企業が事業によって得た所得には、法人税やさまざまな税金が課されます。納める税金を計算するにあたり、所得に課税される法人税の税率には「実効税率」と「表面税率」があります。どちらの税率も企業にとって算出すべき必要な指標です。この記事では、それぞれの税率の用途や具体的な計算方法、注意点などを詳しく解説していきます。
目次
実効税率とは?

実効税率とは、企業が実際に負担する法人税などを反映した税率のことです。「法定実効税率」とも呼ばれ、法人が収益を上げた際に課せられる税金が実際にいくらなのかを知るために用います。
税法上定められた法人税、法人事業税などの税率を合算した表面税率に、さらに法人事業税などを損金算入して細かく算出するのが実効税率です。企業が支払う具体的な納税額に近い金額が分かることから、経営状況を把握する際や、資金繰りの計算などにも活用できます。
ただし、企業の財務状況や所在地の税制などによっても税率が変動するため、会計士などの専門家に依頼して計算する必要があります。
表面税率とは?
表面税率とは、法人に課せられる税金の法定税率をそのまま合計したものです。企業が納税するべき以下の税金には、それぞれの税率が法律で定められています。
- 法人税
- 地方法人税
- 法人住民税
- 法人事業税
- 特別法人事業税
これらの税金に対してかかる税率を基に、課税される税金の合計額を計算することで、表面税率が算出できます。表面税率は税務の基本的な指標として活用されることから、確定申告などの税務の申告に用います。
ただし、表面税率はあくまで税法上の税率で示した参考の税金額です。そのため、実際の課税額や納税負担を正確に反映したものではない点に注意しましょう。
実効税率と表面税率の違いとは?
実効税率と表面税率は、どちらも「企業の法人税等がいくらかかるのか」を計算したものですが、実際にはじき出される数字や利用できる場面は違います。実効税率は企業が実際に納める納税額に近い金額を計算したもので、経営状況を把握するために重要な数字です。
一方で、表面税率は税金額の概算として、大まかな納税金額の把握や税金の申告時にも必要な数字です。ここでは、利用する場面や課税額、計算方法といった3つの違いについて詳しくご紹介します。
利用する場面
法人税の実効税率と表面税率は、それぞれ異なる場面で活用します。大きく分けると、以下のような用途に分けられます。
利用する場面 | 企業の具体的な活用 | |
実効税率 | 企業が負担する実際の税金を算出する際に使用 | ・経営戦略に活用 ・資金計画の策定をする |
表面税率 | 税金の申告や税務手続きの際に使用 | ・法人税の大まかな計算 ・納税の計画を立てる ・基本的な指標として利用 |
このように、実際に利用する場面が異なってくるため、多くの企業はどちらの税率も算出する必要があります。
課税額
2つ目の違いとして、課税額が異なる点です。法人における課税額は、所得に基づく税率を適用して算出されます。その際に、計算で使用する法人事業税などは損金算入が可能です。
つまり、法人事業税を用いて計算する実効税率であれば、損金算入により課税所得を下げられるため、税額を低く抑えられます。一方、表面税率は損金算入を考慮しない仕組みであるため、表面税率の課税額の方が実効税率の課税額よりも高めな傾向にあります。
計算方法
3つ目の違いとして、法人税の計算方法です。そのため、最終的にはじき出される値が異なっています。まずは、シンプルに計算できる表面税率から見ていきましょう。
- 【表面税率】=法人税率×(1+地方法人税率+道府県民税率+市町村民税率)+法人事業税率+法人事業税率×特別法人事業税率
表面税率の計算には、税法で定められた法人税率を基に地方法人税や法人住民税を加算し、最終的な課税額を求めます。それぞれの科目を単純に積み上げて計算したものとなるため、比較的計算しやすいのが特徴です。
- 【実効税率】={法人税率×(1+地方法人税率+道府県民税率+市町村民税率)+法人事業税率+法人事業税率×特別法人事業税率)}÷(1+法人事業税率+法人事業税率×特別法人事業税率)
実効税率は、法人事業税を損金算入したうえで法人税を計算する必要があるため、計算式も複雑です。
このように、2つの税率はその性質や適用方法、算出される金額などに違いがあります。実際には、企業の経営状況や地域ごとの課税条件なども考慮して計算されるため、専門の税理士や会計士に相談することをおすすめします。
実効税率と表面税率の計算方法

実効税率と表面税率は、計算方法が異なることがわかりました。ここでは、それぞれの計算方法を具体的に見ていきましょう。
表面税率の計算方法
表面税率の計算方法は、先ほど示した式のとおりです。
【表面税率】=法人税率×(1+地方法人税率+道府県民税率+市町村民税率)+法人事業税率+法人事業税率×特別法人事業税率
表面税率の場合は法人事業税率を損金算入せずに計算するため、単純に計算するだけで計算できます。
実効税率の計算方法
実効税率の計算方法は、表面税率の計算結果を元に、法人事業税を損金算入した上で調整を行います。
【実効税率】={法人税率×(1+地方法人税率+道府県民税率+市町村民税率)+法人事業税率+法人事業税率×特別法人事業税率)}÷(1+法人事業税率+法人事業税率×特別法人事業税率)
実効税率の場合は、企業の収益状況や事業規模により法人税率が変動します。さらに、損金算入も含め、あらゆる要素や条件によって試算する数字が企業や年度ごとに変わります。そのため、正確な実効税率の算出は難しいのが現状です。
そのため、ここからはさらに詳しく、実効税率の計算に関わる要素について、より深堀して解説していきます。
実効税率の計算に関わる要素
先ほどお伝えした通り、実効税率は実際に支払う税金額を算出するため、計算にはさまざまな要素や条件が影響してきます。企業の納税計画や財務戦略の構築などにも用いられることから、多くの企業が顧問などに依頼して算出する専門家向けの税務です。では、具体的にどのような要素がかかわってくるのか、ここでは実効税率で活用される税率についてご紹介します。
法人税率
法人税率は、資本金の額や所得額に応じて税率が異なってきます。法人税は国税であることから、国税庁が取り扱います。負担する割合は以下のとおりです。
資本金 | 所得 | 法人税率 |
1億円超 | - | 23.2% |
1億円以下 | 800万円を超えた部分 | 23.2% |
800万円以下の部分 | 15% |
上記のように、中小法人に対しては軽減措置が取られています。法人税率の負担が増えるほど、納める税金額が高くなることから、企業にとっては経済的な影響が大きい税率と考えておきましょう。
法人住民税率
法人住民税率は、法人が所在する地方自治体に納める地方税のため、所在地によって税率が異なっています。法人が所属する地域社会の整備を行うことを目的とし、地域社会の位置構成員としての法人自体に課されるのが特徴です。実効税率の計算式において、以下の2つが該当します。
- 道府県民税率(地方税)
- 市町村民税率(地方税)
法人住民税のうち、東京23区を除く都道府県・市町村のそれぞれを都道府県税・市町村税として納税しなくてはなりません。法人住民税は均等割と法人税割の2種類で構成されています。
均等割の場合
均等割は法人の資本金の金額によって都道府県民税が5つの区分、そして資本金等の額・従業者数によって市町村民税が9つの区分に分けられています。例として、資本金が1,000万円以下かつ従業員数が50人以下の場合は以下のとおりです。
- 都道府県民税均等割:20,000円
- 市町村民税均等割(従業者数50人以下):50,000円
このように算出され、法人住民税の均等割においては合計70,000円を納めます。ただし、自治体によって均等割が異なるため、詳しくは自治体のHPなどを確認してください。
法人税割の場合
法人税割は法人税の税額を基準に、住民税額が算出される法人住民税です。例えば、以下の税率です。
- 都道府県:法人税額×1.0%
- 市町村:法人税額×6.0%
法人税割の特徴としては、赤字の法人で所得がない場合は基準にする法人税の税額がないため、支払う必要がありません。また、複数の事業所などがある場合はそれぞれ算出する必要があるため、計算がとても複雑です。
課税標準を各地方団体の事務所などで働く従業者数に応じて分割し、税率を乗じた額を各地方団体に支払う必要があります。
ここでは、例として東京都に法人がある場合の法人税割について解説します。法人税割に「不均一課税」を採用しています。
1,000万円までは標準税率で計算し、1,000万円を超えた部分に超過税率で計算する仕組みです。そのため、以下に該当する企業については、この不均一課税で算出しなくてはなりません。
- 資本金額(または出資金の額)が1億円以上
- 資本金額(または出資金の額)が1億円以下かつ法人税額が年1,000万円を超える
これらに該当しない場合の支払い例は以下のとおりです。
- 23区内のみの事務所:標準税率が7.0%、超過税率は10.4%
- 市町村に事務所がある場合:標準税率が1.0%、超過税率は2.0%
このように法人住民税については、企業がどのように事業所を構えているかといった個別のケースに応じて計算方法が変わります。所在地によって適用される税率も異なることから、複雑な場合は専門家による手助けが必要になる箇所と言えるでしょう。
地方法人税率
道府県民税率・市町村民税率とともに計算する「地方法人税率」は、法人住民税法人税割の一部の納付先が国になる国税です。平成26年に地域間の税源の偏在を防ぐ目的で始まり、平成28年にはさらに拡充されました。
- 令和元年10月1日以前に開始した事業年度:4.4%
- 令和元年10月1日以降に開始する事業年度:10.3%
地方法人税率はあくまで、法人住民税法人税割で納めていた一部が国税とされたもののため、納税額については基本的に変わりません。
法人事業税率
法人事業税率は、企業の事業活動にかかる地方税の1つで、業種や企業規模によって税率が変わります。企業が所在する地域の上下水道や、地方公共サービスを使用するために必要な維持費などにあてられ、事業所のある各都道府県に納めなくてはなりません。
法人事業税は、企業が行う事業に対して課されるため、事業区分や法人の種類、資本金や収益事業の所得額などによって、それぞれ課される税率が変動します。基本的には、公共事業(地方公共団体・独立行政法人の一部)以外の企業等は納税しなくてはなりません。
一般的には、法人事業税は所得に対して計算を行うため、赤字の場合は税金がかかりません。また、法人事業税は支払い時に損金算入されます。
法人事業税率は、法人の業種によって以下の4種類に分かれており、それぞれの課税標準が変わってきます。
- 付加価値割:課税標準を各事業年度の付加価値額(給与、利子、賃借料などの収益分配額+1年間の損益額)とする。
- 資本割:課税標準を資本金等の額とする。
- 所得割:課税標準を法人の各事業年度の所得とする。
- 収入割:所得額を課税標準にするのは適当でない法人に対して、各事業年度の収入金額を課税標準とする。電気供給業者やガス供給会社、保険会社などが該当。
このうち、1の付加価値割と2の資本割については、一定規模以上の法人について加算される「外形標準課税」といわれ、2004年に導入されました。法人事業税はその水準や税率が変動することから、企業や年度に合わせて法人事業税の計算を正確に行う必要があります。税率の変動に伴う影響を事前に把握するためには、専門家との連携が欠かせません。
また、法人事業税とともに徴収される「特別法人事業税」があります。特別法人事業税は地方法人課税における税源偏在の以前を目的として、令和元年から導入された国税です。しかし、特別法人事業税は単独で申請して納めるものではなく、法人事業税と併せて徴収される税金のため、納付も法人事業税と併せて行われます。
実効税率を計算する際の注意点

先ほど解説した実効税率の計算に関わる要素である法人税を総称して「法人税等」と言います。この法人税等を使用して実効税率の計算をする際には、いくつか注意するべき点があります。以下では、3つの注意点を確認していきましょう。
会社の規模や所得額による違いを理解する
税率を計算する際、法人税等の税率は会社の規模や所得額によって、計算で適用される税率が変わります。中小法人に軽減税率が適用されるケースや、事業によっては所得に該当する事業が限定的になるなど、企業によって計算される範囲が変わる場合もあります。
収益規模に応じて税務計画を立てるなどの判断も必要となることから、正確な税率を資産するためには専門家に相談しましょう。
所在地ごとの税率の違いを理解する
地方税に該当する税率においては、地域ごとの政策や税率が異なるため、企業の所在地によって課税額が変わる点にも注意しましょう。
中でも、法人住民税は都道府県によって税率が異なるだけではありません。場合によっては、同じ法人であっても、地域の法律や政策に基づいて異なる税率が適用されるケースもありますので、必ず確認しましょう。
税率の変動について把握しておく
法人税等の税率は、政権の変更や経済状況、地域の政策などに応じて大きく変動する可能性がある点に注意しましょう。税制改正によって、現行の税率の設定値が引き上げられたり、軽減されたりと変わることもあります。
中でも、法人事業税率で解説した「外形標準課税」については、その水準や割合が変動した場合、企業の税負担が大幅に変化する恐れもあります。こうした改正や基準の改訂などにより、企業の事業計画や財務戦略に大きな影響を与える可能性があることを考慮しておきましょう。
企業は常にこうした税法の変更に注意を払っておく必要がありますが、情報を追い続けるのは難しいため、税務顧問の専門家に情報提供してもらうことがおすすめです。
まとめ
法人税の実効税率と表面税率の違いをまとめましたが、どちらの税率も企業にとっては重要な指標です。表面税率は税務申告の際に必要な税率であり、一方の実効税率は具体的な納税額を知るために算出します。
どちらも計算方法や利用する場面が変わりますが、特に実効税率においては企業で算出するのは非常に難しいものです。さらに、政治や日本の経済情勢などで税率や企業要件などが変化する恐れもあります。
企業の財務状況をしっかり把握したい、税務戦略をよりしっかり練るために算出したいといった要望がある場合は、専門家に相談しましょう。








