日本の農業が抱える経営課題は多岐にわたります。複数の経営課題に直面した場合、農業経営の継続自体が困難となる可能性が高いです。日本の農業が衰退すれば、食料自給率の低下、農作物の輸入割合の増加にますます拍車がかかります。持続可能な農業経営のためには、経営課題への適切な対処が必要です。この記事では、日本の農業が抱える経営課題とその解決策について説明します。
目次
日本の農業が直面している経営課題とは

日本の農業が直面している経営課題は複数あり、農業の継続を難しくさせる可能性が高いです。まずは日本の農業の現状を把握するためにも、主な経営課題について説明します。
農業従事者の高齢化と担い手不足
農業に従事する人の年齢が高齢化している、若年層の農業従事者が少ないことから、農業従事者の人口の減少が続き、労働力不足が加速すると言われています。
農林水産省が公開している農業労働力に関する統計調査を確認してみると、農業従事者の平均年齢は年々上昇しています。農林水産省の資料によると、平成27年度の農業従事者の平均年齢が67.1歳でしたが、令和6年度には69.2歳です。
新規就農者についても平成27年度が65,000人で、令和5年度には43,500人と年々減少しています。
また、農業以外の産業に従事する人の平均年齢と比較してみると、農業従事者の高齢化が顕著です。高齢で農業経営をしていた人が諸事情により引退し、若い就農者が増えなければ、人手不足はさらに深刻化するでしょう。
農業を続けている高齢者が、体力や労働力不足を理由に栽培量を減らさざるを得なくなると収穫量の減少に結び付きます。
就農時の初期投資が高額
新規での就農を検討した場合、初期投資が高額なことも農業への新規参入が増えない要因です。就農する際には以下のものが必要とされています。
- 農機具
- 耕作地
- ビニールハウス
- 肥料
上記はあくまでも一例であり、本格的に農業を始めることになればさまざまな準備が必要です。また、新たな土地で就農する際には住む場所も確保しなくてはいけません。
初期投資に数百万円から数千万円といった、高額な費用がかかることから、就農をあきらめる人もいるかもしれません。だからこそ、就農時の資金負担が軽くなれば、新規参入のハードルが下がるでしょう。
新規就農者の離職率が高い
若者を含めて農業に興味や関心を持つ人が増えていますが、新規就農者の離職率が高いことも人手不足の一因です。総務省の調査によると、新規就農者のうち就農後3年以内に離職した人の割合は35.4%で、そのうちの約半数が就農後1年以内に離職しています。
新規就農者が離職する理由は次の通りです。
- 実際の業務内容が思っていたものと違った
- 重労働や単調な作業が多い
- 周囲や受け入れ先の農家との関係性悪化
せっかく就農する人が増えても、離職率が高く農業従事者として定着しなければ人材不足の問題は解消されません。農業に従事する人口を増やさなければ、慢性的な人手不足に陥るでしょう。
参考:総務省 新規雇用就農者の離農抑制対策の実施状況(就農後)
気候変動によるリスクの増加
近年は気候変動によって農作物の収穫量や質に悪影響が及んでいることも、農業経営を困難にする要因の一つです。
農業は気候による影響を受けやすいことから、不安要素が多い産業だと言えます。近頃はゲリラ豪雨や猛暑、頻発する台風などにより農作物の収穫量や質の維持が困難です。
現代の気候に合わせた農作物の品種改良、生産計画の立て直し、新たな技術の確率といったことが求められ、経営の難易度をますます高めています。
ただし、気候の変動については農業従事者の努力だけでは改善が難しいのが現状です。行政が中心となったデータ分析や品種、技術改良などが求められるでしょう。
TPPによる競争が激化
TPP(環太平洋パートナーシップ)により、価格競争が厳しくなったことも農業経営に打撃を与えています。主にアジアや太平洋地域における関税の撤廃などで経済の活性化を促す協定により、日本の農業経営がさらに厳しさを増しています。
2018年12月より協定が発効され、日本の農林水産物である2,594品のうち2,135品、つまりほとんどの農作物の関税が撤廃されたことで、国内外の農作物との価格競争が激化しました。
もともと農業は他の産業に比べて経済的な安定性が低いことに加え、価格競争の激化が着実な収入を得ることを難しくしています。
農作物を生産しても売れず、売れても利益が少ない状態が続けば、農業は魅力的な職業と捉えられず、離農者の増加や就農者の減少を引き起こすでしょう。
耕作放棄地と荒廃農地の増加
現在は農地として活用されていない耕作放棄地や荒廃した農地の増加も、日本の農業が抱える経営課題の一つです。耕作放棄地や荒廃農地の増加は、主に農業従事者の高齢化と人手不足が原因です。
耕作放棄地や荒れた農地が増えることにより、管理不足による雑草や病害虫の発生、ゴミの不法投棄といったさらなる問題を引き起こします。農地は農作物を作るだけでなく、地域の環境維持にも一役買っています。そのため、農地が荒廃すると地域の自然環境と景観の悪化を招くリスクが高まるのです。
また、耕作放棄地で再び稲作や野菜作りを行うことは可能ですが、栽培に適した環境に整えるためには相当の時間と労力が必要です。人手不足の問題が解消されない限り、耕作放棄地の増加は避けられないでしょう。
持続可能な農業を実現するための経営課題の解決策

日本の農業はさまざまな経営課題を抱えています。このまま適切な対策をとらなければ、日本の農業の衰退は避けられないでしょう。ここでは、持続可能な農業を実現するために、経営課題の解決策について詳しく説明します。
農地を集約する
労働力不足やコストカット、作業効率化の実現のために農地の集約が効果的です。田畑などの農地を複数所有していても、農地が集約していなければ作業効率が大きく低下します。農作業をするためには農機具を運搬しなくてはならず、移動時間、手間、労力が増えるからです。
農地を集約することで、少ない労働力でも効率の良い農作業が可能です。とは言え、農地を集約するために新たに農地を購入するとなると、購入資金を用意しなくてはいけません。
そこで利用を検討したいのが農地バンクです。農地バンクとは、農林水産省が農地の貸し借りをサポートする事業のことです。法改正により令和5年度からは、所有者不明や遊休農地も対象となったため、農地集約のさらなる促進が期待できます。
農地を借りる際には費用がかかること、借りられる期間が決まっていることなどを踏まえ、農地バンクの活用による農地集約を検討してみましょう。
農業経営を大規模化する
農業経営の大規模化も、労働力不足の解消や作業効率の向上に役立ちます。これまでの日本の農家は、農業だけでは生活が成り立ちにくいという理由で小規模経営や兼業農家が主流でした。
しかし、政府が率先して農地バンクの立ち上げや新規就農者に対する金融緩和、補助金など、大規模農業を支援する政策を導入したのです。
大規模農業を支援する政策を積極的に行っているのは、TPPが関係しています。TPPによる農作物の関税撤廃で日本の農業が衰退するリスクが高ため、農業規模を拡大して国内の生産率を高める必要性が高まりました。
農業の大規模経営を行った場合、作業量が増えてさらに労働力が不足するように感じられるでしょう。しかし、大規模作業に適した農機具を活用するなどの対策を講じれば、小規模経営と比較して作業時間や手間が大きく増えるわけではありません。
また、大規模経営に切り替えるにあたり、個人経営から法人化することで融資を受けやすくなったり、節税効果が高まったりします。
先端技術で農作業を自動化・効率化する
人手不足を補い効率よく農作業を進めるための手段として、スマート農業の導入が効果的です。スマート農業とは、AIやロボットといった先端技術を活用し、限られた人材で効率よく農作業を行うことです。
例えば、これまで田植え機を使って行っていた作業の一部をドローンで代替できます。従来の田植えでは苗箱に苗を植えて、ある程度の大きさに育ててから田んぼに植えるというやり方が主流でした。
さらに、苗箱を田んぼまで運び田植え機に乗せて苗を植えるため、4~6人の人手を必要としたのです。ドローンによる田植えは、種もみを直接田んぼにまくため、事前に苗を育てたり運んだりする必要がありません。また、重たい苗を運ばなくて済むため肉体的負担も大きく軽減され、田植え機も不要です。
他にも、給排水を自動で制御したり、ビニールハウスを管理したりするシステムを導入することで、農作業の手間と時間を削減できます。
スマート農業の導入時には初期費用がかかります。しかし、限られた労働力でも多くの収穫を得られる可能性が高いため、今後も農業を続ける場合は導入を前向きに検討してみましょう。
データを活用した農業経営を行う
これまで経験や勘に頼る機会が多かった農作業をデータ化することで、より効率の良い農作業や着実な収穫が期待できます。例えば、以下の情報をデータ化します。
- 作業計画
- 収穫量の予測
- 気候や環境
- 農作物の生育状況
- 消費者のニーズ
- トレンド
上記の情報をデータ化し分析することで下記のような対策を実現でき、農作業の効率性や生産性を高めてくれるでしょう。
- 効率の良い作業計画の立案
- 気候や環境によるリスク対策の考案と導入
- 農作物の安定供給
- フードロス対策
- 農作物の価格の安定化
また、データ化によりノウハウを共有できるため、事情により第三者に農作業を依頼するとき、就農希望者に技術や知識を教えるときに役立ちます。
農作物のブランド化を図る

綿密なマーケティングに基づき、栽培、収穫した農作物のブランド化を図ることは、堅実な経営やビジネスチャンスの拡大にも効果的です。
例えば、直売所やインターネットを通じて収穫した米、野菜、果樹を販売することで、農家と農作物の知名度、付加価値の向上が期待できます。
また、自治体が農産物のブランド化を推進するなど、農家単体ではなく自治体やJAが主導となる事例も増えています。例えば、りんごの産地として有名な青森ではJAが主体となり、一部の品種のりんごを機能性表示食品としてアピールしました。
他にも、InstagramなどのSNSを活用することも、農家や農作物の知名度向上に結び付きます。農家や農作物のブランド化のためには、ビジネスチャンスの獲得を目指す経営者的な思考や対策が求められます。
農作物のブランド化を実現できれば、他の農作物との差別化ができ、価格を抑えなくても売れる可能性が高まったり、地域のブランド化が促進されたりといったメリットが期待できるのです。
農業の6次産業化で販路を拡大する
農業体験の実施や加工品の販売で利益を得る農業の6次産業化も、着実な農業経営に効果的です。
これまでは栽培や収穫した農作物をそのまま出荷、販売するのが一般的でした。しかし、それだけでは販路や売上に限りが出やすいため、さまざまな角度で農作物や農作業の魅力を知ってもらうことで売上アップや販路拡大につなげます。
例えば、いちご農園などの果樹農園を経営している場合、果物狩りによる収穫体験、農園で採れた果物を使った料理やスイーツを提供、販売することで売上アップに貢献しています。
実際に6次産業によって知名度を得ている農家が増えているため、新たに6次産業として参入して成功するためには、他の農家と差別化できるポイントをアピールすることが重要です。
専門家からのアドバイスやサポートを受ける
安定した農業経営を続けるためには、専門家からのアドバイスやサポートが効果的です。例えば、農業経営・就農支援センターは就農や経営の改善、法人化などの相談に、地域農業改良普及センターは、技術的な指導の提供や経営相談に応じてくれます。専門家に頼ることで、効果的な農業経営をサポートしてもらえます。
また、安定した農業経営を続けるためには、資金繰りの安定も重要な要素です。他にも、正しい納税が求められることから、税理士のサポートを検討してみましょう。
例えば、税理士に次のことを相談できます。
- 資金繰りの安定化
- 適切な資金調達法
- 妥当な節税対策
- 正しい納税
- 農業従事者が利用できる補助金
- 法人化に適したタイミング
- 経理や税務業務
健全な農業経営の実現には、資金不足への対策が欠かせません。資金調達の方法には複数の手段があるため、税理士は経営や会計の状況に適した調達方法を提案してくれます。他にも、効果的な節税対策に関する助言が可能です。
日々の経理業務が正確な税務につながるため、経理業務からサポートしてもらうことで正しい申告を実現できます。
農業の経営課題を把握し適切な解決策を取り入れよう
日本の農業はさまざまな経営課題を抱えています。このまま対策をとらなければ、日本の農業は衰退し、食料自給率も低下するでしょう。農業の経営課題を解決できる対策を取り入れることが、作業効率の向上や売上アップにつながり、堅実で持続可能な農業経営に結び付きます。必要に応じて専門家のアドバイスやサポートをうけながら、農業の経営課題の解決に努めましょう。








