合同会社の資本金を増額する場合、一定の手続きと書類準備が必要です。しかし、増資する際は複雑な手続きも多く、必要な書類も異なります。また、登記義務の有無も異なるため注意が必要です。この記事では、合同会社における資本金増資の基本から、手続き方法、必要書類、登記が必要かどうかの判断基準等を解説しています。ケース別のポイントも説明していますので、増資を検討している方はぜひ参考にしてください。
目次
合同会社における増資とは

合同会社における増資とは、資本金を増加させる手続きを指し、主に新しい社員の加入に伴う出資や、既存社員による追加出資によって行われます。
合同会社の増資では、株式会社のように株式の発行を伴わないのが特徴です。合同会社では、出資された金銭等を資本金とするか資本剰余金とするかを、業務執行社員の過半数の同意で決定します。
ここでは増資の基本概念を解説します。
合同会社が増資を行う理由
合同会社が増資を行う主な理由は、事業拡大や新規事業立ち上げに伴う資金調達のためです。増資によって得られた資金には返済義務がないため、融資等と比べ財務的な負担を抑えることができます。
資本金の増加は会社の信用力向上につながります。よって、取引先からの信頼が高まり、金融機関から融資を受けやすくなる可能性があります。
また、許認可が必要な事業を始める際には、資本金の下限が設けられているケースもあるため、増資を検討しなければなりません。
このように、合同会社の増資は資金調達だけでなく、会社の成長や信頼性アップに役立つ手段と言えます。
増資と融資の違い
増資と融資はどちらも資金調達方法ですが、明確な違いがあります。増資は社員(合同会社)や株主(株式会社)からの出資を受け入れ、資本金を増やす方法であり、返済の必要がありません。
一方、融資は金融機関等から資金を借り入れる方法で、返済義務と利息支払いが伴い、負債に分類されます。
増資により調達した資金は自己資本として財務基盤を強化しますが、融資による調達は財務負担を伴うため、慎重な資金管理が求められます。
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合同会社の増資手続きの流れ
合同会社の増資手続きは、総社員の同意取得、出資金の払い込み、業務執行社員による資本金等の決定という3つのステップで進められます。ここでは、順を追って3つのステップを見ていきましょう。
総社員の同意を得る
合同会社で増資を行うためには、原則として総社員の同意が必要です。合同会社の定款に社員の氏名や住所、出資額等が記載されており、増資によって定款の情報が変更される可能性があるためです。
また、新しい社員が加入する場合はもちろん、既存社員が出資額を追加する場合も、定款変更を伴う場合は総社員の同意を取らなければなりません。なお、定款に別段の定めがある場合はそれに従います。
総社員の同意は必ずしも一堂に会して得る必要はなく、個別に書面等で同意を取る方法でも問題ありません。
出資金の払い込み
出資金の払い込みは、増資の効力が発生するまでに完了させる必要があります。一般的な払い込み方法は、出資を行う社員が合同会社指定の銀行口座に所定の金額を振り込む方法です。
登記申請の際には、出資金の払い込みが完了していることを証明する書類が必要です。例えば、払込金受入証明書、会社の預金通帳のコピー、取引明細表等を用意し、社員が作成した「払込金額に係る証明書」とともに提出します。
業務執行社員の決定
合同会社で増資した際、払い込まれた金額のうち資本金として計上する額を決定するのは、業務執行社員の過半数の同意によります。これは会社計算規則に基づくもので、合同会社の増資手続きにおいて重要です。
なお、合同会社には株式会社における資本準備金の概念がないため、資本金として計上されなかった金額は、すべて資本剰余金として扱われます。
合同会社では増資時に登記が必要?
資本金の額は登記事項証明書(登記簿謄本)に記載されており、増資によって金額が変わる際には登記が必要です。
資本金が増加した場合は、効力発生日から2週間以内に本店所在地を管轄する法務局に変更登記を申請することで、登記簿に反映されます。
ただし、後述するように資本金の額が変動しないケースでは、登記が不要となる場合もありますので注意しましょう。
合同会社の増資登記が不要なケース
合同会社では、出資された金銭を資本剰余金として処理できるため、資本金の額に変動がない場合は登記が不要となるケースがあります。
株式会社では、原則として出資金の半額以上を資本金に計上する必要がありますが、合同会社にはこの制限がありません。そのため、出資金の扱い方によっては登記不要のケースが生じます。
ここで詳しく見ていきましょう。
出資金を資本剰余金とする場合
出資された金額の全額または一部を資本剰余金として計上すれば、資本金の額に変更がないため、増資登記は不要です。
この方法は資本金を増やさないことで登録免許税の負担を軽減できる可能性があります。また、資本金が一定額を超えることで適用される法規制(例:外形標準課税や下請法)の対象からも外れます。
ただし、将来的に資本剰余金を資本金へ組み入れる場合は、その時点で登記が必要となりますので気を付けましょう。
既存社員が出資し資本剰余金に計上する場合
既存の社員が追加で出資を行い、全額を資本剰余金として処理する場合、資本金は増えないため登記は不要です。
この方法では新たな社員の加入や既存社員の退社がないため、社員に関する登記事項も変更されません。つまり、資本金額の変更登記も社員変更の登記も不要です。
外部から社員が加入し出資を資本剰余金とする場合
外部の新規社員が出資を行い、出資金を全額資本剰余金として処理するケースも、資本金が増加しないため、資本金額の変更登記は不要です。ただし、新たな社員が業務執行社員や代表社員となる場合には、その旨の登記が必要となります。
なお、業務を執行しない社員として加入し、出資金もすべて資本剰余金として処理する場合には、登記そのものが不要となる可能性があります。
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登記不要でも手続きは必要
登記が不要な場合でも、増資に関する社内手続きは必要です。必要な手続きは主に以下の通りです。
- 総社員の同意取得(増資の目的・金額等)
- 出資金の払い込み
- 払込証明書類・同意書の作成
- 出資金の資本剰余金への計上決定(業務執行社員の過半数による)
社内手続きは、登記の有無にかかわらず会社の運営のために欠かせませんので、怠らないよう注意しましょう。
合同会社の増資登記に必要な書類

合同会社が増資に伴って登記申請を行う際には、書類を準備する必要があります。なお、新たな社員の加入か既存社員による追加出資か、出資金を資本金に計上するか資本剰余金とするかによってやや異なりますので注意が必要です。
ここで詳しく見ていきましょう。
登記申請に必要な書類
合同会社の増資登記に必要な主な書類は以下の通りです。
- 合同会社変更登記申請書
- 総社員の同意書(増資の決定に関する同意)
- 出資に係る払込み又は給付があったことを証する書面
例:会社名義の預金通帳のコピー、取引明細表等に、代表社員が作成した証明書を合綴 - 資本金に計上する金額に関する業務執行社員の決定書(過半数の同意による)
加えて、定款の記載内容に変更がある場合は変更後の定款も必要です。
社員加入による資本金増加の場合
新たな社員が加入し、出資によって資本金が増加する場合は、前述の書類に加えて以下の書類が必要になる場合があります。
- 加入社員の氏名・住所等を記載した書類
- 新たな社員が業務執行社員や代表社員となる場合の就任承諾書
- 社員に関する記載がある定款を変更する場合は、変更後の定款
社員構成に変化が生じた場合は、登記事項にも影響がありますので注意しましょう。
社員の出資価額増加による資本金増加の場合
既存社員が出資を追加し資本金に組み入れるケースでは以下の書類が必要です。
- 登記申請書
- 総社員の同意書
- 出資金の払い込み証明書類
この場合は、社員構成に変動がないため就任承諾書等は不要です。ただし、定款に出資額を記載している場合は、変更後の定款が必要になります。
合同会社の増資登記の費用
登記を行う際には登録免許税が発生し、増加した資本金の額に0.7%を乗じた金額で計算します。
なお、計算結果が3万円未満の場合でも、最低税額は3万円です。そのため、例として100万円の増資を行った場合、0.7%は7,000円ですが、実際には3万円の登録免許税が適用されます。
登記手続きを司法書士等の専門家に依頼する場合は、登録免許税に加えて報酬が必要となり、報酬額は依頼先や手続き内容によって異なります。
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合同会社の資本金を増資する際のよくある質問

最後に合同会社の資本金を増資する際のよくある質問について、それぞれわかりやすく回答していきます。
赤字の状態でも増資はできる?
赤字の状態でも増資は可能です。会社が赤字であっても、法的には増資を制限されることはありません。
資金繰りの改善や財務基盤の強化を目的に、赤字企業が増資を行うケースは少なくありません。ただし、第三者からの出資を受ける場合は、説明責任が求められるため、事業計画や資金使途を明確にしておきましょう。
資本金は多い方がよいの?
一概に多ければ良いとは限りませんが、一定以上あることで信用面のメリットがあります。
例えば、資本金が多いことで取引先や金融機関からの信頼を得やすくなるほか、建設業や派遣業などの許認可の要件を満たすために、一定額以上の資本金が求められる場合もあります。
資本剰余金か資本金かの判断基準は?
課税や法規制、信用力などのバランスを見て判断しましょう。出資金をすべて資本金に計上すると、信用力が高まりますが、登録免許税の負担が増えるほか、一定額を超えると外形標準課税などの対象になる場合があります。
一方、資本剰余金として処理すれば、登記が不要になり、費用を抑えることが可能です。ただし、資本金として計上しないことで、取引先や金融機関の印象に影響するかもしれません。
出資金の一部だけを資本金にすることは可能?
可能です。合同会社では、出資金のうちいくらを資本金として計上するかを、業務執行社員の過半数の同意で自由に決めることができます。たとえば、100万円の出資のうち50万円だけを資本金にして、残りを資本剰余金として処理することも可能です。
ただし、資本金として計上する金額が登記の対象となるため、登記や登録免許税は意識しておきましょう。
まとめ
合同会社における増資手続きは、資金調達や信用力の向上とにもつながる重要な選択肢です。
増資の方法には、新たな社員の加入による出資と既存社員による追加出資があり、以下の手続きを経て進められます。
- 総社員の同意取得
- 出資金の払い込み
- 資本金への計上に関する業務執行社員の決定
なお、増資によって資本金の額が変更される場合は、法務局への登記申請が必要です。申請は効力発生日から2週間以内に行わなければなりません。
一方、出資金を資本剰余金として処理することで、資本金の額が変動しないケースでは、登記が不要となることもあります。
手続きに不安がある場合は、税理士や司法書士等の専門家に相談することをおすすめします。





