事業を始める際、個人事業主と法人のどちらの形態を選ぶべきか悩む方は少なくありません。両者には、税金・経費の範囲・社会的信用度など、さまざまな違いがあります。本記事では、個人事業主と法人のメリット・デメリットを10項目で比較し、さらに法人化を検討すべきタイミングや、あえて個人事業主のままでいる方がよいケースまで詳しく解説します。
目次
個人事業主と法人の基本的な違い

最大の違いは、事業の主体が「個人」か「法人」かという点です。法人には法律上の「人格(法人格)」が認められますが、個人事業主にはありません。この違いが、事業運営においてさまざまな影響を及ぼします。ここでは、個人事業主と法人について、それぞれ詳しく解説します。
個人事業主とは?開業手続きが簡単な事業形態
個人事業主とは、法人を設立せずに、個人として事業を行う形態です。税務署に「開業届」を提出するだけで事業を始められるため、手続きがシンプルで、初期費用もほとんどかからないのが一般的です。
意思決定をすべて自分で行える自由度の高さが特徴であり、利益はすべて事業主本人の所得となります。また、会計処理や税務申告も法人に比べて簡単であるため、小規模で事業を始めたい場合にも適した形態です。
法人とは?社会的信用を得やすい事業形態
法人とは、法律に基づき「法人格」が与えられ、権利や義務の主体となる資格を持つ組織です。代表的な法人形態に、株式会社や合同会社があります。
設立には法務局への登記が必要で、定款認証手数料や登録免許税などの費用がかかります。法人は個人とは別人格として扱われるため、財産は明確に区別される点も重要なポイントです。
さらに、法人は登記情報が公開されることから社会的信用度が高く、金融機関からの融資や大企業との取引において有利に働く傾向があります。
【徹底比較】個人事業主と法人はどっちが得?10項目の判断基準を解説

個人事業主と法人、どちらの形態で事業を行うべきかは、多くの起業家や経営者が直面する課題と言えるでしょう。ここでは、税制・コスト・信用力・手続き面など10項目から両者を比較し、それぞれのメリット・デメリットを明確に解説します。
税金の種類と税率
個人事業主には、所得に応じて税率が上がる累進課税の「所得税」が課されます。最高税率は住民税と合わせると約55%に達します。
一方、法人の効税率は約35%です。そのため、年間の所得が少ないうちは個人事業主の方が税負担は軽いですが、利益が一定額(一般的に800万円程度)を超えると法人の方が税負担を抑えやすい傾向があります。
経費計上できる範囲
経費として認められる範囲は、法人の方が広いのが一般的です。例えば以下の場合も経費計上できます。
- 経営者自身に支払う給与(役員報酬)
- 退職金
- 生命保険料の一部
- 社宅の家賃 など
こうした経費を損金算入できるため、課税所得を抑えて節税につなげられるでしょう。
社会保険への加入義務
社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入義務にも違いがあります。
- 個人事業主:一般的に常時雇用する従業員が5人未満であれば加入は任意。5人以上になると強制加入
- 法人:従業員の人数にかかわらず、代表者1人でも加入義務あり
法人の場合、保険料は会社と役員・従業員が折半するため、コストは増加します。しかし、福利厚生の充実により、人材採用の面で有利に働くというメリットも得られるのです。
社会的信用力
一般的に、法人の方が社会的信用度は高くなります。法人は法務局への登記により資本金や役員情報などが公開され、経営の透明性が高いと見なされるからです。
この信用の高さは、以下のような場面で有利に働きます。
- 大企業との取引契約
- 金融機関からの融資
- 公的機関・補助金への申請
大きな取引や資金調達を見据えるなら、法人格を持つことが有効な戦略となるでしょう。
事業開始時の手続きと初期費用
事業を始める際の手続きと費用は、個人事業主の方が圧倒的に簡便です。
- 個人事業主:税務署に開業届を提出するだけで、費用はゼロ。
- 法人:定款の作成・認証、法務局への設立登記が必要。株式会社の場合は最低でも約20万円の費用が発生。
初期コストを抑えて手軽に事業を始めたい場合は、個人事業主が適しています。
維持コスト
法人は、事業が赤字であっても、法人住民税の均等割(最低でも年間約70,000円)を納付する義務があります。また、社会保険料の負担も発生します。法人の税務申告は複雑なため、税理士に依頼するケースが多く、顧問料などでランニングコストが高くなりがちです。
一方、個人事業主は赤字の場合、所得税や住民税は発生しません。会計処理も比較的簡単なため自身で申告を行う事業者も多く見られ、維持コストを低く抑えられる傾向にあります。
赤字の繰越期間
事業で生じた赤字を翌年以降に繰り越せる期間にも違いがあります。
- 個人事業主(青色申告):最大3年間
- 法人:最大10年間(2018年4月1日以降の事業年度の場合)
事業開始当初に大きな投資が必要な場合や、黒字化まで時間がかかるビジネスモデルの場合は、繰越期間の長い法人のほうが税負担を軽減できる可能性があります。
責任範囲
個人事業主は「無限責任」を負い、事業で生じた借入金や損害賠償などの債務を、個人資産で返済する義務があります。
一方、法人は「有限責任」であり、責任は出資額の範囲内に限定されます。万が一、会社が倒産しても、株主や出資者が自分の資産から会社の借金を返済する必要は原則としてありません。
万が一事業が失敗した場合のリスクに備えて個人資産を保護したい場合は、法人化が適していると言えます。ただし中小企業の場合、代表者個人の連帯保証が求められるケースも多く、実質的には個人資産が守られない場合もあります。
資金調達方法の選択肢
法人は資金調達の選択肢が豊富です。
- 金融機関からの融資(個人事業主も可)
- 株式発行による増資(株式会社)
- ベンチャーキャピタルや投資家からの出資
事業の急成長や、返済義務のない大規模な資金調達を目指す場合は、法人化が適しています。
廃業手続きの手間
事業を廃止する際の手続きは、個人事業主の方が圧倒的に簡単です。
- 個人事業主:税務署に廃業届を提出するだけで手続きが完了。
- 法人:解散登記・清算人の選任・官報公告・清算結了登記といった、法律に定められた複雑な清算手続きが必要。
手続きには数ヶ月の期間がかかり、さらに登記費用や官報公告費用、専門家への報酬などのコストも発生します。将来的な撤退も見据える場合は、手軽に廃業できる個人事業主の形態にもメリットがあります。
個人事業主から法人化を検討すべきタイミングは?

個人事業主として事業が軌道に乗ってくると、多くの方が「法人化」を視野に入れ始めるでしょう。法人化は単なる形式の変更ではなく、税負担の軽減や事業拡大のチャンスにつながる可能性もあるものです。以下では、法人化を検討すべき代表的なタイミング4つについてまとめました。
年間の課税所得が800~900万円を超える見込みがあるとき
個人事業主は、所得が増えるほど税率が高くなる累進課税制度が適用され、所得税の最高税率は住民税を含めると最大55%に達します。
一方、法人税は利益額に対してほぼ一定の税率が適用されるため、所得が一定ライン(目安として年間800~900万円)を超えると、法人の方が税負担を抑えやすくなる傾向にあります。
利益が安定してこの水準を超える場合、法人化による節税効果が期待できるため、早めに検討する価値があります。
課税売上高が1,000万円を超え消費税の納税義務が生じたとき
基準期間(前々年)の課税売上高が1,000万円を超えると、個人事業主は消費税の課税事業者となり、納税義務が発生します。このタイミングで法人化を検討するケースは少なくありません。
資本金1,000万円未満で新たに法人を設立した場合、原則として設立から最大2年間は消費税の納税が免除される特例があります。この制度を活用すれば、消費税の負担を先送りでき、資金繰りの余裕を持たせることが可能です。
ただし、インボイス制度の導入により、免税事業者の取引先が仕入税額控除を受けられないケースもあるため、自社・取引先双方の状況を踏まえた慎重な判断が必要です。
従業員を雇用して事業規模を大きくしたいとき
事業拡大に伴って従業員を雇用する段階に入った場合も、法人化を検討する好機と言えます。法人は個人事業主よりも社会的信用度が高いため、求人募集において応募者に安心感を与えやすい傾向にあります。
また、法人は社会保険への加入が義務付けられているため、福利厚生が充実しやすく、優秀な人材の確保や定着につながりやすくなるメリットも得られるのです。
融資や外部出資により資金調達を行いたいとき
大規模な設備投資や事業拡大のために、多額の資金調達が必要になった場合も法人化を検討するタイミングの一つです。
法人は会計処理が複雑で経営の透明性が高いと見なされるため、金融機関の融資審査で個人事業主よりも有利になる傾向があります。さらに、株式会社であれば株式を発行し、ベンチャーキャピタルや投資家からの出資を受けることも可能です。
法人化せずに個人事業主のままがおすすめのケースは?
すべての事業主にとって法人化が最善の選択とは限りません。事業の規模や内容、将来の展望によっては、法人化のメリットよりもデメリットの方が大きくなることもあります。ここでは、個人事業主として事業を続けることが適している代表的な3つのケースを紹介します。
事業を拡大する予定がない
従業員を増やしたり、取引先を拡大したりなど事業拡大の予定がない場合、法人化の必要性は低いと言えます。法人化の主なメリットは、事業拡大を目指す際に効果を発揮するものです。一方で、法人の設立・維持にはコストがかかります。
一人または少人数で、自身のペースで仕事を続けていきたいのであれば、手続きが簡便で自由度の高い個人事業主のままでいる方が適しているケースも多いのです。
利益額が少なく安定していない
事業を始めたばかりで利益が少ない、あるいは売上が月ごとに大きく変動している場合は、法人化による固定費増加が経営を圧迫するリスクがあります。
法人は、事業が赤字であっても、法人住民税の均等割(年間最低7万円程度)の納付や社会保険料の負担などのコストが発生します。利益が十分でない段階でこれらの負担を背負うと、キャッシュフローが悪化する恐れがあるのです。
まずは個人事業主として事業を安定させ、利益水準が上がってから法人化を検討するのが望ましいでしょう。
複雑な会計処理や事務作業の負担を避けたい
法人になると、会計処理や税務申告が複雑になります。
- 複式簿記での記帳が必須
- 決算書・法人税申告書など専門的な書類の作成
- 社会保険関連の手続き
これらは専門的知識を要するため、多くの場合は税理士などの専門家に依頼する必要があり、その分の費用もかかります。本業に集中したい、バックオフィス業務の負担をできるだけ軽くしたいと考える場合は、個人事業主の形態を維持する方が適しています。
まとめ
個人事業主と法人のどちらが得かは、さまざまな要因によって異なります。利益が少ないうちは手続きが簡便でコストも低い個人事業主が適していますが、利益が拡大し事業成長を目指す段階では、法人化のメリットが大きくなるケースが一般的です。
一方で、法人は設立・維持にコストと手間がかかります。事業を拡大する予定がない場合は、個人事業主のままの方が合理的な選択となることも。自身の状況や将来的なビジョンを考慮し、どちらを選択するのかを判断しましょう。








