60歳以上の労働者が安全に働き続けられる職場環境を整えるために設けられた「エイジフレンドリー補助金」は、中小企業にとって非常に有用な支援制度です。しかし、制度の内容や申請手続きに関する情報が分かりづらく、申請をためらう事業者も見受けられます。本記事では、制度の概要と各コースの特徴や補助対象となる取り組み、申請の流れ、注意点を整理し、活用の第一歩を踏み出せるように解説していきます。
目次
エイジフレンドリー補助金とは

エイジフレンドリー補助金は、60歳以上の高年齢労働者が安全・安心に働ける職場環境を整備するために、厚生労働省が中小企業向けに実施している支援制度です。
労働災害の予防、身体的負担の軽減、健康保持・増進、さらには熱中症予防を含めた多面的な対策が補助対象となっており、取り組み内容に応じて4つのコースが用意されています。
コース名 | 対象事業者 | 主な取組内容 | 補助率 | 上限額 | 主な対象経費 |
総合対策コース |
| 専門家によるリスク評価+設備改善 | 4/5 | 100万円 | 設備費、工事費、専門家謝金など |
職場環境改善コース | 転倒・腰痛・熱中症予防を目的とした作業環境の整備 | 1/2 | 100万円 | 床材、手すり、作業台、照明など | |
転倒防止・腰痛予防のための運動指導コース |
| 理学療法士等による運動指導 | 3/4 | 100万円 | 指導料、備品、会場費など |
コラボヘルスコース | 健康管理支援、スコアリング活用 | 3/4 | 30万円 | 健康指導料、分析委託費、教材費など |
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総合対策コース
総合的に職場の安全性を高めたい事業者向けのコースです。
専門家が現場を訪問し、転倒や腰痛、暑熱環境などのリスクを評価(リスクアセスメント)し、その評価に基づいて、アシストスーツの導入、換気設備の整備、滑り止め床材の施工、作業スペースの見直しなど、現場に応じた具体的な安全対策を実施できるものです。
補助率は4/5、上限額は100万円と、4つのコースの中でも最も包括的かつ補助条件が優遇された制度です。
職場環境改善コース
職場環境改善コースは、転倒・腰痛・熱中症といった高年齢労働者の健康リスクを軽減するため、作業環境の整備に対して補助が受けられる制度です。
滑り止め床材の設置、段差の解消、手すりの取り付けなどの安全対策に加え、冷風機や遮熱テント、換気装置といった熱中症予防の設備導入も対象となります。
補助率は1/2、上限額は100万円で、比較的導入コストの高い設備も支援を受けながら整備しやすい内容となっています。
転倒防止・腰痛予防のための運動指導コース
このコースでは、理学療法士や健康運動指導士などの専門家が職場を訪問し、労働者に対してストレッチや筋力トレーニングなどの運動指導を行います。
腰痛や転倒の予防を目的とした内容で、体力に合わせて無理なく取り組めるプログラムが特徴でしょう。
補助対象には、専門家の指導料のほか、マットなどの備品費や会場費も含まれます。日常業務に支障なく導入でき、従業員の健康意識や身体機能の維持にも繋がります。
コラボヘルスコース
コラボヘルスコースは、健康診断やストレスチェックの結果をもとに、産業医や保健師と連携しながら職場全体で健康保持・増進に取り組む制度です。
生活習慣病予防を目的とした保健指導やセミナーの開催、健康教材の配布、継続的なフォロー体制の構築などが補助対象となります。
補助率は3/4、上限額は30万円と小規模ながら、初めて健康施策を導入する中小企業や従業員数の少ない事業所にとって活用しやすい内容です。
エイジフレンドリー補助金の活用が想定される例
エイジフレンドリー補助金は、高年齢労働者の安全と健康を守るため、さまざまな業種で柔軟に活用できる制度です。以下のような場面での活用が想定されるでしょう。
製造業での例
重量物を扱う現場では、アシストスーツや昇降装置の導入により、腰や膝への負担を軽減できるでしょう。
高年齢作業者でも無理なく作業を続けられる環境が整い、労災リスクの低減や定着率の向上にも繋がると考えられます。
小売業での活用例
店舗内での転倒防止対策として、滑り止めマットや手すりの設置などが有効でしょう。高年齢従業員が安心して接客や品出しを行えるよう、売場やバックヤードの安全性を高める取り組みに補助金が役立つと考えられます。
介護業での活用例
移乗介助や入浴介助の際に使用する福祉用具や昇降機器などの導入により、職員の身体的負担が軽減できるでしょう。腰痛による離職の防止や、働きやすい職場環境の実現に補助金が貢献すると考えられます。
建設業での活用例
高所や不安定な場所での作業において、可動式の作業台や滑り止め施工の導入は、安全性の向上に寄与するでしょう。
高年齢作業員が安心して現場に立てるよう、職場環境の改善に補助金を活用できると考えられます。
倉庫業での活用例
重量物の搬送や仕分け作業が多い倉庫業では、電動搬送機器やリフトの導入により、作業負担を軽減できるでしょう。
体力面に不安のある高年齢労働者でも、事故リスクを抑えながら作業に従事しやすくなると考えられます。
2025年(令和7年)のスケジュールと申請方法

エイジフレンドリー補助金の活用を検討している場合、スケジュールの把握と早めの準備が重要です。提出方法や申請手続きの流れも確認しておきましょう。
申請受付期間
申請受付は、2025年(令和7年)5月15日(木)〜10月31日(金)までです。提出は郵送または持参で、締切日必着が条件となるので注意しましょう。
不備があると受理されないため、書類の作成には十分な余裕を持つことが大切です。また、交付決定通知を受けた後でなければ取組を開始できません。
遅くとも9月中には申請準備を終えておくと安心でしょう。
申請の流れ
補助金申請は、以下のような流れで進められます。
ステップ | 説明 |
必要書類の準備 | 計画書、見積書、労働者名簿、保険関係書類などを用意する |
申請書類の提出 | 所轄の地方労働局に郵送または持参で提出する |
審査・交付決定 | 内容審査を経て、補助対象として採択されると通知が届く |
対策の実施 | 機器購入・工事・指導など、申請内容に基づき事業を行う |
実績報告書の提出 | 実施内容・支出明細などをまとめた報告書を提出する |
補助金の請求・受領 | 支払請求書を提出し、後日補助金が指定口座に振り込まれる |
申請は、地方労働局に書類を提出することで始まります。
交付決定通知を受け取った後でなければ、機器の購入や工事などの取組を始めることはできません。完了後は、実施内容をまとめた報告書と補助金の請求書を提出する必要があります。
交付決定前の着手は補助対象外となるため、計画的なスケジュール管理を行いましょう。また、事業内容によっては見積書や図面などの追加資料が求められることもあるため、提出前に十分な確認が重要です。
エイジフレンドリー補助金を活用する際の4つの注意点

補助金を確実に受け取るには、制度上のルールを正しく理解し、申請から受給までの流れを計画的に進めることが大切です。特に見落としやすい以下5つのポイントに注意しましょう。
- 交付決定前の着手は対象外
- 年度内は1回限り
- 見積書・証拠書類の整備
- 書類不備・期限遅れ
交付決定前の着手は対象外
交付決定通知を受ける前に取り組んだ内容は補助対象になりません。制度上、補助対象となるのは「交付決定後に実施した内容」に限られるためです。
仮に内容が適正であっても、着手時期が早いだけで補助対象外になるリスクがあります。申請から決定までに時間がかかることを見越して、早めの準備とスケジュール管理を行いましょう。
年度内は1回限り
同一年度に申請できるのは1回のみです。複数コースを段階的に活用することはできず、1年度1申請というルールがあるため、申請前に事業内容や必要な設備などを十分に検討し、最適なコースと内容を選定しておく必要があります。
後からの追加申請ができない点に注意しましょう。
見積書・証拠書類の整備
申請に必要な見積や証拠資料は厳密に整えておく必要があります。審査では、複数の見積取得や選定理由の明記、導入機器や工事内容の妥当性などがチェックされます。
また、実績報告では証拠写真や支出明細などの提出も必要です。不備があると交付が取り消される恐れもあるため、事務処理にも十分注意しましょう。
書類不備・期限遅れ
書類の不備や提出遅れは、補助不支給のリスクとなります。申請書類に記載漏れや添付漏れがある場合、審査に進めず不採択となる可能性があるでしょう。
実績報告や補助金請求でも同様で、締切を過ぎれば支給されません。ミスや遅延を防ぐには、全体スケジュールを把握したうえで、余裕を持って準備を進めることが重要です。
エイジフレンドリー補助金の活用に悩んでいる事業者様は専門家へ相談を
エイジフレンドリー補助金は、高年齢労働者の安全確保や健康増進を支援する有用な制度ですが、申請の際には対象経費の判断や書類作成、交付決定前後のスケジュール管理など、専門的な対応が求められる場面が多くあります。
制度の内容を正しく理解せずに進めてしまうと、補助対象から外れるリスクもあるため注意が必要です。確実に補助金を活用したい場合は、実績ある専門家に相談しましょう。
小谷野税理士法人は、補助金や助成金制度に関する豊富な知識と経験をもとに、申請から受給まで丁寧にサポートしています。申請を検討されている事業者様は、ぜひ一度ご相談ください。





