昨今は、老後への備えとして、公的年金のほかに、iDeCoに加入しているという方も多いのではないでしょうか。iDeCoに加入している個人事業主が法人成りする際には、必要な手続きがあります。また、企業型DCに切り替えるという選択肢も考えられます。法人成りする際のiDeCoの扱いについて、チェックしておきましょう。
目次
iDeCoとは

iDeCo(イデコ)は、「個人型確定拠出年金」とも言います。自身で掛金を拠出して自身で選んだ商品で運用し、老後へ向けた資金を形成する制度です。
いわば投資の一種ですが、原則として60歳までは資産を引き出せないという条件があります。資産の引き出しに制約がある分、運用益が非課税・掛金が所得控除の対象です。受け取る際に退職所得控除や公的年金等控除を利用できるという、税金面での優遇措置が設けられています。
iDeCoに加入できるのは、20歳以上65歳未満の、公的年金の被保険者です。
個人事業主や学生など、国民年金の第1号被保険者は、iDeCoに加入すると「第1号加入者」と分類されます。同様に、会社員などの国民年金の第2号被保険者は、iDeCoでは「第2号加入者」、第2号被保険者の扶養する配偶者である第3号被保険者は、iDeCoでは「第3号加入者」と呼ばれます。
また、60歳以上65歳未満であったり、海外居住者であったりと、国民年金の加入義務のない人が任意加入している場合も、iDeCoへの加入は可能です。国民年金の任意加入被保険者がiDeCoに加入すると、「第4号加入者」となります。
詳細な加入条件などは、厚生労働省のサイトなどでご確認ください。
iDeCo加入者が法人成りする際に必要な手続き
iDeCoに加入している個人事業主が法人成りする際には、手続きが必要です。どのような書類を用意すべきか、手続きを怠るとどうなるかをご紹介します。
加入者被保険者種別変更届の提出
国民年金では、個人事業主は第1号被保険者です。法人成り後は、厚生年金に切り替わるため、第2号被保険者に分類されます。iDeCo의 加入者種別も国民年金に準じているため、被保険者種別が変更となった旨を届け出なければいけません。
種別変更については、「加入者被保険者種別変更届」を提出することで届け出ることが可能です。iDeCoに加入している金融機関などから書面を請求し、必要事項を記入して提出しましょう。
事業所登録申請書の提出
加入者被保険者種別変更届とあわせて、「事業所登録申請書」も提出しましょう。事業所登録申請書を提出すると、iDeCoの実施機関である国民年金基金連合会において、法人成りした企業の情報が登録されます。
また、事業所登録申請書は、「第2号加入者に係る事業主の証明書」を兼ねています。事業所が企業型DCを導入しているか、iDeCo加入希望者が企業型DCに加入しているかなどを証明する書類です。
第2号加入者はすべて、事業主の証明書を提出する必要があります。事業主本人がiDeCoに加入する場合や第2号加入者に変更となった場合も、同様に証明書の提出が求められます。
手続きを忘れると、掛金の拠出が一時停止
iDeCoの掛金は、月々5,000円以上であれば、1,000円単位で自由に選べますが、上限として「拠出限度額」が設けられています。iDeCoの第1号加入者と第2号加入者では、拠出限度額が異なります。
つまり、加入者種別が変更となったにもかかわらず手続きを怠ると、月々の掛金が拠出限度額を超えてしまうケースがあるということです。そのため、手続きを行わないと、掛金の拠出は一時的に停止されてしまいます。
ペナルティなどはなく、国民年金基金連合会から掛金拠出停止の通知があった後でも、手続きを行えば拠出は再開できます。ただし、拠出停止された分の掛金を後から追加することはできません。早めに手続きを行っておくほうが良いでしょう。
一人社長でも加入できる「企業型DC」とは

法人成りした場合、iDeCoを継続する以外に、企業型DCに加入するという選択肢があります。
企業型DCとは、企業型確定拠出年金とも呼ばれます。企業が掛金を支払い、従業員が選んだ商品で運用して年金資産を形成する制度です。あくまで運用商品を選ぶのは従業員であり、iDeCoの掛金を企業が支払うケースと考えるとわかりやすいでしょう。
厚生年金適用事業所であれば、従業員数や所在地などに関係なく、企業型DCを導入できます。つまり、いわゆる「一人社長」でも、企業型DCは導入できるのです。
事業主本人も企業型DCに加入できるため、法人成りと同時に企業型DCを導入し、自身で加入するという運用も可能です。
iDeCoと企業型DCの比較
法人成り後もiDeCoを継続する場合と、企業型DCを導入する場合で、それぞれ異なるメリットがあります。どのような違いがあるか、確認しておきましょう。
iDeCoのメリット
法人成り後もiDeCoを継続するケースには、手続きが簡単かつ早く完了するというメリットがあります。
企業型DCの導入手続きには、数ヶ月〜半年ほどかかります。法人成り前から計画的に手続きを行っていれば問題ないですが、手続きが間に合わなかった場合、手続き完了までの数ヶ月の間は掛金の拠出ができません。
一方で、iDeCoを継続する場合は、加入者種別の変更手続きのみで、かかる期間は一般的に1ヶ月半ほどです。法人成りの際にiDeCoに関する手続きを忘れていたという場合には、iDeCoの加入者種別変更手続きを行うほうが、掛金の拠出ができない期間を最小限に抑えられるでしょう。
企業型DCのメリット
企業型DCを導入すると、iDeCoよりも多くの節税効果が見込めます。iDeCoの場合は掛金が所得控除の対象ですが、企業型DCにおいては、加入者が支払う掛け金は所得控除、法人が支払う掛け金は法人の損金としての計上も可能です。
また、iDeCoを継続できるのは最長で65歳までですが、企業型DCは70歳まで延長できます。さらに拠出限度額についても、iDeCoの第2号加入者よりも、企業型DCの加入者のほうが高く設定されています。
拠出する掛金額が多い・期間が長いほうが、節税効果を多く享受できるため、iDeCoよりも企業型DCのほうが節税効果が高いと言えます。
なお、運営管理手数料など、企業型DCの導入・運営に関する費用は、全額を損金として計上可能です。また、従業員を雇うことになった場合、従業員も企業型DCに加入できます。
それぞれの拠出限度額
企業型DCのメリットのひとつとして、拠出限度額がiDeCoの第2号加入者よりも多い点をご紹介しました。どの程度の差があるのでしょうか。iDeCoの他の加入者種別も含め、表にまとめました。
- iDeCoの拠出限度額
| 加入者種別 | 拠出限度額 | |
|---|---|---|
| 第1号加入者 | 68,000円/月(81万6,000円/年) | |
| 第2号加入者 | 企業年金などへの加入なし | 23,000円/月(27万6,000円/年) |
| 企業年金などへの加入あり | 20,000円/月(24万円/年)※1 | |
| 公務員 | 20,000円/月(24万円/年)※1 | |
| 第3号加入者 | 23,000円/月(27万6,000円/年) | |
| 第4号加入者 | 68,000円/月(81万6,000円/年) | |
※1 ただし、月額55,000円から企業年金などの事業主の拠出額を引いた金額が上限
- 企業型DCの拠出限度額
| 他制度の加入状況 | 拠出限度額 |
|---|---|
| 企業型DCのみに加入 | 55,000円/月(66万円/年) |
| DBなどの他制度(※2)にも加入 | 55,000円-他制度の掛金相当額/月 |
※2 DB(確定給付企業年金)、厚生年金基金、石炭鉱業年金基金、私立学校教職員共済
個人事業主はiDeCoの第1号加入者に該当するため、上記の表の通り、拠出限度額は月68,000円です。法人成りすると第2号加入者に変更され、拠出限度額も月23,000円に変わります。23,000円を超える掛金を設定していた場合、加入者種別変更の際に掛金も変更する必要があります。
一方、企業型DCの拠出限度額は、他にDB(確定給付企業年金)などの制度を導入するのでなければ、月55,000円です。
参考:iDeCoがより活用しやすく! 2024年12月法改正のポイントをわかりやすく解説 | 政府広報オンライン
法人成りする際、iDeCoと企業型DCのどちらがおすすめ?

法人成りする際、iDeCoの継続と企業型DCの導入にはそれぞれメリットがあり、どちらがおすすめかはケースによって異なります。iDeCoと企業型DCがどのようなケースに適しているか、チェックしておきましょう。
手間を省きたい・掛金が少額でよい場合はiDeCo
iDeCoを継続する場合は、加入者種別の変更手続きのみなので、企業型DCを導入する場合と比べて手続きが簡単で、短い期間で完了します。とにかく手間を省きたいというケースでは、iDeCoの継続がおすすめです。
また、iDeCoの加入者種別が第1号から第2号に変更になると、拠出限度額が大幅に下がります。しかし、もともと掛金を23,000円以下に設定していた場合など、掛金が少額でよいケースでは、拠出限度額の減少は問題にならないでしょう。
企業型DCのほうが掛金を損金計上できるなどのメリットはありますが、そもそも掛金が少ない場合は、節税効果の差分も小さいです。手続きの手間を考えると、掛金が少額なケースではiDeCoの継続がおすすめだと言えます。
節税効果を大きくしたい・従業員を雇う予定があるなら企業型DC
企業型DCは、掛金を所得控除できるだけでなく、掛金や諸費用を損金計上できる、拠出限度額が大きい、加入可能期間が長いなど、iDeCoより節税効果が大きいのがメリットです。
23,000円を超える掛金を維持したい、節税効果をできるだけ大きくしたいという場合には、企業型DCの導入がおすすめです。導入手続きには半年ほどの期間がかかるため、導入にタイムラグがあれば、節税効果も少し減ってしまいます。法人成り前から計画的に導入を進めましょう。
65歳を過ぎた後も事業を続けるつもりだという場合も、最長で70歳まで掛金を支払える企業型DCを最大限に活かせるケースです。
また、今後従業員を雇う予定があるケースでも、企業型DCの導入をおすすめします。企業型DCを導入していると、採用活動において福利厚生が充実していることのアピールになります。
ただし、企業型DCは一度導入すると取りやめることは困難です。雇用した従業員が加入するとコストが増加することも念頭に置いて、導入するか否かを慎重に考えましょう。
iDeCoと企業型DCの併用も選択肢のひとつ
iDeCoと企業型DCは、併用することも可能です。運営管理機関(金融機関など)によって選べる運用商品には差があるため、異なる運営管理機関で加入すれば、幅広い運用商品を選択できます。
ただし、拠出限度額は両方を合計して月55,000円までなので、併用しても企業型DCより拠出限度額が大きくなることはありません。確定拠出年金の口座がふたつに増えるため、管理の手間も増えます。
企業型DCに切り替える際、iDeCoで積み立てた資産を移行できますが、何らかの理由でそのまま残しておきたい場合などには併用を選ぶと良いでしょう。
法人成りする際のiDeCoの扱いについての疑問は税理士への相談もおすすめ
iDeCoに加入している個人事業主が法人成りする場合は、加入者種別の変更手続きが必要です。手続きを忘れると掛金の拠出が一時停止してしまうため、忘れずに行いましょう。
また、企業型DCに切り替える、あるいは併用する選択肢もあります。企業型DCは、一人社長でも導入できます。今回の記事を参考に、iDeCoの継続と企業型DCの導入、それぞれのメリットや注意点を踏まえ、慎重に選びましょう。
法人成りする際のiDeCoの扱いについてのお困りごとやご相談は、ぜひ「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。








