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会社設立の基礎知識

所得拡大促進税制と賃上げ促進税制の違いと適用方法について

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所得拡大促進税制と賃上げ促進税制の違いと適用方法について

「所得拡大促進税制」と「賃上げ促進税制」は、企業が従業員の給与を増加させた際に税額控除を受けられる仕組みです。本記事では、両制度の概要や違い、具体的に企業としてどのように活用できるのかを解説します。

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所得拡大促進税制と賃上げ促進税制の基礎知識

税制改正

「所得拡大促進税制」と「賃上げ促進税制」は、企業が従業員の給与増加に応じて税額控除を受けられる制度です。2024年3月までは所得拡大促進税制が適用されていましたが、制度改正により、2024年4月からは賃上げ促進税制が新設されました。

まずは、それぞれの概要など基本をおさえていきましょう。

所得拡大促進税制とは何か

所得拡大促進税制は、2013年度税制改正で創設された制度です。

青色申告を行っている中小企業等が、国内雇用社の給与を増加させた場合に適用される税制優遇です。前年比で給与を1.5%以上増加させた場合に適用されます。国内雇用者には、パートやアルバイト、日雇い労働者も含まれます。

増加した給与額に対して、15%の税額控除が可能です。また、従業員の教育訓練費が10%以上増加するなど、一定の要件を満たすと25%まで控除率が拡大します。

給与の増額に伴い法人税負担を軽減する措置であり、企業の給与引き上げ促進が期待された制度と言えます。

適用期限は2024年3月31日までとなっており、現在は賃上げ促進税制に制度が引き継がれています。

賃上げ促進税制とは何か

賃上げ促進税制は、2022年度税制改正で創設された新しい制度です。以前の所得拡大促進税制を強化するかたちで引き継がれたもので、2024年4月1日から適用開始されています。

青色申告を行っているすべての企業において、従業員の給与を前年度と比べて1.5%以上増加させた場合に、法人税額または所得税額の控除が受けられます。さらに給与を前年度比で2.5%以上増加させた場合や、教育訓練費が10%以上増加した場合などは、控除率が上乗せされ中小企業は最大で45%の控除が受けられるようになりました。

企業にとっては、従業員のスキルアップにつながる投資がしやすい環境になったと言えます。賃上げ促進税制の施行により、企業の成長と従業員のキャリア開発が促進されることが期待されています。

両者の違いと留意点

所得拡大促進税制をベースに創設された賃上げ促進税制ですが、内容にはいくつか違いがあります。

適用要件が拡大されたことがその一つです。賃上げ促進税制は、所得拡大促進税制では適用の対象外にあった大企業も活用できるようになりました。また、控除率も上がったため、企業はより大きな優遇を受けられるようになっています。

賃上げ促進税制では、より企業の財務的な支援が強化されたと言えるでしょう。

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賃上げ促進税制の適用要件

賃上げ税制に関するイメージ

賃上げ促進税制は、「全企業向け」「中堅企業向け」「中小企業向け」の3つに分かれています。企業規模等により要件が異なるため、自社についての適用条件を把握しておきましょう。

それぞれの適用条件を解説します。

なお本章で紹介する要件の適用期間は、令和4年4月1日から令和9年3月31日までです。

全企業向け要件

全企業向けの賃上げ促進税制の適用要件は次の通りです。

  • 青色申告を行っている全法人または個人事業主

受けられる税額控除は、給与額の増加率によって異なります。

前事業年度に対する継続雇用者給与等支給額の増加率税額控除
3%以上増加10%
4%以上増加15%
5%以上増加20%
7%以上増加25%

また、次の上乗せ要件を満たすと、税額控除率が上乗せされます。

上乗せ要件税額控除率

【教育訓練費】

  • •教育訓練費の額が、前事業年度より10%以上増えていること
  • •適用事業年度の教育訓練費の額が適用事業年度の雇用者給与等支給額の0.05%以上であること

税額控除率を10%上乗せ

【子育てとの両立・女性活躍支援】

  • 適用事業年度終了時又は適用年の12月31日において、プラチナくるみん認定又はプラチナえるぼし認定を取得していること

税額控除率を5%上乗せ

また、一定の条件に該当する事業者や個人事業主は「マルチステークホルダー方針の公表及びその旨の届出」が必要になるため注意しましょう。

参考:「『賃上げ促進税制』御利用ガイドブック」(経済産業省)

こちらは全企業向けの要件のため、企業規模に関わらず利用できます。

このように、法人規模に応じた制約が設けられているため、自社が適用を受けるための要件を確認しておくことが大切です。

中堅企業向け要件

次の要件に当てはまる企業は、「中堅企業向け」の賃上げ促進税制の適用を受けられます。

  • 青色申告を行っていること
  • 常時使用する従業員数が2,000人以下の法人又は個人事業主

控除額の適用要件と控除率は次の通りです。

前事業年度に対する継続雇用者給与等支給額の増加率税額控除
3%以上増加10%
4%以上増加25%

全企業向け要件よりも税額控除率が高く、より大きな優遇が受けられるようになっています。

上乗せ要件は次の通りです。

上乗せ要件税額控除率

【教育訓練費】

  • •教育訓練費の額が、前事業年度より10%以上増えていること
  • •適用事業年度の教育訓練費の額が適用事業年度の雇用者給与等支給額の0.05%以上であること

税額控除率を10%上乗せ

【子育てとの両立・女性活躍支援】

  • 適用事業年度終了時又は適用年の12月31日において、プラチナくるみん認定又はプラチナえるぼし認定を取得していること
  • または、適用事業年度若しくは適用年中に、えるぼし認定(3段階目)を取得したこと

税額控除率を5%上乗せ

参考:「『賃上げ促進税制』御利用ガイドブック」(経済産業省)

中小企業向け要件

中小企業向けの要件は全企業向け要件や中堅企業向け要件よりも、さらに緩和されました。中小企業向け賃上げ促進税制を受けるための要件は次の通りです。

  • 青色申告を行っていること
  • 資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人、もしくは常時使用する従業員数が1,000人以下の法人または個人事業主

適用要件と税額控除率は次の通りです。

前事業年度に対する継続雇用者給与等支給額の増加率税額控除
1.5%以上増加15%
2.5%以上増加30%

さらに、次の上乗せ要件を満たすと税額控除率も上乗せされます。

上乗せ要件税額控除率
  • 教育訓練費の額が前年度と比べて5%以上増加していること
  • 適用事業年度の教育訓練費の額が適用事業年度の雇用者給与等支給額の0.05%以上であること

税額控除率を10%上乗せ

  • 適用事業年度中にくるみん認定、くる みんプラス認定若しくはえるぼし認定 (2段階目以上)を取得したこと
  • または適用事業年度終了の時において、プ ラチナくるみん認定、プラチナくるみ んプラス認定若しくはプラチナえるぼ し認定を取得していること

税額控除率を5%上乗せ

また中小企業の場合、賃上げを実施した年度に控除しきれなかった金額は、最長5年間繰越すことが可能です。

参考:「中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック」(経済産業省)

中小企業の場合は、大企業向け・中堅企業向け・中小企業向けの制度をどれでも活用できます。適用要件を満たすもののなかから、受けられる優遇が大きいものを選ぶと良いでしょう。

賃上げ促進税制を活用するメリット

賃上げ促進税制は、従業員給与を増加させる際に、企業の税負担を軽減する仕組みです。企業にとっては、負担をおさえながら従業員の待遇向上を図ることができるというメリットがあります。企業側は、従業員の満足度が高まることで、企業の競争力強化や人材確保への寄与も期待できるでしょう。

本章では、賃上げ促進税制を活用する具体的なメリットを解説します。

節税効果による企業利益の向上

第一に、節税が実現できる点は大きなメリットと言えるでしょう。

賃上げ促進税制では、企業が従業員の給与支給額を増やすと、その増加分に応じて税額控除が受けられます。税負担の減少により余力資金が生まれれば、設備投資や社内環境の整備、従業員の教育・訓練などへ投資することが可能です。

企業の成長戦略に活用できる資金が増えるため、長期的な視点からも有用な制度と言えます。

人材確保と従業員のモチベーション向上

給与額は従業員のモチベーションに大きく影響します。給与の増加は従業員の満足度やモチベーションの向上につながるため、結果として生産性の向上につながることが期待できます。

企業側が、積極的により良い待遇を整えることで、人材の定着率を高めることにもつながるでしょう。また賃上げの実績は、人材市場でもアピール材料にできます。

このように、企業として持続可能な成長を続けるためには、従業員の待遇改善が必要です。人件費の増加は企業にとって大きなコスト増となりますが、賃上げ促進税制を活用することでその負担をおさえられます。

賃上げや従業員の教育への投資に踏み切りやすくなる点は、企業にとってメリットとなるでしょう。

会社全体の成長を後押し

賃上げ促進税制により、企業は従業員への投資を行いやすくなります。従業員の能力やモチベーションが高められれば、企業全体の生産性の向上にもつながります。

さらに長期的に見れば、優れた人材を定着・育成することで、企業の競争力を高めることにも寄与するでしょう。

制度を最大限に活用するための注意点

ポイント

賃上げ促進税制を適切に活用するには、条件などをしっかりおさえておくことが大切です。特に企業規模により適用要件が異なるため、自社の状況を踏まえて準備する必要があります。

制度を活用する際のポイントをご紹介します。

対象となる企業規模や業種の確認

賃上げ促進制度は「全企業向け」「中堅企業向け」「中小企業向け」の3つに分かれています。それぞれ適用対象や適用要件が異なるため、まずは、自社がどの制度の適用対象となるのかを確認しておきましょう。

特に、中小企業向けの制度に関しては、従業員数や資本金の制限が設定されています。例えば、資本金または出資金が1億円以下であることや、常時雇用している従業員が1,000人以下であることが求められます。

また、その他適用を受けるために必要な要件がある場合もあるため、事前に税務署や税理士などの専門家に確認しておきましょう。

賃上げ要件と教育訓練費の理解

賃上げ促進税制を活用する際は、賃上げの要件や教育訓練費についても、具体的におさえておきましょう。

税額控除を受けるには、給与の支給額を前年と比べて一定以上増加させることが必要です。最低賃上げ率は1.5%から3%と企業規模等により異なります。

また、教育訓練費の増加など上乗せ要件もあります。最大限控除を受けるために、教育訓練費に含めて良い費用についても知っておくことが必要です。詳細は『賃上げ促進税制』御利用ガイドブック(経済産業省) でも確認できます。

手続き上の注意事項と関連書類

賃上げ促進税制を活用する際は、事前の届出は不要ですが、確定申告の際に次のような書類を用意する必要があります。

  • 適用額明細書並びに税額控除の対象となる控除対象雇用者給与等支給増加額、控除を受ける金額及びその金額の計算に関する明細を記載した書類
  • 教育訓練等の実施時期、教育訓練等 の実施内容及び実施期間、教育訓練等の受講者、教育訓練費の支払証明を記載した書類

参考:「中小企業向け賃上げ促進税制 よくあるご質問Q&A」(中小企業庁)

この他、企業によって添付が必要となる書類がある場合もあるため、スムーズに制度を適用してもらうために、必要書類を把握し事前に準備しておきましょう。

所得拡大促進税制と賃上げ促進税制を正しく理解しよう

賃上げ促進税制は、企業にとって税負担を軽減しながら従業員の給与を増加できる制度です。適切に活用することで、従業員のモチベーション向上や人材の確保に加え、企業全体の成長の後押しも期待できます。

企業により適用要件や必要書類が異なるため、自社がどのような適用を受けるのかよく確認しておくことが大切です。制度をうまく活用して、企業のさらなる成長につなげていきましょう。

なお、賃上げ促進税制を最大限活用したい場合、またその他税の優遇を活用したい場合は、税理士などの専門家に相談するのがおすすめです。企業が活用できる税制は多岐に渡ります。

特に税制は改正されることが多いため、最新の情報をおさえておく必要があります。経理の負担を軽減できる点からも、専門家の活用は有用と言えます。

小谷野税理士法人では、企業の状況に合わせて節税対策やアドバイスをさせていただきます。最新の税制度を元に、最適な選択肢をご提案させていただきますので、税に関するご不安やご不明点がある際は、ぜひお気軽にご相談ください。

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この記事の監修者
池田 大吾小谷野税理士法人
カルフォルニア大学アーバイン校卒業、大手生命保険会社勤務を経て2007年小谷野税理士法人に入社。
会計、税務、経理実務の支援業務から各種補助金の相談・申請業務、企業及び個人のリスクマネジメントのコンサルタント業務を行う。
銀行はじめ多くの金融機関、会計・税務・財務業界に多くの人脈を持ち、企業財務のマルチアドバイザーとして活躍。
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