仕入を行う際、何らかの事由によって仕入れた物を返品する「仕入戻し」が生じる場合があります。ただ、「仕入割戻」や「仕入値引」「仕入割引」等の類似する言葉も多く、どの勘定科目を使えば良いのか迷う方も少なくありません。この記事では、仕入を行う上で比較的使用することの多い勘定科目である「仕入戻し」等の基本的な定義について解説します。仕入割戻や仕入割引、仕入値引の仕訳例もまとめているので、帳簿付けにお困りの方はぜひ参考資料としてお役立てください。
目次
仕入戻し・仕入割戻・仕入割引の概要

仕入戻し、仕入割戻、仕入割引は、いずれも仕入に関する会計処理です。それぞれ異なる目的があることから、帳簿付けをする際は混同しないよう、一つひとつの特徴を押さえておくことが大切です。ここからは、仕入戻しと仕入割戻、仕入割引の概要について解説します。
仕入戻しとは
仕入戻しとは、企業が仕入れた商品を何らかの事由によって、返品する際に用いる勘定科目のことです。主な事由には、商品の品質不良や仕様との不一致、発注ミス、配送過程での破損など、さまざまな問題が挙げられます。
企業資産の減少や仕入れに関する費用について正確に把握するための項目で、仕入戻しが生じた際は帳簿に「仕入戻し」という勘定科目を用います。仕入がうまく行えなかった場合でも、適切な勘定科目を使うことで財務諸表に正確な情報が反映され、実際の在庫・取引状況が把握しやすくなります。
なお、仕入戻しは取引先との良好な関係維持や契約条件の確認にも絡む問題です。商品はただ返品するのではなく、双方が再発防止策や今後の改善計画の一環と捉えることで、企業活動の円滑化や効率改善につなげられるでしょう。
仕入割戻とは
仕入割戻とは、特定の条件によって取引先から仕入れに対する一定額が返金されることです。取引先との契約等に基づくことが多く、一定の購入量や取引額を超えた際にリベートとして返還してもらうことが一般的です。
この方法を通じて、企業は効果的なコスト管理が実現し、全体的な財務戦略の効率化につなげられます。
価格が事後に下がるため、後述する仕入値引と同様に、仕入れ高から控除する仕入控除項目として使用します。
仕入割引とは
仕入割引とは、仕入代金を支払期日よりも前に払い、本来の期日までの期間に応じて利息相当分を値引きすることです。仕入を行う企業にとっては資金の流動性を向上させる方法のひとつで、支払金額の削減によってキャッシュフロー改善につながります。
仕訳では受取利息に似た形で進めることが多いものの、頻繁に利用されるため、業務上の営業外収益として計上することが一般的です。仕入割引の活用で企業は、柔軟な資金計画や財務面の効率化を図れます。
仕入戻しと仕入割戻の違い
仕入戻しと仕入割戻は、いずれも仕入の会計処理に関する言葉です。しかし、内容や目的、処理方法は大きく異なります。仕入戻しとは、主に仕入れた商品を返品する行動のことで、商品の不良・発注ミス等の理由で行われるケースが一般的です。
一方、仕入割戻は一定の条件を満たすことで、取引先から受け取る金銭的な還付やリベートを指します。大量購入や特定の取引量を基準として提供され、企業間における信頼関係を深めるきっかけに寄与する場合があります。
このように仕入戻しや仕入割戻には、目的に加えて、企業間の信頼関係に対する影響にも違いがあります。それぞれの特徴を押さえ区別をつけることで、会計処理や財務管理の正確性につながり、会計上の信頼性を高めることができるでしょう。
仕入割引と仕入値引の違い
仕入戻し以外にも混同しやすい言葉として「仕入割引」と「仕入値引」があります。仕入割引は、取引において一定の条件を満たした場合に還元される金銭です。支払期日よりも早く代金を支払ったことで得られる割引などが該当します。
一方、仕入値引は、仕入れた商品において数量不足や品質不良があった際に適用される値引です。例えば不良品の返品や交換が必要となった際に、その分の価格調整として用いられます。
*仕入割引 一定条件を満たした際に提供される金銭の還元 *仕入値引 商品に何らかの事由があった際に適用される値引 *それぞれの違い 現金を用いた割引・金額に対する値引 |
仕入割引はキャッシュフローの改善につながり、効率的な資金管理が可能になる点が企業におけるメリットです。
損益計算書上では「仕入高」のマイナス処理ではなく「仕入割引」を新たに設け、営業外収益として計上します。一方、仕入値引の仕訳については、買掛金の減少として記録し、販売と仕入管理の区分を明確にします。
仕訳における処理の差異
仕入割引と仕入値引では、それぞれ異なる会計処理が行われます。仕入割引では、資金決済による割引額を収益科目として記録し、営業外収益として認識されるのが一般的です。一方、仕入値引は仕入れた商品の値引きを直接的に仕入原価へ反映させます。
例えば、仕入割引の場合は「買掛金」と「仕入割引」の勘定科目を用いて処理し、仕入値引では「買掛金」と「仕入値引」を用いた処理を行うのです。このような勘定科目を使うことで仕入高の減少を適切に記録でき、財務諸表に正確な取引内容が反映されます。
仕入割戻や仕入割引などの仕訳例

仕入割戻や仕入割引、仕入値引に関する仕訳は、正確な会計処理には欠かせない項目です。具体的な仕訳例を把握することで正確性を保った経理管理の実現につながり、企業の財務状況に透明性をもたらします。ここからは、仕入戻し、仕入割引、仕入値引の仕訳方法について解説します。
仕入割戻の仕訳例
仕入割戻は、多量に商品を仕入れた際に、一定の条件下で受け取るリベートを指します。
例えば、商品を仕入れた際、事前に設定された条件に基づき55,000円(内消費税)のリベートが支給されるとします。このような場合の仕訳例は以下の通りです。
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 科目 | 金額 | 科目 | 金額 |
| 買掛金 | 55,000 | 仕入割戻 | 55,000 |
借方には「仕入割戻」として「55,000」を記載し、貸方には商品代金を後日支払う約束をした場合に用いる「買掛金」と「55,000」を記入します。支給されたリベートが記録されるとともに仕入高が減少していることが把握できます。仕訳例を参考にすることで、複雑になりがちな経理処理を正確かつスムーズに進められるでしょう。
仕入割引の仕訳例
仕入割引は、支払期日より早く代金を支払った場合に適用されるものです。具体的な仕訳方法は下表の通りです。
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 科目 | 金額 | 科目 | 金額 |
| 買掛金 | 1,100,000 | 現金 | 1,045,000 |
| 仕入割引 | 50,000 | ||
| 仮払消費税等 | 5,000 | ||
例えば、1,100,000円(内消費税)相当の物を購入した場合です。このようなときは借方に「買掛金」として「1,100,000」と記入します。一方、貸方には商品代金として支払った「現金」と金額の「1,045,000」に加え「仕入割引」を受けた額の「50,000」と仮払消費税額の「5,000」を記入します。
仕入値引の仕訳例
仕入値引は、商品の不具合や数量不足といった理由で発生する値引きのことです。仕入値引の仕訳例は下表の通りです。
*商品代金を後日支払うことを約束し、1,100,000円(内消費税)の商品を仕入れた場合
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 科目 | 金額 | 科目 | 金額 |
| 仕入 | 1,100,000 | 買掛金 | 1,100,000 |
*購入後に不良品が同梱されていることに気付き、5,000円の値引きを受けたときの仕訳例
| 借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
| 科目 | 金額 | 科目 | 金額 |
| 買掛金 | 5,000 | 仕入 | 5,000 |
仮に、1万円分の商品を仕入れた際に不良品が同梱されていて、5,000円の値引きを受けたケースは上表のように仕訳します。仕入れた商品に対して値引きが生じたことで、仕入という費用項目が減少していることが分かるでしょう。また、同時に将来支払う予定だった買掛金という負債項目が減少していることが一目で確認できます。
返金による仕訳の注意点

仕入れた物が何らかの事由によって返品し、返金が生じた場合の仕訳には、いくつか注意したい項目があります。ここでは、返金による仕訳の注意点を3つ紹介します。
消費税の処理
取引の中で返金が生じた場合は、売上や仕入に生じた消費税額の調整をするため、通常の会計処理同様に消費税も処理しなければなりません。このような場合は、仕入時と返品時で下表のように仕訳しましょう。
| 仕入時 | |||
|---|---|---|---|
| 借方 | 貸方 | ||
| 科目 | 金額 | 科目 | 金額 |
| 仕入 | 10,000 | 現金 | 11,000 |
| 仮払消費税 | 1,000 | ||
| 返品時 | |||
|---|---|---|---|
| 借方 | 貸方 | ||
| 科目 | 金額 | 科目 | 金額 |
| 現金 | 11,000 | 仕入 | 10,000 |
| 仮払消費税 | 1,000 | ||
10%の商品代金が10,000円の物であった場合「消費税」は1,000円です。このようなときは仕入時に「仕入」と現金で支払った「10,000」に加えて、借方に「仮払消費税」として「1,000」を記帳します。
また、返品した場合は返金することから、借方に「現金」と「10,000」、貸方には「10,000」の「仕入」であったことを記入します。最後に、その際に生じた消費税として「仮払消費税」の「1,000」を記入しましょう。
勘定科目は適切な項目を使う
返金を受ける、あるいは自社が返金する場合であっても、返金の理由や状況に応じて適切な勘定科目を使うよう注意しましょう。
一例としては、販売時の過剰入金であれば「仮受金」を。前払であれば「前渡金」を使用するなどです。返金が生じた理由に応じて正しい勘定科目を使うことで、事実に即した会計処理につなげられます。
仕入割戻の計上タイミングは取引内容によって異なる
仕入割戻の計上タイミングは取引内容に依存する点に注意しましょう。例えば、一定期間内に特定の量を仕入れた場合、契約によってはリベートが適用されることがあります。この場合、実際にリベートが計上されるのは、約定された期間が終了した後です。
「なぜこのタイミングで計上されるのか」が分かるよう具体的な理由を事前に明らかにしておくことで、会計処理を適切に進めることができます。
もし、仕入の自店でリベートの発生が確認できているのであれば、仕入について記帳する際に、備考欄にひと言添えておくと良いでしょう。このような工夫によって、仕入のタイミングと仕入割戻のタイミングが異なっていても、取引の詳細について把握しやすくなります。
仕入戻しや仕入割戻しの違いを押さえよう
仕入戻しを中心に、仕入割戻や仕入割引、仕入値引など、非常に類似した言葉が存在しますが、いずれも異なる意味と目的を持ち合わせています。そのため、正確な仕訳をしたいのであれば、それぞれの特徴と違いについて深く理解することが大切です。
返品をする・されるといった場合、発生した商品代金とあわせて消費税も適切に記帳しなければなりません。消費税の仕訳は一見複雑に見えますが、何度か仕訳してみることでスムーズかつ正確に対応できるようになります。
しかし中には、仕訳に自信がない方や、勘定科目の多さに困惑する方もいらっしゃるでしょう。そのようなときはひとりで悩まず、会計のプロに相談することをおすすめします。
個人事業主の方をはじめ、経理部門に在籍する方の中で会計処理に不安がある方は、ぜひ「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。







