売上に直接関わった仕入、製造等のコストの割合を意味する言葉として売上原価率があります。売り上げた商品と直接的に対応した費用を指す売上原価の割合を意味し、経営においては把握しておくべき数字のひとつです。この記事では、売上原価率の概要と売上高、売上原価との関係について解説します。
目次
売上原価率とは

売上原価率とは、売上に対する売上原価の比率のことです。
売上原価÷売上高×100 |
上記の計算式を使うことで、売上高に占める売上原価の構成比率を算出できます。売上総利益は、売上高から売上原価を差し引いた利益です。そのため、売上原価率と売上総利益率の合計値は必然的に100%になり、売上原価率の数値が低ければ売上総利益率の数字は上昇します。
また、売上原価率が低い場合、コスト管理が適切に行われていると判断できます。これらのことから、売上原価率について正確に理解したうえでの活用により、適切な意思決定につながると言えます。
なお、売上原価率と類似する言葉のひとつに売上高原価率がありますが、売上高に占める売上原価の割合を示す指標のため、使用の際は注意しましょう。
売上高と売上原価の違い
売上高とは、一定期間における商品・サービスの提供により得られた収益の合計です。一方、売上原価は商品の仕入や製造に掛かった費用のことを指します。
売上高が大きいほど業績は伸びていると判断したくなりますが、売上原価も同時に高ければコストの見直しが必要と判断できます。このとき、売上原価と売上高の割合を詳細に分析し、どちらが優勢かを判断するものが売上原価率です。
売上原価と製造原価の違い
売上原価率を使用する上では、売上原価と混同しやすい製造原価についても押さえておきましょう。売上原価は商品の仕入などに期中に売れた商品などにかかった原価のことですが、製造原価は製造過程で生じた費用の合計額です。
原材料に限らず、設備費用や製造に関わった従業員の給与、製造を行う倉庫の光熱費や賃貸費用なども含まれます。算入する対象が大きく異なるので、会計処理の際は混同しないよう注意しましょう。
売上原価率から判断できること
売上原価率を把握することで、どのようなことを判断できるのでしょうか。具体的には、下記の項目が挙げられます。
市場競争力
市場競争力は、売上原価率や売上総利益率などで示されることが多いです。例えば、売上原価率が業界内で低いと、他社より低コストであると判断でき、価格競争は有利な状態と分析できます。
仮に、売上総利益率が低ければ、商品やサービスの収益性に課題がある可能性が高いでしょう。原価の見直しに限らず、販売戦略や価値提供の向上を図る必要があります。売上原価率と売上総利益率を定期的に確認することで、市場で生き残るための手がかりを得られるでしょう。
投資における余力
売上原価率が低い企業の場合、売上に直接かかるコスト以外のコストにも予算を配分しやすいと考えられることが一般的です。そのため、投資において余力があると判断できます。
また、人材育成や設備投資など、必要な部分にお金を掛けられることもイメージできるので、企業の安定性にも深く関わっていると考えられます。
業種別の平均売上原価率

経済産業省の「経済産業省企業活動基本調査 / 統計表一覧-速報(概況) 2024年企業活動基本調査速報ー2023年度実績ー」をもとにした業界別の平均売上原価率は75.3%でした。下表の数値は、主な業種の売上原価率を算出したものです。
| 業種 | 売上原価(100万円) | 売上高(100万円) | 売上原価率(%) |
|---|---|---|---|
| 鉱業、採石業、砂利採取業 | 566,537 | 832,855 | 68.0 |
| 製造業 | 268,077,400 | 332,903,382 | 80.5 |
| 化学工業 | 25,272,402 | 35,804,561 | 70.5 |
| 鉄鋼業 | 16,039,312 | 18,184,334 | 88.2 |
| 電子部品・デバイス・電子回路製造業 | 16,338,918 | 19,456,452 | 83.9 |
| 電気・ガス業 | 35,877,172 | 42,741,029 | 83.9 |
| 情報通信業 | 27,557,790 | 40,680,982 | 67.7 |
| ソフトウェア業 | 16,978,735 | 23,618,984 | 71.8 |
| 情報処理・提供サービス業 | 6,140,279 | 8,588,614 | 71.4 |
| 出版業 | 761,067 | 1,301,465 | 58.4 |
| 卸売業 | 201,302,538 | 233,042,295 | 86.3 |
| 小売業 | 66,759,349 | 96,426,222 | 69.2 |
| クレジットカード業、割賦金融業 | 118,841 | 3,533,949 | 3.36 |
| 物品賃貸業 | 9,510,374 | 11,377,172 | 83.5 |
| 学術研究、専門・技術サービス業 | 9,936,806 | 12,244,450 | 81.1 |
| 飲食サービス業 | 2,834,617 | 5,858,107 | 48.3 |
| 生活関連サービス業、娯楽業 | 2,349,162 | 4,206,438 | 55.8 |
| 個人教授所 | 56,097 | 105,591 | 53.1 |
| サービス業(その他のサービス業を除く) | 12,874,739 | 17,997,829 | 71.5 |
| サービス業(その他のサービス業 | 8,746,248 | 15,105,400 | 57.9 |
| その他の産業 | 23,737,390 | 31,957,993 | 74.2 |
参考:経済産業省|経済産業省企業活動基本調査 / 統計表一覧-速報(概況) 2024年企業活動基本調査速報ー2023年度実績ー
モノを商品とする製造業や卸売業、物品賃貸業の売上原価率は、平均より高い傾向にあります。逆にクレジットカード業、割賦金融業の売上原価率は3.36%と非常に低いことが分かります。
製造業や小売業では、原材料のロスや不良品の発生、在庫過多といった問題によって収益に影響を及ぼす恐れがあります。原材料のロス、または不良品の発生等が生じれば、売上原価が増え、結果として売上原価率が高くなるでしょう。
ロス率の管理や削減・低減は市場競争力の強化だけでなく、経営効率の向上に直結する要素です。効率的なロス率の抑制を実現することで、利益率の向上や持続可能な経営の実現につながるでしょう。
売上原価率が高くなる原因とは
売上原価率が高くなる要因には、主に仕入コストの増加や在庫過多が挙げられます。ここでは具体的な原因について解説します。
仕入コストや在庫過多
売上原価率が高くなる原因として、仕入コストや在庫過多が挙げられます。近年は、社会情勢の影響によって物価や原油の高騰が生じ、仕入コストの増加が避けられない状態です。原材料を輸入に頼る企業であれば、大きな影響を受けることになるでしょう。
仕入コストを商品・サービスの販売・提供価格に転嫁できれば、売上原価率の上昇を避けることができます。しかし、市場から大きくかけ離れた価格を設定すると客離れを招く恐れもあります。消費者を第一に考える企業ほど、価格設定においてジレンマを抱えることになるかもしれません。
また、販売機会のロスを減らすため、在庫に余裕を持たせることも売上原価率を高める原因です。在庫を多く抱えるほど安定的な供給を確保できますが、一方で仕入や生産も多く発生します。社会情勢の影響が避けられない現状ほど売上原価率の増加が考えられることから、適切な手段を早期に取り入れることが大切です。
高いロス率
在庫過多がみられる企業の場合、ロス率の上昇によって売上原価率を高めている可能性もあります。例えば、食品業界であれば、消費期限の観点から廃棄ロスにつながることなどが挙げられるでしょう。ロス率やロスそのものの上昇は、売上に対する原価が上昇する原因のひとつになりかねません。
また、不十分な在庫管理によって商品が劣化し、ロス量が増えることも原因のひとつです。結果的に商品に生じたコスト全体が押し上げられるため、企業の収益性に悪影響を及ぼすことが考えられます。売上原価率を下げたいのであれば、ロス率を見直し、削減につなげられる対策を講じることが必要と言えるでしょう。
売上原価率を改善する方法

売上原価率を改善するためには、仕入の見直しと在庫管理の最適化が挙げられます。ここでは具体的な改善方法について解説します。
仕入の見直しと在庫管理の最適化をする
使用する材料や商品について改めて見直すことで、コストの安定化を図り、売上原価率を改善できる場合があります。仕入れ値を下げることで、売上原価率が改善するからです。可能であれば、長期契約を視野に入れた仕入も検討しましょう。長期契約を結ぶことで価格変動リスクを下げることができ、結果的にコスト削減を目指せます。
また、在庫管理の最適化を図ることで、必要な商品を必要なタイミングで仕入できます。過剰に在庫を抱えることを防ぐと同時に、製品の売れ行きも把握して販売戦略のヒントに活用できるからです。
仕入の見直しと在庫管理の最適化で、資金の流れをスムーズに保ちやすくなるでしょう。
ロス率を減らす
ロス率を把握し、削減を図ることも売上原価率の改善につながります。例えば、在庫管理の場合、商品の品質チェックを定期的に実施することで、劣化や期限切れによる廃棄ロスを最小限に抑えることが可能です。
また、売れ筋商品と不良在庫を的確に見極めるためのデータ分析も実施することで、適切な在庫量の維持につながります。綿密な計画と適切な対策によってロスを減らし、事業全体の効率向上に期待できるでしょう。
売上原価率を使ってコストの見直しを図ろう
売上原価率は、企業の財務状況や競争力を把握するうえで大切な項目です。売上原価率を下げるためには、仕入コストの見直しや在庫管理の最適化、ロス率の削減などがあります。
また、業種ごとの特性を理解し、適切な原価管理を実践することで、コストの効果的なコントロールのみならず、競争力の維持強化にもつながるでしょう。









