キャッシュフロー分析とは、キャッシュフロー計算書と呼ばれる資料を使い、企業資金の動きや流れを分析することです。入金や出金の確認によって、資金繰りや経営状況を細かく把握できます。キャッシュフロー計算書を分析する中では、経営状況等をいくつかのパターンに分けながら現状を把握します。この記事ではキャッシュフロー分析に使うキャッシュフロー計算書でみられるパターンや分析方法、メリットについて解説します。キャッシュフロー分析で現在の資金繰りや経営状況について把握し、改善点の洗い出しや企業戦略の策定に活かしましょう。
目次
キャッシュフロー分析とは

キャッシュフロー分析とは、キャッシュフロー計算書と呼ばれる資料を活用しながら、資金繰りや経営状況を判断する方法のことです。企業における一定期間内の現金の流れを明確にし、資金の状態を詳細に判断できます。
キャッシュフロー分析の目的
キャッシュフロー分析の主な目的は、資金ショートの防止や資金繰りの改善、資金調達の円滑化です。例えば、企業が順調に業績を伸ばし利益が出ていたとしても、資金回収の遅延や支払いが早まると、手元資金が不足することがあります。
このような状態を資金ショートと呼び、適切な支払いが行えなくなるなど、さまざまなトラブルにつながるリスクが高まります。
資金ショートを避けるためには、企業の経営状況を細かく分析する必要があります。そのようなときに用いられる方法としてキャッシュフロー分析があり、事業を営む方であれば定期的に取り組む姿勢が欠かないと考えられます。
なお、キャッシュフロー分析では、キャッシュフロー計算書と呼ばれる資料が欠かせません。適切な状況把握のためには、正しい読み方について理解することが大切です。
キャッシュフロー計算書とは
キャッシュフロー計算書とは、一定期間における企業の現預金の流入・流出(キャッシュフロー)を記録する書類のことです。現預金が増減した原因を分析できる特徴から、企業の経営面に潜むトラブルの可能性や適切な運用に向けた取り組みを策定できます。
資金繰りの状態だけでなく経営成績も分析できるので、企業全体に潜む課題の発見・改善に役立てることも可能です。
なお、キャッシュフロー計算書では、営業活動・投資活動・財務活動の3つに分けて現金及び現金同等物の変動を明らかにします。3つに分けて現預金の流れをみることで、増減理由を詳しく把握できます。
キャッシュフロー計算書の読み方

キャッシュフロー計算書では、営業活動・投資活動・財務活動の3つで構成されています。また、営業・投資のキャッシュフローを合算した項目である「フリーキャッシュフロー」も、企業がどこで現金を増減させているのかを判断できます。ここからは、営業・投資・財務活動とフリーキャッシュフローの読み方について解説します。
営業活動
営業活動によるキャッシュフローは、営業におけるキャッシュの増減を表します。プラスであれば現預金の増加を、マイナスであれば減少を指し、マイナスだった場合、新規投資・借入金の返済が困難になると予想できます。
長期的にマイナスが続いている場合、業績悪化の兆候、いわゆる企業倒産の危機と判断でき、早期的な課題解決が求められます。
営業活動におけるキャッシュフローがマイナスだった場合は、短期的なものか長期的なものかを確認することが大切です。この場合は損益計算書に目を通し、売上増加が確認できるのであれば事業拡大による支出が先行していると考えられます。
投資活動
投資活動によるキャッシュフローは、設備投資や有価証券の売却などといった投資活動におけるキャッシュフローの増減を表します。一例としては、土地・建物等の不動産や、車両・設備等の有形固定資産の購入、貸し付けた金銭の回収などが挙げられます。
新たな固定資産を購入した場合、投資キャッシュフローには減少が、売却した場合には増加がみられるイメージです。将来使用することを見据え、固定資産を頻繁に購入した場合、投資キャッシュフローは減少を続けます。企業成長には一定の投資が必要です。しかし、手に入れた設備等を使う頻度が少なければ、資金ショートを招くリスクを高めるだけです。
企業成長を目指すのであれば、キャッシュフロー分析を活用し、経営状況を把握した上で投資することが大切と言えるでしょう。
財務活動
財務活動によるキャッシュフローは、どのような方法で資金調達したのかを表します。資金不足が生じた場合、借入金で補填したのか、あるいは社債を発行して資金調達したのかが明確になります。逆に余剰資金があった場合、借入金の返済に充当した、あるいは配当金として支払ったのかも確認可能です。
財務キャッシュフローの分析でポイントとなる部分は借入金の増減です。借入金の増加によって一時的にキャッシュフローの改善はみられます。しかし、持続的な状況にはならないため、結果的には再度キャッシュフローが悪化すると考えられます。
なお、借入金の減少は支払金利が生じる有利子負債の減少と読めるため、健全な経営状態であると判断できます。
フリーキャッシュフロー
フリーキャッシュフローは、営業活動によるキャッシュフローから投資活動によるキャッシュフローを差し引いたものです。企業が自由に使える現金を指しているため、借入金の返済や内部留保を増やすことに役立てられます。
プラス域で確保できている場合、企業の経営状態は安定していると判断できます。持続可能な成長が期待できるので、有効活用することがポイントになるでしょう。仮にマイナス域だった場合は、営業キャッシュフローの増加、もしくは投資キャッシュフローの削減につながる取り組みを実施しましょう。
キャッシュフロー分析で見られる8パターン
キャッシュフロー計算書での分析は、営業活動をはじめとした項目を用いることで、キャッシュフローの状況が判断できます。このとき、営業・投資・財務活動の数字がプラスかマイナスかで経営状況を8つに分類することが可能です。
| パターン | 営業CF | 投資CF | 財務CF | 状態 |
|---|---|---|---|---|
| 安定型 | + | + | + |
|
| 改善型 | + | + | – |
|
| 積極型 | + | – | + |
|
| 健全型 | + | – | – |
|
| 勝負型 | – | – | + |
|
| リストラ型 | – | + | – |
|
| 救済型 | – | + | + |
|
| 大幅見直し型 | – | – | – |
|
ここでは、キャッシュフロー計算書を用いることで判断できる経営状況のパターンについて解説します。
安定型
安定型は、本業による利益が十分であるほか適宜、資産売却も行っており、キャッシュにゆとりがある状態です。将来を見据えた大型投資のため、資金を貯めている状態である場合も安定型と読めることがあります。
改善型
改善型は、本業と資産売却で得た資金を借入金の返済に回している状態です。不採算事業からの撤退、リストラを推進している企業で見られます。
積極型
積極型は、本業の利益では足りない資金を金融機関からの資金調達で充当し、積極的に設備投資を行っている状態です。今後の成長企業のひとつとして期待できる状態を示しています。
健全型
健全型は、本業での利益を設備投資・借入金返済に適切に充当していることが判断できる状態です。堅実型の優良企業と判断できます。
勝負型
勝負型は、本業では赤字経営であるものの、借入金の充当によって設備投資が行われている状態です。事業再建に取り組む企業で見られます。
リストラ型
リストラ型は、本業による赤字を資産売却で凌いでいる状態を指します。売却可能資産があるうちに状態を改善させなければ倒産に至る可能性があります。
救済型
救済型は、本業での赤字を資産売却と借入金の充当で補っている状態です. 金融機関から借入できるうちは良いかもしれません。しかし、金融機関の姿勢や返済状況によっては資金繰りの悪化を招く恐れがあります。
大幅見直し型
大幅見直し型は、大きな赤字であるのにもかかわらず、積極的な設備投資に加え借入金の返済によって多額の現金が流れている状態です。過去に好成績をあげていても、現在は大きく低迷していることが判断できます。自己資金があるうちに、本業の赤字をどうにかするための企画立案・実行が必要といえるでしょう。
キャッシュフロー分析のメリット

キャッシュフロー分析によっては、以下6つのメリットがあります。
- 資金繰りの把握ができる
- 今後の対策を企画できる
- キャッシュフローパターンを客観視できる
- 経営戦略の方向性が明確にできる
- 投資計画の採算性を把握できる
- 企業価値の評価につながる
ここでは、キャッシュフロー分析における6つのメリットについて解説します。
資金繰りの把握ができる
キャッシュフロー分析によって、資金繰りを把握できます。資金の出入りだけでなく理由も明確になるため、今後の資金計画の策定に役立てることも可能です。
仮に、営業活動のキャッシュフローがプラスであっても、売掛金と買掛金を合算して分析すると、前年に比べて減少している場合があります。そのようなときは取引において非効率な部分が生まれていたのかもしれません。例えば、売掛金の回収が遅れている、あるいはできていないなどです。
さらに、投資キャッシュフローがマイナスだった場合であっても、営業キャッシュフローがプラスであれば、本業の事業活動が順調であると判断できます。資金の流れをある程度予想できれば、将来的な資金不足を想定しても適切な対策を講じることができるでしょう。
今後の対策を企画できる
キャッシュフロー分析によって、今後取るべき対策を検討できます。計算書の分析では、資金がどのように増減したのかにフォーカスすることが大切です。
仮に、営業キャッシュフローがプラスだった場合です。このようなときは、業績が好調である、保険金等による収入があった、運転資金が減少したなどの理由が考えられます。
運転資金の減少によってプラスとなっている場合、運転資金を減らした原因を追及することが大切です。業績の好調は確認できず、売掛金を多く回収していることで増加しているのであれば、近い将来、仕入・売上のバランスが崩れる恐れがあります。このような状態では、経営状況は将来的に悪化すると判断できます。
キャッシュフロー計算書を活用し綿密に分析することで、売掛金の回収や必要とされる資金調達の検討につなげられるでしょう。
キャッシュフローパターンを客観視できる
キャッシュフロー分析によって、企業の経営状況を客観視できます。本記事で解説したキャッシュフローパターンに自社の経営状況を当てはめることで、将来的にどのような結末が待っているのかを正確に予想することもできるでしょう。
経営戦略の方向性が明確にできる
キャッシュフロー分析によって経営戦略の方向性を明確にできます。フリーキャッシュフローを金融機関への返済にまわすことを想定している場合、新規事業の立ち上げは検討していないと判断できます。
また、企業の買収や設備投資等に充当しているのであれば、積極的に事業拡大に向けて取り組んでいると想定できます。
投資計画の採算性を把握できる
キャッシュフロー分析によって投資計画の採算性についての把握も可能です。そのため、計画中の投資が必要かどうかについて正確に判断することに役立ちます。具体的には下記のような手順で検討します。
- 想定する投資計画に沿ってキャッシュフロー計算書を作成する
- 営業キャッシュフローを現在価値として考える
- 計画したキャッシュフロー計算書と現在価値のキャッシュフロー計算書を比較する
想定する投資計画は、今後予定している借入・返済を指します。投資の際の金額と現在価値の営業キャッシュを比較し、プラスと判断できるときは、利益率の向上が見込めます。
企業価値の評価につながる
キャッシュフロー分析によって企業価値を客観的に評価できます。企業価値は企業の価値を表す指標を指し、判断の際にはさまざまな方法・項目が用いられます。なかでもキャッシュフロー計算書を用いた企業価値の評価では、下記のような方法を用いることが一般的です。
| 方法 | 式または算出方法 |
|---|---|
| 企業が生み出す現金から価値を評価 | 一定期間で生み出す現金 ÷ 利率 |
| 企業が将来得ると考えられる収入を現在価値に置き換える | 置き換えた金額を合計 |
| 一定期間のキャッシュフローを現在価値に置き換える | フリーキャッシュフローの期待額 ÷ 割引率 |
どのような計算方法でも、企業が生み出す現金を想定するほか、想定額は収入から支出を差し引いた金額を使いましょう。
キャッシュフロー分析を経営状況の把握に役立てよう
キャッシュフロー分析は、企業の現金の流れを正確に把握し、資金管理や経営判断に役立てる方法です。損益計算書や貸借対照表だけでは見えにくい資金の動きを理解することで、資金ショートの回避や効率的な資金調達につながります。
なお、キャッシュフロー分析や計算書の作成には、会計における専門知識が必要です。経営状況を正確に判断したいものの、計算書の作成に自信のない方は、この機会に「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。








