中小企業を経営するなかでは、財務状況を把握し、適切な対策を講じながら節税を意識することが大切です。節税と聞くと、ネガティブなイメージを抱く方もいるでしょう。しかし、必要な部分に必要な分だけ費用を掛け、適切に資金を運用することも節税のひとつです。この記事では、中小企業の経営者の方におすすめしたい節税対策について解説します。節税における注意点もまとめているので、企業基盤の安定を節税で図りたい方はぜひ参考にしてください。
目次
中小企業における節税の重要性とは

中小企業における節税の重要性は、大手企業と比べて資金繰りや運営面で厳しい状況に直面しやすいことが挙げられます。昨今の世界情勢によってはあらゆるモノの物価高騰によって、徐々に資金が目減りしているケースも少なくありません。
資金繰りや運営が厳しい状況になる前に適切な節税対策を講じておくことで、税負担の軽減をはじめ、余剰資金を別の事業投資や新たな人材の育成に活用したり、設備投資につなげたりすることができます。
節税対策は、単なるコスト削減に留まらず、企業の成長戦略を支える上で重要な施策と考えられます。
中小企業が納める主な税金
節税対策を検討する前に、あらかじめ、中小企業が納めるべき主な税金について押さえておきましょう。具体的には下表の通りです。
| 税金 | 概要 |
|---|---|
法人税 |
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地方法人税 |
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法人住民税 |
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法人事業税 |
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消費税 |
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固定資産税 |
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償却資産税 |
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源泉徴収した所得税 |
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源泉徴収した住民税 |
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事業所税 |
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印紙税 |
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自動車税 |
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登録免許税 |
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不動産取得税 |
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相続税・贈与税 |
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なかでも法人税は、法人の利益に基づいて課税される仕組みで、資本金額に応じて税率が変動する特徴があります。
資本金が1億円以下の法人の場合、所得金額が800万円以下の部分については、15%の軽減税率が適用され、税負担を軽減できます。800万円を超えた部分については23.2%の税率が適用されますが、少量でも軽減につなげられるのは大きなメリットです。
自社に関する税金について押さえ、自社の資本金や利益状況を正確に把握することで、最適な税務戦略を立てることできるでしょう。
中小企業におすすめしたい節税対策11選

ここからは中小企業が対象となる税金を踏まえ、おすすめしたい11種類の節税対策について解説します。具体的には下記の通りです。
- 役員報酬を適切に計上する
- 決算賞与を活用する
- 設備投資を行う
- 固定資産を整理する
- 旅費日当の制度を活用する
- 少額減価償却資産を計上する
- 共済制度に加入する
- 貸倒損失を計上する
- 健康診断や社員旅行を実施する
- 別会社設立を検討する
- 短期前払費用を活用する
どのような内容なのか、さっそく見ていきましょう。
役員報酬を適切に計上する
役員報酬は経費計上が可能です。経費に計上することで、法人税の負担を軽減できる可能性があります。ただし、定期同額給与、または事前確定届出給与、業績連動給与のうち、いずれかに該当しなければなりません。
中小企業の役員報酬は主に、定期同額給与か事前確定届出給与で支給することが多いので、該当する際は経費として計上することをおすすめします。
さらに事前確定届出給与を活用すると、役員賞与として計上することも可能です。ただし、定期同額給与は通常、事業年度開始日から3か月以内に金額設定しなければなりません。
また、事前確定届出給与については、株主総会による決議から1か月以内、もしくは事業年度開始日から4か月以内のいずれか早いうちの届出が必要です。
決算賞与を活用する
決算賞与の活用によって節税につなげることもできます。決算賞与は年度末における企業の業績に応じて支給されるボーナスです。経費とみなされる特徴から、法人税の負担を軽減することができます。業績が良ければその分だけ支給されるボーナス額も増えるので、従業員のモチベーション向上に期待できるでしょう。
なお、賞与の区分によっては損金算入の時期が異なり、一定の要件を満たせば未払いでも当期の損金として計上可能です。決算賞与の詳細について知りたい方は、国税庁のホームページを確認することをおすすめします。
設備投資を行う
青色申告制度を原則とする法人であれば、中小企業経営強化税制の利用が可能です。中小企業経営強化税制は、一定の要件をクリアすることで対象設備の取得において即時償却、または税額控除が認められる制度です。対象設備は下表の通りです。
| 項目 | 条件 |
|---|---|
機械および装置 |
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工具、器具および備品 |
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建物附属設備 |
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ソフトウェア |
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参考:No.5434 中小企業経営強化税制(中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除)|国税庁
設備への投資は、上手に活用することで税負担の軽減に役立ちます。企業経営を効率化する上で有効な手段にもなり得ることから、この機会に活用できるかを確認してみましょう。
固定資産を整理する
定期的に固定資産の確認・整理を行うことで、無駄な維持費や税金の支出を抑えられます。不要な資産を処分すれば、帳簿上の残高を除却損として経費計上できます。取得額が高い資産であるほど、大きな節税効果が期待できるでしょう。
ただし、除却損として計上する場合、年度内に処分したことを証明しなければなりません。例えば、廃棄した資産の一覧表や画像、処分を依頼した業者の請求書が必要になります。
旅費日当を活用する
旅費日当の活用によって、節税につなげることができます。旅費日当とは、業務に伴う宿泊費や交通費を除いた費用のことです。
役員や従業員が出張の際に生じた費用は、旅費日当として経費計上できます。妥当な金額であれば経費計上できるうえ、課税仕入れとして取り扱うことも可能です。その結果、消費税の節税に役立ちます。
旅費日当は非課税所得であるため、受け取った個人に税金が課されることはありません。ただし、社内で取り決められた旅費規程に準じて支給する必要がある点に注意が必要です。
少額減価償却資産を計上する
少額減価償却資産を計上することで、初期投資を早期に経費計上することが可能です。主に青色申告制度を利用する中小企業を対象とした制度で、30万円未満の資産を取得した際に取得額の全額を経費として計上できます。詳細は国税庁のホームページをご確認ください。
参考:No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例|国税庁
共済制度に加入する
中小企業向けの共済制度に加入することで、掛け金を経費計上した上で万が一のトラブルに備えることができます。共済制度の活用によって従業員に安心を提供できるので、職場環境の向上につなげることもできるでしょう。
良好な職場環境は従業員のモチベーション向上や労働生産性の改善にも寄与するので、未加入であればこの機会に加入を検討してみることをおすすめします。
貸倒損失を計上する
取引先が倒産したなどの理由により売掛金の回収ができないこともあるでしょう。そのようなときは、貸倒損失として経費計上できる場合があります。一般的なケースは下記の通りです。
- 金銭債権が切り捨てられたとき
- 金銭債権の全額が回収できないとき
- 一定期間の取引停止後に弁済がないとき
ただし、場合によっては税務調査で指摘される可能性があります。貸倒損失として経費計上する際は、会計士や税理士に相談してから決めると安心です。
健康診断や社員旅行を実施する
健康診断や社員旅行をはじめとした福利厚生費は、要件を満たすことで経費計上が可能です。健康診断および社員旅行における要件は下表の通りです。
| 項目 | 条件 |
|---|---|
健康診断 |
|
社員旅行 |
|
健康診断は、従業員の健康状態を把握し、早期に問題を発見・解決することにつながります。結果として、医療コストの削減にも期待できるでしょう。
また社員旅行の実施についても、職場内のチームワークやコミュニケーションを向上させる効果に期待できます。福利厚生を充実させるためには、実施内容や予算を慎重に検討し、従業員が参加しやすい環境作りを心掛けましょう。
別会社設立を検討する
別会社を設立し利益を分散すれば、節税につなげられます。資本金1億円以下の中小企業に対しては、法人税の税率が課税所得800万円で区切られているためです。
さらに、交際費の限度額を2社分で倍にできる点も、別会社設立のメリットでしょう。しかし、会社の設立が不自然だと、税務調査で指摘される恐れがあります。別会社の設立に際しても、税理士等に相談しながら決めることをおすすめします。
短期前払費用の特例を活用する
前払費用のなかでも支払日から1年以内にサービスの提供を受けるサービス等は、短期前払費用の特例によって支払ったタイミングでの経費計上が可能です。特例の活用によってその後の利益額が圧縮されるため、税負担の軽減ができます。
ただし、利益操作の防止目的から、翌年以降も継続して支払うことが前提です。目先の節税だけで決めると大きなトラブルにつながる恐れがあるため、検討する際は税理士に相談すると良いでしょう。
中小企業が節税対策を行う上での注意点

節税対策を行う上では、以下4つの注意点に留意することをおすすめします。
- 無駄な投資を避ける
- グレーゾーンの節税手法を避ける
- 節税と脱税の違いを理解する
- 信頼できる税理士に相談する
それぞれの概要について解説します。
無駄な投資を避ける
1つ目は無駄な投資を避けることです。節税対策を進める上では、無駄な投資を避けるよう意識しましょう。短期的な税金軽減を狙い、必要以上に設備を購入したり経費を計上したりする行為は、結果的に経営基盤の弱体化リスクにつながります。
設備をはじめとした投資の際は、内容を慎重に精査し、必要な資産のみを厳選して購入しましょう。また、投資を検討する際は節税に依存せず、企業戦略に基づいた合理的かつ明確な判断を意識しましょう。綿密な投資計画によって資金繰りを安定させるとともに、不要なコストの発生を抑え、将来的な収益性の向上につなげられるでしょう。
グレーゾーンの節税方法は避ける
2つ目はグレーゾーンの節税方法は避ける点です。合法・違法のどちらとも判断しにくい節税方法は、税務調査において指摘の対象となるリスクがあります。不正とみなされた場合、ペナルティや社会的信頼の低下を引き起こす可能性も少なくありません。
不明確な情報や方法は信用せず、法律で定められたルールを用いた節税を心がけましょう。なお、節税対策について合法・違法の判断がつかないときは、早期に税理士に相談することをおすすめします。
節税と脱税の違いを理解する
節税と脱税は言葉こそ似ていますが、内容は全く異なります。そのため、節税と脱税のそれぞれについてはきちんと把握しておきましょう。節税は、税法に遵守した上で税負担を軽減させるものです。一方、脱税は、不正行為によって税負担を軽減させるものを指します。実施した人に悪意がなくてもペナルティが科され、結果的に社会的信用を失墜させることになります。
税負担を軽減させつつ法律違反を犯さないためには、適切な節税対策が大切です。そのためには税務に関するルールを正確に把握し、自社状況に見合った方法で節税対策を講じる必要があります。
税務に関するルールは会計士や税理士等のプロに相談することで学べます。必要に応じて専門家に相談しリスク管理を徹底することで、経営の健全性を維持できるでしょう。
信頼できる会計士・税理士に相談する
中小企業の経営において適切な方法で節税効果を得るためには、会計士や税理士などのプロへの相談が大切です。税務のプロに相談することで、自社状況に応じた節税方法を聞けるからです。
節税について検討しても、経営者目線だけではどこから手を付けて良いか判断に迷うこともあるでしょう。そのようなときに専門家からのサポートを受けることで、税法に則った方法で節税につなげられます。
税制は年々変化している特徴から、最新の情報を入手するためにも専門的な知識が欠かせません。企業にとって有力な税理士がいることで、税務調査などの万が一のときも心強い助言を得られます。信頼できる専門家との関係構築は、長期的な経営の安定にも寄与するでしょう。
節税効果は税法の遵守が大切
中小企業にとって節税対策は、資金繰りや事業の持続的発展を図るために大切な施策と言えます。経営者の方は、本記事で紹介した税金について理解を深め、税法に則った方法で節税効果を高める姿勢が大切です。








