日本では居住者・非居住者によって、納税や確定申告の方法が異なります。この記事では、居住者・非居住者の定義や税務上の異なる取り扱いなどについて、詳しく解説します。海外在住にまつわる複雑な税制度を正しく把握し、税トラブルを未然に防ぎましょう。
目次
居住者と非居住者の違い

居住者と非居住者は、主に日本国内での住所や滞在期間によって定義され、税務上の取り扱いが異なります。この章では、居住者と非居住者の違いや具体的な税務上の違いなどについて、詳しく解説します。
日本における居住者の定義
日本における居住者の定義は、税務上の重要な概念で、納税義務の有無にも関係します。居住者の定義は、以下を参考にしてください。
- 居住者の基本条件
日本における居住者は、税務署が定めた基準に基づいて判断されます。具体的には、日本国内に住所を有する者や、その年の1月1日から12月31日までの間に日本に183日超滞在した者が該当します。
- 住所の定義
住所とは、個人の生活拠点を意味し、居住の事実がある場所を指します。定職や家庭を持ち、日常生活が営まれている場所が住所に該当します。
- 生活実態の判断
日本に滞在する外国人も含め、居住者として認定されるかどうかは、その人の生活実態によって判断されます。例えば、一定期間以上の在留資格を持つ者や、家族が日本に居住している場合、居住者とみなされるでしょう。
- 確定申告の義務
居住者として認定された場合、日本国内外で得たすべての所得が課税対象です。所得には給与や投資からの利益などが含まれ、国内外のすべての所得を申告する義務があります。
日本における非居住者の定義
日本における非居住者の定義については、以下を参考にしてください。
1.居住地に関する基準
非居住者は、日本国外に居住している者が該当します。具体的には、1年間のうち日本に居住している日数が183日未満である場合です。
2.外国生活の証明
非居住者と認定されるためには、日本国外に実際に住んでいる旨を示す証拠が必要です。証拠には、住居契約書や光熱費の請求書、現地の社会保障番号など、居住国での生活を示す具体的な書類が含まれます。
3.課税の適用範囲
非居住者の場合、日本国内源泉所得にのみ課税されます。具体的には、日本国内で得た給与や配当、不動産賃貸収入などが対象です。一方で、外国で得た所得については、日本では課税はされません。
4.納税義務の違い
非居住者は、居住者と異なり、所得税の確定申告義務が軽減される場合があります。居住者は日本国内外で得たすべての所得が課税対象ですが、非居住者は国内源泉所得のみ課税対象です。
5.適用される税率
非居住者には、日本の税法に基づく特定の税率が適用されます。例えば、配当所得は一律20.42%の源泉徴収税率です。このため、居住者よりも税務上優遇される場合があるでしょう。
参考:No.2884 非居住者等に対する源泉徴収・源泉徴収の税率
海外移住後の税金に関する仕組み
海外移住後は、日本国内外での所得に応じた課税制度や、移住先の税制への理解が必須です。この章では、居住者・非居住者の日本国内所得の扱いや、移住先での税制などについて、詳しく解説します。
国内源泉所得とその扱い
国内源泉所得とは、日本国内で発生したさまざまな所得です。具体的には、日本で得た給与や不動産収入、株式の配当などが含まれます。国内源泉所得は日本国内で発生しているため、日本の税法に基づいて課税されます。
たとえ海外に移住していても、国内源泉所得がある場合は、その所得に対して課税されるため注意してください。特に非居住者の場合、国内源泉所得の管理と申告を怠ると、追加徴税をはじめとしたトラブルが生じる可能性があります。国内源泉所得がある場合は、正確な確定申告を行いましょう。
海外在住者が日本で税金を支払うケース
たとえ海外在住者でも、国内源泉所得がある場合は日本での納税義務が生じます。日本の税制は頻繁に変更されるため、最新情報を常に確認しておきましょう。海外在住者が日本で税金を支払うケースは、主に以下が該当します。
日本国内に不動産を所有している場合
日本国内に不動産を所有している場合は、不動産所得が発生するため、日本の税法に基づいて納税が必要です。不動産所得は、賃貸収入から必要経費を差し引いた所得に対して課税されます。必ず確定申告を行いましょう。
日本国内での働きによる所得を得ている場合
例えば、日本の企業に在籍し、海外でリモートワークを行う場合、業務を通じて得た所得は日本で課税されます。給与所得については源泉徴収が行われるのが一般的ですが、確定申告を通じて過不足の調整を行いましょう。
配当に関する所得がある場合
海外在住で日本の株式から配当を受け取る場合も、日本の税金が適用されます。日本の企業からの配当は、一定の税率で源泉徴収が行われるのが一般的です。しかし、税条約がある国の場合は、軽減税率が適用されます。その場合、確定申告を通じて税金の還付を受けられるでしょう。
退職所得がある場合
非居住者に支払われた退職金にも、居住者であった期間に行った勤務の部分について源泉徴収されます。通常、退職所得は特別控除が適用され、税率も他の所得とは異なります。海外在住者で日本の企業から退職金を得た場合は、正確な手続きを行いましょう。
年金を受給している場合
海外在住者が日本の公的年金を受け取る場合、税金がかかります。公的年金も、税条約の適用により、適正な税率が考慮されます。確定申告を通じて、納税をきちんと行ってください。
海外赴任や移住前に行うべき手続き

海外赴任や移住を計画する際は、税務を含む各種手続きを事前に確認・準備しておきましょう。特に、納税管理人の選定は、海外生活後のトラブルを防ぐため必須です。この章では、海外赴任や移住前に行うべき手続きについて、詳しく解説します。
納税管理人について把握する
納税管理人とは、日本に居住していない個人や法人のために、日本での納税をスムーズに行う代表者を指します。海外居住者で日本の所得がある場合は納税義務が生じるため、納税管理人の選定が必要です。納税管理人を選定する際は、以下の点を考慮してください。
納税管理人が日本国内に住所を持っているか
1つ目は、納税管理人が日本国内に住所を持っているかどうかです。納税管理人が日本国内に住所を持っていれば、税務署との連絡がスムーズに行えるでしょう。また、必要書類の受け取りや納税手続きの代行もすぐに行えるため、重視すべきポイントです。
納税に関する知識と経験があるか
2つ目は、納税に関する知識と経験があるかどうかです。税金の申告や納付に関する手続きをきちんと理解している人材を選べば、税務上のトラブルを未然に防げるでしょう。納税管理人の候補者には、事前に税金にまつわるいくつかの質問を行い、相手の理解度をチェックするのをおすすめします。
信頼性が高いかどうか
3つ目は、信頼性が高いかどうかです。納税管理人は税務上の手続きを代行する重要な役割を担うため、信頼できる人物や法人を選びましょう。法人を選ぶ場合、過去の実績や専門資格を持つプロフェッショナルな組織を選んでください。
これら3つの条件を満たす納税管理人を選べば、海外生活後も日本での納税をスムーズに行えます。税務署とのやり取りに関する負担も軽減されるはずです。納税管理人の適切な選定は、海外在住において重要なポイントではないでしょうか。
住民税に関する注意点
住民税は、日本国内に居住している場合に課される地方税です。しかし、住民税は前年の所得に基づいて計算されるため、海外赴任や移住のタイミング次第では、納税義務が発生します。海外赴任や移住を計画している場合は、事前に住民税に関する申告や納付方法について確認しておきましょう。住民税の納付を怠ると、追加徴税をはじめとしたトラブルに繋がります。スムーズな海外居住や移住を実現するためにも、専門家への相談を含めた十分な準備を行ってください。
非居住者が行う確定申告の手続き
非居住者で国内源泉所得を得ている場合、確定申告が必要です。この章では、非居住者が行う確定申告の手続きについて、詳しく解説します。
1.国内源泉所得がある場合
日本国内での給与や事業収入、不動産所得などがある場合、所得金額に関わらず確定申告が必須です。例えば、日本の企業に勤めながら、海外でリモートワークを行っている場合も該当します。
2.特定の控除を受ける場合
非居住者で寄附金控除、住宅ローン控除など特定の控除を受けたい場合、確定申告を行えば控除を受けられます。確定申告の際は所得は不要で、控除対象となる支出があれば申告が可能です。
3.海外所得がある場合
海外で得た所得がある場合、たとえ所得が日本の税法上の非課税範囲内であっても、確定申告が必要です。具体的には、海外不動産の賃貸収入などが該当します。該当する所得を得ている方は、必要な情報を収集し、正確な確定申告を行ってください。
4.副収入がある場合
日本では、給与所得以外に所得(副業収入やフリーランス業務からの収入)の合計が20万円を超えた場合に確定申告が必要です。この規程は海外在住者にも適用されるため注意してください。
5.年金を受給している場合
日本国内で年金を受給している場合、受給金額が一定以上であれば確定申告が必要です。老齢年金や障害年金なども対象のため、必ず確定申告を行いましょう。
海外移住に伴う税金の注意点

海外移住を検討する際、税金に関する知識は重要です。移住先との税制の違いや課税のタイミングを把握しないと、予期せぬトラブルが発生する可能性があります。この章では、海外移住に伴う税金の注意点について、詳しく解説します。
課税に影響がある
移住のタイミングは、日本における税金の課税に影響を与えます。日本での所得に対する課税は、前年の所得に基づいて行われます。海外への移住時期を誤ると、予期せぬ課税が発生するでしょう。
特に、年の途中で海外へ移住する場合は注意が必要です。日本での住民税や所得税は、その年の所得に基づいて計算され、移住先でも同じ所得に対して課税される場合があります。その結果、二重課税のリスクが生じる可能性があるでしょう。
二重課税を防ぐ方法
二重課税は、同じ所得に対して日本と移住先の国の双方から税が課される状況を指します。二重課税を防ぐ有効な方法は、租税条約の活用です。租税条約とは、各国間で締結された取り決めで、日本は多くの国と条約を結んでいます。租税条約の活用で、特定の条件下で二重課税を回避できます。
二重課税をはじめとしたトラブルを避けるためには、移住前に課税ルールについて情報収集を行い、適切な移住計画を立てる必要があります。また、自分の居住地を正確に報告し、必要な手続きを怠らないのが、税務上のトラブルを回避する鍵ではないでしょうか。
参考:No.2888 租税条約に関する届出書の提出(源泉徴収関係)
海外在住者の納税まとめ
この記事では、居住者・非居住者の定義や国内源泉所得への課税、海外移住に伴う税金の取り扱いなどについてご紹介しました。非居住者は、海外移住のタイミングや税制の違いによって課税内容が変わるため、自分の状況をしっかりと把握するのが重要です。さらに、納税管理人の選定や住民税への対応、二重課税の防止策を講じれば、海外生活をより安心して過ごせるのではないでしょうか。税にまつわる複雑な手続きは、専門知識を持つ税理士に相談するのをおすすめします。ぜひ、小谷野税理士法人までお気軽にお問い合わせください。










