個人が後継者のいない会社を買うことは可能なのでしょうか?設備やノウハウ、取引先などの経営基盤が整っている会社を買うことは、0から起業するよりも安定した経営が期待できます。この記事では、個人が後継者のいない会社を買うことはできるのか、そのやり方と注意点、メリット、デメリットまで詳しく解説します。起業をするときの選択肢の一つとして、参考にしてみてください。
目次
個人でも後継者のいない会社を買うことは可能

会社を買う、つまり企業の買収やM&Aは、個人事業主や会社員といった個人でも可能です。
ニュースで見聞きする機会も多いことなどから、企業の買収やM&Aは大企業がメインで行っている、多額の買収金が必要といったイメージを抱かれがちです。
確かに、以前は、大企業や上場企業が買収やM&Aをするケースが多かったのですが、近年は、個人による会社の買収も増えています。
また、取引価格も0~100万円前後の買収事例も見られます。低価格で買収が成立しているのは、経営者自身が事業の継続を希望していても、後継者がいないからです。
買収先の会社の状況によってリスクを伴うこともありますが、会社の買収は、事業をしたい個人と事業継続を希望する経営者、双方のニーズを満たす取引だと言えます。
ただし、極端に安価な場合、実際は負債の引き継ぎや設備の老朽化など、コスト以上のリスクが伴うこともあるため注意が必要です。
後継者のいない会社を買う事例が増えている原因
事例が増えている背景には、さまざまな原因があります。ここでは、後継者のいない会社を買う事例が増えている主な原因について、詳しく解説します。
後継者のいない会社の増加
まず、第一に後継者のいない会社が増加していることが、原因の一つです。日本における大企業の割合はごくわずかで、中小企業の割合は90%以上を占めています。
中小企業や小規模事業者を中心に、後継者不足の問題が顕著になっています。2024年度の調査結果によると、後継者不在率は過去最低の52.1%でした。特に、地方では中小企業が地域経済や雇用を支えているといっても過言ではありません。
地方を中心に企業の後継者不在率が高まっていることから、地域活性化のためにも事業承継の必要性が高まっています。
参考:帝国データバンク 全国「後継者不在率」動向調査(2024年)
会社経営者の高齢化
経営者自身が高齢であることを理由に、事業を廃業する事例が増えています。日本全国の経営者の年齢に関する調査結果(2023年)によると、会社経営者の平均年齢は60.5歳で、33年連続で上昇しています。
経営者が70代、80代に突入すると、体力や認知力の衰えなどで経営に悪影響が出やすいこと、後継者探しも困難となるため、廃業の可能性が高まるのです。
事実、経営者の高齢化を理由に廃業する件数が増えていることから、後継者の育成や事業承継が求められます。このような背景から、事業承継のために会社を売るケースが増えているのです。
親族内承継の減少
経営者の子供、もしくは親族による事業承継が減少していることも原因の一つでしょう。これまで、多数の中小企業や小規模事業者において、経営者の子供や親族が後継者候補でした。
しかし、経営者の子供や親族の事業承継に対する意欲が低いこと、社会全体で個人の意思を尊重することが推奨されていることなどから、親族内承継が減少しています。そこで、第三者に対する事業承継のニーズが高まっています。
業績の悪化
会社の業績が悪化したことによる買収やM&Aが増えていることも、後継者のいない会社を買う事例の増加に結び付いていると言えます。
特に、コロナ禍によって、これまで経営が順調だった企業でも業績が急激に悪化したことで、後継者の不在が目立つようになりました。事業承継の需要が高まったことにより、M&Aや買収のケースも増えている傾向です。
専門的なサポートの増加
マッチングサービスなどの専門的なサポートやサービスが増えたことにより、後継者のいない会社を買いやすくなりました。
価格が手頃であるとはいえ、企業の買収リスクは0ではなく簡単に決断できることではありません。
国や地方自治体も後継者不足を大きな問題と捉え、より手軽に会社を買える環境やサービスを立ち上げたのです。また、民間の仲介業者を通じて、会社を買うことも可能です。
個人が後継者のいない会社を買うメリット

後継者のいない会社を買うことは、個人にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、主なメリットについて詳しく紹介します。
低コストで起業できる
会社を買うことにより、低コストでの起業が可能になります。0からビジネスを立ち上げるためには、相当の資金が必要です。
例えば、起業には以下の費用がかかると言われています。
| 内容 | 費用相場 |
|---|---|
| 株式会社の設立 | 22万円 |
| 合同会社の設立 | 10~20万円 |
| 開業費 | 90~200万円 |
| 維持費 | 30万円 |
上記はあくまでも相場費用であるため、前後することもあり得ます。起業と起業後の経営継続のためには多額の費用が必要となるため、自己資金だけでなく金融機関からの融資で補うこともあるでしょう。
既存の会社を買うことで、設備や人材、取引先などもそのまま引き継げるため、少ない費用でビジネスをスタートできるのです。
無形資産を引き継げる
従業員やノウハウといった無形資産を引き継げることも、会社を買うことで得られるメリットです。
新たにビジネスを立ち上げて人材を育成する、ノウハウを蓄積するには相当の時間と投資が必要です。また、取引先を開拓し、信頼関係を築くことも簡単ではないでしょう。
これらの無形資産は、会社にとって重要な資産であり、お金や時間をかけても必ず手に入るわけではありません。
本来は時間やお金をかけて育む資産が既に備わっている会社を買うことで、円滑にビジネスをスタートできるでしょう。
もし、廃業となれば貴重な無形資産が無駄となり、社会的にも経済的にも大きな損失となります。後継者のいない会社を買うことは、無形資産を守るだけでなく、社会全体の活性化に役立つのです。
短期間での成長が期待できる
0からビジネスをスタートするよりも、既存の企業を買って事業を始めた方が短期間で事業が軌道に乗る可能性が高いです。
ある程度の資金や優秀な人材が揃っていても、一定の売上を上げる、売上を維持するまでは、それなりの時間が必要です。
既存の会社は顧客、ビジネスのノウハウ、人材などが既に揃っていることから、経営が安定するまでの期間を短縮できます。
短期間で経営の安定化を達成できれば、新たな商品やサービスの開発や人材育成など、さらに会社を発展させるために力を尽くせるでしょう。
個人が後継者のいない会社を買うデメリット
後継者のいない会社を買うことは、個人にとってデメリットをもたらすことがあります。後継者のいない会社を買うことが、個人にとって妥当であるかを判断するためにも、デメリットについて把握しておきましょう。
従業員や取引先への配慮が必要
会社を買ったとき、その会社の従業員や取引先と良好な関係を維持、向上するための努力が求められます。
それは、前経営者が従業員や取引先と良好な関係を築いていた場合、経営者の交代を快く思わず、経営にリスクをもたらすことがあるからです。
例えば、経営者が変わることに対して不信感を抱いた従業員が、退職を決断するかもしれません。人材の流出は起業にとって大きな痛手であるため、安定経営に悪影響を及ぼします。他にも、これまで懇意にしていた取引先が、経営者の交代を理由に取引を辞めることもあり得ます。
従業員や取引先から信頼を得るためには、自ら積極的にコミュニケーションを取ることが大切です。
また、従業員のモチベーションや帰属意識を低下させないためにも、今後の会社の方向性やビジョン、待遇などについて丁寧な説明が求められます。
負の財産を引き継ぐことがある
買収した企業が負債や債務を抱えていた場合、負の財産まで引き継ぐことになります。負の財産として以下のものが該当します。
- 未払い賃金
- 退職給付引当金
- 借入金
- 買掛金
- 未払い社会保険
帳簿に記載されておらず、買収やM&A後で発覚する債務もあります。負債の額が多いほど、会社の資金繰りが苦しくなり、経営に悪影響を及ぼすリスクが高いです。
リスクを防ぐためにも、買収を検討している会社に対して、事前に財務調査を行っておくことが大切です。
個人が後継者のいない会社を買うやり方

個人が後継者のいない会社を買う場合、どのような手段があるのでしょうか?購入手段は複数あるため、自分に合ったものを選ぶことが大切です。ここでは、主な方法について詳しく説明します。
M&Aマッチングサイト
事業の後継者やM&Aを専門とするマッチングサイトから、買いたい会社を探せます。事業規模を問わず、多様な業種の会社が登録していることから、自分に合った会社を見つけやすいでしょう。
近年、後継者不足が年々深刻化していることから、小規模事業者のM&Aに特化していたり、契約成立まで専門家がサポートしたりと、多様なサービスを展開しているマッチングサイトがあります。
M&Aのマッチングサイトでは、企業はもちろん個人の利用者も多いです。まずは、サイトに登録して、どのような会社を買えるのか、募集条件などをチェックしてみましょう。
事業承継を専門とする仲介業者
事業承継を専門としている仲介業者は、担当スタッフと対面で会社を買うことについて、相談できるのが強みです。マッチングサイトでも、条件を絞り込んで希望に近い会社を見つけ、買収できるでしょう。
しかし、買収する会社を決めるときは、価格だけでなく、業績や従業員などさまざまな点を考慮する必要があります。そのため、条件だけで買収先を決めた場合、業績が悪化している会社など、経営難の会社を買収することがあるかもしれません。
仲介業者は、個人の希望する条件、資産などを細かくヒアリングしたうえで買収先を紹介してくれます。例えば、特定の地域と太いつながりを持っている仲介業者に依頼することで、他では見つけられなかった最適な会社が見つかることもあります。
条件に合った会社を自身で探すよりも、専門知識がある担当スタッフに相談することで、より自分に合った会社を見つけやすくなるでしょう。
事業承継・引継ぎ支援センター
中小企業や小規模事業者の事業承継を支援するために、国が設立した機関で、主に専門家の紹介を行っています。この機関は、M&Aマッチングサイトや仲介業者のように、条件に合う会社を探したり、紹介してくれたりするわけではありません。
都道府県に設置されており、無料で相談、利用できるのが特徴です。会社を買いたいと思っている個人で、どのように手続きを進めてよいのか分からない、相談先が決まっていないときなどに利用してみましょう。
事業承継の専門知識を持つ税理士
税務と経営の専門知識を持つ税理士に相談することで、効果的なサポートを得られます。日頃からお世話になっている顧問税理士であれば、個人の財務や経営などの状況を把握しているため、より具体的なアドバイスが可能です。
また、会社を買うときは、事前に対象となる会社の業績や負債の状況などを把握し、買収先として適しているかどうかを判断します。財務や経営の専門知識を持つ税理士なら、安心して財務調査を任せられます。
さらに、複数の中小企業や小規模事業者と取引のある税理士なら、個人の条件に合う会社を紹介してくれるかもしれません。
ただし、全ての税理士が、事業承継やM&Aに強いわけではありません。また、買いたい会社を決めるときも、マッチングサイトや専門の仲介業者の方が、妥当な会社が見つかることが多いです。
マッチングサイトや仲介業者などと併せて税理士を活用することで、会社の買収や買収後の経営を効率良くサポートしてもらえるでしょう。
個人が後継者のいない会社を選ぶときのポイント

後継者のいない会社が増えている現状において、個人が会社を買うことは珍しくなくなってきました。しかし、買収した会社の経営を安定させるためにも、自分に合った会社を選ぶことが大切です。ここでは、個人が会社を買うときの選び方のポイントについて、紹介します。
興味のある業務
自分が興味のある業務だからこそ、「この会社を良くしたい」という気持ちが湧き出てくるものです。会社を買うということはその会社の経営者になるため、事業経営に熱意を持って取り組めるかどうかが重要です。
会社を買ってスタッフや取引先、設備などを引き継いだとしても、ただちに経営が安定するとは限りません。自身が経営者となり、取引先や既存スタッフと信頼を築くなど、経営者としての努力が求められるからです。
自身が興味や関心のない業務であった場合、経営への熱意を失う原因になるかもしれません。買収後は経営を安定させるために、相当な努力が必要となるため、興味のある業務を選ぶことが、経営改善の原動力となるでしょう。
妥当な予算
会社を買うときは、相当の費用が必要となるため、予算を考慮することも大切です。まずは、会社を買う前に予算を決めることをおすすめします。
M&Aで売買される会社の価格相場は、300万~500万円といわれています。相場を参考に無理のない範囲で予算を決めましょう。
経営の状況
会社を買い、経営者になるのなら、経営状況を知ることも大切です。それは、業績の悪化している会社を買ってしまうと、財務状況を改善させる、経営を軌道に乗せるのが困難だからです。
まずは、財務調査を行い、会社の財務や経営状況をしっかりと把握することです。経営状況があまりよくなかった場合、自分で経営を立て直せるかどうかを判断したうえで、買うか否かを決めましょう。
個人が後継者のいない会社を買うときの注意点
個人で後継者のいない会社を買うときは、買いたい会社を徹底して調査することです。会社を買った後に、簿外債務や連帯保証などが見つかることもあり、経営や財務に大きなダメージを与えることがあるからです。
財務調査はデューデリジェンスとも呼ばれます。財務諸表を分析するだけでなく、買収する会社との面談や交渉を通じて、さらに掘り下げた調査を行います。徹底した調査を行うためにも、デューデリジェンスはM&Aの専門家が行うのが一般的です。
デューデリジェンスの結果を踏まえ、最終的に買収するか否かを決めますが、買収の決断が難しいときは、専門家のアドバイスを参考にしましょう。
個人が後継者のいない会社を買うときは入念な調査と正しい判断が大切
後継者のいない会社が増えている現状において、個人が会社を買うケースが増えています。0から起業するよりも、既存の会社を購入することで得られるメリットは多々あります。会社を購入し、経営を安定させるためには、買収する会社の選び方が大切です。事前に入念な財務調査を行うこと、専門家のサポートやアドバイスを受けながら適切に判断しましょう。








