「税務調査は3年ごとに来る」と耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。実際の調査は必ずしも3年ごとに行われるわけではなく、事業規模や申告内容、過去の経緯によって調査対象となる期間は変わってきます。本記事では、なぜ「3年ごと」と言われるのか、その背景とあわせて、事業者が押さえておきたい税務調査の仕組みや注意点をわかりやすく解説します。
目次
税務調査は「3年ごと」に来る?

「税務調査は3年ごとに来る」とよく言われますが、実際には必ず3年周期で行われるわけではありません。この表現は、税務署が実務上よく過去3年分の帳簿を確認することから広まった慣用的な言い回しにすぎません。
国税庁が公表している令和5年度の統計によると、事業者に対して実際に実地調査が行われた割合(実調率)は、法人で1.7%、個人で0.7%に留まっており、単純計算すると法人では約60年に1回、個人では約140年に1回に相当する頻度です。
税務調査の対象期間は何年分か?

税務調査では「何年分を調べられるのか」がよく疑問にされますが、対象期間の考え方は一律ではなく、申告の状況や内容によって異なります。法律の規定を踏まえて、その目安を確認しておきましょう。
3年が基本の対象期間
期限内に確定申告をしていれば、国税通則法第70条により税務署が税額を増やす方向で修正できるのは5年以内に限られています。しかし、過去3年分を対象とするケースが多く、「税務調査は3年ごと」と言われる根拠になっています。
ただし、これはあくまで目安であり、必ずしも3年で打ち切られるわけではありません。
5年まで遡る場合がある
同じく、国税通則法第70条で、税務署が申告内容を見直して更正・決定できるのは、申告期限から5年以内と定められています。
そのため、調査対象は3年にとどまらず、5年分まで遡るケースがあります。
特に、無申告や誤りが繰り返されている事業者の場合、5年間を調査対象とする場合が多いので注意しましょう。
不正がある場合は最大7年まで遡る
脱税や意図的な申告漏れなど不正行為が認められると、国税通則法第70条に基づき、税務調査の対象は7年まで広がります。
悪質と判断される場合は、追徴課税や延滞税が課される可能性があるので注意しましょう。
帳簿や書類の法律上の保存期間

税務調査では一定の期間まで遡る可能性がありますが、法律で定められた帳簿や証憑類の保存期間はそれとは別に定められています。法人か個人か、また申告の区分によって義務が異なるため、自身に当てはまる保存期間を理解しておきましょう。
法人は原則7年間
法人は、帳簿や決算関係書類、請求書や領収書を確定申告期限の翌日から7年間保存することが法律で義務付けられています。
税務調査では最大7年まで遡る可能性があるため、定められた保存期間を守っていれば必要な資料を提示でき、適切に対応できます。
青色申告の個人事業主は7年間(一部5年間)
青色申告の個人事業主は、帳簿や決算書類、現金預金関係書類などを原則7年間保存する必要があります。
ただし、前々年の事業所得が300万円以下の小規模事業者の現金預金関係書類や、請求書・納品書などのその他の書類は、保存期間は5年間となっています。
保存が必要なもの | 保存期間 | ||
帳簿 | 仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳、売掛帳、買掛帳、経費帳、固定資産台帳など | 7年 | |
書類 | 決算関係書類 | 損益計算書、貸借対照表、棚卸表など | 7年 |
現金預金取引等関係書類 | 領収証、小切手控、預金通帳、借用証など | 7年 (※) | |
その他の書類 | 取引に関して作成し、又は受領した上記以外の書類(請求書、見積書、契約書、納品書、送り状など) | 5年 | |
※前々年分の事業所得及び不動産所得の金額が300万円以下の方は、5年
白色申告の個人事業主は5~7年間
白色申告を選択している個人事業主も、帳簿や証憑類の保存義務があり、収入金額や必要経費を記録した法定帳簿は7年間、その他の帳簿や請求書・領収書などは5年間の保存が必要です。
保存が必要なもの | 保存期間 | ||
帳簿 | 収入金額や必要経費を記載した帳簿(法定帳簿) | 7年 | |
業務に関して作成した上記以外の帳簿(任意帳簿) | 5年 | ||
書類 | 決算に関して作成した棚卸表その他の書類 | 5年 | |
業務に関して作成し、又は受領した請求書、納品書、送り状、領収書などの書類 | |||
参考:No.2080 白色申告者の記帳・帳簿等保存制度|国税庁
税務調査に入られやすい事業者の特徴
税務調査はすべての事業者に一律で行われるわけではなく、税務署は限られた人員と時間の中で「リスクが高い」と判断した事業者を優先的に対象にしているため、調査に入られやすい事業者には一定の共通点があります。
税務調査に入られやすい事業者の代表的な特徴を確認しておきましょう。
無申告や売上の申告に不審がある
確定申告をしていない事業者や、売上を意図的に1,000万円弱に抑えて消費税の課税を免れようとしていると疑われる事業者は、税務調査の対象となりやすい傾向があります。
取引先の申告情報などから実際の売上が把握されるため、「申告しなければ分からない」という考えは通用せず、不自然な申告や無申告は優先的に確認されやすいです。
不正発見の割合が多い業界である
国税庁の公表資料では、建設業・不動産業・飲食業・小売業・バー・クラブなどの接客業が、不正や申告漏れの発見割合が高い業界として示されています。
これらの業界は統計上、他の業界に比べて調査で指摘を受ける割合が高く、税務署から重点的に確認されやすい傾向にあるため、同業界で事業を営む場合は、日常的な帳簿管理や証憑の整理を徹底しておく必要があります。
現金取引が多い事業形態
飲食店や小売業、美容室、建設業など、現金取引が日常的に行われる事業形態は、売上操作をしても証拠が残りにくいため、調査官から重点的に確認されやすくなります。
銀行振込やクレジット決済に比べて取引の透明性が低いため、不正が潜んでいないかを確かめる目的で税務調査の対象となる可能性が高くなります。
開業から3年以上の成長過程にある事業者
開業して間もない事業者よりも、事業開始から3年以上が経ち売上が伸びている事業者は調査対象となりやすい傾向にあります。
これは、経理処理の不備が生じやすいことに加え、消費税の課税対象となる時期を迎えるためです。成長過程にある事業者ほど、税務署としても申告内容を確認する重要性が高まります。
税務調査に入られにくい事業者の特徴
一方、リスクが低いと判断された事業者については、税務署が調査の優先度を下げる傾向があります。調査対象に選ばれにくい事業者に見られる共通点を確認しておきましょう。
売上高が低めで安定している
売上規模が大きすぎず、かつ毎年安定して推移している事業者は、申告内容に大きな誤差や不正の余地が少ないと判断されやすいです。
前回の税務調査で問題がなかった
過去に税務調査を受けた際、重大な指摘がなく適正な申告が行われていると評価された事業者は、「信頼できる納税者」とみなされます。その結果、次回以降の調査が先送りされやすく、調査頻度が低下する傾向があります。
業種や規模に対して適正な納税をしている
税務署は業種や規模ごとにおおまかな利益率や経費構造を把握しています。飲食業であれば原価率、IT業であれば人件費率などが目安です。
これらと照らして申告内容に不自然さがなければ、適正に申告していると判断され、調査対象に選ばれにくくなります。
現金取引が少ない
売上や取引の大半を銀行振込やクレジット決済で処理している事業者は、売上のごまかしや申告漏れが発生しにくいと考えられます。現金取引が少ないほど不正の余地も小さく、税務署にとって調査の優先度が低いため、結果的に調査対象となりにくくなります。
税務調査が入った場合の正しい対応方法
いくら注意して備えていても、税務調査が行われることはあります。そのような場合でも、落ち着いて正しく対応できるかどうかで、調査の進み方や負担は大きく変わります。
実際に税務調査を受ける際に気を付けるべき対応のポイントを解説します。
帳簿や証憑類は事前に整理・提出しやすい状態にしておく
事前に通知された調査対象年度の帳簿や証憑類は、調査官から提示を求められた際にすぐ出せるよう整理しておくことが重要です。
書類が揃っていれば調査がスムーズに進み、調査官からの信頼も得やすくなるため、仕訳帳や総勘定元帳に加え、領収書、請求書、契約書などを年度ごとにまとめ、取り出しやすい状態にしておきましょう。
準備不足で探し物に時間がかかると不信感を与えやすく、調査が長引く原因になります。
調査官への対応は誠実かつ正確に
調査官の質問には曖昧な態度や不用意な発言を避け、誠実で正確に答えるのが基本です。不明点があればその場で無理に答えず、「確認の上で回答します」と伝える方が適切です。
誠意を持った対応は、不要な疑念を招かず調査官の印象を良くしますが、誤魔化しや曖昧な説明は逆に調査を深掘りさせる原因になるため注意しましょう。
応接対応を丁寧に行い、聞かれていないことは話さない
調査官が訪問した際は、名刺交換を通じて氏名や所属を確認するなど、基本的な礼儀を守りましょう。応接の環境を整えるなど配慮を示すと調査もスムーズに進みます。
ただし、聞かれていない内容まで積極的に話すと、調査範囲を広げるリスクがあるため、回答は必要最小限にとどめ、余計な情報提供は控えるのが望ましい対応です。
税理士による支援を活用する
税理士に調査立ち会いを依頼すれば、書類準備から質疑応答、修正申告の対応まで幅広くサポートを受けられます。専門家が間に入ることで調査官とのやり取りが円滑になり、納税者の心理的な負担も軽減されるでしょう。
特に不安が大きい場合や論点が複雑な場合は、税理士の関与によって調査がスムーズになります。
調査官の指摘には根拠を確認して対応する
調査官から強い指摘や要求があった場合でも、必ずしもそのまま受け入れる必要はありません。対応が正当な手続きに基づいているかどうかを確認する姿勢が重要です。
不当な追徴課税や誤った判断を避けるためにも、疑問点があればその場で曖昧にせず、税理士と相談しながら対応することが望まれます。
必要な場合は調査の延期も検討
税務調査は、やむを得ない事情がある場合に限り延期が認められる場合があります。例えば、担当者の不在や急な体調不良など、合理的な理由を丁寧に説明できれば調整が可能です。
ただし、安易な延期要求は調査官からの不信を招く恐れがあるため注意しましょう。延期を希望する場合は、独断で動くのではなく、税理士を通じて正当な理由をもって慎重に依頼するのが望ましい対応です。
税務調査の対応に不安がある方は専門家へ相談
税務調査は「3年ごと」と言われることもありますが、実際には国税通則法に基づき最大7年間遡って調査される可能性があります。不正と判断されれば、多額の追徴課税や延滞税が課されるリスクも否定できません。
そのため、自己判断で対応するのではなく、経験豊富な専門家に相談することをおすすめします。特に税務調査に精通した税理士は、調査前の準備から当日の立ち会いまでをサポートし、リスクを最小限に抑えられるでしょう。
小谷野税理士法人では、数多くの税務調査対応実績をもとに、企業や個人事業主の状況に応じた最適なアドバイスを提供しています。税務調査への不安がある方は、ぜひ小谷野税理士法人にご相談ください。







