非上場株式を譲渡する際にかかる譲渡益には、税金がかかります。ただし、非上場株式の譲渡益の税金には、上場株式を譲渡した時の譲渡益とは異なる税金がかかってきます。また、個人での譲渡か、法人の譲渡かでも納める税金が異なるので注意しましょう。本記事では、上場株式との違いや非上場株式譲渡時の税率、税金の計算方法、申告時の注意点などを詳しく解説します。
非上場株式の譲渡に関連する税金について

個人が非上場株式を譲渡した際にかかる税金として、所得税と住民税の2種類があります。基本的な部分は上場株式と同じ取り扱いですが、細かい箇所が異なるのが特徴です。ここでは、非上場株式との違いや、譲渡益の計算方法について詳しく説明します。
非上場株式と上場株式の税務の違い
非上場株式の譲渡所得は「一般株式等に係る譲渡所得等の収入金額」に分類され、他の所得とは切り離して計算される「申告分離課税」です。そのため、他の所得とは損益通算ができません。
税金がかかる部分は、譲渡した金額から取得金額などを差し引いた部分です。ただし、非上場株式の税金の取り扱いが難しいのは、上場株式と異なり、非上場株式は市場での明確な取引価格が存在しない点です。
そのため、非上場株式は譲渡価額が適正かどうかの判断も難しく、税務上の取り扱いが複雑になるといった特徴があります。
万が一、取得金額が不明な場合は、収入金額の5%を「概算取得費」と見なして計算できます。納める税金額が増えることもあるので、費用管理を徹底する必要があります。
その他、非上場株式の税務上の特徴として、
- 法人が株式を譲渡する場合は法人税等(法人税、事業税、法人住民税)が発生する(税率は事業年度による)
- 個人から法人に譲渡する際に、譲渡金額に経済的合理性がない場合は課税リスクがある
- 発行会社に譲渡する場合は「みなし配当」の対象となり、資本の払い戻しに相当する部分の金額は譲渡所得(申告分離課税)、資本の払い戻し部分を超える部分の金額は配当所得(総合課税)となる
- 相続、遺贈による取得の場合は特例の対象となる
非上場株式は事業継承や相続などの事例も多いことから、税金面での取り扱いが非常に複雑です。
非上場株式の譲渡にかかる所得税と住民税
個人が非上場株式を譲渡して得た譲渡所得には、基本的に所得税と住民税が課税されます。個人の譲渡による税率は20%(所得税15%、住民税5%)に加え、復興特別所得税として所得税に2.1%が上乗せされた20.315%を乗じた額を納付します。
非上場株式の譲渡所得における決まりは、以下の通りです。
- 譲渡価額から必要経費を引いた金額が課税対象となる
- 必要経費には、取得費や譲渡に際して発生した手数料も含まれる
- 譲渡所得には申告分離課税が適用されるため、他の所得と分けて税金が計算される
- 申告分離課税なので、納税者は適正に申告する必要がある
- 非上場株式等の取得費が不明な際は「概算取得費」として収入金額の5%を取得費と見なして計算できる
課税対象となる計算は、上場株式の譲渡所得と同じです。ただし、差し引かれる取得費が明確にできない場合は、時価が不明なため収入金額の5%が「概算取得費」とみして計算できるなど、違いもありますのでご注意ください。
非上場株式の譲渡税率の計算概要
非上場株式の譲渡税率の計算は、譲渡価額から取得費および譲渡にかかった諸経費を差し引いた金額に、税率20.315%を適用します。計算式は以下の通りです。
- 譲渡所得=譲渡価額-(取得費+譲渡費用)
- 譲渡税額=譲渡所得×20.315%
例えば、非上場株式の譲渡で譲渡価額が500万円、必要経費が300万円の場合、譲渡所得は200万円です。
200万円に税率20.315%が適用されるため、合計40万6,300円の税負担が発生します。(所得税+復興特別所得税:30万6,300円、住民税:10万円)
非上場株式の場合、必ず正確な取得費や譲渡費用を明確にしておきましょう。非上場株式の場合は、上場株式とは異なり、市場価格が分かりにくいため、あとから取得金額などを把握するのは困難です。
これらの費用を適切に算出していなかった場合、実際よりも高額な税金を負担する可能性もありますので、ご注意ください。
非上場株式を譲渡する際に知っておくべきポイント
非上場株式の譲渡は上場株式とは異なり、法人譲渡や発行会社への譲渡、事業継承や相続などに関連することも多いです。そのため、税務上の処理も難しく複雑になることから、適切な手続きと管理が重要です。ここでは、非上場株式を譲渡するに当たって、あらかじめ知っておくべきポイントをご紹介します。
個人が非上場株式を売却する場合の税務上の注意点
個人が非上場株式の譲渡を個人または法人に譲渡する場合、譲渡所得に基づいた譲渡所得税が課されます。ここで注意する点は以下の5つです。
- 非上場株式は市場価格が分からないため、取得費と譲渡費用はあらかじめ把握・管理しておく必要がある
- 取得費が不明な場合には、譲渡価額の5%を「概算取得費」として計算できるが、必ずしも有利とは限らない
- 非上場株式の譲渡価格が不適正と判断された場合、贈与税が課されるリスクがある
- 発行法人に譲渡する場合は「みなし配当」に注意する
- 相続または遺贈により取得した非上場株式を3年以内に発行会社へ譲渡した場合は、「みなし配当」課税ではなく、非上場株式の譲渡所得の収入金額となる課税特例対象となる
このうち、3の「譲渡価格が不適正だと判断された場合の贈与税課税対象」となるリスクについては、判断が難しいため注意しましょう。市場価格はないものの、適正でない金額での譲渡を行ったと判断されると、譲渡税率(所得税と住民税)よりも税率の高い贈与税率に該当するかもしれません。
適正価格の算定方法はDFC方式や純資産方式、配当還元方式などいくつかあります。これについては税金に関する知識が必要となるため、取引前に必ず税理士に相談しましょう。
また、5における相続または遺贈の特例については、譲渡日前に特例に関する届出書を発行会社に提出するなどの事務手続きが必要です。こちらも非上場株式の譲渡価格の適正価格算出が必要となるため、あらかじめ税理士に相談しておくことをおすすめします。
参考:No.1477 相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合の課税の特例
非上場株式を譲渡した際の「みなし配当」とは
非上場株式の譲渡においては、「みなし配当」が問題となる場合があります。発行法人に非上場株式を譲渡する際、
- 譲渡の際に、資本の払い戻しが伴った場合
- 譲渡価格が時価を大きく下回る場合
このような場合は、譲渡に伴って額面を超過した部分が「配当」とみなされ、課税対象となる仕組みです。課税方式は以下のようになります。
- 資本の払い戻しに相当する部分の金額は譲渡所得(申告分離課税)
- 資本の払い戻し部分を超える部分の金額は配当所得とみなされて(みなし配当)総合課税
「みなし配当」は譲渡側の税金だけでなく、譲渡を受ける側の法人の株主に対しても、一定の影響を及ぼす可能性があります。そのため、非上場株式の譲渡価格設定の際には、時価評価を正確に行い、譲渡条件を事前に明確に取り決める必要があります。
個人にかかる非上場株式の譲渡所得における具体的な税率と計算例

個人が非上場株式を譲渡した際、譲渡所得がかかります。非上場株式の譲渡所得は、所得税15.315%と住民税5%、さらに復興特別所得税0.315%を含む20.315%の税率で課税されます。住民税の取り扱いは地方自治体によって若干の差異が生じるものの、一般的な税率は5%です。
例えば、譲渡所得が1,000万円の場合、住民税は5%の税率が適用されて50万円です。所得税は15.315%(復興特別所得税を含む)の税率に基づき153万1,500円となり、合計203万1,500円が合計税額として課税されます。
非上場株式の譲渡所得は、譲渡価額から必要経費を差し引くことで所得が算定され、申告分離課税として他の所得と分けて計算されます。そのため、他の所得や上場株式の譲渡益とは損益通算などができない点にご注意ください。
非上場株式を売却する法人が負担する法人税
法人が非上場株式を売却する場合、その譲渡所得に対して法人税が課税されます。法人税は法人の資本金の規模や、所得額などに応じて税率が変動します。
非上場株式の売却時に発生した必要経費がある場合は、経費となり節税効果があります。売却関連の取引記録は正確に管理し、適切な税務処理を行って節税に活用しましょう。
法人が非上場株式を売却する場合の税務処理
法人が非上場株式の譲渡を行う場合は、法人税等(法人税、法人住民税、事業税)が適用されます。非上場株式の売却に伴う譲渡所得は、譲渡取得費を差し引いた分が法人所得として計上され、所得に応じた法人税率に基づき課税されます。
ただし、個人に対して非上場株式を売却する場合、譲渡価格が不適正と判断されると寄付金とみなされる可能性があります。購入した個人は賞与とみなされるため、注意しましょう。
あらかじめ、譲渡取得費の管理や市場価格相当額を調査してから売却するなど、非上場株式の取り扱いには注意が必要です。
売却にかかる費用および税金の計算例
非上場株式の売却における譲渡所得税の課税対象金額は、譲渡取得費を差し引いた部分です。例えば、譲渡価額が5,000万円、取得費が3,000万円、譲渡にかかった費用が50万円とした場合、課税対象額は以下のように計算されます。
- 譲渡所得=譲渡価額ー(取得費+譲渡費用)
- 5,000万円ー(3,000万円+50万円)=1,950万円
この1,950万円が譲渡所得の課税対象となり、1,950万円に税率が適用されます。譲渡所得に課せられる税率は、20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)です。この税率を基に課税額を計算すると、1,950万円×20.315%=396万1,400円(百円未満を切り捨てた場合)です。
確定申告の際は、譲渡価格から差し引き可能な取得費や譲渡費用は必ず漏れなく計上しましょう。また、非上場株式の売却ケースは多種多様なため、場合によって税の取り扱いが変わります。具体的な計算や税務処理を行う際には、税理士などの専門家に相談しましょう。
著しく安価な取引による税務上のリスク
非上場株式の譲渡において、著しく安価な売却価格での取引を行うのは避けましょう。市場に出回る上場株式とは異なり、非上場株式には、公で公表される市場価格がありません。
そのため、売却価格の適正な評価額を設定しなかった場合、不適切な取引とみなされ、税務面でのリスクが発生します。譲渡した側と受けた側、互いにどのようなリスクがあるか確認しておきましょう。
個人間および法人間の取引で注意すべき点
非上場株式を譲渡する際、個人間や法人間の取引では特に注意が必要です。
- 税務署からの指摘を受けるリスクが高まる
- 譲渡を受けた側には贈与税が課される可能性がある
- 譲渡した側の所得税が、実際の取引価格ではなく時価によって算定される可能性がある
- 譲渡した側の所得税が、実際の取引価格ではなく時価によって算定される可能性がある
- 税金面での重大な申告を怠ったとして、双方の税金面の信用がなくなる
適切な価格設定を怠ると、結果的に追徴などによる税負担が増えるリスクやトラブルを招く恐れがあります。
個人間、法人間どちらの取引においても、譲渡にかかる税金が想定外に増えるケースがあることから、適正な取引価格をあらかじめ算出しておく必要があります。非上場株式の譲渡の際は、双方にとって安全な取引を行うために、税理士などの専門家の助言を受けましょう。
非上場株式を低額または無償で譲渡する場合
非上場株式の譲渡を低額または無償で行った場合には、税務上の問題が発生するリスクが高まります。具体的には、以下のようなリスクが起こる可能性があります。
- 譲渡を受けた者に対して贈与税が課される可能性がある
- 譲渡側においては、実際の売却価格ではなく、株式の時価に基づいて譲渡益が計算されるため、予想外の所得税負担が生じる可能性がある
このようなリスクを未然に防ぐためには、あらかじめ市場価格や適正な評価額を考慮した上で、適正な価格での取引をしましょう。このような税務トラブルを避けるためには、税理士などの専門家に事前に相談し、正確な評価手続きを行いましょう。非上場株式の譲渡に際しては、税務面も考慮した包括的な対策を講じてから取引を行うことが大切です。
非上場株式の譲渡と確定申告の手続き

非上場株式の譲渡時には、譲渡所得にかかる税額を適切に計算し、確定申告を行わなくてはなりません。本項では、譲渡所得の計算方法や必要経費の具体的な内容、確定申告の手続きに関する詳細について解説します。
確定申告の必要書類
非上場株式の譲渡益についての確定申告を行う際には、以下の必要書類を事前に準備しましょう。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 譲渡所得関連書類 |
|
| 取得費関連書類 |
|
| その他補足資料 |
|
上記の書類は確定申告が始まる前に整理・用意し、記入漏れや誤りなく提出する必要があります。正確な申告を行うためにも、必要な情報や記録をまとめて保管しておくと安心です。確定申告に間に合うよう、2月の上旬には書類を集めておくと、ゆとりをもって確定申告できます。
非上場株式の損益と上場株式の損益通算の可否
平成28年1月1日より、非上場株式の譲渡益や損失は、上場株式の譲渡益とは損益通算できないため、ご注意ください。非上場株式の譲渡益などは「一般株式等の譲渡所得等」に区分されることから、「上場株式等の譲渡所得等」とは別に取り扱われます。
そのため、非上場株式の譲渡に関わる損益と上場株式の損益は、それぞれ別にして計算しなくてはなりません。ただし、
- 特定公社債等以外の一般公社債等に係る利子所得及び譲渡所得
- 他の非上場株式等の譲渡所得
などは損益通算できます。そのため、確定申告が行われる2月頃には必ずすべての所得をとりまとめた書類を用意した上で、確定申告することをおすすめします。
非上場株式譲渡時の税務対応を知っておこう
非上場株式の譲渡では、譲渡所得の計算や市場価格が定まっていない点など、上場株式とは異なる点が多く、税務対応が複雑です。一方で、取得費や譲渡費用を適切に計上することで節税効果を得られることから、事前の取得費などの管理をするのがおすすめです。ただし、不適切な価格設定や書類の手続きに不足があった場合は、税金トラブルに繋がる恐れもあります。そのため、非上場株式の譲渡については、税理士に適正価格を算出してもらうなどの事前準備をしましょう。非上場株式の税務に関する不明点や不安がある場合は、税務の専門家である税理士に相談し、専門的なサポートを受けましょう。








