「個人事業主になりたい」と思っても、さまざまな事情でなれない人もいます。大きく分けると、そもそも法律や制度上の制約で「なれない人」と、資金や時間がないなど環境が問題で「なりにくい人」です。この記事では、個人事業主になれない代表的なケース11個と、それぞれのケースについて乗り越える方法を解説します。
目次
「個人事業主になれない人」は大きく分けて2種類いる

個人事業主として開業したい人の中には、「制度上不可能な人」と「制度的には可能でも現実的に難しい人」もいます。まずは自分がどちらかに当てはまっていないか確認してみましょう。
法律や規則で制度的になれない人
開業そのものを、法律や規則によって禁止されているケースがあります。例えば、公務員や、副業を禁止している会社の会社員などです。
また、開業自体は可能でも、契約行為が制限されているため本人の意思だけでは事業継続ができないケースもあります。例えば、未成年や成年被後見人などです。
該当する場合は、開業前に必ず制度や法律を確認しましょう。
制度的にはなれるが現実的に厳しい人
開業や、本人の意思のみによる契約行為が可能でも、事業として成立させるのが現実的に厳しいケースも存在します。例えば、やりたいことがない人や、資金・時間・スキルがない人などです。
該当する場合は、開業する際に自分の状態を見直し、必要に応じて専門家などに相談しましょう。
制度的に個人事業主になれないケースとその対処法

ここでは、制度的に開業できない5つのケースを解説します。
公務員・副業禁止の会社員→退職や転職を検討する
公務員や「副業を禁止している会社の会社員」は、原則として個人事業主として開業できません。そのため、開業したい場合は退職や転職を検討する必要があります。
公務員は、国家公務員法(第103条)や地方公務員法(第38条)で、開業を含む「営利活動」を禁止されています。本業に支障が出たり、利益優先による不公平が生じたりするリスクを防ぐためです。違反すると、懲戒処分に繋がります。
実際に2019年には、不動産賃貸業を無許可で営んだとして、仙台市の職員が懲戒処分を受けています。
ただし、人事院や所属自治体の許可があれば、家業の手伝いなど一部の副業は可能です。
参考:国家公務員法 | e-Gov 法令検索
参考:地方公務員法 | e-Gov 法令検索
参考:無断でアパート経営 仙台市職員を減給に|産経ニュース
一方、副業禁止の会社に勤めていると、「開業」も就業規則違反とみなされ懲戒処分の対象になり得ます。会社が副業を禁止する理由は、本業への支障や情報漏洩を防ぐためなど様々です。
しかし、実際は「副業の労働時間を通算して管理するのが面倒」という理由で雇用副業を禁止しているケースもあります。この場合、労働者として雇用されない「開業」ならば認められる可能性があります。
就業規則が単に「副業禁止」とだけ書かれている場合は、開業も含まれるのか会社に確認しましょう。
業種に必要な許認可を持っていない人→必要な許認可を取得する
一部の業種では、行政からの許可や免許を取ってからでないと開業できません。安全性の確保や消費者保護のために、規制されている業種があるためです。無許可営業は罰則の対象となります。
代表的な業種は以下の通りです。
- 中古品を扱うなら「古物商許可」
- 不動産取引をするなら「宅地建物取引業免許」
- 飲食店を開くなら「飲食店営業許可」
他にも、許可や免許が必要な業種があります。詳しくは下記の記事をご確認ください。
許可や免許が必要な場合、開業前に警察署・都道府県知事・保健所といった所轄官庁に申請します。開業予定の業種に必要な許認可があるか、事前に必ず確認しましょう。
また、前科や破産歴があると許可などが下りない場合もあります。欠格事由に当たらないかの確認も併せて行いましょう。
在留資格が「就労不可」の外国人→就労できる在留資格に変更する
外国人が日本で開業するためには、「経営・管理」などの就労できる在留資格が必要です。今の資格が「留学」「家族滞在」など就労不可の資格である場合は開業できません。事業に合った資格に変更してから開業しましょう。
在留資格とは、日本でできる活動を法律で制限するものです。就労不可にもかかわらず開業すると、在留資格の取り消しや退去強制に繋がるリスクがあります。
例えば外国人留学生が日本で開業したい場合、「留学」資格のままでは開業できません。出入国在留管理庁で「経営・管理」の在留資格に変更する手続きをし、認められれば開業できます。
ただし、「経営・管理」の在留資格に変更するには審査があります。例えば事業の実体があるか、資本金や従業員数が基準を満たしているかなどがチェックされます。日本人が日本で開業するよりも条件が厳しいので注意しましょう。
なお、「永住者」や「日本人の配偶者等」など、もともと就労制限のない在留資格であればそのまま開業できます。また、起業準備の段階では、自治体によっては「外国人起業活動促進事業(スタートアップビザ)」が利用できるケースもあります。
参考:在留資格一覧表 | 出入国在留管理庁
参考:外国人起業活動促進事業(スタートアップビザ)|経済産業省
親権者の同意がない未成年→親権者の同意を得る
未成年でも開業届は提出できますが、親権者の同意がなければ実際の事業運営はほぼ不可能です。なぜなら、事業で必要になる契約行為の多くは、親権者の同意や保証が求められるからです。
例えば、店舗や事務所の賃貸契約・クレジットカードの発行・融資契約などは一般的に未成年者単独では成立しません。また、親権者の同意なく契約した場合は、後から取り消される可能性もあります。
未成年が開業する場合は、まずは親権者の同意を得ましょう。
成年被後見人・被保佐人・被補助人である→解除を申立てる
成年後見制度の対象者は、契約行為に制限があります。そのままでは事業運営が難しいため、制限を解除してから開業する必要があります。
なぜなら成年後見制度の対象者が単独で契約行為を行うと、無効や取り消しになる可能性があるからです。
成年後見制度(法定後見)には3種類あり、それぞれ契約の可否が異なります。
対象者の状態 | 契約行為の制限 | 対応方法 | |
成年被後見人 | 判断能力がほとんどない(認知症・重度障害など) | 本人は原則不可(後見人がすべて代理) | 後見人が代理で開業し、実務上も後見人がすべて契約・手続きを代理する |
成年被保佐人 | 判断能力が著しく不十分(中度障害など) | 重要な契約は保佐人の同意が必要(借金や不動産売買など) | 同意を得れば開業可能だが制約が大きい |
成年被補助人 | 判断能力が不十分(軽度障害など | 同意が必要な範囲を裁判所が指定 | 同意があれば開業可能な場合がある |
制限を解除するには家庭裁判所に申立てを行い、医師の診断書などをもとに判断能力が回復したと認められる必要があります。
現実的に個人事業主になるのが厳しいケースとその対処法

ここでは、開業しても継続が難しい6つのケースを解説します。
やりたいことがない人→様々な分野を小さく試しながら方向性を固める
やりたい事業が決まっていないまま開業すると、失敗リスクが高まります。方向性が定まらないと資金や時間を浪費しやすいからです。
やりたいことが定まっていない場合は、副業やスモールビジネスから始め、収益化できる分野を探しましょう。例えばライティング・物販・デザインなど、少額で始められる分野で「お試し開業」を行うのがおすすめです。
実際にやってみて「楽しい」「得意」「続けられそう」と感じる分野を見極めましょう。また、「このジャンルなら案件が取れる」「売上が伸びそう」と判断できれば、その分野に注力するのも効果的です。
一方で、「なんでも屋」のまま長期で続けてしまうと単価が上がらず、疲弊しやすい傾向がありますのでご注意ください。まずは小さく試しながら方向性を固め、稼げる分野を特定してから本格的に事業化するのがおすすめです。
資金がほとんどない人→補助金や融資を活用する
資金が少なく事業の継続が難しい場合は、補助金や融資を活用しましょう。手元の資金が乏しいと仕入れや広告にお金を回せず、売上を伸ばすチャンスを逃してしまうからです。
例えば、日本政策金融公庫や自治体の制度融資を利用すれば、開業時でも資金を調達できます。また、補助金や助成金を活用できれば、返済不要の資金を得られます。ただし、いずれも返済計画や事業計画書の提出が必要です。
働ける時間が限られている人→単価が高いor納期が緩い仕事を選ぶ
子育てや介護などにより働ける時間が短い人は、単価の高い仕事や納期の緩い仕事を選びましょう。限られた時間を効率よく使えれば、収入と生活の両立を図れます。
短時間でも集中できる人や専門性が高いスキルがある人は、単価が高い仕事を選ぶのがおすすめです。限られた労働時間でも成果を出しやすいものだと、専門記事のライティング、プログラミングなどが挙げられます。
一方、突発的に時間が取れなくなる可能性がある人は、納期が緩い仕事を選ぶのがおすすめです。子育てや介護では予期せぬ予定変更がつきものですが、余裕のある納期なら柔軟に対応できます。例えば、ブログ運営やハンドメイド販売などです。
営業・集客スキルがない人→クラウドソーシングやSNSで案件を取る
営業や集客の経験がない人は、クラウドソーシングやSNSを活用して案件を取りましょう。営業活動ができないと顧客を獲得できず、せっかく開業しても収益につながらないからです。
例えば、クラウドソーシングでライティングやデザインなど小口案件を受ければ、営業不要で実績を積めます。また、SNSで自分の得意分野や活動を発信すれば、興味を持った人から依頼が入る可能性があります。
営業に自信がなくても、ネットを駆使すれば一歩ずつ挑戦できます。
信用情報がブラックの人→信用情報回復まで小規模事業から始める
信用情報がブラックの場合は、信用回復までは小規模で事業を行いましょう。信用情報ブラックとは、ローン延滞や自己破産などで信用情報機関に事故情報が登録されている状態を指します。
ブラック状態では新規の口座やカードの契約が難しく、融資も受けにくくなります。既存の個人口座や現金取引でできる範囲から事業を始め、信用情報が回復した後に拡大を検討しましょう。
信用回復まで5〜10年かかるケースが多いため、長い目で事業運営するのがおすすめです。
健康面の不安がある人→外注や仕組み化でリスクを減らす
病気や治療で思うように働けなくても、工夫すれば事業を続けられます。おすすめの方法は、外注や自動化ツールを利用して作業を効率化したり、収入源を分散したりするなどです。
例えば、物販なら発送作業を外注し、在庫管理や請求書は自動化ツールに任せれば負担を減らせます。また、ライティングやネット販売に加えて広告収入を持つなど複数の収入源を確保すれば、一つが止まっても他でカバーできます。
健康面で不安を抱えていても、働き方を工夫すれば続けられる道があります。無理せず、自分に合った形で事業を続けきましょう。
「なれない理由」を潰せば個人事業主になれる!まずは相談を
この記事では、個人事業主になれない人と、その人がなれるようにする対処法をお伝えしました。
個人事業をやってみたいけど不安がある方は、専門家に相談するのも一つの方法です。例えば税理士は、資金面の不安や、事業プランなどの相談に対応できます。一緒に「なれない理由」を潰しながら、第一歩を踏み出しましょう。











