インボイス制度が施行され、免税事業者から課税事業者になった事業者向けに、経過措置が設けられました。経過措置の要件を満たしていれば、免税事業者との取引でも80%を仕入税額控除できます。ただし経過措置は期間が決められているため、期間内にインボイス制度にどう対応するか、方針を固める必要があるでしょう。本記事ではインボイス制度の経過措置と、仕入税額控除を適用するための要件について解説します。
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目次
インボイス制度の経過措置とは

インボイス制度における経過措置とは、免税事業者等からの課税仕入の一定割合を仕入税額控除の対象とする措置です。免税事業者とは適格請求書発行事業者ではない事業者であり、制度施行以降は作成した請求書の仕入税額控除が認められません。
つまり、免税事業者と取引する課税事業者は消費税の負担が増えることを意味します。制度施行により免税事業者・課税事業者ともに事業活動が大きく変わる可能性があり、制度への対応が求められます。
そのため、インボイス制度には経過措置が設けられました。インボイス制度の経過措置対象である事業者と措置内容について、詳しく紹介します。
インボイス制度の経過措置の対象である事業者
インボイス制度の経過措置の対象者は免税事業者のほか、免税事業者と取引がある課税事業者です。
- 適格請求書を作成できない免税事業者等
- 取引において免税事業者に消費税を支払っている課税事業者
課税事業者は制度施行により、免税事業者等が発行した請求書に基づいて消費税を支払っても、仕入税額控除を受けられません。消費税を支払っても、受け取った消費税を納付する際に控除できないため、免税事業者とのやりとりでは税負担が増えてしまいます。
それに伴い、免税事業者との取引における消費税の負担増分の報酬引き下げや課税事業者への乗り換えも起きるでしょう。そうなると、免税事業者の事業に大きく影響します。
免税事業者は制度施行に合わせて課税事業者になるほか、免税事業者のまま事業を続ける際は取引先との協議が求められるでしょう。そのため、免税事業者や免税事業者との取引がある事業者を対象に、経過措置が設けられています。
経過措置が適用される期間と控除割合
インボイス制度の経過措置が適用される期間と控除割合は、2段階で用意されています。
- 令和5年10月1日〜令和8年9月30日:仕入税額相当額の80%
- 令和8年10月1日〜令和11年9月30日:仕入税額相当額の50%
控除割合は3年ごとに変わり、期間内は免税事業者に支払う消費税も、80%・50%が仕入税額控除と認められます。
令和11年10月以降は免税事業者からの仕入で控除を受けられないため、経過期間中に今後の対応を検討しなければいけません。
参考:国税庁|5 経過措置
インボイス制度の仕入税額控除を適用する要件2つ

経過措置の期間中に免税事業者からの仕入に控除を適用するには、請求書と帳簿の作成方法で要件を満たす必要があります。要件を満たさない請求書・帳簿は控除が認められないため、注意のうえ作成しましょう。
仕入税額控除を適用するための請求書と帳簿の作成要件について、それぞれ詳しく解説します。
消費税率の区分を記載した請求書を発行する
仕入税額控除が適用されるのは、消費税率の区分と金額を明記した請求書のみです。請求書には、以下の内容を記載する必要があります。
- 取引の年月日
- 自分と取引先の氏名や屋号
- 取引内容と金額
- 適用税率の区分(8%/10%)
- 税率ごとに区分した消費税額
- 自分のインボイス番号(適格請求書発行事業者の場合)
請求書には、取引者や取引内容のほか、インボイス登録番号や区分別の消費税を記載する必要があります。免税事業者の場合は登録番号などを記載できませんが、消費税の区分や金額は明記し、適切に保管することが求められます。
参考:国税庁|区分記載請求書等保存方式(帳簿及び請求書等の記載事項並びにこれらの保存)
経過措置の適用を受ける旨を記載した帳簿を作成する
免税事業者等からの仕入を帳簿に記入する際は、経過措置の適用を受ける旨と消費税率を必ず記載しましょう。帳簿には、以下の項目を記載する必要があります。
- 取引先の氏名・屋号
- 取引の年月日
- 取引内容と金額
- 経過措置を適用して課税仕入に算入する旨
帳簿には取引の内容が経過措置の対象であることが客観的に分かるよう、明確に記載する必要があります。具体的には、摘要欄に「80%控除対象」「経過措置対象」などを追記する方法が挙げられます。
取引の数が多い場合は「※」「☆」などの記号を用いて、経過措置対象を示すこともおすすめです。インボイス制度の経過措置にならって仕入税額控除を適用していることが後から確認しても分かるよう、帳簿を作成しましょう。
経過措置による仕入税額控除の計算方法

経過措置により、2026年9月30日までは免税事業者からの仕入も、仕入税額の80%相当を控除できます。そのため、免税事業者からの仕入がある場合は、仕入税額控除の計算方法も理解しておきましょう。
経過措置の期間中における仕入税額控除の計算方法を、80%控除を例に解説します。
仕入税額控除額の基本的な計算式
仕入税額控除の経過措置を適用する場合、免税事業者から受け取った請求書記載の消費税額から算出できます。計算方法は積上げ計算と割戻し計算の2種類がありますが、原則として仕入税額は積上げ計算が採用されます。
特徴 | 取引ごとに消費税額を計算して合計する |
計算式例(10%の場合) | 仕入税額=仕入対価×7.8/110 経過措置による控除額=仕入税額×80/100 |
以上の計算式で、仕入税額の100%相当分を算出できます。2026年9月30日までは仕入税額の80%を控除できるため、「80/100」を乗じて仕入税額控除額を算出しましょう。
なお、2026年10月1日以降の50%控除に切り替わった際は「50/100」に置き換える必要があります。
参考:国税庁|2 仕入税額
課税仕入110万円(消費税10万円)の場合の計算例
計算式をもとに、課税仕入より80%控除される場合の計算例を紹介します。今回は例題として、免税事業者から標準税率10%の商品を、税込110万円で仕入れた場合で計算します。
- 仕入額:100万円
- 消費税相当額:10万円
以上の課税仕入れを計算式に当てはめます。
- 110万円×7.8/110=7万8,000円(仕入税額)
- 7万8,000円×80/100=6万2,400円(経過措置による控除額)
計算により、110万円の課税仕入に80%控除を適用する場合、仕入税額控除は6万2,400円と算出できます。
経過措置を適用した場合の仕訳
インボイス制度の経過措置を適用する際は、控除対象外の消費税も適切に会計処理することが求められます。経過措置においても仕入税額控除と認められない20〜50%相当の消費税は、2つの方法から会計処理を検討する必要があります。
- 仕入本体に含める
- 雑損失として計上する
それぞれの場合における仕訳例を、11万円(税込)の仕入税額控除を記帳する場合で解説します。
控除対象外の消費税額を仕入税額に含める
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
仕入 | 10万2,000円 | 現金 | 11万円 |
仮払消費税等 | 8,000円 |
多くの会計処理では、控除されない消費税額を仕入に上乗せして計上します。仕入と控除税額を分けて記帳するのみで処理の負担も少ないため、基本的には仕入に加える形での計上方法が広く採用されています。
控除対象外の消費税額を雑損失として計上する
控除対象外の消費税を雑損失として計上する場合、2段階で記帳する必要があります。
まずは、取引時点での仕訳です。
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
仕入 | 10万円 | 現金 | 11万円 |
仮払消費税等 | 10,000円 |
取引時点では適格請求書が発行された際と同様に、消費税を全額計上します。決算時にに控除が認められない部分を雑損失として計上します。
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
雑損失 | 2,000円 | 仮払消費税等 | 2,000円 |
雑損失は会計上、損金または経費として算入できます。自社に合った会計処理方法を検討のうえ、経過措置の仕入税額控除も適切な会計処理を目指しましょう。
2026年10月1日以降は50%控除に移行
経過措置は段階的に控除額が引き下げられていき、2026年10月1日以降は、80%控除から50%控除に移行します。つまり、以降は免税事業者からの仕入で適用できる控除額がさらに減るため、課税事業者の税負担は増えるでしょう。
なお、50%控除も3年間のみであり、2029年9月30日には終了します。2029年10月1日からは経過措置がなくなり、免税事業者からの課税仕入は全額が仕入税額控除の対象外です。
インボイス制度の経過措置はあくまでも一時的なものです。課税事業者・免税事業者ともに、経過措置が終了するまでに仕入税額控除への対応を検討しておくことが求められます。
煩雑になりがちなインボイス制度への対応は、税理士にお任せください。御社に合った対応方法を提案させていただきます。
インボイス制度における免税事業者向けの軽減措置2つ
インボイス制度は事業者の急激な負担増が予測されることから、免税事業者へ向けた特例措置や軽減措置が設けられています。仕入税額控除の経過措置と合わせて確認したい、インボイス制度の負担軽減措置として、2つを見ていきましょう。
消費税の納付額を満額から2割に抑えられる「2割特例」
2割特例とは、インボイス制度の施行を機に免税事業者から課税事業者になった事業者を対象とした、消費税納付の減免特例です。制度の施行に伴い、課税事業者との取引が多い免税事業者は課税事業者にならざるをえないケースもあります。
課税事業者になれば、今まで免除されていた消費税の確定申告と納付も義務付けられるため、税負担が増大するでしょう。そこで2割特例が設けられ、制度施行をきっかけに課税事業者になった場合には、本来納める消費税額の8割が減免されます。
届出は不要で、制度を適用するには消費税の申告書に2割特例の適用を受ける旨を記載するだけで完結です。2割特例により消費税の納付額は売上税額から算出でき、仕入税額を個別に計算する負担も減らせます。
対象者 | 新たに免税事業者から課税事業者になった方 |
適用外の例 | ・基準期間の課税売上高が1,000万円を超える方 ・資本金1,000万円以上の新設法人 ・調整対象の固定資産や高額特定資産にかかる仕入税額控除 |
適用期間 | 2023年10月1日〜2026年9月30日 |
参考:国税庁|2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要
10,000円未満の課税仕入の仕入税額控除が認められる「少額特例」
少額特例とは、税込10,000円未満の課税仕入において、適格請求書の保存がなくても仕入税額控除が認められる特例です。特例の対象は、基準期間の課税売上高が1億円以下または特定期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者です。
特に以下の例で、少額特例は会計負担を大きく減らせます。
- 公共交通機関を利用して運賃を支払った
- 自動販売機で商品を購入した
- 経費として税込10,000円未満の物品を購入した
請求書(インボイス)の発行を受けられない取引にも適用できるため、少額特例は免税事業者・課税事業者ともに役立つ特例です。ただし、特例適用は2029年9月30日までのため、特例終了後に備えた対応も検討しておきましょう。
対象者 | 10,000円以下の課税仕入があった事業者 |
適用外の例 | ・基準期間の課税売上高が1億円以上である ・特定期間の課税売上高が5,000万円以上である |
適用期間 | 2023年10月1日〜2029年9月30日 |
参考:国税庁|少額特例(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置の概要)の概要
インボイス制度への対応は経過措置の期間中に済ませましょう
インボイス制度の経過措置は、免税事業者・課税事業者の税負担が軽減されている限られた期間です。期間中は免税事業者が発行した請求書であっても、要件を満たせば一定割合の仕入税額控除が認められます。
控除割合は2026年9月末までは80%、以降は50%であり、2029年10月には経過措置も終了します。そのため、制度による会計・税務の負担を減らすため、軽減措置も活用しながら自社に合った対応を考えることが大切です。
今後の税制改正の動向にも注目しつつ、制度を有効活用しながら事業を進める方法を検討しましょう。インボイス制度への対応に関するお困りごとやご相談は、ぜひ「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。








