市場価格からかけ離れた安価で売買を行うと、「低額譲渡」に該当する恐れがあります。税務処理が通常のやり取りと異なったり、追加の所得税が生じたりするため、安価での資産の譲り渡しには注意が必要です。本記事では、低額譲渡の定義や値引販売との違い、税務上のリスクなどをご紹介します。
目次
低額譲渡とは

低額譲渡と認定されると、特別な規定が適用され、通常のやり取りとは異なる税負担が生じるリスクが伴います。定義や、一般的な値引販売との区別を明確にしておきましょう。
低額譲渡の定義
「低額譲渡」は、法的に明文化された用語ではありません。「時価とかけ離れた安価での資産の移転」を意味する通称として使われています。
「時価」とは、市場において、自由な意思を持つ者同士の間で、合意しうる妥当な価格を指します。言い換えれば、「通常はこの程度の対価で売り買いされるだろう」と客観的に認識される額であり、市場価値・適正価格などとほぼ同義です。
土地を家族間で贈与する際に、相続税や贈与税を避ける目的で、売買契約の形式を取る事例が見られます。売買契約を結んでいても、例えば市場価値1,500万円の物件を100万円程度で取引するような行為は、時価とかけ離れた安価での資産の移転であり、低額譲渡に該当すると考えられます。
企業同士のやり取りや、個人と企業の間で行う取引も、低額譲渡の適用範囲です。低額譲渡と認定されると、原則、時価を基準に税金を算定します。結果として、実際にやり取りした金額での想定より、税負担が増大する事例も多いです。
通常の値引販売との違い
小売店が実施する大規模セールなどの値引販売は、低額譲渡とは区別されています。大量販売や販促活動における大幅な値引は、不特定多数の消費者が対象であり、値引後の金額が適正な市場価値、つまり時価であると認識されるためです。
売却が難航している不動産を徐々に値引し、結果的に当初の売値より大幅に安く売り渡したといった事例に関しても、低額譲渡とは認定されません。市場における、自然な価値の変動と評価されます。
ただし、従業員への特別割引販売(社割)のような、特定の関係者への値引販売は、低額譲渡と判断される恐れがあるため、注意が必要です。社割に関しては、合理的な範囲であれば、通常の値引販売として扱う旨の通達が存在します。その他の状況を含めて総合的に判断されますが、合理的な割引率としては、30%未満が目安であると例示されています。
低額譲渡によって所得税が生じるケースとは
市場価値より安価で資産を移転した際は、所得税をはじめ、通常のやり取りとは異なる税負担を負うリスクが生じます。売主と買主がそれぞれ個人か法人かによって、課税関係が変わります。主要な取引パターンと、関連する税金について、以下の表にまとめました。
| 売主 | 買主 | |
|---|---|---|
個人→個人 | 譲渡所得(所得税) | みなし贈与(贈与税) |
個人→法人 | みなし譲渡(所得税) | 受贈益(法人税) |
法人→個人 | 売却損益・寄附金または給与(法人税) | 一時所得または給与所得(所得税) |
法人→法人 | 売却損益・寄附金(法人税) | 受贈益(法人税) |
以下に、各パターンにおける課税関係への影響を、詳しくご紹介します。
売主が個人、買主も個人
親族間など個人同士で、安価で資産の移転を行うパターンです。贈与税や相続税を回避する目的で、少額での売買契約を結ぶという形式を選択する事例が多く見られます。
売主は、実際に出た利益(実売価格-取得費)に対してのみ、所得税の納税義務を負います。市場価格に基づく算定は、行われません。
買主は、適正価格を下回った部分について、実質的には贈与に値すると判断されます。「みなし贈与」と称され、贈与税の適用対象です。
参考:No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき
売主が個人、買主が法人
個人が企業に、資産を提供するパターンを見てみましょう。社長や役員が保有する株式を、企業に対して市場価値よりも安く譲り渡す事例などが該当します。
売主に関しては、実利部分は通常と同様に課税対象です。加えて、相手が企業のときは、市場価値との相違分にも所得税の納税が求められます。通称「みなし譲渡」という制度で、「本来の市場価値で売り渡したものとして考える」課税方法です。
買主の企業は、適正価格と支払った金額の相違分に、法人税が課されます。帳簿上の扱いは、「受贈益」です。
結果として、売主は実利にかかる以上の所得税負担が発生し、買主は対価を支払って購入した立場でありながら法人税の支払いを求められるなど、税負担が増えるリスクが生じます。
売主が法人、買主が個人
法人の所有する資産を個人へ提供するパターンでは、どのように課税されるのでしょうか。企業が従業員に対して自社株を安価で提供するケースや、割引率の基準を超える社割販売などが、あてはまる事例です。
売主の企業には、法人税の負担が求められます。実際に受け取った金額と市場価格との差異分は、役員への「役員報酬」、従業員への「給与」、または第三者個人への「寄附金」として扱われます。役員報酬や寄附金には、損金算入に関する制限があり、損金に算入できない部分は法人税の対象です。
自身の所属する企業から購入した役員・従業員は、差異分が給与所得に含まれ、所得税がかかります。第三者については、差異分は一時所得に含まれ、同様に所得税の対象です。
売主が法人、買主も法人
企業同士でも、市場価格より安価で売り買いされるパターンが見られます。親会社から子会社へ、あるいは取引先へ、報酬やお礼として不動産を安く提供する事例などです。
売主については、市場価格より下回った部分を寄附金とみなします。寄附金は損金算入に制限があり、限度額を超えた部分が法人税の適用対象です。
買主に関しては、市場価格との相違分は受贈益と評価され、法人税の負担が求められます。
なぜ低額譲渡では所得税が多く課せられるのか

なぜ、市場価値よりも安価で売買したときは、通常のやり取りと異なる特別なルールが適用されるのでしょうか。背景にあるのは、「税負担の公平性を維持する」という原則です。
適切な規制がなければ、安価での売買契約を通じて、課税回避や不適切な節税行為が横行する懸念が生じます。例えば、高額な物件を親族へ低価格で譲り渡し、本来納めるはずの贈与税や相続税を回避する行為が想定されます。また、企業が関連会社に対する低価格での提供を通じて売却損を計上し、法人税を不当に軽減することも可能です。
安価で譲渡を行い税負担を不当に軽減する者と、法律に従い納税する者との間には、不公平性が生じてしまいます。すべての国民が平等かつ公平に税金を納めるという租税原則を守るため、時価を基準とした課税の仕組みが導入されているのです。
低額譲渡で発生する所得税の仕訳と申告のポイント
安価での譲渡によって所得税が生じるときは、原則として確定申告が必要です。さらに個人事業主に関しては、適切な仕訳も求められます。仕訳方法や申告時のポイントをご紹介します。
個人の売主の場合
個人が財産を手放した際に生じた利益には、所得税の納税義務があり、原則、確定申告が求められます。個人事業主が事業用の財産をやり取りしたときは、仕訳も必要です。
具体例として、下記条件で考えてみましょう。
- 個人から法人へ土地を現金1,500万円で低額譲渡
- 個人事業主が事業用に所有していた土地
- 土地の取得費は1,000万円
- 土地の時価は4,000万円
- 仲介手数料などの譲渡費用および特別控除は考慮しない
| 借方:勘定科目 | 借方:金額(万円) | 貸方:勘定科目 | 貸方:金額(万円) |
|---|---|---|---|
現金 | 1,500 | 土地 | 1,000 |
事業主貸 | 500 |
譲渡所得は、事業所得と区分して扱われるため、個人事業主の事業帳簿へは記載しません。帳簿での仕訳は、実際の取引内容に基づきます。
上記の例では、「取得費1,000万円の土地を現金1,500万円で売り渡した」という事実に基づき、借方に現金1,500万円を計上しましょう。貸方には、土地の取得費に加え、差異分の500万円を「事業主貸」で計上します。
譲渡所得の計算は、別途、確定申告書上で行います。取引相手も個人であれば、実際に出た利益のみが譲渡所得として扱われるため、譲渡費用などがない場合の譲渡所得は「事業主貸」の金額となるでしょう。
相手が企業のときは、帳簿上の「事業主貸」の額ではなく、適正な市場価格を基準とした計算が求められます。上記の例で言えば、「時価4,000万円-取得費1,000万円=3,000万円」が、申告対象となる譲渡所得です。仲介手数料などの費用を支出したときは、差し引いて計算できます。
また、土地・建物に関する譲渡所得の場合、一定の条件を満たすことで、特別控除が適用されるケースもあります。土地・建物・株式等以外の譲渡については、最大50万円の特別控除の対象です。ただし、すべての譲渡所得の合計額に対して適用されるため、他にも譲渡益があるときは、計算方法に注意しましょう。
参考:No.1460 譲渡所得(土地、建物及び株式等以外の資産を譲渡したとき)
個人の買主の場合
個人が企業から購入するパターンでは、相手との関係性によって、仕訳や確定申告の要否が異なります。
買主の個人が、相手の企業の役員や従業員であれば、市場価格を下回った差異分は、給与所得として扱われます。通常の給与と同じく、原則、自身での仕訳や申告は不要です。給与が2,000万円超、医療費控除の申請をするなど、他の事由で確定申告を行う際は、市場価格との差異分も給与所得に含めて申告しましょう。
相手企業と雇用関係にない第三者が買主のときは、差異分は一時所得として扱われ、確定申告が必要です。個人事業主が事業用に資産を入手したときは、取引の仕訳も行いましょう。
例えば、下記の条件における仕訳は、以下の通りです。
- 法人から個人へ土地を現金1,500万円で低額譲渡
- 土地は個人事業主が事業用に取得
- 土地の時価は4,000万円
| 借方:勘定科目 | 借方:金額(万円) | 貸方:勘定科目 | 貸方:金額(万円) |
|---|---|---|---|
土地 | 1,500 | 現金 | 1,500 |
売主の場合と同様、仕訳には実際にやり取りした内容のみを反映します。上記の例では、「土地を現金1,500万円で購入」しているため、借方に土地、貸方に現金をそれぞれ1,500万円で計上しましょう。
確定申告時には、市場価格を基準に一時所得を計算します。上記の例であれば、「時価4,000万円-支出額1,500万円-特別控除50万円=2,450万円」が一時所得の額です。
一時所得の金額の2分の1を課税対象とすると定められています。上記の例であれば、2,450万円の半額である1,225万円を、確定申告書の一時所得の欄に記載しましょう。
関連記事:株式の譲渡所得は確定申告する?特定口座なら申告が不要な場合も
関連記事:一時所得と雑所得はどう違う?10種の所得区分や確定申告の必要性について解説
低額譲渡で消費税がかかるケースとは

低額譲渡は、所得税・法人税だけでなく、消費税においても「みなし譲渡」として課税される可能性があります。
実際の取引価格ではなく、時価に基づいて消費税が課されるのは、「法人が役員へ低額譲渡を行う」ケースです。低額譲渡と判断される目安は、時価の50%未満と示されています。譲り渡したのが棚卸資産である場合、仕入額未満での譲渡も低額譲渡と判断される可能性があります。
消費税の計算の基準となるのは、棚卸資産の場合は通常の販売価格、棚卸資産以外であれば市場価格です。
なお、個人事業主に関しては低額譲渡に関する規定がないため、課税事業者であっても、時価を基準とした消費税の課税は行われません。
低額譲渡に潜む税務リスクと対策
低額譲渡には、さまざまな税務上のリスクが伴います。特に注意すべきポイントと、リスク回避のための対策について、確認しておきましょう。
値引販売はどこから低額譲渡になる?
先に述べたように、値引販売は低額譲渡とは区別されます。では、どのような条件で、低額譲渡と判断されてしまうのでしょうか。
値引販売と判断されるか否かの線引きは、主に二つの要素で判断されます。一つは、売主側と買主側の関係性です。相手を限定しない値引であれば問題ありませんが、特定の人や企業への安価な販売には注意しましょう。
特に、親族間、会社と役員・従業員、同一グループ内の企業同士など、対価を自由に決めやすい関係性では、疑いをかけられる可能性が高まります。
二つ目の判断基準は、価格決定のプロセスです。市場において妥当な売値であることを証明できれば、単なる値引販売であると認められるケースも存在します。例えば、弁護士などの第三者を交え、客観的な評価に基づいた協議を経て売値を決定したといった説明が必要でしょう。
客観的に見て、「相手が無関係の第三者であっても、この価格での売却・購入が合理的である」と説明できるものでなければ、低額譲渡と判断されるリスクが高いということです。
評価算定が税務署に否認された場合はどうなる?
自身で低額譲渡にあたらないと判断して処理した事例でも、税務署が否認するケースもあります。否認されると、税額が再計算され、不足分が追徴課税される可能性があります。
決定に不服があれば、異議申し立てや訴訟を起こすことも可能です。しかし、コストなどを考えると、できるだけ避けたい事態と言えます。申告後に否認されるリスクを低減するには、事前に税務署へ相談や確認を行うのが有効です。
また、取引前に税理士などの専門家からアドバイスを受け、低額譲渡に該当しないような方法を検討するのも良いでしょう。
具体的にどのような取引が低額譲渡と判断される?
法人と個人間での所得税が課せられるケースについては、低額譲渡と判断されるのは「時価(市場価格)の2分の1未満でのやり取り」と定められています。リスクを回避するためには、市場価格の半分以上の金額でやり取りすることが推奨されます。
個人間の贈与税における「時価を大幅に下回る価額」については、具体的な数値基準は設定されていません。取引の実態や、市場価格、評価額などを総合的に考慮して判断されます。不安な点があれば、事前に専門家に相談しましょう。
なお、個人間の低額譲渡では、売主には実利に基づいた課税のみが行われます。そのため、所得税に関しても「時価の2分の1未満」のような数値基準は定められていません。
低額譲渡において非課税と判断されるケース
市場価格より安価でのやり取りであっても、特定の条件下では非課税と判断される事例もあります。該当する事例を、以下にまとめました。
「値上がり益」が発生しない場合
取引自体が低額譲渡と判断されても、「値上がり益」、つまり譲渡所得となる利益が存在しなければ、課税は行われません。
例えば、個人が所有する市場価格4,000万円の物件を、企業に対し1,500万円で売却したとしましょう。実際にやり取りした額が市場価格の2分の1を超えないため、低額譲渡に該当します。しかし、もし当初の取得額が5,000万円だったのであれば、市場価格を基準に計算しても、利益は生じません。
上記の例のように、適正な市場価値に沿って取引したと仮定しても実利がない状況であるときは、所得税の課税対象外です。
一定の条件を満たす寄附の場合
企業が安価での売買を行ったとき、市場価格を下回る部分が寄附金とみなされることがあります。寄附金に関しては、以下のものは非課税であると定められています。
- 国や地方公共団体への財産寄附
- 公益を目的とする法人に対する財産寄附のうち、所定の要件を満たすもの
1の国や地方公共団体への寄附には、特別な要件はなく、手続きも不要です。2の公益法人への寄附に関しては、寄附された財産が2年以内に公益事業に使用されることなどの要件があります。国税庁長官への申請と承認を経て、非課税として扱われます。
低額譲渡による所得税についてのお悩みや疑問は税理士への相談もおすすめ
低額譲渡の定義や課税要件は非常に複雑で、個人か法人か、売主か買主かによって課税関係が変わります。会計処理に関しても、仕訳に用いる金額と、譲渡所得・一時所得の金額が異なるケースもあり、煩雑です。
低額譲渡に該当するか分からない、所得税や消費税の正しい処理方法が分からないなど、お困りごとやご相談があれば、ぜひ「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。







