棚卸資産とは販売や製造のために保有する在庫で、商品や製品、仕掛品、原材料などが含まれます。これらの資産を低額で譲渡した場合、税務上「みなし譲渡」とみなされ、消費税などの課税対象となることがあります。特に法人が役員に棚卸資産を贈与や著しく低い価格で譲渡した場合は注意が必要です。本記事では、棚卸資産の基本から、低額譲渡が課税されるケースやみなし譲渡の判定基準、計上時の注意点までわかりやすく解説します。
目次
棚卸資産とは?わかりやすく解説

棚卸資産とは、主に販売などの営業目的で保有する資産や、将来的に資産となる過程にあるものを指します。一般的には「在庫」と呼ばれることが多いです。
小売業であれば販売を目的に仕入れた商品、製造業であれば製造に用いる原材料などが該当します。さらに、販売目的以外でも、事業活動に必要な事務用消耗品なども棚卸資産に含まれます。
関連記事:棚卸資産と在庫の違いとは?税務調査で押さえたいポイントも解説!
棚卸資産となる商品の種類

棚卸資産の種類は、以下のようになります。
商品・製品
「商品」は販売を目的に仕入れたものであり、「製品」は自社で製造したものです。これらが販売されずに社内に残っている場合は、棚卸資産として「商品・製品」に計上されます。
例えば、スーパーマーケットで仕入れた食品や、メーカーが製造した家電などが該当します。さらに、主力製品の製造工程で発生する副産物や作業くずも「商品・製品」に含まれます。
また、販売前の「半製品」も商品・製品に関連する棚卸資産です。半製品とは、単体でも販売可能な状態でありながら、まだ最終製品ではないものを指します。例えば、ペットボトルに中身が入っていてもラベルが貼られていないジュースなどが該当します。
仕掛品
仕掛品(しかかりひん)とは、製造途中にある未完成品のことです。原材料の加工が始まってはいるものの、まだ完成しておらず販売もできない状態にあります。
具体的には、冷凍餃子の餡の部分や、液晶画面が未装着のスマートフォン本体、塗装前の自動車などが仕掛品の例です。半製品と異なり、そのままでは販売できない点が特徴です。
原材料
原材料とは、自社で製造を行うために仕入れたもので、まだ製造に使われていない状態の資材を指します。原材料には、大きく分けて「主要原材料」と「補助原材料」があります。
主要原材料の例には、鉄板・銅板・小麦粉などがあり、製品の本体を構成する材料です。一方、補助原材料には、釘・塗料・装飾用のチョコレートなどがあり、製造工程を補助的に支える役割を持ちます。
棚卸資産が経営に与える3つの影響
棚卸資産が経営に与える影響について、3つの観点から解説します。
税金への影響
棚卸資産は、売上原価の算定に関わるため、結果として課税所得にも影響を与えます。売上原価の計算式は以下の通りです。
売上原価 = 期首商品棚卸高 + 当期商品仕入高 − 期末商品棚卸高
期首・期末の棚卸資産の額によって売上原価が増減し、それに応じて売上総利益が変動します。
売上総利益 = 売上高 − 売上原価
この売上総利益をもとに営業利益や経常利益、さらには税引前当期純利益が導かれるため、棚卸資産の変動は納税額に直結します。
資金繰りへの影響
棚卸資産が多いということは、販売予定の商品や製品が現金化されずに残っている状態です。このように在庫が滞留していると、現金が手元に残らず、支払いに必要な資金が不足して資金繰りが悪化する恐れがあります。
一方、在庫を適切に売却できれば、棚卸資産は減少し、現金や売掛金が増えるため、キャッシュフローが改善されます。ただし、売掛金の場合は期日通りに代金を回収することが重要です。
業務量への影響
過剰に在庫を抱えると、棚卸資産の管理業務が増加し、業務負担やコストが膨らみます。例えば、在庫の移動や運搬作業が増え、人件費や社会保険料などがかさむこともあります。
また、保管スペースが不足すれば倉庫を追加で借りる必要があり、その分賃料も増加します。さらに、品質劣化を防ぐための光熱費や、紛失・盗難対策の保険料など、間接的なコストも無視できません。
関連記事:期末在庫を増やすと税金が減る?計算方法や消費税の扱いも解説!
棚卸資産を低額譲渡して消費税が課されるケース

法人が役員に資産を低額で譲渡した場合、時価で消費税が課税される可能性があります。
譲渡金額が時価より著しく低いと判断されると、消費税の課税標準は「受け取った金額」ではなく「時価」となるのです。
例えば、その資産が時価の概ね50%未満で譲渡されていれば「著しく低い金額による譲渡」に該当し、時価を基準に課税されます。ただし、棚卸資産であって仕入金額以上かつ通常販売価格の概ね50%以上で譲渡された場合は、この規定の対象外です。
また役員や従業員に一律、または合理的な値引きで譲渡した場合は、実際の譲渡金額が課税の基準になります。したがって、資産を低額で役員に譲渡する際は、価格設定によって消費税の課税基準が変わることに注意が必要です。
参考:No.6321 法人の役員に対する贈与・低額譲渡の取扱い
「みなし譲渡」とみなされるケース
「みなし譲渡」と判断されるかどうかは、資産の譲渡先や譲渡の態様によって異なります。具体的には以下のケースに分けて考えられます。
税の種類 | みなし譲渡とされる取引内容 |
所得税 |
|
消費税 |
|
みなし譲渡は見落としやすく、申告漏れが起こりやすい項目です。該当する取引があった場合は、必ず税理士などの専門家に相談し、適切に対応しましょう。
関連記事:棚卸資産に係る消費税額の調整について
棚卸資産を「贈与」しても課税対象となる場合がある
法人が棚卸資産を役員に贈与した場合、その資産の時価相当額が消費税の課税標準となります。つまり、無償で譲渡したとしても、税務上は「時価で譲渡した」とみなされ、消費税が課されるのです。
ただし役員に対して、仕入れたときの金額以上かつ通常の販売価格の50%以上で譲渡した場合は例外です。その金額で確定申告していれば、実際に受け取った金額をもとに消費税が計算されます。
参考:No.6321 法人の役員に対する贈与・低額譲渡の取扱い|国税庁
棚卸資産を計上する際の注意点

棚卸資産を計上する際には、棚卸や資産評価だけでなく、評価損の計上や評価方法の届出にも注意が必要です。見落とすと課税や会計処理に影響するため、事前に確認しておきましょう。
棚卸評価損や減耗損の計上が必要
棚卸資産の紛失で帳簿と実際の数量が合わない場合は「棚卸減耗損」、破損などで価値が下がった場合は「商品評価損」として計上します。ただし、評価損はすべて認められるわけではないため、計上の可否を慎重に判断する必要があります。
評価方法の届出が必要
棚卸資産の評価方法を決めたら、所轄税務署に「棚卸資産の評価方法の届出書」を提出しなければなりません。届出の期限は、原則として法人設立初年度の確定申告書提出期限までです。期限までに提出しなかった場合は、強制的に「最終仕入原価法」が適用されます。
まとめ
棚卸資産は企業の経営や税務に大きな影響を与える重要な資産です。法人が棚卸資産を役員に無償または低額で譲渡すると税務上は時価での譲渡とみなされ、消費税の課税対象となることがあります。
ただし、仕入価格以上かつ通常販売価格の50%以上の価格で譲渡し、その価格で申告していれば例外となります。棚卸資産の適切な評価や減耗損の計上、評価方法の届出も重要です。
税務処理の誤りは追加課税やペナルティのリスクを伴うため、正確な知識と対応が求められます。税務や会計に不安がある場合は、専門の税理士に相談し、適切な処理や節税対策を行うことをおすすめします。





