個人口座があるように、会社は銀行で法人口座を開設できます。事業資金とプライベート資金を明確に分けて管理するためにも、会社を設立した際には法人口座を開設するのが一般的です。ただし、法人口座の開設には審査があり、必ず通るとは限りません。事前に落ちやすいケースや審査に通りやすいポイントを把握しておくことで、スムーズな法人口座開設を目指せます。
目次
法人口座開設の審査が厳しい理由とは

法人口座開設には厳しい審査があります。そのため、法人口座の開設を断られる場合もあるのが現状です。なぜ、審査が厳しいのか、その理由を説明します。
法人口座の不正利用を防ぐため
法人口座開設の審査が厳しい理由の1つは、不正利用の防止です。
具体的な不正としては、マネーロンダリングを始め、フィッシング詐欺や振り込め詐欺、銀行口座の売買などが挙げられます。
マネーロンダリングとは資金洗浄の意味で、犯罪により集められた金銭を銀行口座に一旦預けることで、正当な資金のように見せかける手法です。
その際、実在しない会社の名義で法人口座を開設すれば、個人口座を利用するよりも、より金銭の出所や所有者が分かりづらくなります。
銀行口座の不正利用を防ぐためには、正当な目的があるか、申し込み者の身元が明確しているか、厳重なチェックが必要です。
このようなことから、法人口座開設の審査は厳格化されています。
会社に廃業のリスクがあるため
会社の廃業リスクも、法人口座開設の審査が厳格化されている理由の1つです。
資金的な体力に乏しく廃業の可能性がある会社や、売上が低迷し経営が安定していない会社は、将来的な事業の継続が不透明と判断される可能性があります。
そのため、銀行は慎重になり、法人口座開設を断るケースがあるのです。
仮に会社が廃業や倒産した際には、不要となった法人口座が犯罪に悪用されるかもしれません。
例えば、考えられるのは、実際には使用されていない口座が第三者に売買され、不正取引やマネーロンダリングに転用されることです。
そのような不正に口座が利用されるのを防ぐため、銀行は法人口座開設の際に条件や審査を設けています。
法人口座開設で審査落ちしやすいケース
法人口座開設で実際に審査落ちするのは、具体的にはどのようなケースでしょうか。審査に落ちやすいポイントを紹介します。
登記住所が事業実態と異なる
登記住所と現住所が不一致の場合、事業実態が異なっていると見なされ、法人口座開設の審査に落ちる可能性が高いです。
銀行によっては、事業実態を確認するため、実際に登記住所を訪問することがあります。
特に注意したいのが、起業や移転を進める過程で、バーチャルオフィスやレンタルオフィスを利用している場合です。
現住所が登記住所と異なる際は、法人口座の申込時、しっかりと銀行に説明しましょう。住所を確認できる書類を追加提出することで、審査を通る可能性を高められます。
事業目的や事業内容が不透明
会社の事業目的や事業内容が明確でなければ、法人口座開設の審査には落ちやすくなるでしょう。
法人口座開設の際には、事業計画書の提出や、事業目的・事業内容の説明が必要です。
その際、事業目的に具体性が欠け、事業内容も曖昧な場合、将来性のない会社と判断されたり、口座の不正利用を疑われたりする可能性があります。
事業計画書を作成する際は、審査の担当者にも伝わりやすい表現を心がけ、根拠のあるデータや実現可能なプランを提示することが大切です。
資本金が少額
資本金が少額であることも法人口座開設の審査ではデメリットです。
会社法により法人は資本金1円でも設立可能とされていますが、現実的な金額ではありません。
法人口座を開設する際も、資本金が低すぎる場合は、不正利用のためのペーパーカンパニーではないかという疑いを持たれるでしょう。
業種や法人の規模にもよりますが、会社を設立する際は、最低でも100万円程の資本金を確保しておくことをおすすめします。
事業実績がない
会社を設立したばかりで、まだ事業実績のない場合は、法人口座開設の審査が厳しくなる傾向があります。
特に、個人事業主を経ることなく、1から事業を行う際は、審査に落ちる可能性が高いでしょう。
事業実績が存在しないと、銀行からはその会社が架空のもので、口座は不正使用が目的であるという疑いを持たれることがあります。
実際に事業活動していることを示すために、取引先との契約書、請求書、領収書などの提示が有効です。
法人の実態が不確か
設立登記の手続きが済んでいない状態で口座開設を申し込んでも、法人の実態が不確かなため審査を通らない可能性があります。
その法人がペーパーカンパニーだった場合は、口座の不正利用につながりかねません。法人口座開設の手続きは、必ず設立登記の後に行いましょう。
また、設立登記を済ませていたとしても、その直後に口座開設の申し込みをした場合、データがまだ反映されていないことがあります。
設立登記の手続きと法人口座開設の申し込みを確実に行うためには、数日ほど間を開けるのが有効です。
代表者の経歴に問題がある
代表者の経歴に問題があると、法人口座開設の審査においては不利となるでしょう。口座開設を申し込むと、会社だけでなく、その代表についても審査されるためです。
その際、代表者に経歴詐称や不審点があった場合は、信用を得られないため審査を通過しない可能性が高まります。
例えば、代表者が過去に任意整理や自己破産を行っていた場合や、反社会勢力とのつながりを持っていた場合は、法人口座の開設は難しいです。
また、代表者の経歴が設立した会社の事業と無関係である場合、経験不足から来る将来性への不安から、法人口座開設を断られることがあります。
業種の許認可を取得していない
法人の業種によっては、必要な許認可を取得していないと、法人口座開設の際に銀行からペーパーカンパニーの疑いをかけられてしまいます。
まず各業種に必要な許認可を取得し、その後に法人口座開設を申し込むのが一般的です。
許認可が必要な業種は多数あり、主なものとしては美容業・旅行業・飲食業・酒類販売業・建設業・人材派遣業・運送業・不動産業などが挙げられます。
また、許認可を取得する際には、国や地方自治体など、業種ごとに申し込み先が異なる点にも注意が必要です。
法人口座開設の審査に通過しやすくなる方法

法人口座をスムーズに開設するためにも、事前に通過しやすいポイントを把握しておきましょう。次のような点に注意することで、審査通過の可能性が高まります。
必要書類の記入漏れやミスを防ぐ
法人口座開設の際に提出する必要書類はすべて確実にそろえ、記入漏れやミスのないよう、二重三重にチェックしましょう。
必要書類が不足していたり、内容に不備があると、銀行は正確な審査を行えず信頼度も高まりません。
例えば、法人口座開設の必要書類としては、次のようなものが挙げられます。
- 法人の印鑑登録証明書
- 履歴事項全部証明書
- 建物謄本もしくは賃貸借契約書
- 申込人の本人確認書類
- 主たる事業の許認可証
参考:【法人のお客さま】法人の口座開設に必要な書類は何がありますか? | よくあるご質問 : 三井住友銀行
上記の印鑑登録証明書や履歴事項全部証明書に発行期間が定められていたり、他にも事業計画書が必要であったりと、必要書類は銀行ごとに多少異なっています。
また、必要書類をすべてそろえ、正確に記入するためには時間がかかるため、法人口座開設は余裕を持って進めることが大切です。
金融機関ごとの審査基準を把握しておく
銀行によって必要書類に多少の違いがあるように、審査基準も金融機関ごとに異なります。
そのため、事前に金融機関ごとの審査基準を把握しておくことが大切ですが、銀行の多くはその内容を公開していません。
審査基準が公開されていない場合は、法人口座開設の申し込み条件を目安にしましょう。
各金融機関の条件を比較し、自社に合致している内容の銀行に口座開設を申し込むと、より審査に合格する可能性が高まります。
都市銀行・地方銀行・信用金庫・ネット銀行などの審査傾向については、この記事の下記にてより詳しく解説しているため、参考にしてみてください。
複数の金融機関に申し込む
法人口座を開設する際は、複数の金融機関に申し込みするのが有効です。
各金融機関ごとに審査基準が異なるため、A銀行で条件が合わなかったとしても、B銀行では口座を開設できる可能性があります。
また、会社を経営していく上で、法人口座は複数あったほうが便利です。法人口座を複数開設することで、資金管理や資金計画の質が向上します。
実際に多くの企業が、複数の法人口座を保有しており、入出金ごと、業種ごとなどの使い分けに活用中です。
事前に説明の用意をしておく
法人口座の申し込みをする前に、事業実態や開設の理由など、きちんと説明できるように準備をしておきましょう。
審査では、法人口座の申込人が、担当者から事業目的や事業内容の説明を求められます。
その際の説明が曖昧であったり、不明瞭で分かりづらかったりすると、銀行からの信用を得られません。
信頼を高めるためにも、法人口座開設のための説明は丁寧に、理解しやすい言葉で行う必要があります。
Webサイトを公開する
法人口座開設の審査を受ける前に、自社のWebサイトを作成・公開しましょう。
Webサイトの有無が審査基準に含まれていなくても、法人口座開設の申込書には会社ホームページの記入欄が用意されている場合もあります。
会社のWebサイトには、代表者名や所在地などの基本情報の他、事業内容・従業員数・資本金・取引先など記載されるのが一般的です。
上記の情報が掲載されていることで、銀行の担当者が法人の実態を確認しやすいのもWebサイトのメリットと言えます。
ただし、無料ブログサービスを利用した安上がりなWebサイトだったり、急ごしらえのような粗末な作りだったりした場合は、信用的に逆効果になるため注意しましょう。
会社のWebサイトを設置する際は、しっかりと予算をかけて、Webサイト制作会社に作成依頼するのがおすすめです。
税理士や知人・取引先に紹介してもらう
起業したばかりで、まだ事業実績に乏しい会社の場合は、なかなか法人口座開設の審査を通過できないこともあるでしょう。
その際は、税理士や知人・取引先から銀行を紹介してもらうという方法もあります。
すでに長期間にわたって、その銀行の法人口座を利用している知人や友人の紹介であれば、口座開設の担当者からの信用も得やすいです。
同様に、銀行と提携している税理士事務所からの紹介も、信頼を高められる可能性があります。
また、会社設立前に、個人事業主として特定の個人口座を長く利用していた場合、その内容が事業実態として認められれば、同じ銀行での法人口座開設に有利です。
法人口座開設における金融機関の審査傾向
金融機関の種類は、都市銀行・地方銀行・信用金庫・ネット銀行などに分類可能です。それぞれの金融機関ごとに、法人口座開設における審査傾向を紹介します。
都市銀行は開設審査が厳しい
すべての金融機関の中でも、都市銀行は法人口座開設において厳しい審査を設けています。
都市銀行は普通銀行やメガバンクとも呼ばれ、東京や大阪など主要な都市に本店を置き、全国に支店を構える大規模な銀行です。
都市銀行はマネーロンダリングや詐欺などによる口座の不正使用に対し厳格な対応をしており、他の銀行に比べて必要書類や提出資料の点数も多く要求されます。
審査は通りにくいものの、都市銀行は認知度が高くネームバリューもあるため、法人口座を開設できれば取引先からの信用を集めやすいです。
地方銀行は地域重視で審査にやや厳しい
地方銀行は本店を置く都道府県を中心に営業している銀行で、その性質から地域を重視した審査傾向が見られます。
法人口座開設における審査はやや厳しいですが、都市銀行ほどではありません。
また、特に同じ地域の中小企業や小規模事業者であれば、創業融資を受けやすい傾向があります。
信用金庫は地域事業の審査には柔軟に対応
地域事業を目的とした会社の法人口座開設ならば、信用金庫は審査にも柔軟に対応してくれます。
そもそも信用金庫は地域会員の出資による組織であり、地域経済の繁栄を図る目的で設置されている金融機関であるからです。
ただし、このような背景から信用金庫の営業地域は限定的であり、対象は特定地域の住民と小規模事業者・中小企業などに制限されています。
大企業や、営業地域の他の個人や法人には、融資が行われません。
信用金庫を通じて地域で集めた資金は、地域の中小企業・小規模事業者・個人に還元することが、地域社会に寄与すると考えられているためです。
ネット銀行は審査を比較的に通過しやすい
実店舗を持たずオンラインのみで利用されるネット銀行は、他の銀行と比べれば比較的に法人口座開設の審査を通過しやすいです。
店舗は存在しませんが、コンビニのATMや、提携している他銀行のATMを利用することで現金の入出金を行えます。
実店舗が存在しないこと以外のデメリットは、ネット銀行の法人口座はネームバリューが低く、取引先からの信用を得にくいことです。
また、銀行融資を利用できないこともデメリットに数えられます。
ネット銀行にはビジネスローンを利用できるところもありますが、銀行融資と比較すると金利が高く、融資額も低めです。
法人口座開設の審査が厳しくて落ちた場合

金融機関が提示している条件に合致しなかったり、事業実績が乏しかったりしたため、法人口座の開設ができない場合もあるでしょう。その際には、次のような方法で対処可能です。
一時的な個人口座の利用
法人口座開設の審査に落ちた場合は、一時的に代表者の個人口座を利用できます。
法人が個人口座を利用しても、法律上の問題はありません。個人口座を会社同士の取引に利用することも可能です。
また、法人口座を開設するため半月から1ヵ月はかかることから、会社を設立した直後は一時的に個人口座を利用するケースも多く見られます。
ただし、個人口座を利用すると事業とプライベートの資金の区別がつきづらくなるため、帳簿付けの際には注意しましょう。
金融機関によっては、個人口座の事業利用を規約で禁止している場合もあるため、申し込む前に確認が必要です。
税理士に相談し再申し込みする
法人口座を開設できなかった場合、税理士に相談することで、再申し込みの際に審査を通過しやすくなります。
税理士は、税務を中心に法人をサポートするなかで、豊富な知識と経験を培っており、法人口座開設についても的確なアドバイスが可能です。
特に、資金調達や融資に強い税理士であれば、金融機関とのつながりがあるため、法人口座の開設に適した銀行を紹介してもらえることがあります。
信頼できる税理士からの紹介であれば、銀行の審査もスムーズに進む可能性が高いです。
法人口座開設の審査を受けるならまず税理士に相談を!
法人口座開設の審査に落ちると、再申し込みに手間と時間がかかってしまい、取引にも影響を与える可能性があります。
確実に法人口座を開設するためにも、審査を受ける際には税理士にまず相談してみてはいかがでしょうか。
税理士に依頼すれば、法人口座開設の相談はもちろんのこと、会社設立から運営まで、税務を中心にさまざまなサポートが受けられます。
私たち小谷野税理士法人では、会社設立サポートを提供しており、法人口座開設の審査や税務についてももちろん相談可能です。
いつでもお気軽にお問合せください。







