白色申告でも基礎控除や配偶者控除など、さまざまな控除を利用して課税所得を減らすことができます。ただし、白色申告で認められる控除額には上限や制約があり、青色申告に比べると節税効果が小さいのが実情です。本記事では、白色申告で受けられる主な控除額と内容を整理するとともに、青色申告でしか使えない控除との違いもわかりやすく解説します。自分に合った申告方法を検討する参考にしてください。
目次
確定申告で利用できる控除や特例

確定申告では、所得に応じてさまざまな控除や特例を活用できます。申告の方法によって利用できる制度は異なり、負担の軽減度合いも変わってきます。
以下の表は、白色申告と青色申告で利用できる控除や特例を整理したものです。
控除・特例 | 白色申告 | 青色申告 |
基礎控除 | 〇 | |
事業専従者控除 | 〇 | ✕ |
青色事業専従者給与 | ✕ | 〇 |
青色申告特別控除 | ✕ | 〇 |
純損失の繰越控除・繰戻還付 | ✕ | 〇 |
少額減価償却資産の特例 | ✕ | 〇 |
配偶者控除 | 〇 | |
扶養控除 | 〇 | |
医療費控除 | 〇 | |
社会保険料控除 | 〇 | |
小規模企業共済等掛金控除 | 〇 | |
生命保険料控除 | 〇 | |
地震保険料控除 | 〇 | |
寄附金控除 | 〇 | |
白色申告で受けられる控除の種類と控除額

白色申告で利用できる控除の内容や控除額について解説します。
基礎控除
「基礎控除」は、多くの納税者に共通して適用され、「最低限の生活費には課税しない」という趣旨で設けられた最も基本的な所得控除です。
従来は一律48万円でしたが、令和7年(2025年)分からは税制改正により58万円に拡充され、さらに令和7・8年分に限っては、低~中所得者に特例が設けられ、最大95万円まで控除が受けられる場合があります。
所得が少ない人ほど控除額が大きくなる仕組みですが、令和9年(2027年)以降は一律58万円に戻ります。ただし、合計所得金額が2,500万円超の方は基礎控除額が0円になります。
合計所得金額 | 基礎控除額 | ||
令和7・8年分 | 令和9年分 | 改正前 | |
132万円以下 | 95万円 | 48万円 | |
132万円超~336万円以下 | 88万円 | 58万円 | |
336万円超~489万円以下 | 68万円 | ||
489万円超~655万円以下 | 63万円 | ||
655万円超~2,350万円以下 | 58万円 | ||
2,350万円超~2,400万円以下 | 48万円 | ||
2,400万円超~2,450万円以下 | 32万円 | ||
2,450万円超~2,500万円以下 | 16万円 | ||
2,500万円超 | 0円 | ||
参考:所得税の基礎控除の見直し等について(源泉所得税関係) | 国税庁
参考:令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について|国税庁
事業専従者控除
「事業専従者控除」は、白色申告特有の制度で、生計を一にする配偶者や親族が事業に専念して働いているときに利用できる控除です。
項目 | 内容 |
対象 | 生計を一にする配偶者・親族(15歳以上、6ヵ月超従事) |
控除額 | 以下のいずれか低い方が適用される
|
条件 | 確定申告書や収支内訳書に専従者の氏名や控除額を記載して所轄税務署に提出する |
対象は15歳以上で、その年のうち6ヵ月を超えて従事していることが条件です。控除額は、以下のいずれか低い方が適用されます。
- 配偶者86万円、その他の親族は一人につき50万円
- 事業所得÷(専従者数+1)
例えば、事業所得が150万円で、配偶者1人が専従者の場合、控除額は「配偶者控除額86万円」と「事業所得÷(専従者数+1)=75万円」を比較し、低い方の75万円となります。
- 配偶者控除額86万円
- 150万円 ÷(1+1)= 75万円
事前届出は不要ですが、確定申告書や収支内訳書に専従者の氏名と控除額を記載して提出する必要があります。適用をやめたい場合も、確定申告書で記載をしなければよいだけで追加の手続きは不要です。
参考:No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除|国税庁
各種所得控除
白色申告でも、基礎控除のほかに様々な所得控除が利用できます。
扶養家族の有無や支払った保険料、医療費、寄附など、納税者の事情に応じて適用することで、課税所得を減らし税負担を軽減できます。
以下は主な所得控除です。
控除の種類 | 目的 | 控除額 |
配偶者控除 | 所得の少ない配偶者を扶養している納税者の負担を軽減 | 最大38万円(配偶者の所得が58万円以下、本人の所得が900万円以下の場合) |
扶養控除 | 子どもや親など扶養親族がいる場合に生活費負担を軽減 |
|
社会保険料控除 | 健康保険・国民年金・厚生年金などの社会保険料の自己負担分を反映 | 支払った額の全額 |
医療費控除 | 高額な医療費負担を軽減 | 自己負担額 − (10万円または所得の5%のいずれか少ない金額)が控除対象、上限200万円 |
生命保険料控除 | 生命保険・介護医療保険・個人年金保険の掛金の負担軽減 | 最大12万円(一般・介護医療・個人年金の合算) |
地震保険料控除 | 地震保険料の支払に対する税制上の優遇措置 | 最大50,000円(旧長期損害保険契約は上限15,000円) |
小規模企業共済等掛金控除 | 自営業者や中小企業経営者の退職金準備などを支援 | 掛金全額(掛け金の上限月70,000円まで) |
寄附金控除 | 国・自治体・認定NPOなどへの寄附に対する税額軽減 | (寄附金合計 or 所得の40%の少ない方) − 2,000円 |
詳細は以下の関連記事をご確認ください。
参考:令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について|国税庁
参考:No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)|国税庁
参考:制度改正について|iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)【公式】
参考:No.1150 一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)|国税庁
青色申告だけ受けられる控除や特例の種類と控除額

青色申告には、白色申告にはない独自の税制優遇制度が設けられています。
ただし、これらの制度を利用するためには、事前に「青色申告承認申請書」を所轄税務署へ提出し、青色申告の承認を受ける必要があります。
提出期限は原則として青色申告を始めたい年の3月15日まで、その年の1月16日以後に新規開業の場合は開業日から2ヵ月以内と定められているので注意しましょう。
青色事業専従者給与
「青色事業専従者給与」は、青色申告者が生計を一にする配偶者や親族に支払った給与を必要経費として計上できる制度です。対象は15歳以上で、その年に6ヵ月を超えて事業に従事している人です。
白色申告の「事業専従者控除」では配偶者86万円、その他親族50万円といった上限がありますが、青色申告では実際に支払った給与額が妥当であればその全額を経費に算入できます。
参考:No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除|国税庁
青色申告特別控除
「青色申告特別控除」は、正しい帳簿付けと確定申告を行うことで適用される控除で、控除額は10万円・55万円・65万円の3段階に分かれています。
最も大きな65万円控除を受けるには、複式簿記による正確な記帳に加えて、e-Taxでの電子申告と貸借対照表・損益計算書の提出が必要です。55万円控除は同じ条件で紙申告も認められます。
10万円控除は単式簿記での記帳と損益計算書の提出のみで適用されるため、要件は比較的緩やかになっています。
純損失の繰越控除・繰戻還付
純損失の繰越控除・繰戻還付は、事業で赤字(純損失)が発生した場合に税負担を軽減できる制度です。
繰越控除は赤字を翌年以降3年間の黒字と相殺して税額を減らし、繰戻還付は前年も青色申告をしていた場合に赤字を前年に遡って適用して納めた税金の一部を還付してもらえる制度です。
詳しい条件については以下の関連記事をご確認ください。
少額減価償却資産の特例
少額減価償却資産の特例は、30万円未満の固定資産を購入した場合に、その取得価額を購入年に全額経費として計上できる制度です。
年間合計300万円までが対象で、通常の減価償却を待たずに即時費用化できるため、節税だけでなく資金繰りの改善にも有効でしょう。
対象資産にはパソコン、什器、事務機器、工具などが含まれ、設備投資が多い事業者にとって特に有利な制度になっています。
詳しい条件については以下の関連記事をご確認ください。
参考:No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例|国税庁
白色申告と青色申告はどんな人に向いているか
区分 | 向いている人の特徴 |
白色申告 |
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青色申告 |
|
白色申告は、副業や小規模事業で所得が少額の方、または申告作業をできるだけ簡単に済ませたい方に向いていると言えるでしょう。
利用できる控除は基礎控除や事業専従者控除など限られますが、帳簿付けがシンプルで始めやすいため、将来青色申告に移行する前段階としても有効です。
一方、青色申告は本格的に事業を続けていく方に向いていると言えるでしょう。青色申告特別控除や青色事業専従者給与、少額減価償却資産の特例などを利用できるため、節税効果を高められます。
特に家族に給与を支給する場合や設備投資が多い場合、さらには赤字の繰越制度を活用して経営の安定を図りたい方に有利です。
白色申告の控除を最大限活用するためのポイント
白色申告は青色申告ほど複雑な要件はありませんが、その分、自分で管理すべき部分をきちんと押さえておかないと控除を受け損ねるリスクがあります。白色申告の控除を最大限活用するために押さえておきたいポイントを紹介します。
収支内訳書を正確に作成する
収支内訳書は正確に記入しましょう。
売上や経費の記載漏れ、金額の重複、誤入力があると、本来受けられる控除が認められなかったり、余計な税負担の原因になります。
日々の取引をこまめに記録し、領収書や明細と照らし合わせながら正しく反映する必要があります。
証憑書類の保管を徹底する
証憑書類は確実に保管しましょう。
白色申告では収入金額や必要経費を記載した帳簿は7年間、棚卸表などの書類は5年間の保存が義務付けられています。
紛失すれば控除が認められず、余計な税負担や追徴課税に繋がる恐れがあります。仕分けやファイリングを徹底し、紙と電子データの両方で管理しておくと安心でしょう。
参考:No.2080 白色申告者の記帳・帳簿等保存制度|国税庁
会計ソフトを活用する
会計ソフトを積極的に活用しましょう。
仕訳の自動化や控除チェック機能で入力ミスや漏れを防ぎ、手書きや表計算よりも精度が高く必要書類も自動整備されるため、効率的かつ正確な申告が可能になります。
さらにe-Taxと連携すればデータ送信がスムーズになり、紙の提出を省略できるなど利便性も大幅に向上します。効率性と正確性を両立することで、結果的に税負担の軽減にも繋がるでしょう。
参考:e-Tax | 国税庁
白色申告の控除に不安がある方は専門家に相談
白色申告は比較的手軽に行えますが、控除の要件を誤って理解していたり、証明書類の不備があると、控除が認められず追徴課税や思わぬ税負担に繋がるため、自己判断だけで進めるのはリスクが伴うでしょう。
こうした不安を解消するには、税務の専門家に相談するのが有効です。
小谷野税理士法人は、個人事業主や副業を行う方の白色申告・青色申告を幅広くサポートしています。「どの控除が適用できるのか」、「控除額はいくらになるのか」といった疑問をお持ちの方は、ぜひ一度小谷野税理士法人にご相談ください。












