変化する税制や会計ルールに、「これは設備投資なのか、それとも経費なのか」と悩む方も多いのではないでしょうか。両者は、効果が及ぶ期間や会計上の扱いが異なり、区別を誤ると税務調査で指摘を受ける可能性もあります。本記事では、両者の違いや判断基準、会計処理の方法をわかりやすく解説します。
目次
設備投資と経費の基本的な考え方

設備投資と経費は、どちらも事業に必要な支出ですが、性質が異なります。設備投資は長期間にわたり事業の収益に貢献する資産への支出です。一方、経費は事業年度の収益を得るために直接使われる、短期的な支出を指します。
設備投資とは?将来の収益のために使う長期的な投資
設備投資とは、将来の利益を得るために、長期的に使う資産への支出を指します。設備投資に該当するのは、機械や車両の購入、建物の建設などです。
設備投資は購入時に全額を費用として計上するのではなく、貸借対照表に「資産」として記録します。設備投資の場合、資産は使用可能期間(法定耐用年数)にわたって、減価償却で少しずつ費用化していきます。
ちなみに、設備投資には、ソフトウェアや特許権のような無形固定資産への支出も含まれます。無固定形資産も、耐用年数を設定して減価償却を行う点は同様です。設備投資は、将来の収益を生むための長期的投資であることを把握しておきましょう。
経費とは?事業活動で日常的に発生する費用
経費とは、事業を運営する上で日常的に発生し、事業年度の収益を得るために使われる費用です。具体的には、以下のような支出が経費に該当します。
- 文房具などの消耗品費
- 事務所の家賃
- 従業員の給与
- 交通費
経費は事業年度に全額を費用として計上できますが、「この支出をどこまで経費に入れてよいか」と悩む方も多いです。
支出が設備投資か経費かの判断に迷う場合は、支出が将来の収益を生むかで判断しましょう。短期的に消費される場合は経費、長期的に利益を生む場合は設備投資です。
設備投資と経費を分ける3つの判断基準

ある支出が設備投資か経費かを判断するには、いくつかの基準があります。取得価額、使用可能期間、価値の減少という3つの基準は、実務での判断に欠かせないポイントです。
例えば、パソコンや家具の扱いはケースごとに異なり、判断を誤れば税務リスクにつながります。形式だけでなく、実態に即した判断が重要です。
取得価額が10万円以上かどうか
支出を設備投資と経費に分ける一般的な基準は、取得価額です。原則として、1つあたり10万円以上の場合には資産計上し、設備投資として扱います。一方、10万円未満の場合は、消耗品費などで一括して経費計上できます。
この金額基準は、会計処理を簡単にするために設けられており、実務でも多くの取引で使われています。ただし、後で紹介する特例制度の適用を考慮する必要があるほか、会計基準や税法のルールが変わる可能性もあります。そのため、最新の情報を確認することが重要です。
1年以上にわたって使用する予定か
取得価額とあわせて考えるべきもう1つの基準が、使用可能期間です。例えば、短期間で交換が必要な工具は、取得価額が高くても使用期間が1年未満であれば経費として処理されます。逆に、1年以上使う機械や建物は資産として計上されます。
設備投資か経費かを判断するときは、取得価額だけでなく使用期間も基準に入れて考えることが大切です。
時間の経過とともに価値が減少するか
設備投資として資産計上されたものは、原則として「時間の経過で価値が減少する」場合に減価償却の対象になります。例えば、パソコンや機械、建物などは使うことで価値が少しずつ下がるため、減価償却資産に該当します。
また、ソフトウェアや特許権などの無形固定資産も、減価償却の対象です。一方で、土地や骨董品のように、時間の経過が経っても価値がほとんど減らないものは、減価償却の対象外です。
設備投資として資産計上するか、減価償却するかを判断するときは、「時間の経過で価値が減少するか」を基準にしましょう。
設備投資と経費の会計処理の違い

設備投資と経費は、会計上の処理方法が根本的に異なります。この違いは、企業の財務諸表、特に損益計算書に影響を与え、最終的に利益や納税額を左右します。
経費は支出した期に全額費用化される一方、設備投資は複数年にわたって費用化されるため、利益への影響時期が変わってきます。
設備投資は「資産」として計上し、減価償却で費用化する
設備投資は購入時に貸借対照表の「資産の部」に計上し、減価償却で費用化するのが基本です。一度に大きな費用を計上せず、資産の使用期間にわたって費用を分けることで、期間ごとの損益計算を正確に行えます。
例えば、50万円の機械を購入して耐用年数が5年であれば、毎年10万円ずつ減価償却費として計上できます。設備投資を資産として記録し、減価償却を行うことで、財務状況や損益計算の正確性を保つことが大切です。
経費は購入した事業年度に一括で費用計上する
経費は、支払いが発生した事業年度において、全額を費用として損益計算書に計上します。資産計上や減価償却のような手続きが不要なため、会計処理がシンプルです。例えば、50,000円の事務用品を購入した場合、50,000円は「消耗品費」として計上され、事業年度の売上から直接差し引かれます。
この処理は事業年度の利益が直接減少するため、短期的な節税効果がある処理方法です。
ただし、翌年度以降に効果が残らないため、長期的な資金計画には注意が必要です。
金額別に解説!知っておきたい資産計上の特例措置
資産計上の原則には、実務上の負担軽減や中小企業の設備投資を促進するための特例措置が設けられています。特例措置は、取得価額によって適用できるものが異なり、活用することで節税につながる可能性があります。
10万円未満の場合は「消耗品費」として一括経費にできる
取得価額が10万円未満の資産は、事業年度に一括して経費計上できます。少額の資産を個別に資産管理・減価償却する手間を省くための、簡便な処理を認める制度があるためです。
例えば、90,000円のパソコンやプリンターは、資産として計上せずにそのまま費用として処理できます。期間が1年を超える場合でも同様に処理できるため、多くの企業で活用されている基本的なルールです。
したがって、少額の資産については取得年度に一括で経費計上することで、会計処理を簡単にしつつコスト管理しやすくなります。
10万円以上20万円未満の場合は「一括償却資産」として3年で償却
取得価額が10万円以上20万円未満の資産は、「一括償却資産」として処理する特例を選択できます。特例を選択すると、法定耐用年数にかかわらず、取得価額を3年間で均等に分割して費用計上することが可能です。
例えば15万円の資産を複数購入した場合、3で割った金額を毎年費用計上できます。年度途中で取得しても月割計算が不要であり、償却資産税の対象外のため、管理が簡単です。
10万円以上20万円未満の資産は、一括償却資産の特例を活用することで、費用計上と資産管理を効率的に行えます。
30万円未満の場合は「少額減価償却資産の特例」で一括経費に(中小企業向け)
青色申告を行う中小企業者等には、「少額減価償却資産の特例」が用意されています。この特例を使うと、取得価額が30万円未満の減価償却資産を、年間合計300万円まで取得した年度に経費として処理できます。
本来は数年かけて減価償却する高額な資産も、即時に費用化できるのがメリットです。
ただし、特例を使うには「資本金が1億円以下」「従業員数が500人以下」などの要件を満たす必要があります。確定申告書への所定記載や明細書の添付も求められるため、利用する際は国税庁の案内や専門家の指導を受けると安心です。
【具体例】これは設備投資?それとも経費?ケース別に仕訳を解説
設備投資と経費の判断は、業種や取引の実態によって変わることがあります。しかし、判断基準を知っていても、いざ仕訳をしようとすると迷うことも多いです。
迷ったときは、税理士や会計士などの専門家に相談することで、誤った処理による税務リスクを避けられます。これまで解説してきた基準や特例を踏まえ、実際の支出が設備投資なのか経費なのか、具体例で確認してみましょう。
業務用のパソコンとソフトウェアを購入した場合
業務用のパソコンやソフトウェアを購入した場合は、取得価額で判断します。パソコンは取得価額が10万円未満であれば「消耗品費」としてまとめて経費計上できます。
10万円以上30万円未満なら、中小企業者等の特例でまとめて経費計上するか、「工具器具備品」として資産計上し、減価償却します。ソフトウェアも同様に、10万円以上で資産計上する場合は「ソフトウェア」として処理します。
セットで購入した場合は、ハードウェアとソフトウェアをそれぞれの価格で判断するのが一般的です。
オフィスの机や椅子を揃えた場合
オフィスの机や椅子などを複数購入した場合、通常は1脚や1台あたりの単価で判断します。
例えば、1脚80,000円の椅子を10脚購入し、合計80万円を支払ったとします。
この場合、1脚あたりの単価が10万円未満のため、全額を「消耗品費」として経費処理することが可能です。
ただし、応接セットのようにセットで初めて使えるものは、合計金額で判断します。取引の実態に応じて、どの単位で資産を管理するかを見極めることが大切です。
社用車を購入した際にかかる諸費用
社用車を購入する際は、車両本体価格以外にも費用が発生するため、処理を正しく区分することが重要です。車両本体価格やカーナビなどの付属品は、取得価額に含めて「車両運搬具」として資産計上します。
一方、自動車税や自賠責保険料などは経費として処理します。また、名義変更などの代行手数料は「支払手数料」として経費になりますが、納車費用は取得価額に含めるのが一般的です。
1つの購入取引の中でも資産と経費が混在するため、項目ごとに仕分けして処理しましょう。
設備投資と経費の適切な会計処理が節税につながる理由
設備投資と経費の区別を正しく行い、特例措置などを上手に活用することは、企業の節税対策にとって大切です。会計処理を理解し、利益や資金状況に合わせて最適な方法を選べば、課税所得をコントロールして、納める税金を適正にできます。
経費を増やすことで当期の課税所得を圧縮できる
経費を増やすと、当期の課税所得が圧縮され、納税額を抑えられます。
計上できる経費の額が大きいほど課税所得は圧縮され、結果として納税額を抑えることが可能です。特に、少額減価償却資産の特例を使えば、本来は数年にわたる支出も、事業年度に一括で経費計上できます。
ただし、税務調査では、経費と設備投資の区別が厳しく、無理に経費にすると追徴課税のリスクがあります。節税効果と信用力のバランスをどう取るかが、会計処理を考えるうえで重要です。
減価償却費は複数年にわたり経費を計上できる効果がある
減価償却費を使うことで、複数年にわたり経費を計上でき、安定した納税計画を実現できます。 高額な設備投資は、一度に計上すると利益が減少するため、法定耐用年数にわたって分割して費用化する減価償却が効果的です。
例えば、将来の利益が見込まれる事業に設備投資を行う場合、将来の収益に合わせて計上すれば、各年度の利益の平準化を図れます。減価償却は単なる会計処理ではなく、長期的な利益調整と節税にも役立つ手段といえるでしょう。
まとめ
設備投資と経費の違いは、主に取得価額が10万円以上か、使用期間が1年以上かで判断されます。設備投資は資産として計上され、減価償却によって複数年にわたり費用化されるのに対し、経費は発生した年度に一括で費用として処理されます。
この会計処理の違いは、各期の利益額に直接影響します。10万円未満の消耗品費や、中小企業向けの30万円未満の特例など、金額に応じた特例を活用すれば、効果的な節税が可能です。
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