を軽減できるため、事業のアイデアや技術はあるものの、資金調達が難しいスタートアップにとっては、事業を迅速に開始できるメリットがあります。
登記に必要な登録免許税などの実費は別途必要ですが、スモールスタートの創業者にとって魅力的な選択肢と言えます。
信用度が低く資金調達で不利になるという注意点
一方で、資本金1円という設定は登記事項証明書から誰でも確認できるため、会社に財務的な体力がほとんどないと判断されるかもしれません。
そのため、社会的信用度が低くなり、さまざまな場面で不利に働く可能性があります。特に金融機関からの融資では、自己資金が重視されるため、融資を受けることは難しくなります。
また、取引先との与信審査で不利になったり、人材採用の場面で応募者に不安を与えたりするかもしれません。
なお、実際には存在しない資金を一時的に装う「見せ金」は違法行為です。資本金はあくまで実態に沿った金額で設定しましょう。
会社設立後に資本金を変更することも可能
資本金は、会社設立時に登記した金額のまま固定されるものではなく、経営状況や事業戦略に応じて後から変更できます。事業拡大に向けて資金調達を行う増資や、税負担の軽減や欠損の補填を目的とする減資といった手続きを行うことが可能です。
これらの手続きには株主総会での決議や法務局での変更登記が必要なため、決算後の財務状況なども踏まえて慎重に検討しましょう。
ここでは増資と減資について説明します。
事業拡大のために資本金を増やす「増資」
増資とは、新たに株式を発行して出資を募り、資本金を増やす手続きです。事業の拡大や設備投資、財務基盤の強化などを目的として行われ、既存株主による追加出資のほか、会社に蓄積された利益剰余金を資本金に組み入れる方法もあります。
増資によって自己資本が厚くなると信用力が高まり、大規模な事業展開や金融機関との取引において有利に働く可能性があります。
税負担の軽減や欠損填補のために資本金を減らす「減資」
減資は資本金の額を減少させる手続きで、主に税制上のメリットや過去の損失を補填する欠損填補が目的です。
また、累積赤字が膨らんでいる企業が資本金を減らしてその他資本剰余金を生じさせ、損失と相殺することで財務諸表を改善するケースもあります。
その他にも、子会社の整理など組織再編の一環として行われることもあります。
まとめ
資本金の決め方に正解はありませんが、設立後の事業運営を円滑に進めるため、多角的な視点で慎重に検討しましょう。
設立後少なくとも3ヵ月から半年間の運転資金を賄える金額を目安とし、金融機関からの融資を検討している場合には、求められる自己資金要件を満たす資本金額を設定する必要があります。
さらに、許認可が必要な事業では法定の最低資本金額をクリアすることが前提です。
また、資本金を1,000万円未満に抑えることで消費税が免除されるなど、税負担にも影響があります。
こうした要素を総合的に踏まえ、自社の事業計画に適した資本金額を定めることは、安定した会社経営へとつながる第一歩となるでしょう。
疑問点や不安な点がありましたら、専門家に相談することをおすすめします。









