流行に左右されにくい特徴から安定的な経営を目指しやすい製造業ですが、健全な会社経営には財務諸表を用いた分析が欠かせません。とはいえ、財務諸表を使った財務分析では製造業ならではの指標を活用する必要性から、具体的な指標について押さえておくことが大切です。この記事では製造業の財務分析において有効な経営指標について解説します。
目次
財務分析における経営指標とは

事業を営むなかで押さえておきたい項目のひとつに「経営指標」があります。経営指標とは、企業の経営状況を数字で表した指標のことです。
売上高や利益率、資産などを主に、決算書の数字を使い計算するのが一般的です。企業の経営状態や現状の業績を客観的に把握できるので、企業の健全性や成長性を客観的に評価できます。
なお、経営指標と類似する言葉のひとつに「経済指標」がありますが、こちらは国や地域の経済状況を指す言葉です。経営指標と非常に似た言葉ですが対象範囲が広いという違いがあるため、覚え間違いや言い間違いがないよう注意しましょう。
製造業の財務分析に欠かせない経営指標

製造業の財務分析に欠かせない経営指標は主に以下の3つです。
- 損益分岐点
- 経費率・人件費率
- 労働生産性
どのようなものなのか、概要や計算式を見ていきましょう。
損益分岐点
損益分岐点とは、企業活動における売上高と費用が一致しており、利益も損失も生じていない状態のポイントを示す指標のことです。損益分岐点よりも売上高が上回っていれば利益があることを、下回っていれば赤字が生じていることが判断できます。
なお、損益分岐点の見方は、売上高もしくは販売数量で見ます。固定費や変動費をそれぞれ順番に計算しても求められますが、取り扱う商品が多ければ多いほど複雑な計算が伴うでしょう。
多数の商品を取り扱う事業者の方は、損益分岐点売上高と損益分岐点販売数量を算出する計算式を押さえておくことをおすすめします。それぞれの計算式は以下の通りです。
損益分岐点売上高の計算式 固定費 ÷ 限界利益率 |
損益分岐点販売数量の計算式 固定費 ÷ 1個あたりの限界利益 |
それぞれの具体例は以下の通りです。
損益分岐点の計算式
・1台あたりの限界利益は「1万円 – 3,000円 = 7,000円」 ・限界利益率は7,000円 ÷ 1万円 = 0.7(70%) ・損益分岐点は50万円 ÷ 0.7 = 約71万4,286円 |
損益分岐点販売数量の計算式
・500,000 ÷ 7,000 = 約71.4 ・毎月72台を売り切れば黒字経営となる |
損益分岐点や損益分岐点販売数量を算出する上で大切な項目は、固定費と販売代金、仕入れ価格です。これらの数字を洗い出しておくことでスムーズに算出できます。
経費率・人件費率
経費率は収入に対する経費の比率を指します。一方、人件費率は収入に対する人件費の比率を指し、人件費も経費の一部に含むのが慣例です。それぞれの計算式は以下の通りです。
経費率の計算式 (経費 ÷ 売上) × 100 |
人件費率の計算式 (人件費 ÷ 売上) × 100 |
事業収入には売上と売上総利益の2種類あり、以下のような違いがあります。
- 売上:商品・サービスを販売した結果の収入のこと
- 売上総利益:事業での粗利のこと(売上高 – 売上原価 で求める)
事業の財務分析においては経費率や人件費率も重要な指標です。それぞれの算出方法を押さえ、透明度の高い財務分析を行いましょう。
労働生産性
労働生産性は、商品・サービスの生産過程における労働の効率を指します。「物的労働生産性」と「付加価値労働生産性」の2種類あり、それぞれの特徴は以下の通りです。
- 物的労働生産性:生産数をはじめとした物理的に目に見えるものを利益として見た場合の労働生産性
- 付加価値労働生産性:金銭的価値を利益として見た場合の労働生産性
物的労働生産性の計算式は以下の通りです。
物的労働生産性の計算式 生産量 ÷ 労働量 労働量は以下に分けて分析する ・労働人数 ・労働人数 × 労働時間
|
付加価値労働生産性の計算式は以下の通りです。
付加価値労働生産性の計算式 付加価値額 ÷ 労働量 ※付加価値額の計算方法 控除法: 売上高 – 外部購入費用 加算法:経常利益 + 金融費用 + 人件費 + 減価償却費 + 貸借料 + 租税公課 労働量は物的労働生産性同様、以下に分けて分析する ・労働人数 ・労働人数 × 労働時間
|
まずは労働生産性がどのようなものであるかを理解するため、簡単な数字を使って計算してみることをおすすめします。
製造業の経営改善に有効な経営指標

製造業の経営を改善する際に有効な経営指標は以下の通りです。
- 製造原価
- 歩留まり(歩留率)
- 製造能力
- 不良率
- 欠陥率・クレーム率
具体的にどのような意味があるのかを見ていきましょう。
製造原価
製造原価とは商品・サービスの製造に掛かる原価のことで、材料費や労務費、製造経費の3要素に分けることができます。製造原価の計算式は以下の通りです。
製造原価の計算式 当期総製造費用 + 期首仕掛品棚卸高 – 期末仕掛品棚卸高 |
各項目の概要は以下の通りです。
- 当期総製造費用:材料費・労務費・経費の合計額のこと
- 期首仕掛品棚卸高:前期末時点での未完成の製品のこと
- 期末仕掛品棚卸高:今期末時点で未完成 of 製品のこと
製造業において製造原価は企業の収益体質を決める要素のひとつに位置します。製造原価の管理が不十分だと、利益の実態が不明瞭になり、赤字経営に転落するリスクが高まります。
なお、製造原価を計算する際は歩留率も考慮しないと正確な原価計算ができません。歩留率については次項で解説します。
歩留まり(歩留率)
歩留まりとは、製造ラインに投入した材料数に対して実際に生まれた商品数の割合を指す経営指標のことです。歩留率の計算式は以下の通りです。
歩留率( % )の計算式 実際の成果数 ÷ 全体の総数 × 100 |
歩留率が高いほど投入した材料数に無駄がないことが把握でき、低いほど投入材料に無駄が生じコストが多く掛かっていると判断できます。歩留まりや歩留率は製造業にとって重要な項目です。コストの掛かり具合も把握できるので、細かくチェックすることをおすすめします。
製造能力
製造能力とは、製造ライン1時間あたりの商品製造個数を表す経営指標のことです。仮に1時間で1,000個の商品を製造できるラインの場合、製造能力は「1,000個/1h」と表すことができます。製造能力が高ければ高いほど、商品1個当たりの製造原価は下がるという特徴があります。
製造業では、工場の稼働率を求めたい場合もあるでしょう。そのようなときは以下の計算式を使用します。
工場稼働率の計算式 実際に生産された量 ÷ 生産能力 |
例えば1日1,000個の生産能力で、実際の生産数が500個だった場合は以下のようになります。
実際に生産された量(500個) ÷ 生産能力(1,000個) = 0.5 (50 % の稼働率) |
工場の稼働率は生産現場のさまざまな原因によって変動しやすいです。100%に近い状態が理想ですが、低すぎても高すぎても問題が生じる場合があります。そのため、生産現場における「ムリ」「無駄」「ムラ」の3Mがないかを確認することが大切です。
不良率
製造ラインで商品化されたもののうち、検査等で不適合とみなされ商品化に至らなかった商品の割合を表すものを不良率と呼びます。計算式は以下の通りです。
不良率の計算式 (不良品数 ÷ 総生産数) × 100 |
例えば1,000個の商品に対して不良品が10個見つかった場合の式は以下の通りです。
(10 ÷ 1,000) × 100 = 1 不良品率は1% |
なお、不良率も稼働率同様に、生産ラインのさまざまな要因で上昇する事があります。オペレーターの技術不足やメンテナンス不足、機械の故障などです。不良率の高い商品は二次クレームのリスクにつながる恐れもあるため、製造業であれば重視したい項目と言えるでしょう。
欠陥率・クレーム率
欠陥率とは販売後の商品に欠陥が見つかった率のことです。また、クレーム率は商品クレームの発生率を指し、いずれも製造業を営む上では押さえておきたい経営指標です。欠陥率やクレーム率は同じ計算式で求めます。
欠陥率・クレーム率の計算式 (欠陥・クレーム数 ÷ 総生産数)× 100 |
例えば1,000個の商品のなかに欠陥品が1つあった場合の計算方法は以下の通りです。
(1 ÷ 1,000)× 100 = 0.1 欠陥率およびクレーム率は0.1% |
製造業において経営を左右しかねない項目のため、基本的には「0%」を目指します。欠陥率・クレーム率を改善するためには製造ラインの品質レベルと作業員の意識レベルが高いことが推奨されます。数字が高いほど何らかの原因が滞留している可能性があるため、早急に特定し改善することが大切です。
製造業の経営指標について理解を深めよう
製造業に必要な経営指標を押さえることで経営管理がスムーズに行えます。適切な経営指標について理解を深められれば、いつでも透明性を保った現状把握につながるでしょう。とはいえ、製造業にはまだまだ多くの経営指標が存在します。経営指標について知りたい方や分析方法に関するアドバイスをお求めの方は、この機会に小谷野税理士法人にご相談ください。








