近年、農協を介さず道の駅やネット通販で自主販売を行う農家が増えたことで、農家も税務調査の対象となるケースが増えました。過少申告や私的支出の経費計上など、不適切な申告が指摘されることもあり、正確な申告や帳簿管理、証拠書類の保管が必要です。そこで本記事では、農家が押さえておくべき税務調査のポイントや日頃からできる対策について分かりやすく解説します。
目次
農業分野での税務調査が増加している背景
農業分野で税務調査が増えているのは、農家や農業法人が自主的な販売ルートを通じて得た所得の把握が難しくなったためです。これまでは農協を通じて農産物を出荷していたため、確定申告時に農協のデータをもとに所得を把握できました。しかし、最近では道の駅やインターネット販売など、農協を介さない直接販売が増えています。
こうした販売では所得を申告しないケースや意図的に少なく見せるケースが出てくる恐れがあります。そして結果的に、税務署が農家や農業法人の所得を正確に把握するのが難しくなっているのです。
これまで比較的少なかった農業分野の税務調査も増加し、正しい納税がより一層求められる状況になっていると言えるでしょう。
農家が実際に受けた税務調査の事例
2014年に滋賀、京都、兵庫の3府県に所在する米農家100軒以上が、大阪国税局による一斉税務調査を受けました。所得税や消費税など、合計約9億6,000万円の申告漏れが指摘され、農家への集中的な調査は非常に異例のケースとなりました。
指摘内容としては以下の点がありました。
- 売上の過少申告:ネット通販や道の駅での米の販売収入が正しく計上されておらず、実際より少ない金額で申告していた
- 私的支出の事業経費計上:個人的な支出を農業経営上の経費として計上し、所得を低く見せていた。
従来は農協を通じた出荷が中心だったため、国税局は農家の所得を把握しやすい状況でした。しかし、通信販売や直売への切り替えにより、個別農家の所得把握が難しくなったことが、税務調査強化の要因となっています。
農家にとっては、補助金の見直しやTPPなど将来の不安も抱えつつ、売上拡大のための直接販売など経営努力を進めています。その際には、取引形態が変わることで税務上の扱いも変わる可能性があるため、適正な経理処理・申告・納税を徹底することが重要です。
農家が知っておくべき収入・経費の考え方

近年、農業経営の形態は多様化しており、収入や経費も複雑になっています。そのため、正確な申告や経営判断のためには、農業における収入と経費の考え方を理解する必要があります。
以下では、具体的な収入と経費の例を挙げながら、わかりやすく解説します。
区分 | 具体例 | 説明 |
収入 | 販売金額 | 米・野菜・果樹などの農産物をJA・市場・ネット通販・直接契約で販売した合計金額 |
事業消費・家事消費 | 自家消費や種子・種芋の保有、贈与など農業経営に関連する非販売分の価値 | |
雑収入 | 共済受取金、直接支払交付金、価格差補てん金、小作料、営農組合収入など、主たる販売以外の収入 | |
経費 | 種苗費・肥料費・農薬衛生費・作業用衣料費・諸材料費 | 農作業に必要な消耗品・道具の購入費用 |
農具費 | 10万円未満または使用可能期間1年未満の農具購入費(固定資産に該当しない) | |
雇人費 | 家族以外を雇った場合の給料 | |
小作料・賃借料 | 農地・建物・農機・施設の賃借料や利用料 | |
利子割引料 | 農業用資金の借入にかかる利子 | |
租税公課 | 固定資産税、水利費、農協賦課金、農機・軽自動車税、消費税、事業税など | |
減価償却費 | 果樹や農機具など資産計上分の当期償却額 | |
その他 | 農業共済掛金、土地改良費、荷造運賃手数料、農作業委託費用など |
農業経営における収入と経費は、販売収入だけでなく自家消費や補助金、さらには農具費や減価償却費など多岐にわたります。これらを正しく区分して申告することは、税務上の適正処理だけでなく、経営状況を正しく把握するためにも重要なポイントです。
農家の税務調査で指摘されやすいポイント
以下では、農家の税務調査で指摘されやすい2つのポイントについて解説します。
売上の計上漏れ
近年は道の駅やネット通販での直接販売が増えて所得の把握が難しくなったため、売上の計上もれが増加しています。以下では、その売り上げの計上漏れに該当する例をご紹介します。
- 道の駅での売上を実際より少なく申告
- インターネット通販収益の計上漏れ
- 虚偽の明細書による売上の過少申告
- 帳簿が不完全で正確な計算が反映されない
これらのケースは税務署がよく指摘するポイントのため、より一層正確な帳簿管理が必要となるでしょう。
外注費の不適切な操作
外注費を多く計上すると利益を減らせるため、節税目的で不正操作されるケースがあります。以下は、考えられる不正操作の一例です。
- 実際には存在しない外注費の計上
- 一時的に支払った後、個人口座に戻す操作
- 本来給与として扱うべき役員や従業員への支払いを外注費として計上
給与と外注費では税法上の扱いが異なり、消費税や源泉徴収の問題が生じます。税務署のチェックを受けやすいため、支払いの種類や帳簿の記録に注意が必要です。
税務調査が入らないようにするための対策

重要なのは、不正を疑われて繰り返し税務調査の対象にならないよう、日頃から正しく申告することです。ここでは、そのための申告ポイントと対処法を解説します。
申告内容を確認する
まずは申告書に漏れや誤りがないかどうか確認することが大切です。内容に相違があると、税務調査で指摘されるだけでなく、追徴課税の対象にもなります。
また前年と比べて売上や仕入、経費などが大きく変動している場合は正当な理由や関連資料を用意しておくと良いでしょう。
法改正を適用する
税制改正は毎年のように行われています。そのため、消費税率や法人税率の変更など会計ソフトやシステムが最新の法令に対応しているか確認する必要があります。
例えば2019年10月の消費税率引き上げと軽減税率の導入では、旧税率対応の会計ソフトでは適切な処理ができません。このように、法改正に応じたアップデートを忘れないようにしましょう。
証拠書類を保管する
申告内容が正しくても、税務調査で根拠が認められなければ否認される場合があります。財務諸表や総勘定元帳、仕訳帳、請求書、納品書、契約書、領収書など、法律で定められた帳簿・書類は必ず保管しましょう。
給与台帳やタイムカード、領収書のない香典については会葬礼状など、根拠となる資料もあわせて整理しておくのが望ましいです。
農家の税務調査における注意点

農家の税務調査で知っておくべき注意点を解説します。
JA以外の取引を確認する
JAとの取引だけであれば売上や経費の漏れは少ないですが、JA以外の取引がある場合は注意が必要です。例えば卸売市場や産直、スーパーへの販売がこの例に該当します。市場では売上精算書を基に集計できますが、産直やスーパーでは請求書や取引明細書を確認する必要があります。
特に、現金売上の場合は証拠書類が残らないことがあるため、領収書やメモで入出金を記録しておきましょう。また無人販売や個人客への販売でも同様に、記録を残す習慣をつけるのが望ましいです。
自動販売機・太陽光発電の収入を集計する
農地に設置した自動販売機の手数料収入や、ビニールハウス上の太陽光発電で得た余剰電力の売却収入も集計する必要があります。営農型の太陽光発電による収入は、農家に限らず指摘されやすいため、漏れのないよう正確に記録しておきましょう。
プライベート分の支出を区別する
経費の中に個人の支出が混ざっている場合も、税務調査で指摘されやすいポイントです。特にJA以外で現金購入したものや領収書のチェックが行われる可能性があります。経費とプライベート支出を明確に分け、帳簿に正確に反映させることが大切です。
まとめ
近年では税務調査の対象となる農家も増えており、経費などを正しく記録・申告することが、追徴課税やトラブルを防ぐ鍵となります。また、税制改正への対応や証拠書類の整理・保管も欠かせません。日頃から帳簿や領収書を整備し、取引や支出の根拠を明確にしておくことが重要です。
初めての税務調査や申告に不安がある場合は、税務調査対応の経験豊富な税理士に相談すれば、安心して適正な申告・納税ができます。
小谷野税理士法人では税務調査の対応経験が豊富な税理士が複数在籍しております。はじめての税務調査で不安なことがあれば「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。









