企業が安定して成長を続けるためには、経営課題の把握と解決が欠かせません。日々の業務に追われていると、目の前のトラブルにばかり意識が向きがちですが、実は表に出ていない“見えにくい課題”が、将来の経営に影響を与える可能性もあります。この記事では、経営課題の基本的な考え方や、よくある課題の種類、課題を分析・解決するために活用できるフレームワークまで、実務に役立つ視点で紹介します。
目次
企業が直面しやすい課題

企業が抱える経営課題は多岐にわたります。ここでは、多くの企業に共通する代表的な課題を取り上げ、特徴と対策について解説します。
収益に関わる課題
「売上が伸びない」「利益が思うように残らない」「資金繰りが厳しい」といった悩みは、多くの経営者が直面する課題です。原因としては、市場競争の激化、非効率なコスト構造、顧客ニーズの変化などが考えられます。
収益性を高めるには、商品やサービスの付加価値向上や新たな収益源の確保など、多角的なアプローチが欠かせません。まずは財務諸表を確認し、どこに無駄があるのか、どの商品の利益率が低いのかなど分析しましょう。
人材に関わる課題
人材の課題は、企業の成長や組織力に影響を与えます。「採用してもなかなか定着しない」「教育体制が追いつかない」「社員のやる気が下がっている」といった問題に頭を抱える企業も多いでしょう。
少子高齢化や働き方の多様化も影響しており、単に給与や待遇を見直すだけでは解決できないケースもあります。
評価制度やキャリア支援、柔軟な働き方の導入など、働く人の価値観に合わせた仕組みづくりが欠かせません。
営業力に関わる課題
「新規顧客が増えない」「リピーターが減ってきた」「営業チームの成果が出ていない」といった課題は、収益に直結します。顧客の購買行動の変化、競合の強化、営業スキルの偏りなどの原因が考えられます。
対応策として、市場や顧客のニーズの再確認と営業戦略の見直しを行いましょう。さらに、営業支援ツール(SFA)などを活用したデジタル化や、社内研修によるスキル向上も有効です。営業部門の体制強化や支援体制の整備も、根本的な解決につながります。
技術力や開発力に関わる課題
技術力や開発力は、企業の競争力の維持・向上に欠かせません。多くの企業が直面するのが「製品やサービスの独自性が足りない」「開発スピードが遅い」「技術的な差別化ができていない」といった課題です。特に変化の激しい業界では、新技術への対応が遅れるだけで、競争力を一気に失うリスクがあります。
開発チームの体制見直しや、外部との連携によるオープンイノベーション、社内人材のスキルアップなど、限られたリソースの中で、いかに開発力を高めるかが鍵です。
中小企業にとっては、技術力や開発力を強化するための補助金や外部支援制度の活用も一つの手です。
経営課題を見つけるための視点
財務、人材、業務、外部環境といった複数の視点から会社を見つめ直し、経営課題を特定します。一つの視点に偏らず、バランスよく全体を俯瞰しながら、経営課題の特定と解決に取り組みましょう。
財務面から課題を把握する
経営の問題を正しく把握するためには、特定の分野だけに目を向けるのではなく、多角的に会社全体を見渡す視点が大切です。一見、問題が表面化していないように見えても、視点を変えると「見落としていた課題」や「本当の原因」が見えてくることがあります。
まずは財務面からの分析です。売上や利益率といった業績の数値をはじめ、キャッシュフローや資金繰りの状況から、企業の経営体力がどれだけあるか、そして今どこに無駄やひずみがあるのかの把握が可能です。財務諸表を読むだけでなく、実際の資金の流れを「資金繰り表」などを使って整理すれば、固定費の見直しや投資の成果なども見えてきます。
組織・人材の状況を分析する
次に、組織や人材の分析です。どれだけ良い商品やサービスを持っていても、商品やサービスを支える人の動きに問題があれば、会社全体のパフォーマンスは下がってしまいます。社員のモチベーションや離職の状況、人材育成の進み具合などを分析し、組織課題を把握しましょう。配置が適切か、育成制度は機能しているか、という点も合わせて見直していく必要があります。
業務プロセスの効率を見直す
業務プロセスにも着目してみましょう。日々の業務の中に無駄や非効率な業務が潜んでいないか見直しましょう。例えば、「毎回、手間がかかっている作業がある」「報告書作成に時間がかかりすぎている」といった場合は、改善の余地があるサインです。現場でのヒアリング、業務フローの図式化が効果的です。
外部環境の変化を捉える
外部環境の視点も重要です。市場の動向や顧客のニーズ、競合他社の動きも視野に入れて、企業のポジションや戦略を検討しましょう。例えば、「最近売れ行きが悪い」と感じたときに、原因が社内にあるとは限りません。
市場そのものが縮小している可能性や競合が新しいサービスを打ち出している場合もあります。アンケート調査や競合分析、顧客インタビューなどを活用して、社外の情報を積極的に取り入れましょう。自社の強み・弱みを客観的に把握できます。
経営課題の抽出と分析に役立つフレームワーク

企業の全体像を把握したいときや、原因を深掘りしていきたいときには、フレームワークの活用により、情報を体系的に整理できます。それぞれのフレームワークには目的や得意分野があるため、企業の状況や課題に応じた使い分けがポイントです。
自社の状況把握に活用できるフレームワーク
自社の現状把握は、経営課題の抽出の第一歩です。内部環境と外部環境の体系的な分析により、企業の強みや弱み、機会や脅威がわかります。
SWOT分析
SWOT分析は、企業の経営戦略を立てたり経営課題を特定したりする際に広く使われるフレームワークです。自社の内部環境を以下のように4つの要素に分けて整理します。
| 分類 | 内容 |
|---|---|
内部環境:強み(Strengths) | 自社独自の技術力や長年のブランド力など |
内部環境:弱み(Weaknesses) | 設備の老朽化や人手不足など |
外部環境:機会(Opportunities) | 市場拡大や規制緩和など |
外部環境:脅威(Threats) | 競合の台頭や業界の縮小など |
内部・外部の両面から整理し、「何を強化すべきか」「どこにリスクがあるか」「どの課題から着手すべきか」などを把握しましょう。SWOT分析は、経営の方向性を考えるうえでの出発点として有効です。課題解決における優先順位を判断できます。
VRIO分析
VRIO分析では、自社が持っている経営資源がどれほど競争優位につながるかを、以下の4つの観点から評価します。4つの条件をすべて満たす資源は「コアコンピタンス(競争優位の核)」とされ、経営戦略の軸となり得ます。
| 要素 | 意味 | 観点のポイント例 |
|---|---|---|
Value(価値) | 顧客にとって価値があるか | 顧客ニーズに応えているか、収益につながるか |
Rarity(希少性) | 他社が簡単に持てない、または持っていないか | 同業他社にはない技術・ノウハウ・人材があるか |
Imitability(模倣困難性) | 他社が簡単に真似できないか | 特許、長年の信頼、ブランド力、社内文化などがあるか |
Organization(組織) | 活用できる体制・仕組みが整っているか | 強みを実行・維持する組織力や制度、人材配置が整っているか |
例えば、業界でも珍しい特許技術や、熱心なファンがついているブランドは、上記4つの条件を満たす可能性が高いです。
VRIO分析を活用することで、自社の「武器」になる経営資源を客観的に見極められます。特に経営資源が限られている中小企業にとっては、「強みをどう活かすか」という視点が、戦略の明暗を分ける重要なポイントです。戦略や投資の優先順位を明確にするためにも、VRIO分析は有効なフレームワークです。
業務の改善と効率化に活用できるフレームワーク
企業の経営課題には、業務プロセスの非効率や無駄が原因である場合も多いでしょう。業務改善や効率化は、コスト削減や生産性の向上に直結し、結果として企業の競争力を高めます。ここでは、業務の中にある非効率な要素や無駄を見つけ出すために活用できるフレームワークをみていきましょう。
ロジックツリー
ロジックツリーは、問題をツリー状に分解し、全体像や原因・解決策を論理的に整理するフレームワークです。「売上低下」という経営課題があれば、ロジックツリーを使って売上を構成する要素(顧客数、購入単価、購入頻度など)に分け、さらにそれぞれを細かく分析します。
Whyツリー、Howツリー、Whatツリー、KPIツリーなど目的に応じたタイプがあり、複雑な問題も構造的に理解できるのが特徴です。
MECE(ミーシー)
複雑な業務を分解するとき、抜けや重なりがあると、本質的な課題を見落とす可能性があります。MECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)は、「漏れなく、ダブりなく」情報を整理するためのフレームワークです。
例えば、顧客層を分析する際に「年齢」「性別」「居住地域」など、それぞれが重ならず、全体をカバーする形で分けていき、どの層に注力すべきかを明らかにします。
業務改善の場面でも、MECEの視点で工程を分けていくと、非効率な部分や無駄な業務の洗い出しがスムーズです。MECEを活用した情報の整理自体が、課題の発見と精度の高い分析につながります。
プロセスマップ
実際に現場でどのような作業が、どんな順番で行われているのかを整理したいときは、プロセスマップが効果的です。業務の開始から終了までの流れを、図にして“見える化”します。「どこで時間がかかっているのか」「手続きが複雑すぎないか」「無駄なやりとりはないか」といった問題点の把握が容易に行えます。
特に複数の部門が関わる業務では、認識のズレや重複が起こりがちです。プロセスマップを使えば、関係者全員で業務の全体像を共有できるため、改善の方向性も揃えやすいです。
KJ法
KJ法は、情報やアイデアをカードに書き出し、グループ化・図解化・物語化により、本質を見つけるフレームワークです。経営会議やブレインストーミングの場で、「たくさん意見は出たけど、どう整理したらいいかわからない」という場面などで有効な手法です。
KJ法では、集まった意見やアイデアを1枚ずつカードに書き出し、グループごとに分類・整理していきます。その後、グループ同士の関係を図にしてつなぎ、全体の流れをひとつの物語としてまとめましょう。KJ法により、バラバラだった情報の中から、共通点や本質が浮かび上がってきます。
KJ法は、数値では捉えにくい抽象的な課題や、現場の声の整理にも向いています。特に複雑で感覚的なテーマを扱う場面で有効な手法です。
競争力を高めるためのフレームワーク
商品やサービスの改善を重ねても、市場には必ずライバルが存在します。企業が持続的に成長していくためには、「どうやって他社と差別化していくか」、そして「どうすれば選ばれ続ける存在になれるか」を常に考え続ける必要があります。ここでは、市場における自社の立ち位置や強みを整理し、競争優位性を築くための代表的なフレームワークをみていきましょう。
4P分析
4P分析は、自社の商品やサービスが市場でどのように位置づけられているのかを整理し、戦略を立てるための基本的なフレームワークです。「Product(商品)」「Price(価格)」「Place(流通)」「Promotion(販促)」の4つの視点から、マーケティング施策を具体化していきます。
| 要素 | 意味 | 主な検討ポイント |
|---|---|---|
Product(商品) | 何を提供するか | 機能性、デザイン、ラインナップ、競合との違いなど |
Price(価格) | いくらで提供するか | 市場価格帯、顧客の価値認識、競合との価格差、価格戦略の方針 |
Place(流通) | どこで・どう届けるか | 実店舗、ECサイト、代理店、オムニチャネル戦略など |
Promotion(販促) | どうやって伝えるか | 広告、SNS、キャンペーン、イベントなど、ターゲットに合った施策 |
例えば、商品そのものの魅力を見直すだけでなく、「どの価格帯で販売すべきか」「どのチャネルを活用するか」「どう届けるか」といった観点を統合的に検討し、より実効性のあるマーケティング戦略が立てられます。
4P分析は、商品やサービスを「どう売るか」を体系的に考えるうえで有効な手段です。特に新商品開発時や既存商品の見直しを行う際に活用できます。
戦略実行を強化するフレームワーク
経営課題に対する解決策を立てても、実行し成果につなげなければ意味がありません。そして、実行した施策の振り返りや改善が、継続的な成長には欠かせません。戦略の実行状況を見える化し、現場と一体となって継続的に改善を進めていくためのフレームワークを紹介します。
PDCAサイクル
PDCAサイクルは、「Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)」という4つのステップを繰り返しながら、業務や施策をブラッシュアップしていく考え方です。
| ステップ | 意味 | ポイント |
|---|---|---|
Plan | 計画 | 課題や目標をもとに、改善策や業務方針を立てる |
Do | 実行 | 計画に基づき業務や施策を実施する |
Check | 評価 | 実行結果を数値や現場の声などで評価し、問題点を洗い出す |
Act | 改善 | 評価結果をもとに改善案を検討し、次の計画や実行に反映させる |
例えば、「コスト削減の計画(Plan)」を立てて実行(Do)し、その効果を検証(Check)して、必要に応じて見直しや修正(Act)を加えることで、改善が現場に定着していきます。
1回で完璧を目指すのではなく、4ステップを回しながら精度を上げていくのがPDCAのポイントです。 戦略や施策を実行したまま終わらせることなく、確実に成果につなげるための仕組みとして効果的です。
KPT
KPT(Keep・Problem・Try)は、チームやプロジェクト単位での活動改善に適した振り返りのフレームワークです。問題点だけでなく、良かった点も明確にすることで、メンバーの前向きな姿勢を引き出せるのが特徴です。
| 要素 | 意味 | 主な内容 |
|---|---|---|
Keep | 続けること | 成功した取り組みや今後も継続すべきことを整理し、共有する |
Problem | 問題点 | 課題や改善が必要な点を洗い出す |
Try | 次に試すこと | 次回に向けたアクションやチャレンジを具体的に設定する |
KPTは経営施策の振り返りにも応用可能で、改善点をその場限りで終わらせず、「次にどう活かすか」までを共有する文化づくりにもつながります。
YWT
YWTは、「やったこと(Y)」「わかったこと(W)」「次にやること(T)」の3つの視点で振り返るシンプルなフレームワークです。特に個人や少人数チームでの活用に適しており、定例ミーティングなどにも取り入れやすい点が特徴です。
| 要素 | 意味 | 主な内容 |
|---|---|---|
Y(やったこと) | 実行した内容の振り返り | 実際に取り組んだ行動や対応を明確にする |
W(わかったこと) | 気づき・学びの整理 | 経験を通して得た知見や改善点を振り返る |
T(次にやること) | 次の行動の決定 | 学びを活かし、次に取るべき具体的なアクションを決める |
単なる反省で終わらず、経験を学びに変える取り組みにより、日々の業務改善が着実に前へと進んでいきます。
経営課題は早めの対策が必要
経営課題は、放置すればするほど、問題が大きくなりがちです。業績の悪化や組織の混乱など、ダメージにつながる恐れがあります。課題を把握した時点で、できるところから改善に動き出すのが大切です。経営計画の見直し、人事制度の改善、ITツールの導入、コストの見直しなど、経営課題に応じて、改善策を検討しましょう。フレームワークの活用により、課題の整理や戦略の可視化、具体的なアクションへの落とし込みが可能です。
ただし、すべてを自社だけで判断するのが難しい場合もあるでしょう。税理士やコンサルタントなど、外部の専門家への早めの相談も選択肢の一つです。客観性のある分析や、実行可能な改善策の提案が受けられます。特に財務や組織、人事制度などは、経験のある第三者との検討により、思い込みや見落としを防げます。









