ある日突然、税務調査の職員が来たら誰でも動揺してしまうでしょう。特に事前連絡のないアポなし(無予告調査)は、経営者にとって負担となります。しかし、無予告調査の対象となる場合は理由があり、法律上のルールも存在します。よって、突然の訪問にも慌てず、落ち着いた対応が大切です。この記事では、無予告調査が行われるケースや、実際に調査官が来たときの対処法について解説します。ぜひ最後までお読みください。
目次
税務調査はアポなしで突然来ることもある!無予告調査とは
通常の税務調査は、事前に税務署から連絡があり、日程を調整したうえで行われます。しかし、予告なしで行われるアポなし調査(無予告調査)も存在し、突然の訪問で驚かされるケースも少なくありません。
まず、アポなしで訪問する理由を見て解説します。
税務調査の基本は事前に連絡がある任意調査
税務調査の大半は、納税者の協力を前提とした任意調査です。この場合、税務署は事前に対象者や顧問税理士に電話などで通知し、調査日時、調査場所、対象となる税目や期間を伝えます。
通常は調査日の1週間から10日前に連絡が入ることが多く、納税者側には帳簿や証憑を準備する時間が与えられます。また、税理士に立ち会いを依頼することも可能です。
証拠隠滅などを防ぐ目的でアポなし調査(無予告調査)が実施される
一方で、事前通知を行わずに、突然実施されるのが無予告調査です。無予告調査は、事前に通知すると証拠隠滅や帳簿の改ざんの恐れがあると税務署が判断した場合に行われます。
例えば、次のようなケースです。
- 売上を隠すために二重帳簿を作成している
- 架空の経費を計上している
- 現金取引が多く、記録に不自然な点がある
調査官が突然訪問するのは、事業の実態や帳簿をそのまま確認し、不正の証拠を押さえるためです。無予告調査が行われるときは、税務署がすでに不正の兆候をつかんでいる可能性が高いと考えられるでしょう。
アポなしの税務調査(無予告調査)の対象になりやすいケース
無予告調査はすべての事業者に行われるわけではなく、不正の可能性が高い業種や事業者が対象になります。ここでは対象になりやすいケースを見ていきましょう。
飲食店や美容室など現金での取引が多い業種
飲食店、美容室、小売店、整体院など現金取引を中心とする業種は、取引記録が残りにくいという特徴があります。つまり、銀行振込とは異なり履歴が追跡しづらいため、売上の計上漏れや過少申告などの不正が行われているかもしれません。
そのため、調査官は抜き打ちで店舗を訪れ、レジの現金残高や売上帳簿、客数などを確認し、申告内容と実際の営業実態に差がないかを調査します。
海外取引や電子商取引で不正が疑われる場合
インターネットを活用した電子商取引や海外事業者との取引が増加中です。こうした取引は国内の取引に比べて実態が把握しにくく、海外送金を利用した所得隠しなどの不正が見受けられることもあります。
そのため、脱税やネット取引での申告漏れに対応するため、税務当局は監視を強化しています。
特に以下のような事業形態は注意が必要です。
- 海外取引の比率が高い事業者
- 実店舗を持たないネットビジネス
- お金の流れが不透明になりがちな取引形態
こうした事業は不正が疑われやすく、無予告調査の対象となる可能性があります。
内部告発や第三者からの情報提供があった場合
無予告調査は内部告発や情報提供がきっかけとなることも少なくありません。元従業員、取引先、顧客など第三者からの通報を受け、税務署が動くケースです。
国税庁の公式サイトには匿名で利用できる情報提供窓口があります。内容に具体性や信憑性があれば税務署は内偵調査を進め、不正を裏付ける根拠が揃った段階で無予告調査を実施します。
突然アポなしで税務調査が!まずやるべき4つの初動対応

アポなしで税務調査官が訪れた場合、最初の対応が大切です。もし動揺して調査官の指示に従うと、不利な状況に陥るかもしれません。事業主には税務調査を受ける義務がありますが、同時に調査の進め方に対して正当な権利を主張することも認められています。
ここでは初動対応の基本を4つ押さえておきましょう。
調査官の身分証明書を提示してもらい本物か確認する
まず、訪問してきた人物が税務署の職員かどうかを確認してください。調査官には身分証明書の提示義務があり、証明書には顔写真、氏名、所属税務署が記載されています。もし、不審な点があれば所属税務署に電話して調べましょう。
近年は税務署員を名乗る詐欺も発生しているため、十分に確認することをおすすめします。
その場で調査を始めさせず、まずは顧問税理士へ連絡する
身分を確認した場合でも、すぐに調査を始める必要はありません。調査する前に顧問税理士に連絡を取り、状況を説明して指示を仰ぎましょう。
税理士に連絡する旨を伝えれば、ほとんどの場合は調査官も調査を待ってくれます。税務の専門家が同席することで、納税者の権利が守られ、調査も円滑に進むでしょう。
税務調査の目的や対象範囲を具体的に質問する
税理士を待つ間あるいは連絡がついた後に、調査官に以下の点を確認してください。
- 調査の目的
- 調査対象となる税目(法人税、消費税など)
- 調査対象期間(何年分を調べるのか)
納税者には調査内容の説明を求める権利があります。事前に全体像を把握しておくことで、不必要に調査範囲が広がることを防げます。
税理士が到着するまで安易に事務所や店舗へ入れない
調査官は事務所や店舗に入って調査を始めようとしますが、税理士が到着するまでは入れないようにしましょう。
事業主には調査を拒否する権利はありませんが、税理士の立ち会いを求める権利はあります。税理士の到着を伝え、入口や応接スペースで待ってもらうようにしてください。
落ち着いて交渉するためのアポなし税務調査への正しい対処法

アポなしの税務調査では、突然の訪問に動揺してしまいがちですが、冷静に対応することが大切です。調査官の要求すべてに従う義務はなく、納税者にも法律で認められた権利があります。
必要があれば調査日程の変更を申し出る
無予告調査であっても、正当な理由があれば調査日程の変更を申し出ることは可能です。
例えば、次のようなケースです。
- 経理担当者や会計責任者が不在
- 顧問税理士が不在
- 必要な帳簿や資料が手元にない
- 決算処理や申告準備の繁忙期
- 災害や事故などの突発的な事情
こうした理由であれば、代替日を提示しつつ再調整を依頼できます。日程変更を求めることは法律で認められており、違法行為にはなりません。ただし、正当な理由なく頑なに調査を拒否し続けると調査拒否と判断され、罰則の対象となる可能性があるため、常識的な範囲で交渉しましょう。
調査官からの質問には安易に即答しない
調査官から質問を受けた際に、その場で即答することはおすすめしません。あいまいな記憶や不確かな情報に基づいて回答すると、後に不利な証拠となるリスクがあります。
質問の意図を考え、もし分からない場合は、「確認して後日回答します」あるいは「税理士に相談してから回答します」と伝えましょう。即答を避けることで、事実関係を整理し、慎重に対応する時間を持てます。
不利な言質を取られないよう不要な雑談は避ける
調査官が場を和ませる目的で世間話を持ちかけてくることがあります。しかし、何気ない一言が調査のヒントとなり、不利な証拠として扱われるケースも少なくありません。
必要のない雑談はできるだけ避け、調査内容に限定して対応することを心がけましょう。
帳簿や資料の提出要求には慎重に応じる
調査官は質問検査権に基づき、帳簿や資料の提示を求めることができます。正当な理由なく拒否すると罰則の対象となりますが、要求されたものすべてを提出する必要はありません。
提出前に以下を確認することをおすすめします。
- その資料は調査対象の税目・期間に関連しているか
- プライベートな資料まで提出を求められていないか
- 提出する範囲が過去のどの期間まで求められているか
- 提出の記録(写しや控え)を自分でも保管しているか
帳簿や資料を求められる範囲が過度に広がらないよう、必要に応じて提出してください。
調査官とのやり取りは時系列で詳細に記録しておく
税務調査が始まったら、調査官とのやり取りを詳細に記録しておきましょう。
記録すべき内容は以下の通りです。
- 調査日時・場所
- 調査官の氏名
- 質問内容と回答の要旨
- 気になった調査官の発言
- 提出した資料の一覧
これらの記録は、後日言った・言わないのトラブルを防ぐ証拠となり、税理士が状況を把握し、的確な助言を行うために役立ちます。
アポなし税務調査に関するよくある疑問

最後に、無予告調査に関するよくある疑問を取り上げ、それぞれ法的な観点から解説します。
無予告調査そのものを拒否することはできる?
税務調査を拒否することはできません。国税通則法により、調査官には質問検査権が認められており、納税者は調査官に協力する義務があります。
正当な理由なく調査を拒否したり、質問に答えなかったり、虚偽の答弁をしたりした場合には、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。
ただし、調査の日程・調査場所の調整・調査の進め方については交渉ができ、調査内容に不当性を感じた場合は不服申立ても可能です。
自宅や個人口座も調べられるの?
場合によっては、自宅や経営者本人・家族の個人口座も調査対象になります。
調査対象になるケースは主に以下の通りです。
- 事業資金と個人資金の区分があいまいな場合
- 法人の経費に私的な支出が混在している疑いがある場合
- 売上金を個人口座に入金していると見られる場合
こうしたケースでは、個人口座の入出金や自宅に保管している帳簿・書類も確認されることがあります。
不必要に調査が広がらないよう、普段から事業用口座と個人口座を分けたり、領収書や帳簿を整理したりしておきましょう。
顧問税理士がいない場合はどうすればいい?
顧問税理士がいない状態で無予告調査を受けると、不利な状況に陥りやすくなります。
すぐに税務調査に対応してくれる税理士を探すことをおすすめします。
探し方は以下の通りです。
- 税務調査 緊急対応などのキーワードで検索
- スポット対応に強い税理士事務所に連絡
- 税理士紹介サービスを利用する
- 知人や取引先に紹介を依頼する
さらに、調査官には税理士に立ち会いを依頼する旨を伝え、日程の延期を求めましょう。
まとめ
アポなしの税務調査(無予告調査)は、主に現金取引の多い業種や、不正の疑いがある事業者を対象に、証拠隠滅を防ぐ目的で実施されます。
突然の訪問に驚くかもしれませんが、最初にやるべきことは以下の2つです。
- 調査官の身分証明書を確認する
- 顧問税理士へ連絡を入れる
また、その場で即座に調査に応じる必要はなく、税理士の立ち会いを求めて日程調整を交渉する権利があります。
調査中は安易に即答せず、不必要な雑談を避け、質問の意図を理解したうえで慎重に対応しましょう。これらの対応を知っておくだけで、無予告調査による不利益を最小限に抑えることができます。
万が一の際に備え、日頃から顧問税理士と連携し、万全の体制を整えておくことをおすすめします。









