家族経営で夫婦が離婚する場合、経営や財産分与、役員退任手続きなどが複雑化します。特に、会社経営における役割分担や今後の事業体制についての話し合いが必要です。この記事では、家族経営での離婚が引き起こす典型的な課題や離婚時の財産分与などについて、詳しく解説します。
目次
家族経営における離婚が引き起こす課題

家族経営における離婚は、財産分与をはじめとしたさまざまな問題を引き起こします。家族経営での離婚によって生まれる課題を解決し、適切に対処すれば、影響を最小限に抑えられるでしょう。この章では、家族経営における離婚が引き起こす課題について、詳しく解説します。
財産分与が困難
家族経営は、事業資産と個人資産の境界が曖昧です。そのため、離婚による財産分与では、どの資産が分与の対象なのかを明確にする必要があるでしょう。
財産分与の割合は、配偶者の会社への貢献度をもとに決定するため、分与額の計算が難しいのが特徴です。
役員としての立場の引き継ぎや退任の手間がかかる
配偶者が会社の役員である場合、退任手続きは複雑です。退任には株主総会での決議が必要で、退任するべき正当な理由がないと、配偶者から名誉毀損や損害賠償で訴えられるリスクがあります。
法律的な手続きは時間がかかるため、経営にも支障が出てしまうでしょう。
従業員の解雇
配偶者が会社の従業員である場合、解雇手続きには労働法が適用されるため、従業員の病気や怪我などの正当な理由がなければ不当解雇とみなされます。労働者の権利は法的に保護されており、離婚に伴う感情的な理由では解雇ができないため注意してください。
共有財産と負債の分担
夫婦が離婚した際は、住宅や自動車ローンなどの共有負債も課題です。離婚時は、共有負債は現金化し夫婦で分け合うのが一般的ですが、どちらがどの負債を引き受けるかを明確に決定しなければ、公平な負債の分担は困難でしょう。
子どもの親権問題
離婚に伴う子どもの親権問題は、経営にも影響を与えます。特に、将来的に事業承継を考える場合、子どもの親権を持つ側が経営に関与する権限を保持します。
どちらが親権を取るか、慎重な判断が求められるでしょう。
家族経営における離婚時の財産分与について

家族経営における離婚時の財産分与は、結婚して共に築いた財産を整理・分配する重要な過程です。財産分与は、金融資産や不動産、事業資産などが対象で、配偶者の事業への貢献度も考慮されます。この章では、財産分与の基本と対象や会社の財産や自社株の扱いなどについて、詳しく説明します。
財産分与の基本と対象
財産分与は、夫婦が共に築いた財産を離婚時に公平に分配する方法です。財産分与の対象は多岐にわたります。以下が、財産分与の主な対象です。
金融資産
金融資産には、夫婦が共同で得た預金や保険金、株式などが含まれます。夫婦が共に貯めた預金残高や共同名義の証券などが財産分与の対象です。
不動産
財産分与は、住宅や土地などの不動産も対象です。特に、夫婦が共に購入した住居は、離婚後にどちらが保持するか、または売却するかを協議する必要があります。
事業資産
財産分与は、夫婦が共同で経営している会社の資産や利益も対象です。夫が会社を経営し、妻が経理を担当していた場合、会社の貢献度に応じて財産分与が行われます。
無形資産
特許や著作権、商標など、金銭的価値を持つ無形の資産も財産分与の対象です。無形資産は事業の利益に影響を与えるため、離婚後どちらが保持するか慎重に決めてください。
個別の贈与や相続財産
結婚前に夫婦どちらかが得た資産や贈与された財産は、原則として財産分与の対象外です。しかし、結婚前に受け取ったご祝儀や子どもの教育費などは、夫婦共に対して行われた贈与とみなされ、財産分与の対象になる場合があります。
財産分与の際は、後々の金銭トラブルを防ぐため、対象となる資産をどのように分配するかを明確にしてください。特に、事業資産や無形資産は、夫婦の会社への貢献度をもとに公平に分配すれば、トラブルを防止できるでしょう。
会社の財産や自社株の扱い
家族経営における財産分与では、会社の財産や自社株の取り扱いも課題です。法人の資産は法律上、個人の財産とは区別されており、一般的には財産分与の対象外です。
しかし、株式は基本的に個人名義のため、財産分与の際には誰が保有しているのかが考慮されます。夫婦で共同出資して設立した会社の株式も同様の扱いです。
財産分与の割合に影響を与える要因
財産分与の割合は、基本的に50対50が原則です。しかし、夫婦どちらかが会社の成長を経済的に支えたり、家庭において多くの役割を担っていたり、特別な事情下では財産分与の割合が変わります。
また、相続や遺産が絡む財産分与では、離婚の背景や財産の取得状況も考慮されるため、財産分与の割合に影響を及ぼすでしょう。例えば、相続した資産や遺産が、家庭や会社の経済にどの程度貢献したかが、財産分与の割合の判断基準です。
離婚後の役員退任や従業員解雇の手続きについて
家族経営における離婚後の役員退任や従業員解雇の手続きは、法的手順の把握や適切な準備が必須です。特に、役員退任には株主総会での決議が必要で、正当な理由がない場合、損害賠償請求をはじめとしたリスクも伴います。この章では、離婚後の役員退任や従業員解雇の手続きについて、詳しく解説します。
配偶者が役員の場合
配偶者が会社の役員の場合、退任手続きは複雑です。配偶者を役員から退任させるには、会社の定款に従い、株主総会を開催する必要があります。株主総会では、配偶者を役員から退任させる正当な理由が必須です。離婚は夫婦の個人的な問題としてみなされるため、役員を退任させる正当な理由にはならないため注意してください。
配偶者を役員から退任させる正当な理由がない場合は、名誉毀損や損害賠償を求められるリスクが高まります。役員の退任手続きには慎重な行動が必要なため、専門家のサポートを受けるのをおすすめします。
配偶者が従業員の場合
会社の従業員は、労働者としての権利が法的に保護されています。そのため、配偶者が会社の従業員の場合、解雇の際は労働法に基づく手続きが必要です。
解雇には正当な理由が求められ、不当解雇とならないよう、法的要件を満たした対応を行う必要があります。不当解雇とみなされた場合、訴訟をはじめとした法的リスクが高まるため注意してください。
役員の自主的退任と退職の場合
配偶者との関係が悪化している場合、複雑な法的手続きを避けるため、役員の自主的退任や退職を勧めるのが有効となるでしょう。自主的退任や退職を勧める際は、双方が感情的にならないよう冷静に話し合いましょう。
特に、自主的退任や退職を勧める理由を具体的に共有すれば、夫婦互いが納得でき、円満な解決を図れるはずです。
離婚時に直面する負債と保証人問題

離婚時に起こる負債や保証人の問題は、夫婦双方の将来に影響を及ぼします。特に、共有負債や保証人の扱いに関しては、分担方法を明確化する必要があります。この章では、住宅ローンを含む負債の取り扱いや離婚後の保証人義務の継続について、詳しく解説します。
住宅ローンを含む負債の取り扱い
住宅ローンが共有財産に関わる場合、離婚時の負債の取り扱いは複雑です。住宅は夫婦が共同で負担している資産のため、離婚後の住宅ローンの名義や支払い義務を明確化してください。
例えば、離婚後に夫婦どちらかが持ち家を保持する場合、その際に負担するべきローンの残高や固定資産税などの割合について決めておく必要があります。
一方で、持ち家を売却してローンを清算する方法も有効です。持ち家を売却する場合、売却価格がローン残高を上回るか下回るかによって、離婚後の負債の負担割合が異なります。事前に売却価格の見積もりを取れば、負債の分配を公平に行えるため、夫婦共に納得できるでしょう。
離婚後の保証人義務の継続について
たとえ離婚後でも、ローンや借り入れの保証人義務は続くため注意してください。離婚後に元配偶者がローンや借り入れへの支払いを怠った場合、保証人が返済責任を果たす必要があります。離婚後の金銭トラブルを防ぐため、あらかじめローンや借り入れに関する保証人義務の有無を確認してください。
保証人としての責任を解除したい場合、手続きをスムーズに進めるため、専門家に相談するのをおすすめします。
子どもの親権と経営継承の関連性について
離婚の際は、未成年の子どもの親権を夫婦どちらが持つかを決める必要があります。特に、家族経営の場合、親権が会社経営や経営継承に関係します。この章では、子どもの親権と経営継承の関連性について、詳しく解説します。
会社を将来的に子どもに継がせたい場合
会社を将来的に子どもに継がせたいと考えている場合、夫婦どちらが親権を持っているかが、事業の運営に直接的な影響を及ぼすでしょう。
会社を子どもに継がせる際は、親としての責任と会社経営の責任をどのように両立するかが課題です。子どもに会社を継がせれば、新たな視点が事業へ取り入れられ、企業の安定や発展につながる可能性があります。
親権問題が裁判に発展するケースも
離婚の際、親権に関する合意が難航した場合、裁判所が関与する場合があります。親権にまつわる裁判には、自分がいかに子育てに関与したか、裏付けとなる情報や資料の準備が必須です。証拠資料が不足すると、不利な結果を招いてしまうでしょう。
親権者としての適性を示すためには、会社を将来的に子どもに継がせる具体的な計画や、子どもへの教育方針なども明確にする必要があります。
参考:子どもに関する調停
まとめ:正しい手続きで円滑な財産分与をするために
家族経営における離婚の手続きは複雑なため、計画的かつ慎重に進める必要があります。まずは夫婦が所有している財産を正確に把握し、財産分与の対象や割合について冷静に話し合いましょう。
また、役員退任や解雇などの法的手続きをスムーズに進めるためには、専門家の力を借りるのがおすすめです。特に税務処理や財産評価には高度な専門知識が必要なため、ぜひ小谷野税理士法人までお問い合わせください。










