社会福祉法人の監事は、法人運営の透明性を確保し、不適切な事案を未然に防ぐ役割を担います。税務や会計の専門知識を持つ顧問税理士は監事としても有用ですが、同時に中立で公平な立場を保つことが必要です。記帳代行や会計書類の作成を受託している場合は自己監査となり認められません。本記事では、顧問税理士が監事を兼任できる条件や選任手続き、報酬の相場、契約時の注意点までわかりやすく解説します。
目次
社会福祉法人の監事とは
社会福祉法人における監事は、適正な運営を維持するために欠かせません。職務内容や責任は法令で定められており、法人内の監査機能を担い、運営の透明性を確保するとともに、不適切な事案の発生を防ぐ役割を果たします。
ここでは監事の役割や選任要件を見ていきましょう。
監事の役割と責任
監事は理事の職務執行や法人の業務・財産の状況を監査し、その結果を監査報告としてまとめます。また、理事による不正行為や法令・定款違反の有無を確認し、必要があれば理事会や評議員会で報告を行います。
監事は理事や職員に対して事業報告を求めたり、業務や財産に関する状況を調査したりする権限も与えられており、責任は重大です。善管注意義務(善良な管理者としての注意義務)も課されており、監事の任務を怠った結果、法人や第三者に損害が生じた場合には、損害賠償責任を負う可能性があります。
以上の理由から、監事は書類の確認にとどまらず、法人の内部管理体制が機能しているか、不適正な事案がないかといった点まで確認しなければなりません。そのため、監事には法人経営を客観的な視点で支える重要な役割が期待されています。
監事の人数と選任要件
社会福祉法人では、監事を2名以上設置することが義務付けられています。そのうち1名は社会福祉事業に関する識見を、もう1名は財務管理に関する識見を有していることが必要です。
法人の業務執行から独立した立場で監査機能を果たすため、監事は理事や法人の職員を兼務することはできません。また、監事の独立性を確保する観点から、記帳代行や税務代理などの実務を法人から直接受託している者が監事に就任することは、自己監査に該当する恐れがあります。
なお、監事は理事会で選任案を決定した後、在任する監事の過半数の同意を得て、最終的には評議員会の議決によって正式に選任されます。
関連記事:顧問税理士の必要性は?いない場合のメリット・デメリットを解説
顧問税理士が社会福祉法人の監事を兼任できる?
社会福祉法人において、顧問税理士が監事を兼任できるかどうかは、職務の独立性が確保されているかが大切な判断基準です。
税理士は会計や税務の専門家であり、監事に就任すれば、その知見を監査業務に活かせるというメリットがあります。しかし同時に、顧問契約に基づいて法人の日常業務に深く関与している場合、利益相反や自己監査のリスクが生じます。
特に問題となるのが、顧問税理士が記帳代行や帳簿作成といった実務を日常的に担っているケースです。このような状況で監事を務めると、自ら作成した会計書類を自ら監査する形になり、監査の客観性・適正性が損なわれる恐れがあります。
社会福祉法人は公益性の高さから、組織運営の透明性と公正性が強く求められます。したがって、監事には客観的な視点・独立性が必須であり、自己監査に該当するような業務との兼任は避けた方が良いでしょう。
実務上は、税務や法務に関する助言に限定され、会計実務に関与しない場合には兼任が認められるケースもあります。しかし各法人においては、その範囲や契約内容を十分に精査し、慎重に判断しなければなりません。
なお、公認会計士による外部監査においても、税務顧問との兼任が禁止されることがあります。このように監査業務における独立性の確保は、法人のガバナンス上において重要な原則と言えるでしょう。
関連記事:顧問税理士とは?業務内容や費用相場、良い税理士の見極めポイントを解説
顧問税理士が社会福祉法人の監事を兼任できるケース・できないケース

社会福祉法人の監事には、法人運営を客観的に監視する役割が求められるため、独立性の確保が求められます。
よって顧問税理士が監事を兼任できるかは、法人との関わり方、つまり受託している業務の内容によって判断が分かれます。ここでは兼任が認められるケースと認められないケースを見ていきましょう。
兼任が認められるケース
顧問税理士が監事を兼任できるのは、法人の会計業務には直接関与せず、法律面や経営面に関するアドバイスの提供にとどまる場合です。例えば、経営判断に関する助言や税務上の一般的な相談対応など、いわゆる助言型顧問契約の範囲内であれば、独立性が損なわれる恐れは少ないでしょう。
このようなケースでは、税理士は会計書類の作成者ではなく、外部の専門家として法人運営や財務の状況を客観的に監査する立場となるため、自己監査に該当するリスクも低く、兼任が認められます。
税理士の専門知識を活用することで、監査の実効性や法人のガバナンス強化に資する結果が期待される点も、兼任が妥当と判断される理由です。
兼任が認められないケース
一方で、顧問税理士が記帳代行や会計帳簿の作成、税務申告書の作成など、法人の会計実務を直接受託している場合には、監事との兼任は認められません。このような状況では、税理士が自身で作成した会計書類や業務内容を自ら監査することになり、監査の客観性・中立性を損なうためです。
社会福祉法人は公益性が高く、外部からの信頼性も重視される法人形態です。したがって、役員の兼任により監査の独立性が損なわれると、法人の透明性や信頼性を揺るがしてしまうでしょう。
このようなリスクを回避するためにも、顧問税理士と監事の兼任可否は、契約内容と業務範囲を確認した上で、慎重に判断することが大切です。
関連記事:税理士変更に伴う必要書類とは?トラブルにならないための引継ぎ方と断り方
社会福祉法人が顧問税理士に監事を依頼する流れ

社会福祉法人が顧問税理士に監事を依頼する際は、適切な人選と正式な手続きが欠かせません。事前にしっかり準備しておくことで、法人運営の健全性を保ち、兼任を避けられます。
ここでは監事を依頼する流れを見ていきましょう。
顧問税理士を選ぶ
社会福祉法人の会計は一般企業とは異なり、独自の会計基準や公益法人ならではの税務上の取り扱いがあります。そのため、こうした分野に関する実務経験と知識を備えた専門家が求められます。
また、監事は中立的な立場で監査を行う必要があるため、その立場を損なわない関係性を保てるかどうかも大切な判断ポイントです。
例えば、すでに記帳代行や会計書類の作成業務を受託している税理士を監事に据えると、自己監査となる恐れがあります。一方、法律面や経営面の助言のみに関与している顧問税理士であれば、兼任が認められるかもしれません。
以上の理由により、複数の税理士と面談し、監査経験・実績、提供可能な業務範囲、独立性の担保体制などを比較検討することをおすすめします。また、社会福祉法人に精通した公認会計士や税理士の紹介制度を活用するのも有効です。
顧問契約の締結と監事への就任手続きをする
依頼する税理士が決定したら、次は契約の明文化と就任手続きに進みます。
まず、監事としての職務内容・任期・報酬等を明確にした契約書を締結します。この際、兼任が許容される範囲内の業務に限定することを明記し、記帳代行や財務諸表の作成などは契約から除外しなければなりません。
契約の締結後は法人内部での選任手続きです。理事会で選任案を決定し、在任監事の過半数の同意を得た上で、評議員会の議決をもって正式に選任されます。
選任後は、税理士から就任承諾書、履歴書、欠格事由に該当しない旨の誓約書など必要書類を提出してもらい、法人の所轄庁へ届け出るなど法定の手続きに則った対応を行います。
関連記事:税理士から連絡が来ない原因は?対処法と税理士変更のポイント
顧問税理士に支払う報酬について

社会福祉法人が顧問税理士に監事を依頼する場合、報酬や契約範囲を明確にしておきましょう。そうすることで後々のトラブルを防ぎ、業務を円滑に進められます。ここでは費用相場と費用に含まれる業務内容を説明します。
監事の報酬について
社会福祉法人の監事は、理事会への出席や業務執行の監査、計算書類の監査・意見書作成などを職務とします。そのため、監事報酬は「監査業務」に対する対価として支払われるものであり、記帳代行や決算書作成などの実務は含まれません。
報酬額は法人の規模や監事の役割に応じて理事会で決定されるのが原則で、公開されている相場は多くありません。一般的には月額数万円〜十数万円程度を目安としつつ、非常勤か常勤か、会計監査人の有無などによって変動します。
なお、税理士が監事に就任した場合でも、独立性確保の観点から「記帳代行・決算書作成・申告書作成」などの税務顧問業務は兼任できません。契約書にも、これらは監事の職務範囲外であることを明確にしておく必要があります。
税理士の顧問料について
一方で、監事とは別に税理士へ顧問契約を依頼する場合には、以下のような費用が発生します。
顧問料は一般企業では10,000〜50,000円が目安となりますが、社会福祉法人は会計が複雑なため、月額30,000円以上を基準とするケースが多くあります。他にも、申告業務を依頼した場合には、以下のような費用が追加でかかることが一般的です。
- 決算料:30万円以上
- 法人税申告料(収益事業ありの場合):15万円程度
- 消費税申告料(課税事業者の場合):15万円程度
さらに、以下のような業務はオプションで追加費用がかかることが多いです。
- 理事会資料作成支援
- 予算書の作成サポート
- 監査法人・所轄庁対応時の立会い
- 社会福祉充実計画の数値算定支援
関連記事:顧問税理士とのトラブルでよくある事例・対処法・防ぐ方法
まとめ
一定の条件を満たせば、社会福祉法人が顧問税理士に監事を依頼することは可能です。ただし、監事の職務には独立性が求められるため、顧問税理士が法人の記帳代行や会計書類の作成を同時に受託することは認められていません。
法律・税務・経営に関する助言に限定される場合にのみ、監事との兼任が可能です。監事の選任は、理事会での選任案決定、在任監事の過半数の同意、評議員会での正式な決議という法定手続きに則って行われます。
また、税理士に監事を依頼する場合、顧問料とは別に監事についての報酬がかかることが一般的です。そのため、事前に契約内容と費用を明確にしておきましょう。
社会福祉法人の運営には、公益性と専門性が強く求められます。監事を依頼する税理士は、社会福祉法人特有の制度や会計実務に精通しているかどうかが選定ポイントです。適切な専門家の支援を受けることで、組織のガバナンス強化と適正な運営体制の構築がより実現可能となるでしょう。





