医師や医療法人が脱税を行った場合、一般事業者以上に厳しい処分を受けることがあります。医療法人の脱税は金銭的な負担だけでなく、医業停止や社会的信用の失墜につながるリスクもあるので要注意です。そこで本記事では税務調査に入りやすい医療法人の特徴や調査で指摘されやすいポイント、日頃からできる具体的な対策を解説します。適正な申告を行い脱税を予防するために、会計や税務担当者の方はぜひ参考にしてください。
目次
医療法人が脱税するとどうなる?

医師が脱税を行った場合、一般の事業者と比べても厳しい処分を受ける可能性が高いと言われています。実際、脱税には延滞税に加え一般的には35〜40%の重加算税が課されるとされています。場合によっては刑事罰まで科されるという重いペナルティが定められているので要注意です。
過去には医師が脱税を理由に2年以上の医業停止処分を受けたケースもあり、医療従事者としての社会的信用に大きな影響を与えました。このように、医師にとって脱税は金銭的な負担にとどまらず、資格やキャリアそのものを脅かす重大なリスクとなり得ます。そのため、日頃から適正な申告と納税を徹底することが何より大切です。
税務調査に入られる可能性が高い医療法人の特徴

調査対象となりやすい傾向を知っておくことで、事前にリスクを把握し適切な対策が取りやすくなるでしょう。そこで以下では、税務調査に入られる可能性が高い医療法人の特徴を解説します。
同規模法人と比べて際立つ特徴がある
医療法人に限らず、同規模・同業種と比べて「目立つ点」がある事業者は、税務調査の対象となる可能性が高まります。具体例としては、以下のようなケースが挙げられます。
- 利益率が極端に低い
- 特定の経費の支出が多い
- 費用の内訳や割合が一般的な傾向から外れている
こうした特徴があると、申告の正確性に疑問を持たれることがあるので注意しましょう。
業績が急激に拡大している
業績が大きく伸びる時期は、会計処理や税務対応に誤りが生じやすいタイミングです。そのため、税務署が注目する可能性が高くなります。
また、売上が増えているにもかかわらず利益額に変化がない場合があります。その結果、利益率が下がっていると「不自然な動き」と見なされやすいため注意が必要です。
大きな動きや特別な取引があった
医療機器などの高額取引、多額の還付金の発生といった取引は、特殊な会計処理を伴うためミスが生じやすいものです。こうしたケースは過少申告の原因になりやすく、調査対象となるリスクが高まります。
長期間にわたり調査を受けていない
税務調査には明確な周期はありませんが、長期間調査が行われていない法人は、対象となる可能性が相対的に高くなります。定期的な調査でチェックが入っていない分、リスクが高まると考えられます。
売上が課税ライン(1,000万円)付近にある
課税売上高が1,000万円を超えると、翌々事業年度から消費税の課税事業者となります。そのため、売上を1,000万円以下に抑えようとする法人もあります。
そのため課税売上高が1,000万円弱で推移している場合は「調整や隠ぺいが行われているのでは」と疑われやすいのです。
医療法人が税務調査でチェックされやすいポイント

医療法人特有の収入や取引は特に誤りが生じやすいため、重点的に確認されるケースが多いとされています。ここからは、医療法人が税務調査でチェックされやすい5つのポイントをまとめました。
クレジットカード払いの診療代金の計上日
医療法人によっては患者の利便性を考えてクレジットカード決済を導入しています。しかし、入金日はカード会社経由となるため、診療日ではなく入金日を売上計上日としているケースがあります。
本来、売上は「診療を行った日」に計上すべきであるため、税務調査では計上日の誤りが指摘されやすいポイントです。
自由診療収入の計上漏れ
保険診療は制度上、不正が起こりにくい仕組みになっています。一方、自由診療は患者から直接現金やカードで受け取るため、計上漏れや過少計上が起こりやすい傾向があります。自由診療の割合が多い医療法人では、特に厳しくチェックされる傾向です。
自賠責収入の計上時期と入金先
自賠責保険による診療費は保険会社への請求から入金までの期間が異なるため、診療日ではなく入金日に計上してしまう事例があります。しかし、収益は「治療終了時点」または「請求時点」で計上するのが原則です。
また、入金先口座を変更して収入を隠す不正もあるため、自賠責収入については計上時期・入金先ともに重点的に確認されます。
棚卸資産の計上の正確性
医薬品や医療材料など、多くの在庫を抱える医療法人では、仕入や棚卸の誤りが調査対象になりやすいです。特に、期末の棚卸資産額や期限切れ在庫の処理方法については、詳細にチェックされます。
プライベートな費用の経費計上
理事長などの個人的な支出を経費として計上するケースが考えられます。交際費や消耗品費に私的支出が含まれていないか、領収書や取引内容をもとに厳しく確認されます。
親族への人件費や役員報酬の妥当性
医療法人では、理事長の親族を役員に登用し、報酬を支払うケースがあります。ただし、実際に業務に従事していないにもかかわらず多額の役員報酬を支給している場合は、調査で指摘されます。
そのため、親族への人件費・役員報酬が「実態に見合った額」かどうかが入念に確認されます。
脱税防止!医療法人ができる税務対策
脱税を防いで税務調査が来ないようにするためには、日常的な取り組みから、調査時に有効な実践策まで押さえることが大切です。以下では脱税を防止して税務調査が来ないようにするために医療法人ができる税務対策を解説します。
日頃から正しい会計処理を行う
税務調査対策で最も重要なのは、日常的に正確な会計処理を行うことです。税務調査は「申告が適切に行われているか」を確認するために実施されます。もし申告内容に誤りがなければ、指摘を受けることはありません。
ただし「正しく処理したつもり」でも、実際には誤りがあるケースも考えられるでしょう。特に医療法人特有の取引ではミスが起こりやすいため、重点的に確認すべきポイントがあります。
以下に、税務調査で指摘を受けやすい部分を表にまとめました。
チェック項目 | 指摘されやすい内容 |
保険未収金 | 計上漏れや計上時期の誤りが多く、特に期末での漏れに注意 |
自由診療収入 | 現金授受が多く、計上漏れ・過少計上が発生しやすい |
窓口収入と給付金のバランス | 自己負担金と給付金の割合にズレがあると、抜き取り・隠ぺいが発覚することがある |
薬品材料仕入 | 架空・水増し・仮装計上など、不正が発生しやすく重点チェック対象となりやすい |
人件費・外注費 | 架空人件費や外注費の有無、外注費として処理すべきでない支出がないか確認される |
これらのポイントは、医療法人の会計処理において特に誤りや不正が生じやすい部分です。
日常的に意識して管理することで、税務調査での指摘リスクを大幅に減らせます。
「正しい会計処理」と「注意すべき重点ポイントの把握」こそが、安心して経営を続けるための最善の対策と言えるでしょう。
領収書をはじめ書類を適切に保管する
正しい会計処理をしていても、証拠となる書類がなければ経費と認められません。そのため、帳簿や領収書など関連書類は必ず保存しましょう。保存期間は原則7年ですが、欠損金がある年度は10年間の保存が必要です。
税務調査前に過少申告が発覚したらすぐ修正申告する
過少申告を放置すると加算税や追徴課税のリスクが高まりますが、事前通知前に修正申告すれば加算税はかかりません。また、通知後であっても調査前に申告すれば、調査後の修正より税率が5%低くなります。「調査で指摘されてから」ではなく、誤りに気づいた時点で速やかに修正しましょう。
まとめ
医療法人が脱税すると、一般の事業者と比べても厳しい処分を受ける可能性が高いです。調査で指摘を受けやすいのは自由診療収入や自賠責収入、薬品仕入や人件費など、金額が大きく不正や誤りが発生しやすい部分です。日常的に正しい会計処理を行い、帳簿や領収書など証拠資料をきちんと保管しておくことが最大の防御策と言えるでしょう。
また、誤りに気づいた場合は放置せず、早めに修正申告を行うことで追徴課税などのリスクを軽減できます。とはいえ、医療法人特有の取引や税務処理は複雑であり、自力で完全に対応するのは困難でしょう。
税務調査や申告の不安を抱えている場合は、経験豊富な税理士に相談することをおすすめします。小谷野税理士法人では、税務調査の対応経験が豊富な税理士が複数在籍しております。はじめての税務調査で不安なことがあれば「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。









